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京都大学霊長類研究所 年報
Vol.37 2006年度の活動
X 共同利用研究
3 平成18年度で終了した計画研究
チンパンジーの認知や行動とその発達の比較研究
実施年度(平成16~18年度)
課題推進者:松沢哲郎,浜田穣,友永雅己,田中正之,泉明宏(平成16年度のみ)
本計画研究では,チンパンジーをはじめとする類人猿の認知や行動について,形態学的・生理学的研究と関連させ,発達的変化にも着目した幅広い視点で研究をすすめてきた.特に,基礎的な知覚・認知機能,姿勢・運動機能,コミュニケーション,社会的知性などを中心的な研究トピックとし,チンパンジーだけでなく,ヒトを含む他の霊長類と比較しつつ計画を進めてきた.
本計画は,2000年に生まれたチンパンジー3個体を軸に推進してきた,これまでの計画研究課題「類人猿の認知行動発達の比較研究(平成10-12年度)」,「チンパンジー乳幼児期の認知行動発達の比較研究(平成13-15年度)」の成果を基盤に,infancy後期からjuvenile期にいたる4歳から6歳半の時期におけるチンパンジーの認知や行動の発達過程をヒトを含む他の霊長類と比較しつつ検討を進めてきた.
この3年間に数多くの共同利用研究者が本計画に参加した.実験室における個体ベースのコンピュータ課題を通しての各種知覚・認知機能の発達,乳幼児期の各種の行動や母子間の相互交渉の発達的変化,さまざまな文脈における社会的認知の様相の解明.そして,これらの行動認知研究に加えて,行動特性と遺伝の関係の検討や,声道形状や骨格系の成長変化についても縦断的な観察を進めてきた.また,各課題間での連携を推進するとともに,関連する自由研究課題や施設利用課題とも共同で研究を進める体制を整えてきた.その結果,各課題からはそれぞれに興味深い成果が得られ,関係する学会等での発表や論文としての公表も順調に進みつつある.
今回の計画研究を立ち上げるにあたり,前年の平成15年11月7-8日に共同利用研究会「チンパンジー認知研究の25年と今後の展望」を開催し,本計画を推進する上でのさまざまな貴重な意見をいただいた.これらをふまえて,真摯に計画を進めてきたつもりである.また,共同利用研究の成果を中間報告というかたちで共同利用研究員に行っていただき,相互の議論を促進することを目的として,共同利用研究会「視線,共同注意,心の理論(平成17年8月1-2日)」,「自己と他者を理解する-比較認知発達的アプローチ-(平成18年8月30-31日)」を開催した.ここでの新機軸として,ポスター発表というかたちで各研究の進捗状況を報告していただいた.この試みは評価も高く,平成19年度についても同様の共同利用研究会においてポスターによる中間報告会を行う予定である.
本計画研究において実施された各課題の題目と研究者は以下の通りである.
<平成16年度>
西村剛(京都大・理,学振PD)「チンパンジーにおける声道形状の成長変化」
武田庄平(東京農工大・農)「チンパンジー幼児の砂遊びにおける象徴的操作の実験的分析(3)」
森口佑介(京都大・文)「チンパンジーにおける注意と行動の抑制能力とその発達」
明和政子(滋賀県大・人間文化)「チンパンジー幼児における身振りの発達とコミュニケーション」
郡司晴元(茨城大・教育)「環境教育における霊長類研究の成果利用に向けての基礎的調査」
松澤正子(昭和女大・人間社会)「チンパンジーにおける予測による反応促進の発達」
小杉大輔(京都大・文,学振PD)「チンパンジー幼児における意図性の認識」
伊村知子(関西学院大・文)「陰影による奥行知覚における比較認知発達的検討」
丸橋珠樹(武蔵大・人文)「チンパンジーのワッジ処理能力の発達研究」
五十嵐稔子(京都府医大・看護)・宮中文子(京都府医大・看護)・竹下秀子(滋賀県大・人間文化)「ヒトとチンパンジーの出産と離乳時期における対処行動の比較」
小椋たみ子(神戸大・文)「チンパンジーの社会的認知能力と模倣及びふり行動」
足立幾磨(京都大・文)「霊長類乳児における生物学的運動の認識と複数感覚様相を統合した種概念の発達」
大野初江(お茶の水女大・人間文化)・鵜殿俊史(三和化学研究所)「コンピュータ骨密度解析法によるチンパンジーの骨格発達と加齢変化」
<平成17年度>
西村剛(京都大・理,学振PD)「チンパンジーとニホンザルにおける声道形状の成長変化に関する研究」
村山美穂(岐阜大・応用生物)「チンパンジーの行動特性の個体差における遺伝的背景の研究」
大野初江(お茶の水女大・人間文化)・鵜殿俊史(三和化学研究所)「コンピュータ骨密度解析法によるチンパンジーの骨格発達と加齢」
松澤正子(昭和女大・人間社会)「チンパンジーにおける聴覚刺激に対する復帰抑制とその発達」
服部裕子(京都大・文)「霊長類における視線認識の発達と視覚的シグナルの生成について」森口佑介(京都大・文)「チンパンジーにおける注意と行動の抑制能力とその発達」
明和政子(滋賀県大・人間文化)「チンパンジー胎児における自己身体探索行動」
齋藤亜矢(東京芸大・美)「チンパンジーにおける美的知覚と描画行動」
牛谷智一(千葉大・文)「物体ベースの注意の側面からみた視覚認知の霊長類的起源」
水野友有(中部学院大・人間福祉)「チンパンジー母子間における「葛藤」にかんする縦断的研究」
<平成18年度>
牛谷智一(千葉大・文)「物体ベースの注意の側面からみた視覚認知の霊長類的起源」
村山美穂(岐阜大・応用生物)「チンパンジーの性格評価法の比較」
武田庄平(東京農工大・農)「チンパンジー幼児の砂遊びにおける象徴的操作の実験的分析(4)」
伊村知子(関西学院大・文)「チンパンジーとマカクザル乳児における絵画的奥行知覚」
赤木和重(三重大・教育)「他者の否定的な情動に対するチンパンジーの反応」
西村剛(京都大・理)「チンパンジーならびにニホンザルにおける声道形状の成長変化に関する研究」
服部裕子(京都大・文)「霊長類における「向社会行動」の基盤となる下位能力の検討」
森口佑介(京都大・文)「チンパンジーにおける注意と行動の抑制能力とその発達的変化について」
松澤正子(昭和女大・人間社会)「チンパンジーを対象とした色弁別課題における先行刺激の位置の効果とその発達」
後藤和宏(慶応義塾大・文,学振PD)「チンパンジーにおける視覚探索課題を用いた大域・局所特徴処理の検証」
齋藤亜矢(東京芸大・美)「チンパンジーにおける美的知覚と描画行動」
(文責:友永雅己)
アジアに生息する霊長類の生物多様性と進化
実施年度:(平成16~18年度)
推進者:平井啓久,正高信男,渡邊邦夫,高井正成,田中洋之
本計画研究は,時代に即した研究を推進するために時限で立ち上げた流動部門の発足に合わせて,立案されたものである.課題の概要は,「マカクならびにテナガザルをはじめとするアジア霊長類の生物多様性を,遺伝・生態・行動・形態・生理の領域から多角的に分析し,種分化に関わる進化生物学的考察を行う.加えて,保全計画に資する生命資源の確保と技術革新を目的として,精子および遺伝子試料を収集し,その保存および利用に関する研究も推進する」というものであった.アシアに生息する霊長類を主対象とした課題であるが,必ずしも対象動物に限定することはせず,研究内容によっては柔軟に対処した.
本計画研究によって行われた研究は,マカク類の生体防御に対する遺伝的変異性の解析,糞を使ったミトコンドリア全塩基配列の解析法と系統進化研究への応用,ヘルペスウィルスを用いた新しい技術による不死化細胞株作製法,染色体特異的プローブ作製のための染色体顕微切断法,ならびに核内の染色体配置解析法と核内配置の進化的意義,ニホンザル精子の保存技術の改良,テナガザルの音声特性の実験的解析,がそれぞれ意欲的に行われた.各研究課題とも方法と成果の両方において,世界を牽引する内容を含んでおり,共同利用研究成果として高く評価されるものであった.これらの成果は共同利用研究会「アジア霊長類の生物多様性と進化」おいても報告され,熱い議論が行われた.
<平成16年度>
小田亮,松本晶子「テナガザルが発するソングの構造解析と種間比較」
楠比呂志「種の保存を目的としたニホンザル精子の凍結保存技術の確立」
田口尚弘「テナガザル類のY染色体解析用分子マーカーの作製」
明里宏文「霊長類培養細胞株の樹立」
郷康広「ヒト特異的機能遺伝子およびヒト特異的偽遺伝子の探索」
田辺秀之「霊長類染色体の3次元核内配置と核型進化・系統進化に関する研究」
<平成17年度>
田口尚弘「テナガザル類のY染色体解析用分子マーカーの作製」
小田亮,松本晶子「テナガザル類の音認知と発声制御についての実験的研究」
明里宏文「霊長類培養細胞株の樹立」
田辺秀之,松井淳,天野美保「霊長類染色体の3次元核内配置解析と分子系統進化に関する研究」
安波道郎「マカク属霊長類のMHCクラスIおよびクラスI様分子とその受容体遺伝子群の比較ゲノム解析」
<平成18年度>
小田亮,松本晶子「テナガザルによる音の認知についての実験的研究」
田口尚弘「顕微切断法を用いた微小Y染色体の解析」
田辺秀之,松井淳,千葉磨玲,永田妙子「霊長類染色体の3次元核内配置解析と分子系統進化に関する研究」
安波道郎「マカク属霊長類のMHCクラスIおよびクラスI様分子とその受容体遺伝子群の比較ゲノム解析」
(文責:平井啓久)
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