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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2007年度 > II 研究所の概要 はじめに

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.38 2007年度の活動

II 研究所の概要

はじめに

2007年度 (平成19年度) の教育と研究と社会貢献の概要を以下に述べます. 詳細については, それぞれの報告をご覧ください.

教員の異動から報告します. 本年度末をもって, 浅岡一雄先生が停年退職を迎えました. 霊長類の生化学研究に対する多年のご尽力に対し, 深く感謝いたします.また, 07年9月に上野吉一さんが名古屋市の東山動植物総合公園の企画官に転出しました. 動物園の再生計画を推進するとともに研究者との架け橋になります. 08年2月に遠藤秀紀さんが東京大学総合博物館に転任になりました. さらに, 08年4月の野生動物研究センター発足にともない, 杉浦秀樹, 田中正之さんが, 准教授として新センターに配置換えになりました. 以上5名の教員が研究所から転出しました.

一方で, 07年度に5名の教員を新たに迎えることができました. 着任順に, 森村成樹さん, 藤澤道子さん, 古市剛史さん, 江木直子さん (江木さんは08年度4月1日採用) です. いずれも将来の嘱望される研究者です.なお, 森村と藤澤の2教員は寄附講座の特定有期雇用教員であり, 野生動物研究センターの発足に伴って, 08年度当初から新センターに配置換えになりました. 

事務職員の異動は以下のとおりです. 07年度末をもって, 3年間にわたって事務長をつとめてくださった井山有三さんが薬学研究科事務長として転任されました. 同じく, 神田俊明・研究助成掛長と, 本有会計掛主任, 松山掛員が京都に戻りました. かわりに, 08年度当初から, 新しい事務長として小倉一夫さんが赴任しました.研究助成掛長として新野正人, 会計掛主任として上川憲史, 会計掛員として菅野隆道さんが赴任しました.

組織としては (08年度20年4月1日現在), 教員34名, 大学院生43名 (修士課程11名と博士課程32名) です. ポスドク等の研究者約20名, それに事務ならびに技術職員が, 常勤ならびに非常勤をあわせて約40名います. 大学院生・ポスドク等の若手研究者の約20%が海外からの留学生等というところに本研究所の特徴があります. 07年度は, フランス, カナダ, アメリカ, バングラデシュ, ミャンマー, 中国, スリランカと多様な国々です. なお07年度の修士課程大学院入学者は8名でした. 08年度入学者は3名です. なお, 大学院教育は, 理学研究科生物科学専攻の霊長類学系 (08年度から霊長類学・野生動物系と名称変更) に所属します.

合計して約100名を超える所員に対して, 17種約800個体のサル類を飼育しています. これら人間を含めた霊長類が, 官林の約3.2ヘクタールの敷地内にひしめいていました. しかし, 06年度末にリサーチ・リソース・ステーション (RRS) が新たに善師野キャンパス (第2キャンパス) として発足し, より自然に近い豊かな環境でサル類を飼育しています.

本棟の改修をするために, 07年7月から08年3月まで, 地上5階・地下1階, 約6000平米, 合計216室がいっせいに退去しました. 官林地区には事務機能とサル類の飼育機能を最小限度だけ残して, 市内3か所に分かれざるをえませんでした. 株式会社オリンパス, 名古屋経済大学, そして日本モンキーセンター旧栗栖研究所跡地です. 07年度はきわめて厳しい試練の年でしたが,無事に改修を果たすことができました. 07年度末に, 全員が新しい建物に再結集して, 新しい建物で新たな決意で, 研究と教育をおこなっています.

06年度に引き続いて, 07年度にも寄附講座が追加されました. 06年度は, ベネッセコーポレーションのご寄附により「比較認知発達 (ベネッセコーポレーション) 研究部門」 が10月1日に発足しましが, 07年度には「福祉長寿研究部門」が8月1日に発足しました. 期間は5年間です. 同社が熊本県の宇土 (宇城市) に保有するチンパンジー・サンクチュアリ・宇土 (CSU) の運営をゆだねられました. そこには, かつてC型肝炎等の医学感染実験に使われていたチンパンジーたち77個体がいます. 多方面にわたる関係者の尽力によって, 2006年10月に, 日本のチンパンジーの侵襲的実験は廃絶されました. そして, 安らかに天寿をまっとうさせるための保護施設としてCSUが誕生しました. 負託に応えて, 京都大学がチンパンジー研究や動物福祉研究で培ってきた知識と経験を役立てたいと願っています. なお, 08年4月の野生動物研究センターの発足にともない, この寄附講座は新センターに移管しました.

野生動物研究センターの発足に伴い, ニホンザル野外観察施設は07年度末をもって廃止しました. その業務は野生動物研究センターに引き継がれました. これにともない幸島と屋久島にある観察所も新センターに移管しました. 鈴村崇文, 冠地富士夫の技術職員も所属が新センターになります.

宮崎県の幸島では, 1948年に最初の調査がおこなわれてから60年間にわたって, 貴重なサルの家系情報を記録しています. 8世代にわたるサルの国の歴史がわかります. 天然記念物のサルのいる島を,京大の直轄する新センターに置くことで, 広く学内外の利用が進み, 霊長類にこだわらず多様な研究が進むと期待します. また鹿児島県の屋久島は世界自然遺産の島であり, サルとシカが共存しています. さらに多様な昆虫や植物もあります. 霊長類研究所の屋久島観察所は, これまでもさまざまな研究に利用されてきました. 今後, 新センターのもと, 京大に直結する施設として, さらに施設整備を進めていく予定です.

研究と教育を支えるのは国からの運営費交付金です.それ以外に, 研究所に所属する個々の研究者が, 主として文部科学省の科学研究費補助金等の助成により, ユニークで多様な研究を推進しています. そのほかに受託研究等もあります. そうした個別研究については別項に詳細を掲げましたのでご照覧ください. ここでは,研究所全体として取り組んでいる3つの大きな事業について07年度の活動を報告します.

第1は, 文部科学省の特別教育研究経費によって支援されている「リサーチ・リソース・テーションによる環境共存型飼育施設 (RRS) 」の事業です. 06年度が初年度で5年計画の2年目にあたります. RRSは, 里山の自然を活かしたすばらしい環境でサル類を飼育し, 多様な霊長類研究を支援する事業です. 05-06年度のまる2年をかけて施設の造成をおこない, 06年度末から運用が開始されています.

RRSは, 現キャンパスから北東2kmの場所に位置し,東海自然歩道の通る愛知県と岐阜県にまたがる丘陵地帯の山すその里山です. 名鉄の保有する約70ヘクタールの山林のうち, 南の山すその約10ヘクタールを利用して緑豊かな環境でのサル類の飼育をめざしました. 里山の林をフェンスで囲っただけの簡素なつくりです.自然に近い環境でニホンザルが暮らしています. 放し飼いにしている場内があまりに広いので, どこにサルがいるかすぐには見えません. 旧来の飼育方法の常識を破る, 日本から発信するユニークな飼育形態といえるでしょう. 2場で1式となる運動場を用意し, 一方の運動場でサルを飼育し他方は休ませて緑を回復させます.そうした屋外運動場形式の飼育と平行して, 受胎日を調整し父親を選別するための計画的出産の必要上, グループケージ方式で飼育する育成舎も造りました. またユニークな試みとして, 地下に1500tの排水貯留槽を設け, いっさいの排水を場外に出しません. いったん浄化した水を, 再度ポンプアップして, 場内に散水し自然に蒸散させるシステムです. 雨水さえも2000tまで,調整池にいったん貯め置きます. RRSは, 新しい理念である「環境共存型飼育施設」をめざした事業です.

なお, このRRS事業は, 国の推進するナショナル・バイオリソース事業 (RR2002) の一環であるニホンザル・バイオリソース・プロジェクト (略称NBR) と連携した事業です. NBRからの委託を受けてニホンザルを飼育しています. 02-06年度が第1期で, 拠点機関は生理学研究所 (伊佐正代表) でした. 07-11年度は第2期となり, 泰羅登代表 (日本大学)です.

第2は, 日本学術振興会の支援する「グローバルCOEプログラム」事業です. 07年度を初年度とし11年度まで継続する5年間のプログラムです. これは, 02年度から06年度まで継続した21世紀COEプログラム「生物多様性研究の統合のための拠点形成」 (代表者: 佐藤矩行, 京都大学-A2) の後継事業です. 代表者は阿形清和教授で, 事業名略称は「生物多様性」です. なお, 霊長類研究所はそのすべてが, 大学院教育においては, 理学研究科生物学専攻の一員であり, その協力講座と位置づけられています. つまり生物科学専攻の4つの系, 動物学・植物学・生物物理学・霊長類学の一翼を担っています. その生物科学専攻が, 全体としてグローバル21COE拠点に採択されています. 本拠点は, ゲノム科学の知識と技術を共通基盤として, 京都大学の伝統である野外生物学研究と最近発展のめざましい分子生物学研究を統合して, 世界最高レベルの研究を推進し, ミクロ生物学とマクロ生物学の有機的な統合体系のもとで大学院教育を推進することを目的としたものです.

第3は, 日本学術振興会の先端研究拠点事業で, 「人間の進化の霊長類的起源 (HOPE) 」という国際連携研究を目的とした事業です. HOPEは, 日本学術振興会の先端研究拠点事業の第1号として採択されました. 03年度末 (04年2月) に, 日本学術振興会とドイツのマックスプランク協会のあいだで研究協力の覚書の交換がおこなわれました. それを基礎として, 京都大学霊長類研究所とマックスプランク進化人類学研究所の共同研究としてHOPE事業が開始されました. 2年間の拠点形成型を経て, 06年度から3年間は, 国際戦略型に移行して継続しています. 現在では, アメリカのハーバード大学人類学部等, イギリスのケンブリッジ大学人類学部等, イタリアの認知科学工学研究所等との連携もできて, ここに日独米英伊の先進5か国による, 霊長類研究の国際連携体制が整備されました. このHOPE事業の特色としては, 全国共同利用の霊長類研究所が拠点となって, 京都大学のみならず全国の大学その他の研究機関に属する者を支援し, 共同研究, 若手研究者派遣, 国際集会の開催をおこなっていることです. また, 野生ボノボや野生オランウータンの研究など, 多様な海外調査も支援してきました. 06年度には, HOPE国際シンポジウム「人間の進化の霊長類的基盤」を名古屋で開催しましたが, 07年度にはHOPE国際シンポジウムを11月に東京で開催しました.

以上, こうした3つの時限の大型プロジェクトと平行して, 霊長類研究所の本務である「全国共同利用」研究もさかんにおこなわれました.「自由課題」と「推進課題」と「施設利用」という, 研究所が戦略的にとってきた3種類のユニークな区分にしたがって, 本年度も多くの研究者を全国から募り, 多様な霊長類研究を推進しました. 共同利用研究会も例年どおり活発におこなわれています.

また, 総長裁量経費のご支援を得て, 霊長類研究所の創立40周年の式典と記念シンポジウム等を創立記念日の6月1日と翌2日にわたって, 京都の時計台で開催しました. 2日目の午前中には, ジュニア向けの公開実習もしました. 今回の講演会を第1回京都公開講座と位置づけ, 毎年, 京都・犬山・東京の3か所で公開講座を開くことを決めました.

研究所全体が取り組む新事業として, 「野生動物研究センター構想」を推進しました. 将来計画委員会と協議員会で検討を重ねた結果, 07年度にニホンザル野外観察施設を廃止し, それを中核として改組し, 新たなセンターを京大の独立部局として創る構想です.

新センターでは, ①自然の生息地での野生動物保全を推進し, ②野生動物保全学, 動物園科学, 自然学, といった新しい研究領域を開拓し, ③大学と動物園やサンクチュアリとの提携をすすめます. 具体的には, 京都市動物園や名古屋市東山動物園との連携が進みました. また, 野生動物研究センターを主たる部局として 「大学を核とした地域動物園との連携」 と題した特別教育研究経費 (連携融合) の事業を, 09年度 (平成21年度) からの概算要求として新たに掲げています.

野生動物研究センターの本拠は京都の吉田地区です.幸い, 尾池総長以下, 大学の多方面からのご支援を得て,重点施策定員4名 (教授) のポストが措置されました.霊長類研究所からの移行を含めて, 有給教員10名, 無給の兼任教員10名, 技術職員2名, 事務職員2名からなる京大直属の独立したセンターとして発足しました. なお事務部の管理は, 霊長類研究所事務長が兼務します.

霊長類研究所の大学院教育は, 07年度もこれまで同様に,生物科学専攻の協力講座として粛々と執りおこなわれました. 教育の成果として3つの博士学位を授与しました. 課程博士3件です. また修士課程の学生については, 全員が博士後期課程に無事進学しました. 学部教育には, 全学共通科目として「霊長類学のすすめ」 (京都開催) 「霊長類学の現在」 (犬山開催) という2つの講義科目のほか, 新入生のためのポケットゼミナール (少人数ゼミ) も2つ提供しています.

社会貢献としては, 犬山で開催する公開講座と市民公開日, 東京で開催する東京公開講座に加えて, 07年度からは創立40周年を期して京都公開講座もおこないました. 学部学生向けには, オープンキャンパスを開催しています. また, インターネットを活用して, さまざまなデータベースの公開と, ホームページの充実をおこなっています. この年報も, 外部評価報告書も, すべてPDF化されて公開閲覧に供しています. また, 和文のパンフレットを改定増刷するとともに, 広報委員会が新たに3つ折の簡易版の研究所紹介リーフレットを作成しました. 引き続いて英語版の作成にとりかかっています.

京都大学の18部局 (研究所・研究センター) の代表世話役部局を06年度に霊長類研究所が勤めました. 引き続いて07年度は, 国立大学付置研究所センター長会議の第2部会長 (全体の副会長) を霊長類研究所が担当しました.

研究と教育以外の変化についても言及します. 学校教育法の改正に伴い, 07年度当初から教員の制度が変わりました. 従来の教授,助教授, 助手という職階の呼称が改められました. 本研究所では, 従来のものが教授,准教授, 助教という職階に移行しました. 06年度の協議員会では, 助教の人事を凍結して議論を積み重ね, 教員制度の将来像を検討しました. また外部評価報告書を07年3月に作成し公表しました. そこでは, この10年間の研究と教育について実証的な資料を提示し, それをもとに約20名の外部評価委員の皆様にご意見をいただきました. そうした議論の積み重ねの結果, 新たに導入する助教という職階については, 2007年度採用以降は,任期制を導入することに決定しました. 任期7年, 再任可 (ただし1回だけで5年間の延長) です. 再任を含めると12年間という, 比較的長い期間をもった任期制です. 2-3年という短い任期ではなく, 落ち着いた研究環境のもとで, 新しい研究に挑戦していただきたいと願っています.

こうした任期制導入に伴い, 再任審査の手続きも整備しました. 再任審査のための人事委員会を構成します. また教員人事の進め方についても従来の方式を改めました. 外部の運営委員も参加する人事委員会を構成し, その委員会に原案作成を付託する方式です. なお,運営委員会それ自体についても規約を改定し, 外部の研究者コミュニティーの声をさらに広く収集できるような体制に改めました.

2007年6月1日の創立40周年記念日にあわせた事業の一環として, 全教員が分担して執筆した「霊長類進化の科学」 (京都大学学術出版会) が上梓されました. 霊長類学の研究の最前線を, 正確にかつわかりやすくまとめた書物です. ぜひ手にとってごらんください.

 京都大学の理念は,「地球社会の調和ある共存」です.これからも, 人間にとっても, サルたちにとっても, よりよい未来が開けるように研究と教育と社会貢献に努力していく所存です. ニホンザルを端緒として, チンパンジー, テナガザル, オマキザルなど, 人間以外の霊長類の保全と福祉の向上にさらに努めてまいります.

 以上をもって, 2007年度の研究所の活動の概要報告といたします.


リサーチリソースステーションの除幕式 左から、尾池総長、藤木審議官、松沢所長

(文責: 松沢哲郎)

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