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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2005年度 > II 研究所の概要 はじめに

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.36 2005年度の活動

II 研究所の概要

はじめに

「年報」は,京都大学霊長類研究所の研究と教育等に関わる年次活動を詳述したものである.ここに前年度の活動を網羅した平成18年度の年報をお届けする.当該年度の活動の詳細が具体的な事項と数値によって記録されており,「自己点検報告書」という性格も兼ね備えたものだといえる.年次報告によって,研究者としての社会的説明責任を果たすのがこの年報発行の主旨だともいえるだろう.ただし,当該年度の活動報告だけでは不十分なので,毎年度,「研究活動」「教育活動その他」「共同利用研究」といった具体的な対象ごとに,通年の努力を検証する自己点検活動をおこなっている.それらについては,別途の報告書を参照していただきたい.以下に,平成17年度の諸活動をもとに現況を概説したい.

現在,霊長類研究所には約40名の教員がいて,霊長類を対象としたさまざまな研究に取り組んでいる.大学院生も約40名いる.大学院としての研究と教育は,京都大学理学研究科生物科学専攻に所属する「霊長類学系」として,他の動物学系・植物学系・生物物理学系とともに,4系で協力して一緒に入試おこなうとともに,21世紀COEプログラムの研究拠点になっている.なお,上記の大学院生のなかには7名の外国人が含まれている.その出身も,韓国,中国,バングラデシュ,ミャンマー,スリランカ,フランスと多様だ.日本学術振興会の特別研究員PDや非常勤研究員など博士学位を取得したいわゆるポスドクと呼ばれる研究者も約14名いる.受託研究員,研修員,研究生もいる.そうした研究者が,霊長類の総合的な研究を推進している.

研究所には,サル類の研究や飼育にかかわる獣医師や技術系職員,さらにはそうした研究と教育の全般を支えてくれる事務系職員がいる.研究支援推進員や教務補佐員や技術補佐員や事務補佐員などの非常勤職員も多数いて,それらの人々の力がなければ研究所の日々の営為が成り立たない.つまり,百数十名の所員が共に働き学ぶ場が霊長類研究所だといえる.

また研究所は,17種類,約800個体のサル類を保有している.多様な霊長類研究を展開するうえで,これらのサル類の存在は欠かせない.しかし現在の愛知県犬山市官林のキャンパスは約3.3ヘクタールの広さしかない.手狭になったし,近隣は宅地化も進んでいる.

そこで,「第2キャンパス」を作る計画を研究所は永年にわたって模索してきた.「リサーチ・リソース・ステーション(略称RRS)」と呼ぶ構想である.官林キャンパスからほど遠くない場所に適地を求め,サル類をより自然に近い環境で飼育しつつ,新たな研究を展開することを目的としている.RRS計画は京大ならびに文部科学省の支援を受け,平成17年度にも着工の運びとなった.犬山市や地元住民の方々の理解と支援をもとに,第2キャンパスで展開するRRS計画が順調に進むよう努力したい.

霊長類研究所の研究活動は大きく2つの柱からなっている.研究所そのものが有する研究部門・付属施設の活動と,全国共同利用という枠組みでなされる共同研究である.

研究部門としては,平成5年度におこなわれた改組によって,4つの研究部門に大きくまとめられた.進化系統研究部門,行動神経研究部門,社会生態研究部門,分子生理研究部門,の4つである.4つの部門のミッションは,今日的な表現でかんたんにいえば,「からだ」「こころ」「社会」「ゲノム」とラベルできるかもしれない.そうした人間という存在の諸相を,現生ならびに化石となった霊長類を対象におこなう多様な研究から,総合的に理解しようという試みである.また平成17年度から,「流動部門」と呼ぶ新たな試みを導入した.時限プロジェクトである.「多様性保全分野」という名称の分野を流動部門のなかに立ち上げ,生物多様性とその保全に焦点をあてた研究を開始した.

全国共同利用としての研究は,公募によって毎年だいたい100件ほどの共同研究がおこなわれている.それと平行して,個々の研究課題を統合する試みとして,毎年5-8件程度(平成17年度は8件)の共同利用研究会を開催してきた.

霊長類研究所の保有する付属施設として,ニホンザル野外観察施設と人類進化モデル研究センターの2つがある.

ニホンザル野外観察施設は,日本に固有な霊長類であるニホンザルの野外研究をもとにその生息地を含めた保全を目的とした施設である.その一部として宮崎県・幸島の対岸に,幸島観測所がある.そこに2人の研究所職員が常駐して,幸島群と呼ばれる「イモ洗い文化」で有名な野生ニホンザルの調査を継続している.本年で53年目となる継続研究は,野生動物の個体群を対象とした調査として最も歴史の長いもののひとつといえるだろう.

人類進化モデル研究センターは,研究所の保有するサル類を一元的に管理し運営し,多様な研究のインフラストラクチャーの形成を担っている.実験動物科学という視点からの研究を推進するとともに,動物福祉の立場から環境エンリッチメントにも意を注いでいる.平成16年度を初年度とする「中期目標・中期計画」の最重要の柱として,研究所はRRS計画を掲げた.人類進化モデル研究センターがその推進の核となっている.霊長類研究所が,その研究成果を示すとともに,飼育される動物の環境にも最も配慮の行き届いた施設になるよう,これからも努力していきたい.

霊長類研究所の研究は,運営費交付金と呼ばれる国からの資金でまかなわれている.それに加えて,個々の研究者が申請する科学研究費補助金などの競争的資金によっている.そうした資金の現状と収支,それらの研究成果について,本年報に詳述しているのでご覧いただきたい.

霊長類研究所が付託された,比較的多額の外部資金としては,以下の3つの事業が平行しておこなわれている.「NBR受託研究」,「21COEプログラム」,「HOPE事業」と略称するものである.NBR受託研究は,「ニホンザル・バイオ・リソース」の頭文字をとってNBRと呼ばれるもので,文部科学省すなわち国の推進するライフサイエンスの研究基盤整備にかかわる事業である.21COEプログラムは,京都大学大学院理学研究科の生物科学専攻の一部として霊長類研究所が担う生物多様性にかんする研究である.HOPE事業は,日本学術振興会の先端研究拠点事業で,先端的研究の国際ネットワークづくりの事業である.いずれも,本報告書で,独立の1項を立てて内容を詳述しているので,平成17年度の具体的な活動についてはそれらを参照されたい.

最後になったが,霊長類研究所のおこなっている研究と教育に加えて,社会的な責任と国際的な使命について言及したい.本研究所は,霊長類の総合的な研究をおこなっている.その研究・教育活動を一般の方々に理解していただくために,研究所としてホームページ(http://www.pri.kyoto-u.ac.jp)を運営し,また一般向けの著作やマスメディアを通じた活動もおこなっている.さらに,公開講座,東京講演会,市民公開日,オープン・キャンパスなどの機会を設け,広報活動に取り組んでいる.こうした総合的な霊長類学の研究拠点は,国際的にみても珍しい.霊長類研究所という名前で呼ばれるものとしてはアメリカのヤーキス霊長類研究所が古い歴史をもっている.ドイツには,1997年にマックスプランク進化人類学研究所が設立され,大型類人猿の研究を中心に人類進化の研究をおこなっている.こうした外国の研究施設と協力関係を深めつつ,わが国独自の研究を展開し,国際的に発信していくことが求められている.

平成17年度末をもって,茂原信生・森明雄・大澤秀行の3教員が退職された.長く技術職員を勤めた三輪隆子さんも退職された.これまでのご苦労を多とし,所員一同を代表して深く感謝申し上げたい.とくに,茂原先生は所長としてその任をまっとうされ,RRS事業を実現してくださった.末尾になったが,こうした方々の新しい生活の展開とますますの健康を祈念したい.一方で,平成17年度には香田啓貴・今井啓雄の2教員を迎え,さらに18年度初頭から宮地重弘・宮部貴子の2教員が加わった.霊長類研究所は,新しい時代を迎えようとしている.

(文責:松沢哲郎)

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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会