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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2005年度 > X 共同利用研究・研究成果-自由研究 11~20 京都大学霊長類研究所 年報Vol.36 2005年度の活動X 共同利用研究2 研究成果 自由研究 11~2011 マカクザル下頭頂連合野(7野)における多重感覚入力統合の形態学的研究中村浩幸(岐阜大・院・医) 対応者:三上章允 ニホンザル3頭を用いた.ケタラール(10-15mg/kg,筋注)で導入し,ペントバルビタール(20-30mg/kg)で麻酔した.実験中,ペントバルビタール(5mg/kg,静注)を随時追加して,必要な深さの麻酔を維持し,頭頂葉連合野7a野にトレーサー(WGA-HRP,BDA,ファーストブルー,ディアミディノイエロー)を微量注入した.実験後1週間抗生物質(セフメタゾン,20mg/kg/day)を投与した.生存期間の後,ペントバルビタール(50-80mg/kg,腹腔)にて深麻酔し,上行大動脈経由で潅流固定した.固定後,脳を取り出し,50μmの前頭断凍結連続切片を作製,組織反応を行った. 頭頂葉連合野7a野にトレーサーを注入すると,これまでに報告があるV2野・V3野・V3A野・V4野・MT野・MST野・FST野・LIP野・TF/TH野・23野で細胞体と終末の標識を確認した.新たに,2次体性感覚野・聴覚ベルト皮質・TPO野・V4t野・TE野にも細胞体と終末の標識を発見した.また,V1野にも極少数の終末の標識が認めた.これらの結果は,7a野が多種類の感覚情報を統合した情報を基に視覚入力を制御していることを示唆している. 12 野生ニホンザル・オスグループの安定性と 群れへの追随の季節性に関する研究宇野壮春(宮城のサル調査会) 対応者:杉浦秀樹 金華山島では2~10数頭のオスグループが頻繁に観察される.これらの年間を通した観察で,メンバーの安定性と群れへの追随・非追随の季節性がどのように関係しているか,主に身体的接触を伴う社会交渉(グルーミング,オス同士のマウンティングなど)の頻度から調査した.結果,非交尾期にはオスグループ内での身体的接触を伴う社会交渉が増加し,交尾期は激減した.これと関連して,非交尾期にはオスグループは群れとは独立に行動して,交尾期は群れに追随する傾向にあった.そして非交尾期は交尾期に比べて,オスグループはまとまって行動することが多かった. このことはオスグループのメンバー同士が社会交渉を通して親和的関係を保ち,個体間の結束を強め,メンバーが安定するといえる.対して交尾期はメンバー間での社会交渉よりも,性が先行した群れとの交渉が主となるため,その結束が弱まりメンバーが不安定になっていることが示唆される. 13 反応コストが報酬価に及ぼす影響柴崎全弘(名古屋大・院・情報) 対応者:正高信男 ある報酬を手に入れるのにかかる反応コストの差は,得られた報酬の主観的価値に影響を及ぼすことが知られている.ハトを対象とした実験では,得るのに多くの反応が要求された報酬を選好することが確認されており,そのような現象が霊長類においても見られるかどうかを検討した.まずはヒトを対象に実験を行なった.タッチパネルを使い,画面上に提示されるボタンを押す回数を変えることで反応コストを操作した.ボタンを1回または20回押すと2つの無意味図形を提示し,正解と決められた図形を選ぶと「正解」の文字がフィードバックされた.これを1試行とし,正しい図形を選択できるようになるまで訓練が続けられた.その後,訓練に使用した無意味図形(全8種類)すべてを画面上に提示し,好きな順に選ばせた. その結果,20回押した後に提示された図形よりも,1回押した後に提示された図形を有意に選好したことが明らかとなった.これはハトとは正反対の結果であった.図形を好きな順に選択する際に,ボタンを押す回数を意識したヒトはいなかったことが内省報告により確認されたため,図形の選好の変化は無意識的な過程で生じたと考えられる. また,ヒトでの実験と同じ手続きでニホンザルを被験体として実験を行なうために,タッチパネルへの馴致訓練を行なった. 15 心臓に分布する頚胸部自律神経系の比較解剖学的解析川島友和(東京女子医科大・医・解剖) 対応者:國松豊 これまで,マカクザル(川島ら2000, 2001, 2005),ヒト( Kawashima, 2005),シロテテナガザル(昨年度の共同利用)を対象に,心臓に分布する頚胸部自律神経系に関して解析を行ってきた.今年度は特にマカクの形態を成果として公表した.最終的に原猿,新世界ザル,旧世界ザル,類人猿,ヒトを対象として,ダイナミックな系統発生学的変化を探ることを目的としている. 今回,ワオキツネザル 1体2側,シャーマン1体2側を用いて,高性能な手術用実体顕微鏡下において(Olympus OME 5000),同部位の詳細な肉眼解剖学的解析を行った.そうして,その結果をわれわれのこれまでの結果と比較検討を行った. その結果,ワオキツネザルの形態は基本的にマカクザルの形態とほとんど変化がないように思われたが,今後例数を増やして詳細に検討する必要がある.一方シャーマンの形態はシロテテナガザルの形態に類似し,旧世界猿とヒトの中間的形態を有していた.したがって大型類人猿の解析することによって,得られる進化的形態変化が興味深いと思われる. 今後さらなる変化を探るために,例数を増やすと共に,霊長類各種の形態を探っていく予定である.Kawashima T et al (2005) Comparative anatomical study of the autonomic cardiac nourvous system in macaque monkeys. J Morphol 266(1): 112-124. 16 霊長類の網膜黄斑に特異的に発現する遺伝子群の同定古川貴久,井上達也((財)大阪バイオサイエンス研究所) 対応者:大石高生 網膜は光受容に必須の組織で,脊椎動物に高度に保存されている.近年,網膜の発生に関わる分子の研究は飛躍的に進んできた.これらはマウスを中心としたものが大多数であり,種間の相違点をすべて説明できるものではない.ヒトを含めた霊長類の網膜は中心部に黄斑という特徴的な構造をもつ.黄斑部では,視細胞の中でも錐体細胞が高密度に存在し,これにより黄斑構造を持つ生物は良好な視力が得られる.実際,近年日本を含む先進国で増加傾向にある加齢性黄斑変性症などの黄斑疾患は,重篤な視力低下や失明の原因となっている.これまで,黄斑発生の分子メカニズムついての報告はほとんどみられない.最近アカゲザルの遺伝子を網羅したマイクロアレイ用のジーンチップが利用可能となった(Affymetrix社).われわれは,黄斑発生に関わる遺伝子群の同定を目的として,周産期のアカゲザルの網膜を黄斑部と周辺部に分けて採取し,それぞれの総RNAについてマイクロアレイを用いて遺伝子発現を比較した.これまでに2サンプルについてマイクロアレイによる解析を行った.2回の解析でともに黄斑部において増加していた遺伝子について,実際に網膜のどの細胞で発現しているかを確認するためにin situハイブリダイゼーションをおこなった.検体として成体サルの凍結切片を用いた.現在のところ,30遺伝子のうち9遺伝子については少なくとも黄斑部の視細胞層に高い発現を認めた.これらについては再現性を確かめる必要があるが,検体の数に限りがあるため,さらに検体が採取でき次第解析していく予定である. 17 常緑樹林帯に生息するニホンザル雌の順位による採食樹利用パターンの違い西川真理(京都大・理・人類進化) 対応者:杉浦秀樹 常緑樹林帯のニホンザルを対象に,雌の順位による採食戦略の違いを調べた.調査は,2005年8月から2006年3月まで行った.調査対象群のE群は屋久島西部域の常緑樹林帯に生息し,オトナメス7頭を含む28頭で構成されている.オトナメスのうち,高・中・低順位のそれぞれの順位個体が含まれるように5頭を調査対象個体とし,終日個体追跡を行った.各採食樹での採食開始時刻,終了時刻,採食品目,そして伴食個体数を記録した.調査期間中に観察された主要採食樹では,全体として高順位個体では伴食個体数が多く,低順位個体ではその数が少なくなる傾向が見られた.ただし,樹冠体積が大きく,多数の個体を収容できるアコウ・ハゼノキでは低順位でも伴食個体は多かった.また,低順位個体では,採食の途中で高順位個体に採食樹を横取りされるケースが見られた.これによって低順位個体の樹木一本あたりの採食継続時間は高順位個体よりも短かった.この影響によって,低順位個体の1日当たりの採食樹の本数は高順位個体のそれより多くなっていると予測される.これに関しては,今後,観察時間・日長時間などを考慮して詳しい分析を行う予定である. 18 霊長類の自発性瞬目に関する比較研究田多英興(東北学院大・心理),大森慈子(仁愛大・心理) 対応者:友永雅己 最終的に71種についてビデオによる瞬目の解析が完成した.その主要な結果は,瞬目率はヒトの半分から1/3程度の低頻度であること,瞬目時間はヒトの約半分の短時間であること,単独瞬目率も極めて低率であること,などが特徴として浮かび上がった.さらに,霊長類内での比較では,瞬目率と単独瞬目率とは概ね系統差を反映する,しかし,瞬目時間にはあまり顕著な種間の差は見られない,瞬目率には活動リズムと生息環境の両方の要因が影響する,特に夜行性の瞬目率の著明な低さが注目された,などである.さらに,今回は,アユムとパルについて生後1年間の瞬目の解析も行ったが,驚いたことに,ヒトと違って誕生時からかなりの水準の瞬目率を維持することが分かった. 19 ニホンザルの性腺機能調節における成長因子の役割田谷一善,與名本輝,上田陽子(東京農工大・農・獣医生理,伊藤麻里子(京都大・霊長研) 対応者:清水慶子 1.妊娠ニホンザルのレプチン分泌 本研究では,ニホンザルを用いて妊娠中の血中レプチン濃度を測定し,他のホルモン(エストラジオール,プロジェステロン,インヒビン,LH,FSH)との関連性を明らかにした.妊娠期間を4区分(Ⅰ期:0-39日,Ⅱ期:40-79日,Ⅲ期:80-119日,Ⅳ期:120日-分娩日)した.血中レプチン濃度は,妊娠前と妊娠Ⅰ期では低値であり,Ⅱ期から上昇し,Ⅲ期で最高値を示した後,分娩後に著しく低下した.この妊娠中の血中レプチン濃度の変化は,インヒビンとエストラジオールの変化と平行した.平成16年度の本研究でニホンザル胎盤の栄養膜合胞体層にレプチンの局在を明らかにした結果と併せて考察するとニホンザルの胎盤が大量のレプチンを分泌するものと推察された.本研究の成果は,Endocrine 27, 75-81, 2005に発表した. 2.雄ニホンザルの精巣および副生殖腺における神経成長因子(NGF)とNGFリセプターの局在 本研究では,ニホンザルの精巣機能調節におけるNGFの生理作用を解明する目的で,精巣,精巣上体,精嚢腺および前立腺でのNGFとNGFの2つのレセプターの局在を免疫組織化学法により調べた.その結果,精嚢腺,精巣上体にNGFと2つのリセプターの局在が認められた.精巣では,ライディヒ細胞とセルトリー細胞,各種発育段階の精子にNGFと2つのリセプターの局在が認められた.以上の結果から,ニホンザルの精巣および副生殖腺の機能および精子形成過程においてNGFが何らかの生理作用を有しているものと推察された.本研究の成果は,Endocrine 29, 155-160, 2006に発表した. このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |