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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2005年度 > X 共同利用研究・研究成果-計画研究2「霊長類の発達加齢に関する多面的研究」

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.36 2005年度の活動

X 共同利用研究

2 研究成果 計画研究2「霊長類の発達加齢に関する多面的研究」

2-1 成熟期大脳新皮質に存在する神経前駆細胞に関する研究

大平耕司,金子武嗣(京都大・医),船津宣雄,中村俊(国立精神・神経センター)

対応者:林基治

哺乳類の生後脳において,ニューロン新生は,側脳室前方上衣下層(SVZ)および海馬歯状回顆粒細胞下層(SGZ)で生じていることが知られている.一方,成熟した大脳新皮質でニューロン新生が起こるかどうかは,100年以上もの間議論されているが,未だ決着は付いていない.このような中で,我々は,成熟したラットの大脳新皮質Ⅰ層に,GABA作動性ニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトを産生することのできる神経前駆細胞(Neocortical LayerⅠProgenitor cells, NLP cells)を見出した.本研究では,NLP細胞の系統発生的保存についてコモンマーモセットとカニクイザルを用いて解析をおこなった.細胞分裂マーカーであるKi67とDNA合成のS期に核へ取り込まれるBrdUの二重標識を用い,蛍光二重染色をおこなった後,共焦点レーザー顕微鏡で解析した.その結果,コモンマーモセットとカニクイザル両方において,SVZ やSGZでは神経前駆細胞を同定できたが,大脳新皮質Ⅰ層にNLP細胞を観察することはできなかった.したがって,げっ歯類から霊長類へ進化する過程で,NLP細胞の保存機構が失われてしまったことが考えられる.さらに,この結果は,これまでに行われた大脳新皮質のニューロン新生に関する研究において,げっ歯類を用いた解析では肯定的な結果が多い一方,霊長類を用いた解析では否定的な結論が多かったこととよく一致している.今後は,発達期の霊長類を調べることにより,生後の発達過程にある大脳新皮質にNLP細胞が存在するのかどうか解析する必要がある.

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2-2 サル心臓組織・洞房結節の加齢変化

佐藤広康(奈良県立医科大・薬理)

対応者:大石高生

ヒト心臓組織・機能の加齢(発育,老化を含めた)変化の研究を進めている.ヒトに類似しているサル心臓組織を使って,心臓,とくに洞房結節の生理・薬理学的機能変化を考察することに目的がある.今年度は加齢変化における性差について検討した. 各動物種の心臓と洞房結節組織の発育・加齢による組織学的変化の解析では,一般的に微量元素は減衰する.これは血管組織での蓄積と全く異なる.雌雄サルともCaとPの含量が著明に減少し,他の微量元素(Zn, Na, Fe)の加齢変化も同様であったが,MgとSには大きな性差がみられた.雄と異なり,雌ではMgとSが無変化か蓄積傾向を示した.微量元素の性差は性ホルモンに由来すると推測されるが,細胞保護作用,または機能的代償なのか,また加齢的減衰が心機能低下だけを意味するのか,不明な点が多い. 微量元素の加齢変化における性差が生理学的機能にどう修飾しているかを見極め,加(老)齢変化を伴った今後の性差医療に充分貢献できるものと考える.

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2-3 霊長類の各種の組織の加齢変化

東野義之,東野勢津子,山田正興(奈良県立医科大・第一解剖)

対応者:林基治

サルの椎間円板の加齢変化を調べるため,日本ザルの第2頚椎から仙骨までの椎間円板の元素含量の加齢変化を研究した.用いた日本ザルは3歳から28歳までの8頭である.サルとヒトは共に,椎間円板のカルシウムと燐の含量が頚椎の椎間円板で最も高く,上位胸椎,下位胸椎,腰椎の順に低くなる.注目すべきことは,10歳以下の若いサルでは,椎間円板のカルシウムと燐の含量が非常に高く,老齢になってもカルシウムと燐の含量が増加せず,逆に減少する.なお,24歳以上の日本ザルと70歳以上の日本人の椎間円板を比較すると,日本ザルの椎間円板のカルシウムと燐の含量が約3倍高い.

また,サルの脊髄の加齢変化を調べるため,頸髄から仙髄までの各脊髄の元素含量とそれらの加齢変化を研究した.用いた日本ザルとアカゲザルは3歳から29歳までの6頭である.これらの分析結果を解析中で,近々報告したい.

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2-4 サルにおける成長ホルモン(GH)とその関連因子の機能解析

片上秀喜(宮崎大・医)

対応者:清水慶子

グレリン(Ghr)は胃で産生され,強力なGH分泌促進作用を有するのみならず,摂食およびエネルギー代謝調節に関与することが知られている.また,代謝調節系に働き,脂肪蓄積効果を有する.一方,レプチン(Lp)は脂肪細胞から分泌され,中枢神経系に作用して強力な摂食抑制やエネルギー消費亢進をもたらし,代謝調節に重要な役割を有している.これらLpの生理作用の一部はGhrの作用とは相反するものであり,エネルギーバランス調節に重要な役割を担っているものと考えられる.私たちは,個体発達過程におけるGhr,Lp,GH,GH放出ホルモン(GHRH)およびソマトスタチン(SRIF)の分泌動態を知る目的で,モデルとして,胎児期から老齢期までの雌雄のニホンザルを用い,これらの血中動態を検討した.京都大学霊長類研究所の屋内個別ケージに飼育されている様々な年齢のニホンザルから経時的に採血をおこなった.また,妊娠の様々なステージにおいて帝王切開により娩出された胎児の血液を採取した.これら血中Ghr,GHおよびGHRH濃度ならびに生殖関連ホルモン測定した.Ghrは出生後数ヶ月間,SRIFは出生直後一過性に高値を示し,その後減少することが明らかとなった.同様にLpも出生後数ヶ月までの間,高値を示した.一方,GH濃度は胎児,出生後および老齢ザルにおいていずれも低値を示した.以上より,ニホンザルにおいて血中Ghr,Lp, GH,GHRHならびにSRIF濃度はそれぞれ個体発達固有の変化を示すことが明らかとなった.

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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会