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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2004年度 > X 共同利用研究 4. 共同利用研究会 京都大学霊長類研究所 年報Vol.35 2004年度の活動X 共同利用研究4 共同利用研究会野生霊長類の保全生物学/第5回ニホンザル研究セミナー
例年,若手ニホンザル研究者を中心に研究発表を行い,一つ一つの研究発表に対して中堅の研究者がコメントをするという形式で「ニホンザル研究セミナー」を実施してきたが,今年度は保全や管理に関連のある研究が多いこと,霊長類研究所共同利用計画研究である「野生霊長類の保全生物学」が2年目に入り,中間報告をする必要があることなどから,合同で開催した.22日は若手研究者,23日は共同利用研究者を中心に発表があった. 若手研究者のうち3名は農作物に被害を与えている集団を対象とした研究を発表し,これまで知見の乏しかったところにも新しい研究分野が生まれつつあることを感じさせた.また,移入種に関する研究や詳細な行動観察に基づく研究も発表され,ニホンザルを対象とした研究の広がりが維持されていることを印象付けた.一方共同利用研究者からは,地域個体群を対象とした遺伝的研究と生態学的研究の発表があり,遺伝的分析や生態学的研究が各地で着実に実施され,個体群管理のためのモニタリングを現実のものとする基盤が整備されつつあることがうかがわれた. ニホンザルの保全や管理に対する近年の関心の高まりを反映し,多数の参加者があり,活発な議論が行われた.とくに調査研究経験の豊富な出席者が多く,若手研究者にとっては交流や意見交換の場としても非常に有意義な研究会になった. (文責:室山泰之) サル類疾患の生態学
本研究会は,平成14~16年度にわたって実施された課題研究「サル類疾患の生態学」のとりまとめとして開催された. 森村は飼育環境によるニホンザルの日常行動への影響を検討するため,放飼場群と個別ケージ飼育個体の行動パターン(行動内容と配分)および空間利用に関する分析結果を報告した.活動性や採食時間に違いがあることが示唆された. 牛田はチンパンジー特異的なネムノキ科木本のガム類の摂取の意義を明らかにするために,ガムの大腸における発酵性に関するチンパンジー新鮮便を用いたin vitro培養法による予備的検討について報告した.また,チンパンジーの腸内細菌がどのように伝わるかを紹介し,腸内細菌叢のゲノム解析によるチンパンジー個体の群れ間の動態などに関する解析の可能性を示した. 大沢は,サルヘルペスBに関する最新の知見を紹介した.ヘルペスBウイルスは,単純ヘルペスウイルスに類似しているが,ニホンザル固有のヘルペスBウイルスはまだ分離できていない.ヒヒのウイルス(HVP2)を抗原として作成したELISAによる抗体測定系は感度が良く,マカクの抗体チェックが可能である.この測定系を用いて本研究所を含めた国内の動物実験施設に飼育されているマカクの血液サンプルを調べたところ,Bウイルスに対する抗体を持っている個体が存在することが示された. 伊吹は,HIVウイルスやSIVウイルスなどの遺伝子解析結果から,チンパンジーとヒトの間の種間感染が少なくとも2回あったらしいことを報告した.また,約半分の遺伝子がHIV-I由来であるサルに感染するSIV/HIV-Iキメラウイルス(SHIV)を作成し,実験的に粘膜感染を起こすことによってその病原性発現機構について調べ,ウイルスの増殖とアポトーシスや病理組織変化との関連を示した. 古屋はミクロスポリジアのサル類への感染状況を報告した.ミクロスポリジアは従来の細胞内寄生原虫の一種との位置づけから最近では真菌類に属すると分類されている.その感染の有無を本研究所の血液サンプルを用いてリスザルとニホンザルについて調べた.2種類のEIA測定系を確立し,胞子抗体および極管抗体を検出した.その結果,播種性感染または慢性感染は起きておらず,検出された抗体は初期感染によるものであることが示唆された. 柳井は飼育下および野生由来のニホンザルを対象とした病理学的調査結果を紹介した.岐阜県内を主とする野生ニホンザル群では,肺の炭粉沈着や腎臓の蓚酸塩沈着が高率に見られることに関し,生息環境や食性との関連性についての議論がなされた.また,サル類では腎臓の嚢胞形成や循環器系の病変が多いことが特徴的であることが示された. 渡辺はニホンザルとアカゲザルを中心に肝臓におけるmicrosomal alcohol oxygenaseについて解析した.この酵素は他動物と異なり高いNADH要求性を示し,テストステロン,プロゲステロンにより強く活性化されることを明らかにした. 福原は,活性酸素消去系酵素のうちglutathione peroxidaseとSOD shaperonについて,種々の霊長類でクローニングをおこない進化的考察をした.またニホンザル組織での遺伝子発現が組織特異的であることを明らかにした. 基礎研究から応用面まで幅広い話題が提供され,それぞれの発表に対しての質疑応答のほかに,総合討論でも活発な論議が行われた.サル類の多様な疾患の様態を生物学の一端として総合的にとらえる視点は新しいものであるが,対象が広汎にわたるため,限られた時間では限定的な考究しかできない.しかしながらこのような研究交流を今後も継続し,専門領域を超えた情報交換を行うことは重要であり,共同利用研究会の持つ意義が改めて認識された. (文責:松林清明) 分子遺伝学による霊長類進化研究の現状と展望
分子遺伝学的手法を用いて霊長類の進化・系統を解明する研究は,技術面での発展とゲノム研究からの情報により,多様化している.本研究会はこの領域で,研究所の共同利用研究が過去数十年にわたり推進してきた研究の成果と現状を総括し,今後の展望を討論するために企画した.研究会前日に世話人代表者の竹中教授が逝去され,追悼の意をこめた会となった.遺伝子から集団レベルまで網羅して展開する霊長類の進化学研究の現状を理解する好機となったが,討論の時間が十分にもてなかったのが残念であった. (文責:川本芳) 第34回ホミニゼーション研究会「人類前夜の進化学」
今回のホミニゼーション研究会は,人類出現前夜の状況を考えることを念頭におき,主に現生・化石アフリカホミノイドに関して,形態,行動,地質など異なる分野の方々に発表をお願いした. 第一セッションにおいては,化石・地質の分野からの話題が提供された.中務は化石の面からみたヒト上科のロコモーションの進化について最近の状況を概説した.辻川は,中期中新世初頭(1500~1600万年前)の大型化石類人猿Nacholapithecusと共に採集された哺乳類化石の分析を紹介し,当時の古環境について話をした.高野は機能的な側面から化石類人猿の体肢骨について話題を提供した.沢田らによるアフリカ後期新生代の地質に関する話題提供も予定されていたが,共同発表者も含めて全員が緊急にアフリカ現地調査に入る必要が生じたため,沢田らの作成した講演資料に基づいて,世話人の國松が代理で解説をおこなった. 第二セッションでは,アフリカ大型類人猿の生態学的研究の立場から話題提供がなされた.竹ノ下はガボンにおいて同所的に生息するチンパンジーとゴリラに関する野外調査の紹介をおこなった.竹元はチンパンジーが季節による森林内の微環境の変化にどのように対応しているのかという点について論じた.鈴木は,ゴリラとチンパンジーの食性の差に関して,同位体分析を利用した研究の現状を語った. 第三セッションでは,チンパンジーとヒトの食生態や生活史についての話題が提供された.保坂は,チンパンジーにおける狩猟や肉食行動について,人類社会の進化とからめながら論じた.佐藤は,ここまでの霊長類に関する話題とは違って,現在の狩猟採集活動に依存する民族(バカピグミー)における植物資源(ヤム)の利用について紹介した.最後にスプレイグが,霊長類の成長,生殖,寿命など生活史に関するさまざまな話題を提供しヒトの特質を論じた. 総合討論において,ホミニゼーション研究会を今後も継続・発展させていくべきとの議論があった. (文責:國松豊) このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |