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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2004年度 > X 共同利用研究・研究成果-自由研究 21~30 京都大学霊長類研究所 年報Vol.35 2004年度の活動X 共同利用研究2 研究成果 自由研究 21~3021 ニホンザルコドモのあそびのレパートリーに関する地域間比較島田将喜(京都大・院・理) 遊び行動のレパートリー,すなわち遊びの質的側面の集団間変異に関する報告は,ヒト以外の霊長類からはほとんどなされていない. 本研究では,ニホンザルの複数の集団でコドモの遊び行動を記載し,地域間でレパートリーに違いがあるか確かめ,違いがあるとすれば,その違いを生み出す要因を考察することを目的として,京都市嵐山の餌付け群(嵐山E群),宮城県金華山の野生群(金華山A群),宮崎県幸島の餌付け群(幸島主群)でそれぞれ21,23,17日間(131.9,149.8,110.6時間)の調査を実施した.コドモ(1歳~3歳)数個体を対象としデジタルビデオを用いて観察を行った.その結果,予備調査の結果とあわせ31の遊びのレパートリーが分類された.これらを,Aどの調査地でも見られる,Bどの調査地でも頻繁でない,Cある調査地では頻繁に観察されるが,他の調査地ではない,Dどの調査地でも観察されない,の4つのカテゴリーに分類すると,Cには8つのレパートリーが含まれ,嵐山にしか見られないものが7つを占めた. こうした地域間のレパートリーの相違は多くの場合,遊び場の有無などの環境要因と個体学習により説明されうるが,嵐山で頻繁に見られる「枝引きずり遊び」は複雑な相互行為のパタンを含んでおり,この遊びの獲得には,頻繁な餌付けによる「ゆとり」のある環境下での社会的学習が関与していることが示唆された. 22 脳血栓溶解のための経頭蓋超音波照射に対する霊長類脳神経の安全性古幡博(東京慈恵会医科大・ME研究室),清水純(東京慈恵会医科大・脳神経・ME研究室),阿部俊昭(東京慈恵会医科大・脳神経),福田隆浩(東京慈恵会医科大・神経),佐々木一昭・東隆・梅村晋一郎(㈱日立製作所・中央研究所),窪田純,萩原誠,鏑木正志(㈱日立メディコ・技術研究所),佐々木明(㈱日立メディコ) <A.研究目的> 新規開発した「経頭蓋超音波脳血栓溶解装置」の安全性を評価する.脳梗塞の発症年齢が高い事により,前臨床試験として,2例の高齢アカゲザルに対し,t-PA投与下に経頭蓋的に超音波照射を行った. <B研究方法> B-1対象 対象:アカゲザル成獣2頭(メス:2頭) 年齢:18歳 体重:5300±200g 出生地:日本 B-2方法 (1)超音波照射方法 全身麻酔下に右側頭部から同側中大脳動脈に対して60分間の超音波照射を行なった.Alteplase0.9mg/kg静脈内投与の後,血栓溶解用超音波(周波数490kHz,強度0.72W/cm2)の間歇照射を32分間行い,休止中の28分間を超音波Dopplerソノグラムにより血流状態を監視する.照射終了後,麻酔覚醒を行い意識状態,四肢麻痺の有無を確認した後,飼育管理を行う.翌日,頭部MRI撮影(T1, T2強調画像)を行い出血性合併症の有無を確認する (2)検体摘出方法 7日後,再度神経学的評価を行った後,バルビタール深麻酔下に心尖部より10%ホルマリン灌流固定を行い,脳組織を摘出し,超音波照射の影響について神経病理組織学的評価を行う. (3)神経病理組織学的評価方法 光顕:H.E.染色,Kluver-Barrera染色,Bodian染色 免疫光顕:抗APP抗体,抗RCA-1抗体,αBcrystallin,Hsp(heatshock protein)32(HO),Hsp40,Hsp60,Hsp70,Hsp90,TUNEL,cyclooxygenase-2 <C. 結果> いずれも超音波照射後に神経学的脱落徴候を認めなかった.翌日のMRIでは,出血性病変を認めず,7日間飼育を行なった.2例共に大脳皮質,白質髄鞘も保持され,標的となった中大脳動脈にも組織学的変化を認めなかった.神経細胞変性像および脱落像,DNA断片化細胞の存在,反応性ミクログリアや星状膠細胞の出現,髄鞘脱落,軸索断裂,APP陽性軸索の出現,熱ショック蛋白陽性細胞などに関して病理組織学的に検索したが,明らかな変化を認めなかった. <D. 考察> ウサギ開頭モデルにおける低周波超音波照射予備実験によると,起こりうる脳組織への障害は,外傷性瀰漫性軸索損傷の病理組織学的変化に類似していた. 霊長類における経頭蓋超音波照射実験では,高齢アカゲザルにおいてt-PAを使用した際に,健常脳組織に組織変化を認めなかった. <E.結論> 「経頭蓋超音波脳血栓溶解装置」による超音波照射では,高齢サルの脳実質に明らかな病変を認めず,臨床使用への安全性が示唆された. 24 ニホンザル四肢長骨組織形態の加齢変化に関する研究澤田純明(東北大・医) 近年化石人類および霊長類の緻密質組織形態の研究に基づく人類進化学的なアプローチが増えてきたが,その種の研究の基盤となるべき霊長類の骨組織構造の多様性についてはまだ充分に知られていない.本研究では,霊長類における緻密質組織形態の加齢変化を解明することを目的として,ニホンザルとアカゲザルの四肢骨骨幹中央部横断切片を作成して光学顕微鏡で観察し,二次オステオンの密度と面積を計測した.これまでに,幼獣から成獣までのニホンザル8頭(オス4,メス4)とアカゲザル10頭(オス7,メス3)の上腕骨・橈骨・大腿骨・脛骨から切片を作製し,骨組織形態学的検討を行っている.現在,継続的に標本数を増やすとともに骨幹の近・遠位部まで観察対象を広げ,さらに一次骨と二次骨の面積比についても検討を加えることで,骨格各部位におけるモデリング・リモデリングの加齢変化の解明を進めている.<A.研究目的> 25 霊長類の舌と舌乳頭に関する形態学的,進化学的研究小林寛(日本歯科大・新潟歯学部・解剖) 霊長類の舌乳頭の形態と上皮剥離後の結合織芯の立体像を走査電顕で観察し,比較解剖学的な観点から検索した.動物の試料は京都大学霊長研,神戸王子動物園から提供を受け,ヒトに関しては日本歯科大へ提供された御遺体を使用した.SEM用の試料は塩酸法で上皮剥離を行った. ①糸状乳頭の外形は一本の太い主突起と数の細い副突起からなるものと,細長い突起が輪状に並ぶものまで種々の型が存在した.糸状乳頭の結合織芯はやや太い主突起と数本~拾数本の副突起がU字形に並ぶもの(ツパイ,タマリン,カニクイザル,ニホンザル,フサオマキザル),主副の区別なく小杆状の突起が輪状に配列するもの(ワオキツネザル,シロテナガザル,リスザル),さらに中央に1~3本の小突起が出現するもの(クロシロコロブス,マンドリル,ゴリラ,ヒト)などがあった. ②茸状乳頭の結合織芯は円柱状のもの,マツカサ様のもの,上端で分岐するものなどがあった. ③舌根部に大型円錐乳頭を多数持つものがあった(フサオマキザル,ワオキツネザル,ゴリラ).(舌根部に大型円錐乳頭の存在するのは食肉目のみに見られた構造であるので,霊長類におけるこの存在意義は不明である.) ツパイを除いて全てのものに葉状乳頭が存在した(典型的な肉食類と草食類には葉状乳頭は存在しない). 上記の内容で平成17年3月30日 第110回日本解剖学会学術集会(富山)において以下の演題で発表した(ポスター). 「霊長類の舌乳頭とそれらの結合織芯の立体構造に関する比較形態学的研究」小林寛1,濱田穣2,進藤順治3,鄭金華1,吉村建1,熊倉雅彦1(1日本歯科大 新潟 解剖、2京大霊長研、3新潟水族館) 26 霊長類の自発性瞬目に関する比較研究田多英興(東北学院大・教養),大森慈子(仁愛大・人間) 今年度の目標であった日本モンキーセンターの霊長類84種の自発性(内因性)瞬目のビデオ記録の補充はほぼ達成し,続いてのデータ解析もほぼ完了した.記録をはじめたのは数年前からであるが,その間の死亡その他の理由のために,最終的に記録が整った時は75種に限定された.その結果,途中経過ではあるが,一定量の結果が出た.解析した指標は,1)瞬目率,2)頭部・眼球運動との同期の程度,つまり水平垂直の頭部運動に連動するかあるいは独立にしたかを見る,そして3)瞬目の持続時間,である.この3つの変数ごとに,1)系統差,2)活動リズム,3)生息条件,3)体重,4)身長,などと関連を検討した.その結果,ヒトとの比較でいえば,①瞬目率はヒトの半分から1/3程度の頻度であること,②瞬目時間はヒトの約半分の時間であること,などが特徴として浮かび上がり,さらに霊長類内での比較では,③科水準での系統差(6水準)は有意差があって,系統進化に伴って瞬目率は増加する傾向を示唆した,④中でも,強い影響のあった変数は活動リズムで,夜行性と昼行性の間に顕著な差が見られ,夜行性の種(5種)は有意に昼行性の種よりも瞬目率は低下する,⑤3)と4)の身体サイズもまたある程度の相関が見られ,⑥身体サイズと瞬目率は相関が見られた.さらに,⑦頭部運動との連動の程度についても系統差がはっきり観察できた. 28 DNA多型解析による野生ワオキツネザルの父子判定の予備的研究市野進一郎(京都大・アジア・アフリカ地域研究) 昼行性の原猿であるワオキツネザルは,サイズが15頭程度の複雄複雌群を形成する.ワオキツネザルのオスの属性や交尾行動が繁殖成功とどのように関係しているかを明らかにすることを目的にマイクロサテライトDNAマーカーを用いた父子判定をおこなった.交尾行動の資料として,マダガスカル南部ベレンティ保護区に生息するC2A群を対象に1998年と1999年に観察した記録を用いた.C2A群は,1989年から個体識別に基づく継続調査がおこなわれている群れで,多くの個体の属性が分かっている.遺伝学的解析には,小山直樹を研究代表者とした1997-1999年の捕獲調査で採集された血液から調製したゲノムDNAを用いた.それらの試料を用いて,マイクロサテライトDNA多型を検索し,6つの有効なプローブを確認した.これらのプローブを用いて父子判定をおこなった結果,C2A群で生まれた個体11頭のうち,生後1年までに死亡した6頭を除く5頭すべての父親が決定できた.子供を残していたオスは,中順位の群れオスで,発情したメスに最初に射精したと思われるオスであった. 30 霊長類毛色遺伝子の多様性と変異解析山本博章,築地長治(東北大学・院・生命科学) 脊椎動物において色素細胞の発生や色素産生に関わる遺伝子は,当該細胞が持つ紫外線防御,婚姻色の発現,正確な視覚や聴覚の保証等々の機能発現を支えることによって,生存戦略に深くかかわっている.これらシステムの野生霊長類における解析はほとんど進んでいない. 本研究の目的は,野生霊長類の毛色関連遺伝子の多様性や変異を解析する端緒として,①毛色発現にかかわる当該遺伝子のクローニングとその構造解析を行い,この成果を元に各個体の②アリルの解析を行う,ことである. 色素細胞の発生と機能発現には,小眼球症原因遺伝子で,転写因子をコードするMitf (microphthalmia - associated transcription factor) が深く関わっている.当該細胞の発生過程においては,全ての情報が一旦この遺伝子の発現か,翻訳産物の修飾に集まり,そこから下流に伝達されることが明らかになりつつある. 凍結されたコモンマーモセット皮膚小片より,この遺伝子のゲノム断片をクローニングできた.また同時に数種の独立した遺伝子断片のクローニングにも成功した. このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |