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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2005年度 > X 共同利用研究・研究成果-計画研究1「野生霊長類の保全生物学」

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.36 2005年度の活動

X 共同利用研究

2 研究成果 計画研究1「野生霊長類の保全生物学」

1-1 ニホンザルの食物パッチ利用に対する食物環境と他個体の存在の影響

風張喜子(北海道大・院・環境科学)

対応者:杉浦秀樹

前年度の研究により,食物環境だけではなく順位や伴食個体の存在などの社会的要因が,ニホンザルの食物パッチ利用に影響を及ぼすことが明らかになった.しかし,観察時期が限られ,また食物品目ごとに分析が行われており,彼らのパッチ利用の全体を理解できたとは言えない.統一的な理解を進めるために,本研究では,食物資源の分布・量・質が異なる様々な時期に,食物品目の栄養価を考慮しながら,食物環境と他個体の存在がパッチ利用に及ぼす影響を評価することを目的とした.宮城県金華山島のニホンザルB1群を対象とし,食物環境の異なる時期ごとに約1ヶ月ずつ,計6回の調査を行った.様々な順位のオトナメスのパッチ利用(採食品目・取り込み食物数・食物取り込み時間・食物探索時間・滞在時間),食物環境(パッチの位置・サイズ・食物密度),社会的要因(順位・伴食個体・攻撃的交渉)を記録した.これらのデータと,今後行う食物資源の分布調査の結果をあわせて,食物環境(パッチサイズ・パッチ内食物密度・食物分布)および社会的要因が,栄養量の取り込み時間・取り込み量・食物探索時間・パッチ滞在時間に及ぼす影響を分析する予定である.

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1-2 ニホンザルの休息場所および泊まり場選択に関する要因の評価

辻大和(東京大・院・農学生命科学)

対応者:杉浦秀樹

昨年度に引き続き,ニホンザルの泊まり場の選択と温度環境の関連性を検討した.宮城県金華山島北西部の様々な地形10箇所(尾根×3,沢×3,海岸,シバ群落,シキミ群落,スギ群落)に温度データロガーを設置し,2005年8月11日から2006年3月21日にかけて気温を記録した.温度の記録期間中,調査対象とした群れは沢を泊まり場とすることが多く(53日中41日),また季節ごとに分けると夏 (8月) は5日中3日 (60%),秋 (9-11月) は38日中30日 (79%),冬 (12-3月) は10日中7日 (70%) と,昨年度とは異なり季節の違いはあまり見られなかった.データロガーのデータと風速のデータよりサルの体感温度を推定した結果,沢ではそれ以外の群落と比較していずれの季節も体感温度が高かった.したがって,観察されたサルの泊まり場選択は,沢を積極的に利用することにより夜間の体温維持コストを下げる機能があると推測された.

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1-3 管理を目的とした三重県下のニホンザル遺伝子モニタリング

赤地重宏 (三重県科学技術振興センター)

対応者:川本芳

これまでのミトコンドリア遺伝子分析で,三重県下には2種類のハプロタイプを確認している.両タイプは異所的に分布し,この2タイプが混在する地域や群れは今のところ確認できていない.両タイプの分布は大山田村付近で南北に分かれる.県外地域と比較した結果,県南部には紀伊半島に特異的な一群のハプロタイプに属するタイプが存在することが明らかになり,JN33タイプと命名した.このタイプは奈良県,和歌山県でも確認されている.紀伊半島に特異なタイプはこれ以外に5タイプあり,滋賀県南部地域から奈良県,和歌山県そして三重県南部地域に分布する.他県ではこのうちの複数タイプが分布するが,三重県では1タイプしかない点に特徴がある.一方,県北部地域に分布するタイプは分子系統的に南部のJN33タイプとは大きく分化しておりJN30タイプと命名した.このタイプは石川県,岐阜県,滋賀県にも分布する.三重県のニホンザルではミトコンドリア遺伝子のタイプ数は少ないが,タイプ間の塩基配列にはちがいが大きいといえる.これら二つのタイプを利用したモニタリングにより,県内の南北地域間のオス拡散が調査できる目処がたった.

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1-4 房総半島におけるニホンザルとアカゲザルの交雑に関する研究

萩原光(房総の野生生物調査会),相澤敬吾(館山高等学校)

対応者:川本芳

千葉県で確認されているアカゲザルを含む群れの生息地はニホンザル生息域から約15kmしか離れていない.今年度5月,初めて千倉町に入り行動域が北東方向へ拡大したのを確認した.このことは従来のニホンザルにとって交雑の脅威となっている. 平成15年度にはアカゲザル生息域内で,平成16年度にはニホンザルの生息域内でそれぞれ交雑個体が確認されている. 本研究では12月にアカゲザル生息域で採集された糞サンプル(48試料)についてミトコンドリアDNAの遺伝子配列解析を実施した. 分析の結果,41試料がアカゲザルタイプ,1試料がニホンザルタイプと判断できた(6試料は判定不能).性別分析ではアカゲザルタイプのうち17試料がメス,7試料がオスと判断できた(判定不能6試料).また,ニホンザルタイプの1試料については性別の判定はできなかったものの,糞サイズから若齢と判断され,アカゲザルを含む群れで出生したものと推測された.

今後,アカゲザル生息地のみならず,ニホンザル生息域においても交雑の進行状況をモニターしていく必要があると考える.

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1-5 保護管理にむけた中部山岳地域のニホンザルの遺伝的多様性解析

森光由樹(野生動物保護管理事務所)

対応者:川本芳

報告者はこれまで,中部山岳地方,特に長野県内4つの地域個体群に生息している個体から試料を採取しミトコンドリアDNAのDループ可変域,412塩基対の配列を解読し7つのハプロタイプをあきらかにした.今年度は,情報の少なかった上信越地域個体群の東側地域(群馬県,新潟県)および日光地域個体群西側地域(群馬県,栃木県)に生息している22頭のメスおよびコドモから試料を採取し,同法にて塩基配列の解読を行った.その結果, 日光地域個体群では,東北の1型,日光・今市の4型,栃木県佐野市の5型が検出された.また,上信越地域個体群では東北系統1型,4型,5型に加えて東京都奥多摩・埼玉県秩父の9型,奥多摩・秩父に近い55,56型,軽井沢の16型,北アルプスの17型が検出された. 特に群馬県北部,谷川岳周辺では隣接している群れの遺伝子タイプがそれぞれ異なり,東北系統,奥多摩秩父系統,北アルプス系統が混在していた.これまでの結果からニホンザルが西から東へと分布を広げる際,群馬県北部,水上町周辺を起点に関東・中部から東北地方,新潟北部へ分布を広げた可能性が考えられた.

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1-6 ウマヤザル信仰に伴う頭蓋骨の調査による口承と生息分布域の相関関係

中村民彦

対応者:川本芳

ウマヤザル信仰とは厩に猿の頭蓋骨や手を祀り牛馬の無病息災や家内安産,五穀豊饒を祈願したものである.当信仰は東北全域に流布していたが,近代から現代における残留形態や口碑の全容は充分に解明されていない.更にこれに関係するニホンザルの捕獲や捕殺の方法も不明である.今年度も当風習を知る古老からの口碑を求め,聞き取りを記録し,ニホンザルの生息分布との関係を明らかにしようと岩手県を中心に調査をした.調査の結果,従前の残留事例も加えると,青森県1,秋田県19,岩手県29,山形県0,宮城県5,福島県0,の計54の事例を確認する事が出来た.保存形態の内訳は頭蓋骨48,手5,足1である.頭蓋骨では牛馬の守護神,縁起物,薬用,安産,火災防止等の口碑を得た.手に関しては種まき時に使用すると豊作との口碑を得た.頭蓋骨には無病息災や家内安全を,手には五穀豊穣と,祈願の内容に使い分けが認められた.足についての口碑は知らされていなかった.一方,捕獲や捕殺の方法を詳細に知るインフォーマントに会う事はでき なかったが当信仰が広く流布し,こうしたサルの需要にサルマタギのような供給者が関与していたなら県下のサル生息地の消失を招いた狩猟圧の原因になった可能性も考えられる.厩猿の風習とニホンザル分布空白地域との関係について次年度以降の調査で更に検討を重ねていきたい.

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1-7 富山県のニホンザル地域個体群の分布特性と 遺伝子変異

赤座久明(富山県立雄峰高等学校)

対応者:川本芳

過去3年間の共同利用研究で,富山県内に生息するニホンザルの群れから,5タイプのmt-DNA変異を検出した.今年度は,5タイプの中で,広域的な分布が予想されるJN21とJN18(川本.2006.霊長研共同利用研究会.野生霊長類の保全生物学講演資料の分類による)の2タイプの分布特性と由来を探るため,新潟県,長野県,岐阜県でmt-DNA試料を採集し分析した.

JN21タイプを新潟県糸魚川市外波,根知,長野県小谷村大網の群れから検出した.このタイプは,富山県宇奈月町から黒四ダムまでの黒部川流域に連続分布する群れのタイプであるが,長野県大町市には分布しないことから,北アルプスが分布拡大の障壁になっていることが予想されていた.今回の結果から,日本海沿いに新潟県へ入り,姫川流域を南進して長野県北部の小谷村に至っていることが分かった.

JN18タイプを飛騨川上流域の岐阜県高山市高根町,朝日町の群れから検出した.このタイプは,富山県滑川市,岐阜県小坂町,八百津町の群れから検出されていた.今回の結果から,不連続であるが,中部地方を縦断して広域的に分布しているタイプであることが分かった.

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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会