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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2006年度 > X 共同利用研究・研究成果-施設利用 31~38

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.37 2006年度の活動

X 共同利用研究

2 研究成果 施設利用 31~38

31 野生チンパンジーの外部寄生虫除去行動

座馬耕一郎((財)日本モンキーセンター)

対応者:M.A.Huffman

野生チンパンジーに実際に寄生するシラミの寄生率を測定した.タンザニア,マハレ山塊国立公園にて,2006年10月3日から2007年2月16日までの期間に,22個のチンパンジーのベッド上に残された毛を収集し,シラミ卵の付着した毛を調べた.1999年からおこなっている同様の調査(ベッド数105個)とまとめて分析したところ,毛1000本あたりのシラミ卵寄生率は,乾季が2.1個であるのに対し,雨季は1.0個と低い値だった.雨に濡れたチンパンジーの体表面がシラミにとって好ましくない環境だからと考えられる.また,野生チンパンジーの毛づくろいを収めたビデオを用い,シラミ除去行動をする相手の選択性を調べた.2個体間の毛づくろい(BからAへの毛づくろい)中に第3者(C)が加わった場合,30例中24例で,CはgroomeeとしてA,Bの毛づくろいに参加していた.このうち,AまたはBの一方がCの血縁者だった場合,Cは血縁者より非血縁者に対し毛づくろいすることが多かった(p<0.05, N=12).チンパンジーは血縁者のもつ社会関係を利用し,自分の社会関係を広く保っているのかもしれない.

32 ニホンザルの歩行の3次元運動学

平野真嗣, 荻原直道(京都大・理・自然人類)

対応者:濱田穣

猿まわしのために二足歩行訓練を受けたニホンザルの,二足歩行適応の特徴や,メカニズムを明らかにするためには,調教を受けていない通常のニホンザルのそれと対比する必要がある.しかし,これまで様々な制約により,必ずしも十分なデータが得られていなかった.そこで申請者らは,霊長類研究所で飼育されているニホンザルのトレッドミル歩行訓練を本年度開始した.比較的順応性が高いと予想される1~2歳のニホンザル4頭(オス3,メス1)について,1日当たり正味約45分,計約15日間の歩行訓練を行った.訓練には固形飼料および生餌を用いた.その結果,2頭については訓練が進むにつれてトレッドミルに対する抵抗が弱まり,トレッドミル上で歩行を生成しうる兆しが見られた.今後も訓練を継続し,試行錯誤的にではあるが訓練方法を改善することを通して,将来的にトレッドミル上の歩行運動を3次元的に分析することが可能となると思われる.

33 霊長類における遺伝子の新生や退化に関する研究

楠田潤(医薬基盤研究所)

対応者:平井啓久

ケモカインは急速に進化しているサイトカイン遺伝子ファミリーで,ヒトでは遺伝子数が46個であるのに対し,マウスでは38個と少ない.我々は以前にカニクイサルやアカゲサルにはケモカインCXCL1に高い相同性を示すCXCL1Lが存在することを見いだした.さらにゲノム構造を比較することにより,ヒトではCXCL1が重複し,一方のコピーのCXCL1Lは偽遺伝子化しているが,アカゲサルでは偽遺伝子化せずに存在していることを明らかにした1).

そこで両遺伝子の霊長類での進化を探るために,さらにゴリラ及びオランウータン,テナガザルの遺伝子を単離・解析することにした.その結果,ゴリラやオランウータンでもCXCL1Lは偽遺伝子であったが,オランウータンCXCL1Lはヒトとは異なる機構で不活化され,しかもヒトより以前に偽遺伝子化したと考えられた.一方,テナガザルのCXCL1は単離しているが,CXCL1Lは現在単離中である.この遺伝子配列が明らかとなれば,CXCL1L遺伝子の進化について興味深い知見が得られるものと考えられる.

1) J. Interferon Cytokine Res. 27:32-37 (2007)

34 ヒト特異領域の同定のための霊長類ゲノム構造比較解析

渡邉日出海(北海道大・院・情報科学)

対応者:平井啓久

ゲノム配列比較解析を通して推定したヒトゲノム固有領域が実際に他の霊長類に存在しないことを実験によって確認するために,ヒト特異領域候補をはさむ類人猿間保存領域の配列決定を計画した.

本共同利用研究においては,霊長類研究所において飼育されているメスのチンパンジー1頭から採取された末梢血約8mlを平井教授より譲り受け,末梢血内に存在する全細胞の核内ゲノムDNAを抽出し,そのDNAを直接用いて,解析対象領域のPCRとその産物のダイレクトシークエンシングを実施した.

初期解析では,対象領域の増幅が見られない例が多数発生し解析が思うように進まなかった.その後,平成18年の終わりまでに両霊長類ゲノムデータが大幅に更新されたため,新たに比較解析を実施したところ,増幅が見られなかった領域を含む多くの非保存領域において以前の比較結果との食い違いが見られた.そこで,対象領域を選定しなおし,再解析を実施した.その結果,ほぼ全ての領域での増幅が見られ,HRC,RAB3B,CPNE7,PAX2,LOC400236などにおいて確認ができた.

今後,他の領域の解析を進めるとともに,得られた結果がゲノムデータと食い違う箇所などについての確認を行うことを予定している.

36 チンパンジーのポジショナル行動の非侵襲的3次元計測の試み

平崎鋭矢(大阪大・院・人間科学)

対応者:田中正之

本研究の全体構想は,チンパンジーの野外での身体運動を非侵襲的に定量化すること,および,それによって,身体-運動-環境の関係を探ることである.そのために,18年度の施設利用では,まず必要な計測手法の開発を目的とした.具体的には,屋外運動場で自由に行動するチンパンジーをビデオカメラ2台で撮影し,動画像分析装置を用いて身体運動の3次元再構成を試みた.3次元再構成には,運動場内の構造物を校正枠として利用した.即ち,その構造物が画面内に入るようカメラを設置し,カメラ視野内を通過したチンパンジーの動きを運動学的に分析した.撮影した約30分間に,チンパンジーは設定した計測空間(幅約4m)に10回以上入り,その内4回について分析が可能であった.今回の試みから,時間をかければ屋外運動場においても,関節角度や歩幅といった身体運動の分析を行い得ることが判明した.ただし,今回の条件では計測空間を設定できる場所が限られる.チンパンジーの自然な動きを分析するという目的と撮影条件の双方を満たすために,カメラ台数を増やすことを検討しており,2007年度の共同利用研究として継続予定である.

37 各種霊長類のマラリア感染調査

田辺和裄(大阪大・微生物病研究所)

対応者:平井啓久

各種霊長類のマラリア原虫はヒトのマラリア原虫の系統学的位置づけや病態生理を理解する上で比較対象となる.しかし,霊長類のマラリア原虫,特に大型霊長類のマラリア原虫についてはまだよく調べられていない.本研究では,霊長類研究所で飼育しているアフリカ由来のチンパンジーについて,マラリア感染状況を調査するものである.現在,保有されているアフリカ由来チンパンジー7頭(プチ,ゴン,マリ,アキラ,アイ,ペンデーサ,レイコ)の保存凍結血液からDNAを抽出し,マラリア感染の有無をPCR法により調べている.

38 ニホンザルにおける運動能力の研究?ニホンザルの跳躍能力の測定?

江口祐輔, 新村毅,堂山宗一郎(麻布大・獣医), 鈴木克哉(京都大・霊長研)

対応者:室山泰之

ニホンザルの運動能力に関する基礎的知見を得るために,跳躍能力(垂直跳び・幅跳び)を測定した.調査は野外観察施設で行い,高浜群(49頭)を供試した.

まず,サルが跳躍して壁に貼り付けられた餌を得る行動を利用して垂直跳びの能力を測定した.その結果,サルは常に餌を注視しながら,腕を伸ばして飼料を取ったが,扉を閉じても持ち上げる行動は認められなかった.その結果,2歳以上のサルは地上0.8m?1.0mの垂直跳びが可能であり,壁を蹴った際には2.3mの高さの餌に手が届いた.

次に,垂直跳びの結果を考慮し,サルがよじ登ることができないように細工した高さ2.5mの跳躍台を自作した.跳躍台の上には報酬飼料を置いた.跳躍台の横に同じ高さののぼり台を設置し,サルがのぼり台から跳躍台に飛び移って餌を得る行動を利用して,幅跳びの能力を測定した.試行が進むごとに台の間隔を徐々に広げた.その結果,2歳と3歳の個体が2.2mの距離を飛ぶことができた.

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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会