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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2005年度 > X 共同利用研究・研究成果-計画研究4「アジアに生息する霊長類の生物多様性と進化生物学」 京都大学霊長類研究所 年報Vol.36 2005年度の活動X 共同利用研究2 研究成果 計画研究4「アジアに生息する霊長類の生物多様性と進化生物学」4-1 テナガザル類のY染色体解析用分子マーカーの作製田口尚弘(高知大・院・黒潮圏海洋科学) 対応者:平井啓久 昨年に引き続き,染色体顕微切断法を使って,テナガザルの微小Y染色体を標的としたプローブの作製,およびクローニングを施行した.テナガザルY染色体から顕微切断で得られたDNA断片をPCRで増幅し,さらにプローブ化したPCR産物をFISH法で確認すると,テナガザルの微小Y染色体全体に分子雑種形成したので,プローブ作製の成功を確認できた.このプローブを使って,TAクローニングを行い,現在,50以上のクローンを得ている.さらに,これらクローンのシークエンスは現在進行中であるが,今のところ解析したクローンは繰り返し配列がほとんどであった.そこで,ユニークな配列を持つクローンを得るために,サブトラクション法を行なっている.この方法は市販されているヒトCot-1DNAを利用する.まず,ヒトCot-1DNAを化学的にビオチンラベルする(Chemlink).次に,これを顕微切断で得られたPCR産物とハイブリダイズした後,アビジンを付加したビーズを利用して,繰り返し配列を除く方法である.この方法で,ユニークなシークエンスを分離し,データベースを構築して行く.現在,この方法を使って解析を進めている. 4-2 テナガザル類の音認知と発声制御についての実験的研究小田亮(名古屋工業大・工学),松本晶子(沖縄大・人文) 対応者:正高信男 テナガザルのソングはノートと呼ばれる個々の発声が組み合わされて構成されている.本研究では,3種類の異なるノート間隔をもったソングを作成し,これらをテナガザルに対して再生した.再生中と再生後の行動をビデオに記録し比較することで,テンポの認知がどのようになされているのか調べた. 刺激音は伊豆シャボテン公園において飼育されているシロテテナガザルのオスが自然に鳴いたソングを録音し,音声分析ソフトウエアを用いて,ノート間の時間間隔をすべて倍にしたものと,半分にしたものを作成した.このようにして作成した通常のソング(S),ノートは同じだが間隔が倍のもの(D),そして間隔が半分のもの(H)のそれぞれを,旭山動物園の野外ケージにおいて飼育されているシロテテナガザル4頭(オトナメスとその子供3頭)に対して再生した.再生は馴化を避けるために午前中に1回,午後に1回の1日2回のみとした.分析対象としたのは,子供のうち最年長のオス(5歳)の行動である. ソングを再生中と再生後の,同じ時間のあいだの移動時間割合を分析したところ,SとDに対しては有意な差がなかったが,Hの場合のみ,再生後に移動時間が有意に多くなることが分かった.このことから,テナガザルは早いテンポのソングを聞き分けて異なる反応をしているということがいえる. 4-3 霊長類培養細胞株の樹立明里宏文(医薬基盤研究所・霊長類センター) 対応者:平井啓久 本研究では,Herpesvirus saimiriを用いた独自の霊長類機能細胞の不死化技術を応用して,医科学研究に汎用されている多様な霊長類由来不死化細胞株ライブラリーの構築を試みた.その結果,今年度は新たにシロクチタマリン,ヨザル,フサオマキザル由来細胞株樹立に成功した.また昨年度に樹立した細胞株については,一定期間(1−2ヶ月程度)経代した後細胞変性等異常が認められない事を確認した上で液体窒素への複数バイアル保存を実施した.本研究にて最終的に樹立された霊長類由来細胞株は8種であり,本研究開始以前に樹立済のものと合わせて,10種,31細胞株の樹立に成功したことから,医科学研究に汎用されている霊長類由来細胞株ライブラリーの構築という当初の目的は達成出来たものと判断した. 本研究成果は,特にここ数年で急激に実験動物としてのニーズの高まっている新世界ザルについて,その付加価値を高める事に繋がるものと期待される.さらに,可能な限り動物実験を減少させようとする社会的要請にも合致していることから,非常に貴重な研究用リソースであると考えられる. なお本研究により樹立された各種霊長類細胞株は国内の細胞バンクに一括して寄託される予定となっており,本邦の研究者が利用可能なリソースとして公開される運びである. 4-4 霊長類染色体の3次元核内配置解析と分子系統進化に関する研究田辺秀之,松井淳,天野美保(総研大・先導研・生命体) 対応者:平井啓久 本研究の目的は,霊長類における染色体レベルでの転座,逆位などの進化的な染色体再配列に関して,間期核の染色体テリトリーの3次元核内配置からみた生成機構を明らかにすることを目指している.昨年度に引き続き,今年度はマカク系統に着目し,各種末梢血リンパ球を材料としてメタフェイズ染色体のチェックを行うとともに,3D細胞核標本を作製し,一部の種においてミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定した.ヒト2番染色体短腕2pおよび長腕2q特異的DNAプローブを用いた3D-FISH法により,作成した3D細胞核標本のうち,まずヒト,チンパンジー,ニホンザルの3種での放射状核内配置の比較解析を行った.その結果,ニホンザルでは両ホモログが互いに近接している頻度は低いが,チンパンジーでは少なくとも一組のヒト2p,2qの両ホモログ同士が互いに高頻度に近接する結果となった.このことより,近縁種間での染色体再編成が生じている領域は,互いに相対核内配置が近接している可能性を持つものと考えられた.今後比較種類数を増やし,さらに検討を進める予定である. 4-5 アジアに生息するマカク類の免疫応答関連遺伝子の多型の研究安波道郎(東京医科歯科大・院・疾患生命) 対応者:平井啓久 マカク属は霊長類の進化学的に興味深い研究対象であるだけでなく,医学生物学の諸領域においてヒトの生理・病態をより忠実に反映するモデルとして有用な実験動物である.アカゲザルのサル免疫不全ウイルス(SIV)感染実験系はHIVの慢性感染からAIDSの発症に至る過程のモデルであるが,この系においてウイルス抗原特異的なCD8+T細胞が効率よく誘導されるかどうかが感染抵抗性の鍵を握っており,それには主要組織適合性複合体(MHC)クラスI分子の多型が深く関わっている.ヒトではHLA-A,BおよびCが古典的MHCクラスI遺伝子であるが,アカゲザルではそれぞれHLA-A,Bの相同遺伝子であるMamu-A,Bが進化の過程での遺伝子重複により多コピー化しており,従来その多型解析は困難であった.我々はDNAヘテロ二重鎖コンホーメーション多型を検出するRSCA法を適用することにより,多コピー化した遺伝子配列の効率的な解析を行なうことに成功し(Tanaka-Takahashi Y, et al. 投稿準備中),Mamu-A,BハプロタイプとSIVに対する宿主の応答との関連を見いだした.また同法はアカゲザルのみならず,ニホンザル,カニクイザルにおいても適用できる可能性があり,これらのマカク属の種においてもMHCクラスI遺伝子の多コピー化が生じていることが判った. このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |