ENGLISH 京都大学
125周年
所長挨拶 概要 教員一覧 研究分野・施設 共同利用・共同研究 大型プロジェクト 教育,入試 広報,公開行事,年報 新着論文,出版 霊長類研究基金 リンク アクセス HANDBOOK FOR INTERNATIONAL RESEARCHERS Map of Inuyama
トピックス
お薦めの図書 質疑応答コーナー ボノボ チンパンジー「アイ」 行動解析用データセット 頭蓋骨画像データベース 霊長類学文献データベース サル類の飼育管理及び使用に関する指針 Study material catalogue/database 野生霊長類研究ガイドライン 霊長類ゲノムデータベース 写真アーカイヴ ビデオアーカイヴ

京都大学霊長類研究所
郵便番号484-8506
愛知県犬山市官林
TEL. 0568-63-0567(大代表)
FAX. 0568-63-0085

本ホーム・ページの内容の
無断転写を禁止します。
Copyright (c)
Primate Research Institute,
Kyoto University All rights reserved.


お問い合わせ

京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2006年度 > X 共同利用研究・研究成果-施設利用 21~30

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.37 2006年度の活動

X 共同利用研究

2 研究成果 施設利用 21~30

21 ボノボの社会生態に関する研究

田代靖子((株)林原生物化学研究所・類人猿研究センター)

対応者:杉浦秀樹

コンゴ民主共和国ワンバ森林のボノボは,約30年にわたって調査の対象となり個体識別に基づいた調査がおこなわれてきた.しかし,内戦による混乱で当時コドモだったオス個体の識別ができず,現在群れにいるオスの由来がわからなくなっている.ボノボの社会学的な研究をおこなう上で血縁関係は必須の情報であり,内戦前のデータを活かすためにも,個体名の確認が必要である.本研究では,特定部位の塩基配列を以前得られた結果と比較することにより,個体名を明らかにすることを目的とした.

今年度は2005年に採集した非侵襲的試料を分析した.糞と尿からDNAを抽出し,ミトコンドリアDNAのd-loop領域の増幅とシークエンスを行った.これまでに数個体の親子(母-息子)関係は推定できていたため,まだ試料が収集できていなかった個体について分析したが,DNAの増幅ができず,個体名の推定ができなかった.一方,内戦前には対象群に所属していなかったメスの目的部位塩基配列を確定できた.

今後,親子関係の推定ができていない個体について試料を採集し,分析を行う必要がある.また,現在の群れ構成メンバーについて,目的部位の塩基配列を再確認し,対象群の基礎資料としたい.

22 飼育下チンパンジーにおける放飼場内植物の採食利用の状況把握

川地由里奈(中部大・院・応用生物)

対応者:友永雅己

京都大学霊長類研究所で飼育されているチンパンジーにおいて,屋外放飼場に生育している木本類,草本類を採食していることが確認されている(竹元ら 1996, Ochiai and Matsuzawa 1998).しかし,実際に彼らがどのように利用しているのかといった採食利用状況の詳細についてはよく分かっていない.栄養が給餌で充足していると考えられる飼育下チンパンジーの植生利用を調べることで採食行動の多様な機能を明らかにできると考えられる.そこで,本研究では直接観察,食痕調査を通して放飼場内植物の採食の実態調査をおこなった.その結果,採食頻度は,パル,ポポ, プチの順に多かった.採食植物種数はパル,アユム,プチの順に多かった.このように,様々な年齢の個体が採食をおこなっていた.また,ポポ,プチの採食回数は他個体と行動を共にしているときより1個体でいるときの方が多かった.また,放飼場内に生育する草本の採食が多く見られた.以上から,草本の植栽は,放飼場における採食の機会を増加させるうえで有効であることが示唆された.

23 チンパンジーにおけるヒトの疾患感受性に関わる遺伝子多型の検討

日野田裕治(山口大・医)

対応者:平井啓久

遺伝子多型は疾患感受性個体差の分子的基盤と見なされ,これまで数多くの分子疫学的研究がなされてきた.我々は癌と遺伝子多型との関連を検討してきたが,癌感受性に関る可能性のある遺伝子多型の系統発生学的意義についてはほとんど知られていないことに気付いた.そこで本研究では,癌との関連が報告されている遺伝子多型についてチンパンジーとの比較検討を試みた.

チンパンジー(n = 10)末梢血よりDNAを抽出し,癌と関連する可能性が示唆されている17の遺伝子多型(VNTR 2,マイクロサテライト6,単一塩基置換9)について塩基配列を決定した.

VNTRおよび単一塩基置換についてはチンパンジーで多型を認めなかった.マイクロサテライトについてはチンパンジー(n = 10)の繰り返し配列数の平均値と既報のヒトのデータとを比較した.6多型中5多型はヒトで延長傾向にあり,うち1多型はチンパンジーで多型を認めず,ヒトで見出されている繰り返し配列数はすべてチンパンジーよりも延長したものであった.

以上より,分子疫学的に癌との関連が示唆されている遺伝子多型の多くは,ヒト集団に特異的なものである可能性が示された.

24 屋久島におけるニホンザルとニホンジカの嗜好性は栄養物質で説明できるか?

永井真紀子(横浜国立大)

対応者:杉浦秀樹

野外の大型哺乳類に嗜好性があることは経験的に知られているが,嗜好性が植物群集へ与える影響を定量化した例はあまりない.

本研究は,屋久島における主要な大型哺乳類であるニホンザルとニホンジカにおける,生息環境,食性,食物となる葉の化学成分を比較し,両者の嗜好性順位の違いを化学成分で明らかにしようとしている.申請者が収集する屋久島の葉のサンプルの栄養成分を,霊長類研究所の実験設備を用いて調べている.鹿児島県屋久島の自然林において,ニホンザルとニホンジカの,1)生息地の餌資源量を測定し,2)生息地の採食量推定値を求める.餌資源植物の栄養分析をすることで,採食植物種の違いを比較検討できる説明要因かどうかを明らかにしようと試みている.

25 同所的に生息するサルとシカの種間関係

揚妻直樹(北海道大・北方生物圏フィールド科学センター), 揚妻(柳原)芳美(人間文化研究機構・総合地球環境学研究所)

対応者:室山泰之

同所的に生息する霊長類と有蹄類の間には,食物供給やグルーミングなど,さなざまな交渉が起きる.しかし,これらの交渉が両種の生態に与える意味について理解が進んでいるとは言い難い.そこで,本研究ではシカを個体追跡して観察することで,シカとサルの異種間交渉の状況を把握し,その生態学的意味づけを試みた.

屋久島西部地域で,人付けされた野生シカ5頭(メス3頭・オス2頭)を対象に,2006年5月から12月にかけて,サルが活動する日の出前1時間から日没後1時間の時間帯に,シカを個体追跡した.2分毎にシカの行動および,20m以内のサルとの近接の有無を記録した.また,対象個体とサルの交渉があった場合には,その事例をアドリブサンプリングした.合計約180時間の観察を行った.この中で,対象個体がサルの20m以内に近接していた割合は9%であった.この調査地ではシカがしつこくサルを追従する行動が報告されているが,個体ごとに見れば近接時間は長くないことが解った.総採食時間に占めるサルが供給した食物(サルが落とした,あるいはサルの食痕がついた食物)の採食時間割合は4%であった.サルが供給した食物はマテバシイ・ハゼノキ・カキノキ属の果実と種子,モクタチバナ・シロダモ属の葉,サルの糞などであった.観察中に見られた追跡個体とサルの交渉は,サルが乗ったことで撓んだ枝先の葉を食べようとしたのが1例のみ観察された.

26 マイクロサテライトDNA多型を用いた野生ワオキツネザルの繁殖構造の研究

市野進一郎(京都大・理・人類進化)

対応者:川本芳

マダガスカル共和国ベレンティ保護区のワオキツネザル個体群の繁殖構造を解明するために,昨年度に引き続き,マイクロサテライトDNA解析をおこなった.昨年度の共同利用研究では,1999年の捕獲調査(研究代表者:小山直樹)で採集された134個体分の遺伝試料を用いて,11座位について遺伝子型を決定する実験をおこなった.本年度は,新たにベレンティ保護区で採集した76個体分84試料のDNA抽出をおこない,各試料の遺伝子型決定を試みた.今年度の実験では,口内細胞からDNAを調製した.血液から調製した試料に比べると濃度は低かったが,十分な量のDNAが採取できることが明らかになった.また,調製したDNAを用いて,昨年度の実験と同じ条件でPCRをおこない,シークエンサーを用いたフラグメント解析をおこなった.この結果,9座位について各個体の遺伝子型を8割程度決定できた.来年度以降は,決定できなかった試料の再実験をおこなうとともに,残り2座位について各個体の遺伝子型を決定し,調査個体群の1999年と2006年の遺伝子頻度等の比較をおこなう予定である.

27 チンパンジーとボノボの採食・遊動の比較研究

古市剛史(明治学院大・国際)

対応者:M.A.Huffman

コンゴ民主共和国ワンバのボノボと,ウガンダ共和国カリンズのチンパンジーを対象に収集したデータを分析し,食物量と遊動パターンの関係を調べた.ボノボでは,月ごとの果実生産量と,遊動パーティのサイズ,遊動速度を比較した.その結果,果実の多い時期ほど大きなパーティが形成され,移動速度も速くなることがわかった.しかし,パーティ内での採食競合や移動速度の増大がメスのパーティ参加を抑制するという従来の仮説に反し,メスはどのような時期でもオス以上に積極的にパーティに参加した.これは,社会的地位の高いボノボメスが採食競合の不利益を受けにくいことや,メスが遊動をリードするため許容できないほどの移動速度にならないことによると考えられる.一方チンパンジーでは,採食パッチ内の果実量と,そのパッチの利用個体数および滞在時間を比較した.その結果,パッチ内の果実量が多いほど利用個体数は増えるが,利用個体数が増えると採食効率を無視して様々な社会交渉をもちながら長時間そこに滞在する傾向があり,パッチ内の果実量が利用個体数や滞在時間を規定するという従来の生態学的モデルは成立しなかった.いずれのケースでも,食物量と社会関係の相互作用の上に遊動パターンが決まるという傾向を,数値的分析によって明らかにすることができた.

28 野生ニホンザルの交尾季における内分泌動態

藤田志歩(山口大・農)

対応者:清水慶子

[目的]野生ニホンザルの交尾季における卵巣周期の発現やそれに伴う内分泌動態は,食物の豊凶といった生態学的要因や交尾成功といった社会的要因の影響を受けることが予想される.しかしながら,野外では捕獲を要する血液サンプルの採取が困難なことから,野生ニホンザルの内分泌動態についてはこれまでほとんど調べられていない.本研究は,野生ニホンザルメスの卵巣周期について明らかにするため,鹿児島県屋久島に生息するニホンザルメス5頭を対象に,糞中ホルモン濃度を測定することによって非侵襲的に卵巣周期のモニタリングを行った.さらに,これまでに得られている宮城県金華山島に生息するニホンザルメスの内分泌動態と比較することによって,生態学的要因および社会的要因が卵巣周期に及ぼす影響について検討した.

[方法]9月16日から12月19日まで,各対象メスにつき基本的に2日に1回,糞を採集した. Fujita et al. (2001) の方法に従い,糞中ホルモンの抽出と E1C および PdG 濃度の測定を行った.

[結果]すべての個体において,調査期間中に2?3回の月経周期がみとめられた.対象メスのうち受胎した4頭は1?3回目の排卵で受胎したことが分かった.また,少なくとも2頭のメスにおいて受胎後の発情が観察された.これまでに,金華山島のメスでは初回の排卵で受胎すること,および受胎後の発情はないことが分かっていることから,両地域における卵巣周期の違いは生態学的要因および社会的要因が関与している可能性が示唆された.

29 テナガザル音声の地域間変異に関する音響分析

田中俊明(梅光学院大・子ども)

対応者:香田啓貴

テナガザルのSongにおいて,種間の音響的特徴の変異は詳しく調べられているが,亜種間でどの程度音声が異なっているのかという点については,未解決の問題として残されている.本研究では,アジルテナガザルの3亜種, スマトラ島(3地域)に生息するHylobates agilis agilis, カリマンタン島に生息するH. agilis albibarbis,マレーシアに生息するH. agilis unkoを対象に,Songのグレートコール部分の音響的特徴を分析比較した. 

グレートコールから58個の変数を割り出し,これらの変数を用いて主成分分析を行い7つの成分に縮約し,この7つの成分の成分得点をもちいて判別分析を行った.スマトラ,カリマンタン,マレーシアの3地域で判別分析を行った結果,96.4%と高い判別的中率がえられた.スマトラ島内の3地域だけで判別分析した結果は,61.8%の判別的中率であった.結果から,カリマンタン,マレーシア,スマトラの3地域間で,グレートコールに明確な地域差が認められたといえる.特に,カリマンタンは,他の地域と比べて非常に異なるグレートコールであることが示唆された.なお,スマトラ島内の3地域間で地域差は明確ではないことも示唆された.

30 ニホンザルにおける放射運動感度の発達

白井述, 山口真美(中央大・文)

対応者:友永雅己

15頭のニホンザル乳児(平均日齢=90.3days, SD=43.0)を対象に,奥行運動知覚の主要な視覚手がかりである放射状の拡大/縮小運動に対する感度の初期発達を検討した.コンピュータモニタ上に,運動ドットパタンによる放射運動(拡大または縮小運動のいずれか1つ)と並進運動(一方向の運動:上下左右方向のいずれか1つ)を対提示し,乳児の放射運動に対する視覚選好を強制選択選好注視法(FPL: Forced-choice Preferential Looking method)によって測定した.結果,拡大運動と並進運動が対提示される実験条件では,乳児は拡大運動に対してチャンスレベルよりも統計的に有意に高い選好値を(p <.05)を示した.一方縮小運動と並進運動が対提示される条件では,縮小運動に対する選好は統計的に有意な水準には達しなかった.これらの結果は,発達初期のニホンザルが,縮小運動よりも拡大運動に対してより高い感度を持つ可能性を示唆する.今後はより多彩な実験条件において同様の傾向が生じるのかを,ヒトによるデータ(e.g., Shiraiら2004a, 2004b, 2006)との種間比較も行いながら検討していく必要があると考えられる.

↑このページの先頭に戻る

このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会