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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2005年度 > X 共同利用研究・研究成果-計画研究3「チンパンジーの認知や行動とその発達の比較研究」

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.36 2005年度の活動

X 共同利用研究

2 研究成果 計画研究3「チンパンジーの認知や行動とその発達の比較研究」

3-1 チンパンジーとニホンザルにおける声道形状の成長変化に関する研究

西村剛(京都大・理・自然人類)

対応者:濱田穣

ヒトの話しことばの形態学的基盤である声道の二共鳴管構造は,生後,急激な喉頭下降現象による咽頭腔の伸長によって完成する.この喉頭下降現象は,喉頭の舌骨に対する下降と舌骨の口蓋に対する下降の2つの成長現象によっている.チンパンジー幼児3個体(アユム,クレオ,パル)は,生後,定期的に磁気共鳴画像法(MRI)を用いて頭部矢状断層画像を撮像され,平成17年度中に5歳6ヶ月までの資料を得た.分析の結果,チンパンジーにもヒトと同様の舌骨の口蓋に対する下降がみとめられた.これにより,チンパンジーは喉頭下降現象の一部ではなく,ヒトと相同な下降現象を共有していることを明らかにした.一方,チンパンジーの口腔は,幼児期以降,ヒトに比べて急激に伸長した.また,ニホンザル6個体を対象とした4週から2歳9ヶ月齢までの頭部矢状断層MRI画像の半縦断的データを得た.それらを分析した結果,ニホンザルでは,ヒトやチンパンジーと異なり,咽頭腔の急激伸長,つまり喉頭下降現象がみられない一方,口腔の伸長はチンパンジーと同様であった.これらの結果から,声道の二共鳴管構造は,ヒトとチンパンジー(おそらく現生類人猿)の共通祖先系統で喉頭下降現象が現れ,次に,ヒト系統で顔面が平坦化し,口腔の伸長が鈍化したことによって完成したことが示唆された.

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3-2 チンパンジーの行動特性の個体差における遺伝的背景の研究

村山美穂(岐阜大・応用生物)

対応者:松沢哲郎

本研究では,ヒトで性格に関与するとの報告がある脳内シグナル伝達やホルモン伝達に関与する遺伝子多型を,霊長類で解析し,遺伝子の機能と霊長類進化との関連を明らかにすることを目指している.本年度は,昨年度の霊長類研究所11個体に加え,三和化研・熊本霊長類パークの80個体の遺伝子型を解析し,ヒト用のYG性格検査の質問120項目に1個体あたり3名の飼育者が回答する方法で,行動特性を評価した.ドーパミン受容体D4遺伝子(DRD4),ドーパミントランスポーター遺伝子(DAT1),セロトニントランスポーター遺伝子(5HTT),アンドロゲン受容体遺伝子のグルタミン反復(AR-Q)とグリシン反復(AR-G),エストロゲン受容体α遺伝子(ERα),エストロゲン受容体β遺伝子(ERβ)の,6遺伝子7領域で,それぞれ反復配列数の異なる3,2,4,10,4,4,6種類のアレルが見いだされた.性別,年齢,評価者を統一して,遺伝子型によりグループ分けし,行動特性評価値を比較した.AR-Qが長いと「抑うつ的」,ERαが長いと「非熟慮的」,DAT1が長いと「不安症」の得点が高い傾向にあった.

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3-3 コンピュータ骨密度解析法によるチンパンジーの骨格発達と加齢

大野初江(お茶の水女子大・院・人間文化),鵜殿俊史((株)三和化学研究所・熊本霊長類パーク)

対応者:濱田穣

チンパンジーにおける中手骨の形態と骨密度の加齢変化を検討した.昨年度の資料に加えて縦断的分析も試みた.方法は通常X線写真と改変MD法(コンピュータ画像解析によるMicrodensitometry)である.被験体は㈱三和化学研究所熊本霊長類パークおよび京都大学霊長類研究飼育のチンパンジー97体(オス38体,メス59体,0~35才)で,麻酔下,左手をペネトロメータ(アルミ製、1-20mm厚)とともにX線写真を撮影した。画像をスキャナでコンピュータに取込み,画像解析ソフト(Scion Image, Beta 4.0.2版)を用いて第二中手骨の長さ,骨体の幅,皮質厚及び骨密度(アルミ厚等量)を計測した.

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3-4 チンパンジーにおける聴覚刺激に対する復帰抑制とその発達

松澤正子(昭和女子大・人間社会)

対応者:田中正之

ヒトの空間探索では,すでに注意を向けたことのある位置への定位が抑制される傾向がある.これは外界の情報収集を効率的に行うための注意機能の一つと考えられ,「復帰抑制」と呼ばれている.本研究では,チンパンジーにおける復帰抑制とその発達的変化を調べることを目的として,チンパンジー幼児,成体,ならびにヒト成体を対象に実験を行った.実験では,モニターの右または左に先行刺激が呈示された後,3種類の時間間隔(SOA; 150, 500, 850ms)のいずれかで右または左にターゲットが現れた.(なお表題と異なり,すべて視覚刺激を用いた.)被験者にはターゲットを見つけて接触する反応が求められ,その反応潜時を,ターゲットが先行刺激と同側に現れる場合と反対側に現れる場合で比較した.その結果,チンパンジー幼児ではSOA850msの時点で,反対側に比べ同側に現れるターゲットに対する反応が遅く,復帰抑制の現象が観察された.この反応パターンは,ヒト成体での結果と類似しており,復帰抑制がヒトとチンパンジーで共通の進化上の起源をもつことが明らかになった.

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3-5 霊長類における視線認識の発達と視覚的シグナルの生成について

服部裕子(京都大・文)

対応者:友永雅己

ヒトを含め複雑な社会性を持つ霊長類において,他者の視線の感受性や注意状態の理解は非常に重要な能力だと考えられる.本研究では,実験1としてニホンザル乳児を対象に他者の視線および顔の向きについての感受性を調べた.また実験2では,チンパンジーを対象に他者の注意状態の認識について調べた.結果,実験1では3ヶ月齢で「こちらを向いている視線」に対してのみ実験者の顔へ注視するまでの潜時が短かったのに対し,6ヶ月齢では顔の向きがこちらを向いている時にも潜時は短くなる傾向にあったことから,視線方向における感受性は早くから見られることが考えられる.実験2では,先行研究よりも自然なヒトとのインタラクションの中で「被験体が実験者に餌をねだる」という文脈を利用し実験を行った.1/3~1/2程のデータを取り合えた時点では,実験者が餌を持っている時でもテーブルの上に置かれている時でも,実験者が被験体を見ている時に最も身振りが生成される頻度が高かった.実験者が餌を見ている時にはより身振りの頻度が少なかったことから他者の細かな視線の状態を考慮して身振りを生成していたことが示唆される.

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3-6 チンパンジーにおける注意と行動の抑制能力とその発達

森口佑介(京都大・文)

対応者:田中正之

本研究は,チンパンジーの注意と行動の抑制能力とその発達を,成体チンパンジー(6個体)とチンパンジー幼児(3個体)を対象に,ヒト2歳児に用いられる課題で実験を行った.コップを2つ用意して,そのうち一方に食べ物を隠し,食べ物が隠れている方のコップを選べたら,強化するという課題であった.訓練段階として,①食べ物が隠されるのを見た後,5秒間の遅延があり,その後コップを選ぶ②食べ物が隠されるのを見てない時に,実験者の指している方を選ぶ課題,を行い,各課題5連続正答すると,テスト試行が行われた.テスト試行では,食べ物をコップに隠すのを見せられた後,実験者は食べ物が入っていない方のコップを指した.テスト試行は10試行行われた.このような課題を,刺激を変えて行ったところ,成体チンパンジーは実験者の指差すほうのコップを選ぶ傾向にあったが,チンパンジー幼児は,比較的食べ物が隠されているコップを選ぶことができた.また,上記の課題の②の段階で,実験者が指差しの変わりにどちらか一方のコップの上にマーカーを置き,チンパンジーにそのコップを選ぶことを学習させた.その後,テスト試行で,マーカーが置かれていないコップに食べ物を隠すのを観察した場合も,結果は同様の傾向を示した.これらの結果は,チンパンジーの行動制御はヒトと比べて柔軟ではないこと,また,成体のチンパンジーはより柔軟ではないことを示唆している.

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3-7 チンパンジー胎児における自己身体探索行動

明和政子(滋賀県立大・人間文化)

対応者:松沢哲郎

近年開発された四次元超音波画像診断装置(四次元エコー)によって,ヒト胎児の行動が,ほぼリアルタイムに近いかたちで立体的に確認できるようになった.この装置を利用して,昨年度は,ヒト胎児の行動を観察した.その成果として,妊娠20週以降のヒト胎児は,手指を口唇部に挿入したり,手指と手指を重ねあわせたり,手で足先をつかんだりなど,自己身体を探索する行動を頻繁にみせることを明らかにした.これらの結果は,自己身体感覚についての学習が,胎児期からすでに始まっている可能性を示している. 自己認識の発達,生物学的基盤を胎児期までさかのぼって検討するため,本年度はチンパンジー胎児の行動を調べ,両種間で比較した.本研究は,滋賀県立大学・竹下秀子,林原類人猿研究センター・平田聡との共同研究としておこなった. 林原類人猿研究センター所属の妊娠中のチンパンジー1個体(9歳)に,超音波診断装置への馴致を3ヶ月間おこなった.その後,妊娠6ヵ月よりチンパンジー胎児の身体画像の撮影を開始した.撮影時間は,1日1回8-15分,週2回程度の頻度でおこなった.総観察回数は38回であった.

その結果,ヒト用に開発された四次元超音波画像診断装置によって,チンパンジー胎児の行動がヒトと同程度の鮮明度で記録できることがわかった.ヒトの胎児との明確な差異として,以下の2点が明らかとなった.

①上肢の動きのパターンは,両者間で異なっていた.ヒト胎児は,口唇部周辺に向かって手を運び,口内に手指を入れたり,口唇部に手を保持する姿勢を繰り返したりすることが多い.それに対し,チンパンジー胎児は,目より上あたり,おでこや頭上に手を置いた状態で長時間保持している場合がほとんどであった.

②ヒト胎児はチンパンジー胎児に比べ,ひじょうにダイナミックかつ頻繁に手足を動かし,自己身体を探索する.しかし,チンパンジー胎児では手と手をあわせたり,足先を手指で掴んだりといった身体探索行動は一度も確認されなかった. 以上より,胎児期の自己身体の知覚能力には,両種間で差がみられる可能性が示唆された.

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3-8 チンパンジーにおける美的知覚と描画行動

齋藤亜矢(東京藝術大・院・美術)

対応者:田中正之

霊長類研究所のチンパンジー 6個体を対象として,サインペンと水彩の2種類の画材を用いて自由描画をおこなった.ブース内で検査者と被験者の対面場面で実験した.原則として描画行動に対する食物報酬はおこなわなかったが,チンパンジーは進んで筆やペンを持つことが多く,初めから描くことを拒否することはほとんどなかった.すべての描画を分析し,結果を描画時の写真や動画とともにデータベース化した.

また,検査者が目の前で簡単な図形を描くというモデル提示条件での描画模倣課題をおこなった.ヒトのK式発達検査の描画課題をチンパンジー用に改変したもので,ヒトの子ども(1,2歳児)でも同様の手続きで実験をおこない,その発達過程と比較した.チンパンジーでは,モデルの上や一部に往復線を重ねて覆うように塗りつぶすという14~19ヶ月齢のヒトに多く現れた行動と似た反応が見られたほか,モデルの線をなぞるという,手首の動きの調整をともなう行動がみられた.しかし模倣して,同じ形を空白部分に描くことはなかった.これらの成果について,第8回SAGAシンポジウム(大阪,11月),および日本発達心理学会第17回大会(福岡,3月)でポスター発表した.

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3-9 物体ベースの注意の側面からみた視覚認知の霊長類的起源

牛谷智一(千葉大・文)

対応者:友永雅己

ヒトでは,純粋に距離の関数で記述されるような空間的注意のほかに,オブジェクトを賦活の単位とするような物体ベースの注意過程があることが知られている.Egly et al. (1994) に類似したパラダイム下で,チンパンジーにおいても物体ベースの注意がみられるか調べた.予備実験では,探索することが求められたターゲットに先行して呈示された手がかりが,ターゲットの出現位置を高く予測する場合,ターゲットへの反応時間が短くなることを確認した.実験1では,2つの長方形をオブジェクトとし,平行に並べて,ターゲットが先行手がかりと同じオブジェクト内に出現する場合,違うオブジェクトに出現する場合に比べて反応時間が短くなるかどうか調べた.しかし,スタートキーからの距離の効果が大きいのか,全ての被験体からは明確な結果が得られなかった.実験2では,できるだけターゲットの出現位置がスタートキーから等距離になるようにするため,長方形を水平に配置した.チンパンジーの反応時間は,チンパンジーでもオブジェクトベースの注意過程が存在することを示唆していた.

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3-10 チンパンジー母子間における「葛藤」にかんする縦断的研究

水野友有(中部学院大・人間福祉)

対応者:松沢哲郎

本研究は,チンパンジーにおいて母子間の身体的・心理的距離が多様に変化していく過程を行動学的観察によって明らかにすることを目的とし,特に,授乳場面でみられる母子間のコミュニケーション行動に着目した.チンパンジーの母子間の相互作用は,必ずしも緊密な愛着を示すものだけではない.逆に,4・5歳頃の離乳期を迎えるチンパンジーは,子どもを自立させようとする母親と,母親の庇護をあくまでも求めようとする子どもとの間に著しい葛藤関係をも生み出している.本研究では,生後1歳から4歳まで蓄積したビデオ記録について授乳場面を抽出し,①授乳開始の合図,②母子接触の開始と終了時間,③授乳回数,④授乳開始と終了時間,⑤授乳終了の合図,⑥授乳状況,⑦アイコンタクトの有無について分析した.その結果,発達に伴う授乳頻度および授乳時間の減少がみられ,また,生後2年頃からは授乳頻度と母親の生理周期との関係性が示唆された.

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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会