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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2006年度 > X 共同利用研究・研究成果-施設利用 11~20

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.37 2006年度の活動

X 共同利用研究

2 研究成果 施設利用 11~20

11 類人猿遺体等を用いた遺伝子解析

井上慎一((財)かずさDNA研究所)

対応者:遠藤秀紀

統合失調症関係遺伝子の霊長類における比較

我々はシナプトタグミン11(Syt11)プロモーターのpolymorphsimが統合失調症と関係あると報告した(Inoue et. al. American Journal of Medical Genetics Part B 2007,Volume 144B, Issue 3 p 332-340).このプロモーター領域には33bpの繰り返し配列が存在するのだが,ヒトだと1,2,3リピートのpolymorphismが存在し,統合失調症の患者さん群のみ,3リピートのgenotypeを持つ方が見つかった(健常者の95%以上が2リピート,まれに1ピート).このリピートには転写因子結合領域が存在し,リピート数が増加することによりはSyt11のプロモーター活性を増幅される.一方マウスにおいてはラボマウス,ワイルドマウス(三島の遺伝研から頂いた)ともに1リピート相当(ヒトと90%以上相同性ただし34bp)のものしか検出できなかった.ラットも同様であった.そこでこの“リピート”がヒト特異的なものなのか,それとも霊長類特異的なものなのか見極めるため,GAIN(大型類人猿情報ネットワーク)サンプルおよび霊長類研究所所属する5人のチンパンジーの血液サンプルを用いて遺伝子解析を行った.その結果,調べたチンパンジーサンプルゲノムはすべて33bpを2リピート持つことが分かった.さらにGAINサンプルで調べた結果,このgenotypeはゴリラでも保存されているがオラウータンになると34bpが1リピート(塩基配列はラット,マウスとは異なる)となっており,この33bpのリピートはヒト科の限られた種にしか存在しないことが分かった.

12 チンパンジーにおける社会的因果性の認識

小杉大輔(静岡理工科大)

対応者:田中正之

チンパンジー幼児における対象の動きの因果的認識について実験的に調べた.PCモニタに,2つの対象(チンパンジーの全身の写真の切り抜き)が随伴的(一体がもう一体を追いかける)あるいは非随伴的に(2体の動きに時空間的関連性がない)動く映像(それぞれ8秒)を提示し,被験体の注視時間を分析した.前年度の実験において,抽象図形による同様の映像を呈示した結果,チンパンジー幼児は随伴的事象を一貫して選好した.より社会的な刺激事象に変えたことが,被験体の注視反応に影響するかに注目した.被験体はパル(6歳)であった.パルには,随伴的/非随伴的事象のいずれかが1試行につき10回提示され,6-8回目の提示から対象の配置を入れ替えた.このとき,随伴的な映像では因果的役割が交代する.注視反応の分析では,随伴的/非随伴的事象への選好の有無と因果的役割の交代への敏感性に注目した.現在も実験は継続中である.これまでのところ,随伴的事象を選好する傾向が見られているが,因果的役割の交代の検出は示唆されていない.このような因果関係の認識の発生については,物理的な因果性の認識との対比などの観点も踏まえ,今後もより詳しく調べる必要がある.

13 ニホンザルおよびチンパンジーにおける対象の属性に関する認知的処理

村井千寿子(玉川大・学術研究所)

対応者:田中正之

ニホンザルおよびチンパンジーを対象に注視時間を用いた期待違反事象課題によって,支持事象に関する物理的認識について検討した.支持事象とは重力法則(適切な支持を失うと,対象は空中に留まらず落下する)にのっとった物理的事象のひとつである.当課題によるヒト以外の霊長類の物理的認識の検討はほとんど行われていない.本実験では,被験体に対して起こりえない(不可能)事象と起こりえる(可能)事象とを映した動画を提示し,両事象への注視時間の違いを検討した.可能事象では,土台の1つが引き抜かれた後も,対象の大半は残りの土台に支えられ落下しない.一方,不可能事象では,土台の1つが引き抜かれると,対象の約7割の部分は空中に飛び出る(適切な支持を失う)が,それでも対象は落下しない.不可能事象に対するより長い注視がみられた場合には,被験体が事象の物理違反に気づいている可能性,つまり事象に関する物理的認識をもつ可能性が示唆される.実験の結果は両種の支持事象に関する物理的認識を示唆するものであった.今後より多くの個体で実験を行い,データの洗練を目指す.

14 耳鼻咽喉科・頭頸部外科手術からみた頭蓋形態の比較解剖

角田篤信(東京医科歯科大・医)

対応者:遠藤秀紀

頭蓋底領域病変の病態と,それに対する手術アプローチの検討のため各種サルの頭蓋骨を用いた検討を行った.今回検討したサル頭蓋検体はメスの成猿とし,添付されたデータに加えて,蝶形骨・後頭骨の縫合並びに歯牙の萌出を破損のない状態の良い検体を選択した.側面からデジタルカメラを用いて写真撮影を行い,さらに同方向から単純レントゲン撮影を行った.撮影されたデータはDICOMデータからJPEGに変換し,コンピューター上で頭蓋全体の携帯について,楕円形に類似させての数学的解析を行った.

今回の検討ではテナガザル,ニホンザル,マントヒヒ,オマキザルなどをそれぞれ5検体ずつ検討した.それぞれの種で楕円近似した際の軸の向き(ドイツ水平面から見た向き)短軸と長軸の長さの違いに差があり,特にヒヒでは他のサルと異なりかなり下方に傾いた形態をとった.頭蓋底構造物の位置も以前計測された人との違いが顕著であったが,現在検討途中である.今後さらに検体数を重ね,疾患や手術と関連した臓器の頭蓋全体から見た位置関係について研究を行う予定である.

16 霊長類の各種の組織の加齢変化

東野義之, 東野勢津子(奈良県立医科大・第一解剖)

対応者:林基治

軟骨,靭帯,腱,神経などの加齢変化を明らかにするため,生後 1 ケ月から 26 歳までのアカゲザル 8 頭と日本ザル 9 頭から椎間円板,膝関節の関節半月,大腿骨頭靭帯,膝十字靭帯,踵腓靭帯,アキレス腱,正中神経,橈骨神経,尺骨神経,大腿神経,迷走神経,動脈を採取し,元素含量の加齢変化をプラズマ発光分析法により研究している.試料の採取の過程で,日本ザルとアカゲザルの距腿関節の靭帯を調べると,両者共に,踵腓靭帯が非常に丈夫で明瞭であるが,前・後距腓靭帯は薄くて不明瞭であった.これらの所見はヒトの場合とは明らかに異なっている.この相違はヒトとサルの歩行法(踵を床につけるか否か)と関係すると推定される.

17 類人猿遺体を用いた脳進化に関するゲノム科学的検討

那波宏之(新潟大・脳研究所)

対応者:遠藤秀紀

平成18年10月23日に京都大学霊長類研究所より,チンパンジー「サトシ」オス,27歳が自然死したとの連絡を受け,脳組織の分与希望を申し込んだ.後日,犬山へ当方から出向き,大脳皮質の前頭葉,頭頂葉,後頭様の灰白質0.3グラムの凍結組織の分与をいただいた.それらからRNAを抽出しDNAマイクロアレイ解析を実施した.現在,ヒトの脳のアレイデータとの比較を行っていて,知能進化と遺伝子発現パターン変化の関連を考察しているところである.

18 広島県宮島町に生息するニホンザルによるアカマツ樹皮採食要因の解明

船越美穂

対応者:渡邊邦夫

宮島にて新たに調査を始めることはしなかった.新たな研究協力者と共に,1997年から調査を行ってきた現・松本市,安曇野市に生息する野生ニホンザルを対象に採食要因の検討を行った.

現・松本市,安曇野市に生息する野生ニホンザルは冬期にシナノザサの葉身を採食する.と言っても葉身の全ての部分を食べるわけではなく,食べる部分と食べない部分がある.食べる部分と食べない部分に分けて栄養分析を行ったところ,食べない部分で繊維分が多いことが分かった.硬さの分析を共同研究者である霊長類研究所形態進化部門の清水大輔氏が行ったところ,食べない部分の方が硬いことがわかった.

今後,現・松本市,安曇野市に生息する野生ニホンザルを対象にシナノザサの葉身と同じ方法によってカラマツ内樹皮とアカマツ内樹皮の採食要因を解明してゆきたい.


19 サル類骨密度に関する比較動物学的研究

田中愼(国立長寿医療センター・加齢動物育成室)

対応者:鈴木樹理

京都大学霊長類研究所所蔵の,年齢や性の異なるニホンザル(霊長類研究所年報, 36, 2006, pp111参照)の右側大腿骨の晒骨標本の貸し出しを受け,DXA法(DCS-600EX-IIIR, ALOKA)で骨塩量と骨面積を測定し,骨密度を得た(同上参照).しかしながら,コモンマーモセット(日本クレア)やカニクイザル(基盤研)の測定結果と比較すると,全く能わないことが判明した.そこで単離骨の特性をいかし,ラットの下顎骨で亜系統差を有効に検出した,骨塩率(BMR: bone mineral ratio, Exp. Anim., 55, 415-418, 2006)による比較を試み,種差や年齢差を捉えつつある.

20    

松山隆美, 永井拓(鹿児島大・感染防御・免疫病態制御)

対応者:中村伸

18年度はカニクイザルの試料提供が無かった.

その為,本研究は未実施となった.

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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会