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京都大学霊長類研究所 年報
Vol.36 2005年度の活動
X 共同利用研究
3 平成17年度で終了した計画研究
野生霊長類の保全生物学
- 実施年度:平成15~17年度
- 推進者:室山泰之,川本芳,毛利俊雄,渡邊邦夫(H15),杉浦秀樹(H16-17)
本計画研究は,最近多様化しているさまざまな手法や技術を用いて,生態学や遺伝学などさまざまな分野の研究を推進し,野生霊長類保全生物学の新展開をはかる目的で実施された.具体的には,個体群管理や被害管理などニホンザルの保全・管理に直接かかわる研究はもとより、地理情報システム(GIS)を用いた生息地評価や分布変遷,移入種問題も含めた個体群保全に向けた遺伝学や形態学手法の応用などについても検討課題とした.
応募課題は多く,その内容も多岐にわたった.とくに全国各地の地域個体群の遺伝学的分析が精力的に行なわれたその結果,日本全国のミトコンドリアDNAによる遺伝子タイプ分布や地域変異などを明らかにすることができた.また,GISを利用した景観レベルの生息環境分析や土地利用解析も行われ,生息地管理にかかわる分野についても一定の成果が得られた.その一方,被害管理や個体群管理にかかわる分野の応募が少なく,保全生物学への新展開をはかるという当初の目的については,十二分に達成されたとはいえない状況であった.積み残された課題については,今後の計画課題にゆだねたい.
なお,平成16年5月22~23日と平成18年3月10~11日に,それぞれ中間報告と最終成果報告を目的とした共同利用研究会が開催され,計画に参加した研究者などの間で活発な議論が行なわれた.
本研究課題で行なわれた研究の題目と研究者は以下のとおりである.
- <平成15年度>
- 中村民彦:「ウマヤザル信仰に伴う頭蓋骨の調査による口承と生息分布域の相関関係」
- 佐伯真美(上智大・院・理工):「伊豆大島の外来マカク種に関する遺伝学的研究」
- 藤井尚教(尚絅大・文):「熊本県に生息する野生ザルの個体群管理に向けた遺伝的モニタリング法の開発」
- 赤地重宏(三重県中央家畜保健衛生所):「管理を目的とした三重県下のニホンザル遺伝子モニタリング」
- 森光由樹(野生動物保護管理事務所):「保護管理にむけた中部山岳地域のニホンザルの遺伝的多様性解析」
- 斎藤千映美・清野紘典(宮城教育大):「ニホンザルが農耕地や人家周辺に出現するときのオスの関わり」
- 赤座久明(富山県立新川みどり野高等学校):「富山県のニホンザル地域個体群の分布特性と遺伝子変異」
- 今井一郎(関西学院大):「白神山地野生ニホンザル群と地域社会の共生に関する研究」
- <平成16年度>
- 中村民彦「ウマヤザル信仰に伴うニホンザルの頭蓋骨の残留数の確認及び口承と分布の相関関係」
- 辻大和(東京大・院・農学生命科学):「GISを用いたニホンザルの行動圏利用に関わる要因の評価」
- 鈴木克哉(北海道大・院・文・地域システム):「加害群の分裂とその後の農地利用パターンに関する研究」
- 辻涼子(北海道大・院・農)・揚妻直樹(北海道大・FSC):「白神山地周辺地域におけるニホンザルの生息環境分析」
- 森光由樹(野生動物保護管理事務所):「保護管理にむけた中部山岳地域のニホンザルの遺伝的多様性解析」
- 風張喜子(北海道大・院・農):「ニホンザルの食物パッチ利用に対する生態的・社会的要因」
- 赤地重宏(三重県中央家畜保健衛生所):「管理を目的とした三重県下のニホンザル遺伝子モニタリング」
- 藤井尚教(尚絅大・文):「熊本県に生息する野生ザルの個体群管理に向けた遺伝的モニタリング法の開発」
- 清野紘典(宮城教育大・院):「群れ内オスの行動が,群れによる農作物の加害に与える影響について」
- 赤座久明(富山県立雄峰高等学校):「富山県のニホンザル地域個体群の分布特性と遺伝子変異」
- 萩原光(房総のサル管理調査会)・相澤敬吾(館山高等学校):「房総半島におけるニホンザルと外来種の交雑に関する研究」
- 早石周平(京都大・院・理):「屋久島ニホンザルの成立過程の解明とGISによる遺伝的変異の空間分布解析」
- <平成17年度>
- 風張喜子(北海道大・院・農):「ニホンザルの食物パッチ利用に対する食物環境と他個体の存在の影響」
- 辻大和(東京大・院・農学生命科学):「ニホンザルの休息場所および泊まり場選択に関する要因の評価」
- 赤地重宏(三重県中央家畜保健衛生所):「管理を目的とした三重県下のニホンザル遺伝子モニタリング」
- 萩原光(房総の野生生物調査会)・相澤敬吾(館山高等学校):「房総半島におけるニホンザルと外来種の交雑に関する研究」
- 森光由樹(野生動物保護管理事務所):「保護管理にむけたニホンザルの遺伝的多様性解析」
- 中村民彦:「東北地方のウマヤザル信仰に伴う頭蓋骨の調査による口承と生息分布域の相関関係」
- 赤座久明(富山県立雄峰高等学校):「富山県のニホンザル地域個体群の分布特性と遺伝子変異」
(文責:室山泰之)
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霊長類の発達加齢に関する多面的研究
- 実施年度:平成15年度~17年度
- 推進者:大石高生,林基治,清水慶子,脇田真清(H16-17),正高信男(H15),中村克樹(H15)
霊長類の発達・加齢過程においては心身にさまざまな変化が起こる.発達過程における変化には成熟にいたるまでの準備と,胎生期や幼若期に必要な機能を一時的に実現しているものとがある.加齢過程における変化に関しても,成熟期の機能が損なわれるという側面と,老齢期に必要な機能の獲得という両面が考えられる.本研究では,ヒトを含めた霊長類の発達・加齢にともなうさまざまな器官や行動の変化を生化学,生理学,解剖学的手法や非侵襲計測法,心理学的手法などを用いて解析し,変化の現象的記載,本質の究明,メカニズムの解明を目指した.
3年間で本課題に参加した共同利用研究員は,解剖学・組織学・生化学・分子生物学・内分泌学・心理学など多様な分野にわたり,狭い専門領域に留まることなく,発達加齢の持つ意味を総合的に捉えることができた.この計画研究を通じて,脳の領域形成に関わる遺伝子の発現様式が明らかになり,また囓歯類では存在する大脳皮質第I層の神経前駆細胞が霊長類では存在しないことが明らかになった.内分泌に関しては身体の発育や性に関わるホルモン動態の相関や個体発達における変化の解析が霊長類をモデル動物として進展した.さらに,全身の血管と心臓各部の微量元素分析からは動脈硬化に関する基盤的な知見が得られた.
3年間の課題期間を終了するに当たって,これらの成績は平成17年12月1,2両日に開催された共同利用研究会で紹介され,分野を超えた活発な議論が展開された.
本計画研究は以下のような共同利用研究として実施された.
- <平成15年度>
- 肥後範行(産業技術総合研・脳神経情報):「サルの生後発達期におけるneurograninの脳内発現変化」
- 高橋浩士(三菱化学生命科学研究所):「霊長類における脳の領域形成及び神経回路形成に関する研究」
- 片上秀喜(宮崎大・医):「サルにおける成長ホルモンとその関連因子の機能解析」
- 東野義之,東野勢津子(奈良県立医科大・第一解剖):「霊長類の各種の組織の加齢変化」
- 佐藤広康(奈良県立医科大・薬理):「サル心臓組織・洞房結節の加齢変化」
- 久保南海子(愛知みずほ大):「老齢ザルにおける認知機能の変化」
- <平成16年度>
- 佐藤至(神奈川県警・科学捜査研):「霊長類における内性器の発達及び機能に関する研究-発情周期に伴う前立腺特異抗原(PSA)の変動-」
- 東野義之,東野勢津子(奈良県立医科大・第一解剖):「霊長類の各種の組織の加齢変化」
- 高橋浩士(三菱化学生命研):「霊長類における脳の領域形成及び神経回路形成に関する研究」
- 片上秀喜(宮崎大・医):「サルにおける成長ホルモンとその関連因子の機能解析」
- <平成17年度>
- 大平耕司(京都大・医):「成熟期大脳皮質に存在する神経前駆細胞に関する研究」
- 佐藤広康(奈良県立医科大・薬理):「サル心臓組織・洞房結節の加齢変化」
- 東野義之,東野勢津子(奈良県立医科大・第一解剖):「霊長類の各種の組織の加齢変化」
- 片上秀喜(宮崎大・医):「サルにおける成長ホルモンとその関連因子の機能解析」
(文責:大石高生)
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