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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2006年度 > X 共同利用研究・研究成果-計画研究2

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.37 2006年度の活動

X 共同利用研究

2 研究成果 

2-1 テナガザルによる音の認知についての実験的研究

小田亮(名古屋工大・工学),

松本晶子(沖縄大・人文)

対応者:正高信男

テナガザルのソングはノートと呼ばれる個々の発声が組み合わされて構成されている.昨年度に引き続き,旭山動物園の野外ケージにおいて飼育されているシロテテナガザル4頭(オトナメスとその子供3頭)に対して,伊豆シャボテン公園において録音した通常のソング(S),ノートは同じだがノート間の間隔が倍のもの(D),そして間隔が半分のもの(H)のそれぞれを再生し,反応を録画したものを分析した.

昨年度の分析対象としたのは,子供のうち最年長のオス(長男:5歳)の行動であったが,今年度はその弟(次男:3歳)の反応を新たに分析した.ソングを再生中と再生後の,同じ時間のあいだの移動時間割合を分析したところ,長男ではHの場合のみ,再生後に移動時間が有意に多くなっていたのに対し,次男ではそのような有意な変化がみられなかった.しかし,音の種類が変わっても全体的な移動時間割合に有意な変化がないという点は共通してみられた.

長男と次男でソングへの反応に差が見られた原因としては,年齢が関係している可能性が高い.テナガザルが出自群を出て独立するのは8?10歳といわれており,歌への反応もこれに伴って高くなると考えられる.5歳の長男は他個体の歌にある程度敏感であると考えられるが,次男はまだ性成熟にも達しておらず,歌への関心が低いと考えられる.

2-2 顕微切断法を用いた微小Y染色体の解析

田口尚弘(高知大・院・黒潮圏海洋科学)

対応者:平井啓久

染色体顕微切断法を使って,コモンマーモッセットのY染色体プローブの作製,および,ヨザルのX染色体の部分プローブの作成に成功し,本年度,共同利用研究会(流動部門中間評価発表会)にて報告した.コモンマーモセットのY染色体プローブはFISHによる解析で,ヘテロクロマチン領域のDNA塩基配列からなることが推察された.この塩基配列を明らかにするため現在,クローニングを行なっている.また,このプローブには,同時に,テロメアー配列及びその付近のヘテロクロマチンの存在もFISHで明らかとなっている.これらのプローブの塩基配列を明らかにするためTAクローニングを施行した.現在,コモンマーモセットで20個ほどのクローンを,アカゲザルで30個,テナガザルで10個を得ており,シークエンス解析を行なっている.コモンマーモセットのY染色体プローブのクローニング後の塩基配列解析で,イタチキツネザルと相同の塩基配列を確認している.今後も,テナガザル,アカゲザル,コモンマーモセットより得られたY染色体特異的プローブからユニークなクローンを得るためクローニングを継続する.さらに,常染色体から,染色体顕微切断法により,領域特異的プローブの採取を行なう.

2-3 霊長類染色体の3次元核内配置解析によるゲノム進化と分子系統解析

田辺秀之, 松井淳,千葉磨玲,永田妙子(総研大・先導研・生命体)

対応者:平井啓久

本研究の目的は,霊長類の進化,種分化過程で生じた染色体再配列に関して,間期核の染色体テリトリーの3次元核内配置からみた転座染色体生成機構を明らかにすることを目指している.今年度は,大型類人猿と旧世界ザルに着目し,各種末梢血リンパ球および他の共同研究者の協力により得た樹立培養細胞株を材料として,メタフェイズ染色体のチェックを行うとともに,3D細胞核標本を作製し,一部の種においてミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定した.今回,3D細胞核標本の作成に用いた種は以下である;ヒト,チンパンジー,ピグミーチンパンジー,ゴリラ,オランウータン,ボンネットザル,ニホンザル,カニクイザル,マントヒヒ,ミドリザル.ヒト2番染色体短腕2pおよび長腕2q特異的DNAプローブを用いた3D-FISH法により,相対核内配置の比較解析を行った結果,旧世界ザル各種では両ホモログが互いに近接している頻度は比較的低い(約40-50%)が,大型類人猿各種では少なくとも一組のヒト2p,2qの両ホモログ同士が互いに近接する頻度は平均約80%と高い値を示した.このことより,進化的な染色体転座や再編成が生じている近縁種間での染色体ホモログ領域は,互いに相対核内配置が近接する傾向を示すものと考えられた.

2-4 マカク属霊長類のMHCクラスIおよびクラスI様分子とその受容体遺伝子群の比較ゲノム解析

安波道郎, 菊池三穂子(長崎大・国際連携研究戦略本部)

対応者:平井啓久

マカク属霊長類は,ヒトの疾患モデルとして医学・生物学的な利用価値の高さにもかかわらず,そのゲノム情報についての知識はヒトやマウス等に比べてはるかに乏しく,ようやく最近になって解明の緊急性が認識されるようになった.

主要組織適合性複合体(MHC)は,脊椎動物の多くの種において免疫遺伝学的な特性の個体差を規定するものであり,感染因子に対する応答性など病気に罹り易いか,進行し易いかなどの宿主要因の一つとなっている.また,MHCゲノム領域に位置する遺伝子の中でも特に古典的クラスI分子およびクラスI様分子はヒトをはじめ多くの生物種で個体間での多様性が著しいことが知られている.本研究では,アカゲザルの古典的クラスI分子Mamu-AおよびMamu-B遺伝子の多様性についての新しい解析方法を開発するとともに,同様の方法が近縁種の古典的クラスIや,アカゲザルのクラスI様分子MIC遺伝子,MHCクラスIをリガンドの一部とすることが知られているNK細胞の受容体であるKIR遺伝子といった進化の過程で多重化した遺伝子群の解析への適用を検討した.

DNAコンホーメーション多型を検出するReference Strand-mediated Conformation Analysys (RSCA)法を応用した方法での血縁関係が明らかなアカゲザルの家系の解析からMamu-AおよびMamu-B遺伝子のハプロタイプ構成を明らかにすることができ,解析可能だったサル16種のハプロタイプの内で発現するMamu-AおよびMamu-B遺伝子の個数にそれぞれ1から4個,2から6個と相違があることが判明した.さらに,免疫不全ウイルス(SIV)に対する応答性が異なるアカゲザル個体群が分離する家系でMamu-A,Mamu-Bのハプロタイプが共分離しており,感染抵抗性がMHCクラスIの個体差によって規定される可能性が示された.

[文献] Tanaka-Takahashi Y, Yasunami M, Naruse T, Hinohara K, Matano T, Mori K, Miyazawa M, Honda M, Yasutomi Y, Nagai Y, Kimura A. Reference strand-mediated conformation analysis (RSCA)-based typing of multiple alleles in the rhesus macaque MHC class I Mamu-A and Mamu-B loci. Electrophoresis 28:918-924 (2007).

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