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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2005年度 > X 共同利用研究・研究成果-自由研究 31~40 京都大学霊長類研究所 年報Vol.36 2005年度の活動X 共同利用研究2 研究成果 自由研究 31~4031 霊長類のプリン代謝に関する研究佐藤啓造,熊澤武志,李暁鵬,藤城雅也(昭和大・医) 対応者:中村伸 新世界ザルのうち南米に棲むフサオマキザルなど数種は肝uricaseを欠損しており,ヒトや類人猿と同様に血中の尿酸が高値を示すという報告がある.一方,フサオマキザルを含む新世界ザルにおいても活性のある肝uricaseを有するという報告もある.本研究ではフサオマキザル11例の尿酸値はヒトと同レベルの3.0-4.4mg/dlを示し,アラントイン/尿酸比もヒトに近い0.06-0.16を示した.ヨザル4例,ワタボウシタマリン4例,コモンマーモセット4例は尿酸値がヒトに近い1.5-3.9 mg/dlを示し,アラントイン/尿酸比もヒトに近い0.09-0.19を示した.一方,ヨザル10例,ワタボウシタマリン5例,コモンマーモセット2例,コモンリスザル5例の尿酸値は0.3-0.9 mg/dlを示し,アラントイン/尿酸比もラットやモルモットに近い0.7-1.9を示した.他方,旧世界ザルではニホンザル7例,アカゲザル7例,マントヒヒ4例,カニクイザル5例が尿酸値は0.2-0.8 mg/dl,アラントイン/尿酸比は0.8-2.0を示した.また,チンパンジー4例は尿酸値2.3-2.7 mg/dl,アラントイン/尿酸比0.09-0.13を示し,ヒト16例は尿酸値2.9-9.7 mg/dl,アラントイン/尿酸比0.03-0.10を示した.以上の結果からフサオマキザルはヒトや類人猿と同様に肝uricaseを欠損しており,ヨザル,ワタボウシタマリン,コモンマーモセットの一部の個体も肝uricaseを欠損していることが示唆された. 32 春期発動機のメスチンパンジーにおける生理学的変化の解明関圭子, 平田聡(㈱林原生物化学研究所・類人猿研究センター) 対応者:清水慶子 本研究は,チンパンジーの性皮サイズと尿中性ホルモンの測定により,性成熟に伴う生理的変化を明らかにすることを目的として実施した.8歳で初潮を迎えたツバキでは,基底レベルでの性皮サイズの増大が,二段階にわかれてみられ,二回目の増大と尿中E1Cの基底値の増加時期が一致した.続いて,E1Cの低下と同時に性皮の腫脹が完全に消退し,2回の規則的な腫脹変化の後に,排卵,初潮を迎えた.排卵に至った周期では,E1Cの明瞭な増加がみられた. 2005年度は,現在9歳のミズキと7歳のミサキについて,E1CおよびFSHの測定をおこなった.結果はいずれも低値を示し,周期的な変化はみられなかった.しかしながら,ミズキでは,この間の性皮サイズに著しい増加がみられており,今後E1Cの増加や性皮腫脹において変化が現れることが期待される. また,初産のチンパンジーでは流産が多いといわれ,その原因の一つとして内分泌の異常が考えられる.そこで,今回ツバキの妊娠中の尿中E1C,FSH,PdG,コルチゾールについても測定をおこない,現在分析を進めている. 33 ニホンザルにおける運動能力の研究-ニホンザルの持ち上げ力量および引っ張り力量の測定-江口祐輔,新村毅,植竹勝治,田中智夫(麻布大・獣医),鈴木克哉(京都大・霊長研) 対応者:室山泰之 ニホンザルの運動能力に関する基礎的知見を得るために,持ち上げ力量を測定した.調査は野外観察施設で行った.高浜群(49頭)および若桜群( 31頭)の2群を供試した.サルが扉を持ち上げることによって餌が得られる実験装置を自作した.装置の中に入れた飼料をサルがすべて取るまでを1試行とした.まず,扉を開けた状態から,試行が進むごとに扉を徐々に閉めた.その結果,サルは常に餌を注視しながら,腕を伸ばして飼料を取ったが,扉を閉じても持ち上げる行動は認められなかった.この結果を踏まえて,扉に窓を設置したところ,窓をのぞく個体がいたものの,扉を持ち上げるには至らなかった.これまでの結果を踏まえて,実験装置前面の扉を錘付きのネットに変更して持ち上げ力量を測定した.その結果,持ち上げ力量の最大値は4.8kg(2歳雄,4歳雌)であった.次に,サルが錘のついた紐を引き上げることによって餌が得られる装置を与えた.その結果,サルは手で8.5kgを,四肢で踏ん張り,紐を口でくわえて12.0kgを引き上げた. 34 利器を用いたニホンザルの骨傷における実験的研究大藪由美子(京都大・理) 対応者:國松豊 弥生時代の古人骨資料には,利器による傷痕を残すものが約110個見つかっている.これまで,利器による傷痕の原因武器を推察した研究はあるが,いずれも傍証的に議論されることが多かった.なぜなら,弥生時代の武器は他の時代の武器と比べて種類が多く,原因武器を特定するのが困難であるからである.そこで,古人骨における傷痕の原因武器を推察するため,弥生時代の武器の精巧なレプリカでニホンザルの骨格に傷を作成する実証的な研究を進めた.使用したニホンザルの骨格は,軟部組織が分解された後の新鮮骨で,主に下肢長骨を用いた.また,復元武器には打製石剣,磨製石剣,銅剣を使用し,鉄製武器の代用として現代の鉄製斧を採用した.作成した傷痕は,実体顕微鏡で表面と断面の形態を観察し,断面において傷の幅と深さを計測した.各武器の傷痕を比較分析した結果,平面における形態的特徴では,打製石剣の傷が不定形な数条の条線を呈したが,他の武器による傷は,一本の条線ができたのみであった.さらに,断面形の特徴では,石製の武器による傷痕は金属製の武器による傷痕よりも浅く幅の広い形態となり,金属製の武器による傷は鋭いV字状の断面となった.石製と金属製の武器による傷痕には,断面における形態特徴に明確な違いがあることから,今後古人骨における傷痕の原因武器同定に役立てることが可能になると考える. 36 ニホンザル乳児における拡大/縮小知覚の非対称性の発達白井述,山口真美(中央大・文) 対応者:友永雅己 昨年度から引き続き,ニホンザル乳児の拡大/縮小運動の知覚発達について検討を行った.拡大/縮小知覚の非対称性(拡大は縮小よりも検出しやすい)について,のべ16頭の乳児を対象に実験を行った(30~174日齢,平均= 104.8,SD= ±45.31).実験刺激は1つの拡大(または縮小)図形と11個の縮小(または拡大)図形群によって構成された視覚探索刺激であり,刺激提示中のターゲット(1つだけ異なる運動特徴を持つ図形)への選好頻度を測定した(FPL法).実験の結果,ターゲットが拡大図形である場合には平均55.5%の試行でターゲットに対する選好が観察された.一方ターゲットが縮小図形である場合にはわずか48.4%の試行でしかターゲット選好が生じなかった.拡大条件でのみチャンスレベル(50%)との間に有意傾向が認められた(p<.1).こうした傾向は,ヒトにおける拡大/縮小間の非対称性(拡大は縮小よりも検出しやすい)と概ね一致する.今後は,より多くの個体を対象に実験を行い,複数の日齢群を設定して,発達的変化の詳細を検討する必要があると考えられる. 37 屋久島西部林道における野生ザルの餌付き方の調査田中俊明(梅光学院大・子ども) 対応者:杉浦秀樹 これまで屋久島西部林道周辺に生息するサルの餌付きの実態を明らかにするためにサルの餌付き方の調査を行ってきた.本調査では,過去の結果と比較するために,過去に西部林道で行ったのと同じ方法を用いてサルの餌付き方の調査を行った。林道の調査地域を平均2.4kmの8区間に分け,1人の調査者が受け持ち区間をゆっくりと歩いて往復した.群れを発見したら被験体を選び餌付きテスト(ミカンを見せてその反応を確かめる)を行った。調査期間中,群れの合計発見回数は81回,合計観察時間は28時間16分であった.餌付きテストの総試行数は409回,その内266試行(65%)においてミカンに対する接近反応がみられた.過去の調査,1993年の20%,1995年の25%という結果と比べると,餌付けが進行しているといえる. 38 各種霊長目における四肢運動機構および咀嚼機構の機能形態学的解析大石元治,浅利昌男(麻布大・獣医) 対応者:遠藤秀紀 筋肉が発揮する筋力を定量化し比較していくことは,多様な適応をみせる霊長類の四肢・咀嚼装置の骨格筋の機能形態的特徴を捉える上で重要なことである.従来,筋力の相対的な数値化は筋重量の測定によるものが中心であった.しかし,筋力は筋重量ではなく筋の生理的断面積(PCSA)に比例するため,筋重量では不十分なときもあると思われる.そこでニホンザルを用い,肩・肘関節に関係する12個の筋肉について%筋重量と%PCSAの関係を調べた.結果,棘上筋(Sp)・棘下筋(Is)の%筋重量は肩甲下筋(Sb)の値も大きかったのに対し,%PCSAではこの関係が逆転した.Sp・Isを有する肩甲骨外面には肩甲棘が存在するため,内面に付着するSbの%筋重量は相対的に小さくなる.しかし,Sbは羽状筋が数個集まった複合羽状筋型の筋肉であり,その特徴として筋線維が並列し紡錘型の筋肉に比べ大きな筋力を発揮できる形態をとる.以上のように,PCSAには重さだけではなく筋束長という長さの要素を含んでいるため,筋肉の内部構造を反映した値であるといえ,肩甲下筋のような複雑な構造を持つ筋肉に対しては,より正確な筋力を表現していると示唆される. 39 ゴリラとチンパンジーの体毛と食物の安定同位体比の対応関係の規準化鈴木滋(龍谷大・国際文化),陀安一郎(京都大・生態研) 対応者:橋本千絵 野生下の同所的なゴリラとチンパンジーの食性重複の地域差の検討をするための基礎資料として,採食対象と量が判明している飼育下個体について,食物と体毛の安定同位体比の関係を検討した.対象は,日本モンキーセンターのチンパンジー7頭(オス3,メス4),ゴリラ2頭(オス1,メス1)である.餌はリンゴの果実などの植物性食物13品目と,牛乳とニボシの動物性食物2品目である.チンパンジーには植物性の食物を,ゴリラのオスはチンパンジーと同様の品目に加えて牛乳を,メスのゴリラには牛乳に加えてさらに煮干しが1日に50g与えられている.分析は,京都大学生態学研究センターの安定同位体分析システムによって行なった.結果は,植物食だけのチンパンジーは相互に近い値のグループになり,チンパンジーの平均値は,餌対象の平均値と,窒素,炭素とも,4.5程度の差で,食物と採食する動物の安定同位体比の標準的な対応関係の範囲内だった.動物性のニボシを食べていないゴリラのオスの安定同位体比は,チンパンジーのグループの範囲に含まれた.ニボシを食べるゴリラのメスは,ゴリラのオスやチンパンジーとは異なり,ニボシの値に近い方向にプロットされた.これらの結果から,ゴリラとチンパンジーの安定同位体比の種間での違いは,代謝機能の種差ではなく,摂取食物の違いを反映すると考えられ,この関係は野性下に適用可能であると示唆される.本研究の対象とした資料の提供をいただいた日本モンキーセンターに感謝したい. 40 ニホンザルの骨形態の形態変異姉崎智子(群馬県立自然史博物館) 対応者:本郷一美 第四紀以降から現在までのニホンザルおよびイノシシ資料について,計測・分析を行い, 日本列島におけるサルとイノシシの形態学的な地理的変異の成立過程について検討した.現在のニホンザル478体,完新世の遺跡出土資料576点について頭骨・四肢骨あわせて54項目を計測し,分析した. その結果,現生資料では,四肢骨において差がみとめられた.千葉が他集団と比較してかなり小さい.また,現生と考古資料の比較が可能だった福井では,考古資料に雌雄差がみとめられず,その大きさは,現生のオスのレンジにおさまった.これは,サイズの縮小傾向に地域差(集団差)が存在する可能性が考えられる. このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |