京都大学霊長類研究所 年報
Vol.38 2007年度の活動
X 共同利用研究
4 共同利用研究会
第8回ニホンザル研究セミナー
日時: 2007年5月19日 (土)~20日 (日)
場所: 霊長類研究所大会議室
参加人数: 50人
<プログラム>
5月19日 (土)
杉浦秀樹 (京都大・霊長研)「開会の挨拶」
座長: 下岡ゆき子 (京都大・理・人類進化論)
菅谷和沙 (神戸学院大・人間文化学) 野生ニホンザルの毛づくろい前の音声に関する地域間比較
解説・コメント: 香田啓貴 (京都大・霊長研)
神田恵 (京都大・霊長研) ニホンザルのグルーミングにおけるパートナー選択について
解説・コメント: 座馬耕一郎 (財・日本モンキーセンター)
座長: 鈴木滋 (龍谷大・国際文化)
大西賢治 (大阪大・人間科学) 勝山ニホンザル集団におけるマターナル・モニタリング行動
解説・コメント: 田中伊知郎 (四日市大学)
山田一憲 (大阪大・人間科学) 勝山ニホンザル集団における母子相互交渉と子の社会的発達
ポスター発表
吉田洋 (山梨県環境科学研究所) Crop Damage by a wild Japanese macaque troop and damage management in the northern area of Mt. Fuji, Japan
川本芳, 川合静, 齊藤梓, 川本咲江 (京都大・霊長研) ニホンザル研究へのY染色体マイクロサテライト多型の応用性
杉浦秀樹 (京都大・霊長研), 田中俊明 (梅光学院大・子ども), 揚妻直樹 (北海道大・北方フィールド科学センター), 早川祥子 (京都大・霊長研), 香田 啓貴 (京都大・霊長研), 早石周平 (琉球大学・大学教育センター), 柳原芳美 (総合地球環境研究所), 半谷吾郎 (京都大・霊長研), 藤田志歩 (山口大・農), 松原幹 (京都大・霊長研), 宇野壮春 (宮城のサル調査会), 清野未恵子 (京都大・動物), 鈴木真理子 (京都大・霊長研), 西川真理 (京都大・動物), 室山泰之 (京都大・霊長研) 屋久島における野生ニホンザルの個体数変動
5月20日 (日)
座長: 藤田志歩 (山口大・農・獣医学科)
西川真理 (京都大・理・人類進化論) ニホンザルの採食樹に関する空間知識~移動距離と移動速度の観点から~
解説・コメント: 平田聡 (林原生物化学研究所・類人猿研究センター)
辻大和 (東京大・農) 結実状態の年次変化が競合を介してニホンザルの個体群パラメータに及ぼす影響
総合討論
コメンテータ: 室山泰之 (兵庫県立大)
今後の研究会のあり方についての相談
(世話人: 杉浦秀樹, 半谷吾郎)
修士, 博士の学位を取ったばかりの若手研究者を中心に, 学位研究の内容を発表していただいた. 修士研究の発表に対しては, 中堅の研究者に解説・コメントをしていただいた. 聴衆にとっても新鮮な話題が多く, 好評だった. 若手研究者の参加も多く, ニホンザル研究者の交流の場としても有意義な研究会だったと言えるだろう.
(文責: 杉浦秀樹)
「メタX ─社会的認知における階層的処理過程の比較認知発達─」
日時:2007年8月31日(金) ~ 9月1日(土)
場所: 京大会館
参加人数: 約50人
世話人: 友永雅己, 松井智子, 田中正之, 林美里, 吉川左紀子(こころの未来研究センター)
<プログラム>
8/31(金)
セッション1
川口潤(名古屋大・環境) 『認知的コントロール:意図的忘却をめぐって』
藤田和生(京都大・文) 『ヒト以外の動物におけるメタ認知研究の動向』
セッション2
横山修, 泉明宏, 中村克樹(国立神経・精神センター・神経研) 『ニホンザルのメタ記憶:記憶課題遂行後の報酬要求行動の解析』
松中玲子, 開一夫(東京大・総合文化) 『社会的参照行動の発達メカニズム:ターゲット理解に関する視線計測研究』
浅田晃佑(京都大・文),富和清隆(京都大・医),岡田眞子(大阪市総合医療センター), 板倉昭二(京都大・文) 『ウィリアムズ症候群児のコミュニケーション特性』
森本裕子(京都大・教),渡部幹(京都大・人環) 『サンクション行動におけるシグナリング効果』
福島宏器(東京大・科学技術インタープリター養成プログラム), 開一夫(東京大・総合文化) 『他人の損失は自分の損失?-「他者」とは何か?』
懇親会
9/1(土)
セッション3
清河幸子(東京大・教育), 植田一博(東京大・総合文化) 『試行と他者観察の交替が洞察問題解決に及ぼす影響』
大森隆司(玉川大・工), 石川悟(北星学園大・文)・長田悠吾(東京大・総合文化), 横山絢美(玉川大・工) 『共同ゲームにおける行動決定方略の動的決定モデル』
セッション4
大平英樹(名古屋大・環境) 『感情制御再考』
石黒浩(大阪大・工, ATR・知能ロボティクス研) 『遠隔操作アンドロイドと人間の存在感』
総合討論
過去2年にわたって,社会的認知の比較研究の興隆と研究者間の交流を目指して, 共同利用研究会を行ってきた. 第1回(2005年)は視線認識と心の理論, 第2回(2006年)は自己認識と他者理解の問題にそれぞれを焦点をあててきた. 第3回となる今回は, 建物改修の関係で会場を京大会館に移し, テーマを,「メタ何々」という形でくくることのできる階層的認知システムと社会的認知の関係について多様なトピックを基に議論することにした.
われわれの認知システムには,特定の処理過程が階層性をなして複雑な機能を果たすことがよくある. たとえば,「心の理論」も「表象に関する表象」,つまり, メタ表象という形で理解されうるだろう. また, 自己認識とも深く関連するメタ認知や自己モニタリングも同様の階層構造をもった処理過程であるといえる. この他にも, メタ学習, メタ注意, メタ知識, メタ情動などさまざまな「メタX」があるが, 本研究会では特に社会的認知の領域と密接な関連をもつであろう「メタX」に焦点をあてることにした.
それぞれの発表は, 個々の研究として非常に興味深いものであった. ただ,「メタ」という比較的緩やかな関連しか今回は想定しなかったので, 参加者との討論が比較的個別的なものになりがちであった. この点については次回以降の宿題としたい. また, 今回も若手の方に口頭で自らの研究を紹介する機会を持っていただくため,セッション2はYoung Talkと題して修士の学生からポスドクの方々に発表していただいた. 今回は会場の都合でポスター発表ができなかったが, 今後とも, このYoung Talkセッションとポスター発表を継続してこの領域の若手研究者の育成に少しでも寄与できるよう努力したい.
本研究会は今後も継続して進める予定である. 第4回となる2008年は, これまでの総括と次のステップとなるような研究会にしたいと考えている.
(文責: 友永雅己)
霊長類ゲノムと脳・感覚研究の最前線
(京都大学グローバルCOEプログラム共催)
日時: 2007年9月6日(木)~7日(金)
場所: 犬山国際観光センター「フロイデ」
参加人数: 約60人
世話人: 平井啓久, 今井啓雄, 宮地重弘, 景山節
<プログラム>
平井啓久 (京都大・霊長研)「はじめに」
9月6日 感覚とゲノム
セッション1: 光 (司会: 三上章允)
今井啓雄 (京都大・霊長研)「受容体から見たノックインマウスと霊長類の視覚」
深田吉孝 (東京大・院理)「光シグナルによるサーカディアンリズムの位相制御の仕組み」
セッション2: 聴覚・嗅覚 (司会: 景山節)
米澤敏 (愛知県コロニー・研究所)「変異解析から機能解析へ?カドヘリン23,ジストロフィンを例として」
諏訪牧子 (産総研・生命情報工学研究センター)
「ゲノムから俯瞰する嗅覚受容体クラスター」
セッション3: ゲノム分化 (司会: 平井啓久)
大田博樹 (東京大・新領域)「霊長類ゲノム種内種間比較の新展開」
五条堀淳 (東京大・院理)「種内変異と種間変異の対比から明らかになったヒト遺伝子の進化傾向」
9月7日 脳とゲノム
セッション4: 遺伝子で脳機能を探る (1) (司会: 大石高生)
宮地重弘 (京都大・霊長研)
「神経科学者の遺伝子技術への期待」
小林和人 (福島県立医大・生体情報伝達研究所)
「霊長類脳研究へ向けた遺伝子改変技術」
セッション5: 遺伝子で脳機能を探る (2) (司会: 林基治)
井上謙一 (都神経研)「ウイルスベクターを用いた脳神経系への遺伝子導入法?主に霊長類を対象として?」
中村克樹 (国立精神・神経研)「マーモセットの可能性」
セッション6: 脳の創成と遺伝子発現 (司会: 今井啓雄)
長田直樹 (医薬基盤研) 「遺伝子配列と発現パターンから見た霊長類進化」
阿形清和 (京都大・院理)「脳はどのようにして進化したのだろうか-ゲノムと幹細胞をキーワードにして考える-」
景山節 (京都大・霊長研)「おわりに」
本研究会は, 本年度から開始した計画研究「霊長類のゲノム研究」のキックオフ研究会として企画したものである. また, 内容的に近いことから京都大学グローバルCOEプログラム「生物の多様性と進化研究のための拠点形成―ゲノムから生態系まで」の共催として, 今後の霊長類研究を分子・ゲノムの観点から見つめ直す機会にもなった.
第1日目は, 主に感覚系を対象に最近の霊長類以外の研究の急速な進展を紹介していただく機会となった. マウスなどのモデル動物では,ジーンターゲティング, マイクロアレイ, ゲノム情報を駆使した分子・遺伝子レベルの研究が進んでいる.一方, 霊長類ではゲノム解析が進展している状況について発表があり, 両者を融合することが今後の研究の発展に不可欠であることが明確に示された.
第2日目午前は, 主に脳研究分野での遺伝子改変・導入技術について最先端の研究成果が発表された. これまで霊長類では遺伝子改変・導入は非常に困難と考えられていたが, 様々な技術が開発されている現状と成果が伝えられ, 活発な議論が行われた. 午後に行われた遺伝子・ゲノム解析を基盤とした脳の進化についての議論とあわせ, 今後の霊長類の脳研究に対して新たな展開を考える機会となった.
グローバルCOEの説明会とも重なったため, 若手研究者や大学院生, 学部学生の参加も多く見られた. せっかくの機会であったが, 質問や議論が発表者等に限られ, 特に大学院生の議論への参加が少ないことは残念であった. 研究と共に教育的にも共同利用研究会を生かすために, 今後はより若手の議論への参加を促すプログラムを構築する必要がある. 一方で,新たな共同研究などの打ち合わせも行われ, 共同利用研究会が他分野の意欲的な研究者を霊長類研究に参加する機会として生かす例を示すことができた.
(文責: 今井啓雄)
マカクの進化と多様性に関する研究の現状と課題
開催日: 2008年2月15日 (金)?16日 (土)
会場: 犬山国際センター フロイデ2F 多目的研修室
参加人数: 約50名
世話人:
川本芳, 濱田穣, Michael A Huffman, 國松豊, 田中洋之,半谷吾郎, 渡邊邦夫
<プログラム>
2008年2月15日 (金)
開会挨拶: 松沢哲郎 (京大・霊長研)
【セッション1: アジアにおけるマカク進化系統研究】
背景説明: 濱田穣 (京大・霊長研)
座長: Michael A Huffman, 濱田穣 (京大・霊長研)
・タイにおけるカニクイザル (Macaca fascicularis) の現状
Suchinda Malaivijitnond (チュラロンコーン大),濱田穣 (京大・霊長研)
・ベトナムにおけるマカク分布と現状
Vo Dinh Son (サイゴン動植物園), Suchinda Malaivijitnond (チュラロンコーン大), 後藤俊二 (日本野生動物研), Cao Quoc Tri (サイゴン動植物園), Nguyen Van Hung, Le Van Hoang, Tran Huy Vu, Tran Cong Trang (ハイランド大), 濱田穣 (京大・霊長研)
・ラオスにおけるマカクの分布と観察されたペットザルについて
栗田博之 (大分市教育委), Suchinda Malaivijitnond (チュラロンコーン大), Bounnam Pathoumthong, Fong Samouth, Chanda Vongsombath, Phouthone Kingsada (ラオス国立大), 濱田穣 (京大・霊長研)
・ミャンマーのマカク研究
*ミャンマーの霊長類学
Maung Maung Gyi (ヤンゴン大)
*ミャンマーにおけるマカクの分布調査報告
大井徹 (森林総研・関西支所), Aye Mi San, Nang Wah Wah Min, Tin New (ヤンゴン大), 濱田穣 (京大・霊長研)
*ミャンマーのカニクイザルの採食生態と繁殖季節性
Aye Mi San (ヤンゴン大)
・バングラデシュのマカク研究
*バングラデシュの都市と村落のアカゲザル群の活動性比較
Mohammed Firoz Jaman, Michael A Huffman (京大・霊長研)
*バングラデシュのアカゲザルのミトコンドリアDNA多様性
川本芳 (京大・霊長研), Mohammed Mostafa Feeroz, Md Kamrul Hasan (ジャハンギルナガール大)
・台湾におけるマカク研究
Hsiu-Hui Su (屏東科技大)
2008年2月16日(土)
【セッション1: アジアにおけるマカク進化系統研究】(前日のつづき)
座長: 濱田穣 (京大・霊長研)
・スリランカにおける3種霊長類 (Macaca sinica, Semnopithecus priam, Trachypithecus vetulus) の分布と亜種の形態のちがい
Charmalie AD Nahallage, Michael A Huffman (京大・霊長研)
・インドのマカクの個体群動態, 生態, 行動, 保全
Anindya Sinha (インド応用科学研:インド自然保護基金)
【セッション2: マカクの多様性と実験利用】
背景説明: 寺尾恵治 (基盤研・霊長類センター)
座長: 後藤俊二 (日本野生動物研)
・ マカクの実験利用における種内差・種間差解析の意義-感染症研究を中心として-
寺尾恵治 (基盤研・霊長類センター)
・マカクザルコロニーの遺伝的多様性と実験利用における課題
田中洋之 (京大・霊長研)
【セッション3: マカクの種間交雑研究】
背景説明: 川本芳 (京大・霊長研)
座長: 川本芳 (京大・霊長研)
・和歌山におけるタイワンザルとニホンザルの交雑の経緯と現状
白井啓 (野生動物保護管理事務所)
・マカク在来種と外来種の交雑防除に向けた遺伝的モニタリング
川本芳 (京大・霊長研)
・和歌山タイワンザル交雑群の形態研究
濱田穣, 國松豊, 毛利俊雄, 山本亜由美 (京大・霊長研)
・タイ寺院に生息するブタオザルとカニクイザル間の交雑2例
丸橋珠樹 (武蔵大), Suchinda Malaivijitnond (チュラロンコーン大)
【総合討論】
座長: Michael A Huffman, 濱田穣, 川本芳
近年の分子系統学や医学生物学の発展により, マカクの進化や多様性について新知見が報告されている. こうした知見をもとに系統分岐や分布変遷の評価が進み, 進化過程や分類に関する新説が提唱されている.
計画研究「マカクの種内・種間分化およびその保全と利用」の実施初年度にあたり, マカクの進化と多様性に関する研究の現状理解を深め, 今後の研究課題について議論することを目的に本研究会を開催した. アジア10カ国からの参加者も加え, 集会は国際シンポジウムを兼ねて英語で進めた.
全体を3部構成とし, 第1部ではアジア各国の生息,保全, 研究の状況を, 第2部では動物実験における利用を, 第3部では種間交雑をめぐる研究と管理問題を, テーマとした. 各セッションの冒頭にテーマの背景説明を設けて問題を鮮明にし, 議論を進めた.
第1部では, アジア各国の分布, 生態, 生息地状況が報告され, 新種発見や種分化をめぐる新しい仮説も紹介された. マカク各種の分布の現状や変遷の研究から, インドシナ半島のアカゲザルとカニクイザル間の遺伝子浸透や, ミャンマーやベトナムなどにおける分布境界の検証が, マカクの多様性と系統進化を理解するうえで重要だと議論された. 第2部では, ウィルスや寄生虫の感染実験でマカクが示す応答性の種差や種内地域差が紹介され, 遺伝的背景のちがいを考慮した繁殖施設の運営や実験利用の重要性が議論された. また, 群飼育する供給施設で遺伝子標識を利用して近交上昇や多様性変動をモニターする実践例の紹介があった. 第3部では日本とタイで行われている在来種と外来種の間や在来種間の交雑をめぐる研究が紹介された. これらは, 飼育下で報告されてきた種間雑種とは異なる状況で進行しており, その様相や原因が多様であることが報告された. 交雑への社会的関心や対応には国によるちがいがあることが浮き彫りになった. また, 形態や遺伝の報告から交雑の研究が形質の遺伝支配や生殖隔離機構など基礎研究で貴重な情報になることが示された.
総合討論では, 多様性理解に向けた基礎研究の重要性, 原産国が共有する農林業被害や人為撹乱による影響の研究と保護管理や実験利用に向けた具体的な活動の可能性を議論した.
(文責: 川本芳)
第37回ホミニゼーション研究会「霊長類学の未来をさぐる」
日時: 2008年3月7日 (金) -3月8日 (土)
場所: 犬山国際観光センター フロイデ 多目的室
参加人数: 約70人
世話人: 大石高生, 脇田真清, 高井正成, 杉浦秀樹
<プログラム>
3月7日(金)
セッション1「新たな調査地をひらく」
座長: 杉浦秀樹 (京大・霊長研)
半谷吾郎 (京大・霊長研)「屋久島上部域でのニホンザル長期調査の開始」
金森朝子 (東工大院・生命理工学)「ボルネオ島ダナムバレー森林保護地域における野生オランウータンの調査」
松田一希 (北大院・地球環境科学), 東正剛 (北大院・地球環境科学), A. Tuuga (マレーシア・サバ州野生生物局)「ボルネオ島・スカウ村でのテングザル調査」
セッション2「古生態復元への新たなアプローチ」 座長: 高井正成 (京大・霊長研)
高井正成 (京大・霊長研)「中国南部広西壮族自治区の新しいフィールド: 化石種から現生種まで」
米田穣 (東大院・新領域創成科学)「同位体をつかった古生態研究」
懇親会 会場: グランツ
3月8日 (土)
セッション3「新たな手法で脳をみる」
座長: 脇田真清 (京大・霊長研)
纐纈大輔 (京大・霊長研)「選択的投射ニューロン破壊法の開発~脳の処理機構の詳細な解明を目指して」
田村弘 (阪大院・生命機能)「二光子励起顕微鏡を用いた大脳皮質微細機能構築の可視化」
小島俊男 (理研・ゲノム科学総合研究センター)「ヒトゲノムプロジェクトと霊長類研究」
セッション4「遺伝子発現から生体機能をさぐる」
座長: 今井啓雄 (京大・霊長研)
今村拓也 (京大院・理学)「エピジェネティクスから見たほ乳類行動内分泌系」
井上達也 (大阪バイオサイエンス研)「網膜錐体・桿体細胞の分化メカニズム」
石丸喜朗 (東大院・農学生命科学)「脊椎動物の味覚受容体」
総合討論
座長: 大石高生 (京大・霊長研)
今回のホミニゼーション研究会は, 特定の分野やトピックスにテーマを絞らず, 新しいフィールドを開拓して研究を進めている若手の研究者や, 新しい学問の枠組みや手法を現に用いて霊長類研究の新たな展開を図っている若手から中堅の研究者に話題を提供してもらい, 研究のブレイクスルーを探った.
セッション1では霊長類の生態や社会をフィールドワークで研究している三名からの発表があり, 新たなフィールドで研究する意義や苦労を聞いた.
セッション2では広い年代における資料が得られる新しいフィールドの紹介と, 安定同位体分析による代謝の違い, 食性の違いの解析を元に古生態を復元する研究の発表があった. 霊長類の古生態を知る大きな鍵となることが期待できる.
セッション3では神経トレーサー法と光反応を組み合わせた新しいニューロンの局所破壊法の発表, 二光子励起顕微鏡を用いて多数の神経細胞の活動を同時記録し, 特定の機能を果たす神経細胞群を可視化する研究の経過報告と, ヒトゲノムプロジェクトと他の生物のゲノムプロジェクトの紹介やそれが霊長類研究に及ぼす影響に関する講演があった. 新たな研究の手法,取り組み方が, 今まで実現不可能と思われていた実験系の創出に結びつくことが実感されるセッションであった.
セッション4ではエピジェネティクスの視点で理解が進んだ性分化機構の話やトランスジェニック動物を用いた視細胞の分化の解析, 近年急速に解析の進んでいる味覚受容体の多様性とその分子基盤の話が提供された. いずれも霊長類を解析対象とすることで, 現象やそのメカニズムの理解が進むことが期待できるとともに, 霊長類の理解を深めるためにも重要な知見が得られることが確実な話題であった.
討論は活発になされたが, 特に霊長研大学院生にはさらなる積極的参加を促したい. 今回の演者の何人かはすでに所員と共同研究を行い, 共同利用研究制度を利用している. また, その他の複数の演者に関しても新たに共同利用研究制度を利用して共同研究を進める話が成立した. 霊長類研究に新たな視点や手法を導入するという当初の目的は実を結びつつある.
(文責: 大石高生)
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