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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2004年度 > X 共同利用研究・研究成果-施設利用 11~21 京都大学霊長類研究所 年報Vol.35 2004年度の活動X 共同利用研究2 研究成果 施設利用 11~2111西村利穂(麻布大・生理) サンプル提供がなく,本研究計画は未実施 12 チンパンジーにおける自己鏡映像の認知と自己概念の獲得魚住みどり(慶応義塾大・社会) これまで,チンパンジー乳児において,自己鏡映像認知実験を実施し,自己認知の獲得を示唆する自己指向性反応がいつ頃出現するのか,その発達的変化の検討を行なうとともに,ヒト乳幼児についても比較データの収集を行なってきた.これまでに得られた霊長類研究所のチンパンジー乳児3個体と2歳未満のヒト乳幼児の実験のビデオ資料について,鏡映像に対する各種行動の詳細な記述とカテゴリ化を行なうとともに,自己鏡映像認知の獲得を示唆する自己指向性反応の発現時期を中心に詳細な分析を進めた.今後も分析を進めるとともに,結果をまとめて考察を行なっていく予定である. 14 霊長類における認知的ストレスと免疫・内分泌反応の研究大平英樹1,磯和勅子1,2,市川奈穂1,木村健太1,飯田紗衣亜1(1名古屋大・環境,2三重県立看護大・看護) ニホンザルを対象として,社会的・慢性的ストレスが免疫・内分泌機能に及ぼす影響に関する実験(慢性ストレス研究)と,急性ストレスとして弁別訓練課題を課し免疫・内分泌機能の変動を観測する実験(急性ストレス研究)を行った.いずれにおいても,免疫指標としてはNK細胞,T細胞などの各種リンパ球の末梢血中比率,内分泌指標としては血中のコルチゾールを測定した. 慢性ストレス研究では,上位個体の正面ケージで過ごす期間,それ以外の期間で上記指標を観測したが,いずれの指標にも大きな変動はみられなかった.行動にはストレスの影響が認められたので,行動的反応と生理的反応は独立している可能性が示唆された.また採血に伴い顕著なコルチゾール量増加が観測され,むしろ採血が大きなストレス刺激となっていることが示唆された.急性ストレス実験では,カニューレ挿入の手術に困難を生じ,頑健な知見を得るには至らなかった.今後,別方法での採血による実験を検討する必要がある. 17 ニホンザルの動脈に認められた粥状硬化症の病理学的特徴柳井徳磨,辻 一,酒井洋樹,柵木利昭(岐阜大・農),後藤俊二(京都大・霊長研) 動脈硬化症は,人において依然として生活習慣病の一つとして重要視されている.同症には,粥状(アテローム)硬化症,中膜硬化症および細動脈硬化症があり,中でも粥状硬化症は,その成因として食べ物や運動不足などの因子が関与することが知られている 今回,愛玩用に飼育されていたニホンザル2例(症例1および2)の大動脈に粥状硬化症が認められた.サル類では,アカゲザルおよびカニクイザルで,実験的に動脈硬化症が作出されているが,野生および飼育下でのニホンザルにおける動脈硬化症の報告は比較的少ない.ニホンザルにみられた動脈硬化症の病理学的特徴を調べ,さらに飼育環境に関連した発症機序を検討した. 症例1は雄の成獣,症例2は雌の成獣で,いずれも年齢は不明,14年前に野生個体を捕獲後,愛玩用として飼育され,安楽死された.飼育環境は,比較的狭小なケージ内で飼育され,餌は長年に亘り飲食店から出る残飯を与えられた. 肉眼的には,症例1では胸大動脈の内面に淡黄色顆粒状の斑状小隆起が多中心性に認められた.症例2では肉眼に動脈に著変はみられなかった.組織学的には,症例1では,胸大動脈から腹大動脈にかけて,多中心性に内膜肥厚が種々の程度に認められた.しばしば,肥厚した内膜と中膜の間に粥腫の形成が認められた.粥腫では,弾性線維の消失がみられ,膠原線維の水腫性膨化および脂肪化が認められ,しばしば泡沫様マクロファージの浸潤とコレステリン結晶の浸潤を伴っていた.内膜の粥腫が高度な部位では著明な線維化に陥り,さらに中膜にも結合組織の増加が認められた.粥腫における石灰化とその崩壊に至る粥腫性潰瘍は認められなかった.症例2では,症例1に比較して粥腫の程度は軽く,腹部大動脈において中等度の内膜肥厚,その硝子化および線維化が多中心性に認められた.本症の形態学的特徴および発生機序は,人の粥状硬化症それに共通していると考えられた.すなわち,高コレステロール食および運動不足に関連して,血行力学的影響等で血管内皮が障害され,次いで中膜の収縮型平滑筋細胞が遊走型平滑筋細胞として内膜側に立ち上がる.さらに内膜に平滑筋細胞が蓄積した結果,線維性内膜肥厚に陥り,肥厚した内膜の深部に脂質が沈着.内皮側からマクロファージが浸潤し脂質を貪食,内膜の内皮側で線維増生が発生し,粥状硬化症が完成したと考えられた.ニホンザルは,人の粥状動脈硬化症に良く似た病態を示すことから,アカゲザルと同様に動脈硬化症のモデル動物として有用であると考える. 18 サル心臓組織・洞房結節の加齢変化佐藤広康(奈良県立医科大・薬理) ヒト心臓組織・機能の加齢(発育,老化を含めた)変化の研究を進めている.ヒト心臓組織で広範囲の年齢層を用いた研究には限界があり,ヒトに類似しているサル心臓組織を使って,心臓,とくに洞房結節の生理・薬理学的機能変化を考察することに目的がある. 心臓全体と心臓刺激伝達系(特殊心筋)を含めた洞房結節組織の発育・加齢による組織学的変化の解析は,主としてCaとPの含量が減少することが判明した.他の微量元素(Zn, Na, Fe)の加齢変化も同様であった.また,他の心臓組織の加齢変化も同様な傾向を示し,血管などの結果とは一致しなかった.これまでの電気生理学的研究より,動物種により自動能(ペースメーカー電位)を営むイオンチャネル機序に差異があることが判っている.この加齢的減衰が心機能低下だけを意味するのかは今のところ明らかではないが,これらの結果を踏まえて心筋膜イオンチャネルへの影響からも,加齢老化現象を捉えて検討している. これまで,ヒトでは比較的高年齢の心臓組織解析しか行なわれておらず,今回の結果がヒト心臓自動能機構にも反映され,臨床的にも加齢的疾患治療に大いに役立つと考えられる. 20 性成熟期のメスチンパンジーにおける内分泌学的変化関圭子,平田聡(林原生物化学研究所・類人猿研究センター) 2004年度は対象個体3頭のうち,性皮の周期的な腫脹変化のみられた1頭を対象として性皮サイズの測定と酵素免疫法(EIA)による尿中性ホルモン(E1C,PDG,FSH)の測定をおこなった. 同個体では2004年3月末より周期的な腫脹変化がみられるようになり,2回の明瞭な腫脹変化後,排卵検査薬が陽性を示すとともに初潮が観察された.その後周期的な変化を繰り返し,6回目の排卵を最後に月経・排卵はみられなくなった.初めの2回の腫脹変化ではE1C,PDGともに大きな変化は認められなかったが,排卵検査薬が陽性化以降E1C,PDG値の明瞭な上昇を交互に繰り返し,各周期において排卵,黄体形成が周期的におこなわれていることを確認した.6回目の排卵の後,両値が急激に上昇すると同時に,FSH値が下がり維持されたことから妊娠の成立が示唆された.今回の結果では,生理的な不妊期間は短く,ヒトでみられる思春期の無排卵月経は観察されなかった. 今後は他の2頭に関して測定を開始し,詳細に分析することにより,春期発動機のメスチンパンジーにおける内分泌変化を明らかにしていきたい. 21 霊長類における脳内物質関連遺伝子の多様性井上-村山美穂(岐阜大・応用生物) 本研究では,ヒトで性格に関与するとの報告がある脳内シグナル伝達やホルモン伝達に関与する遺伝子多型を,霊長類で解析し,遺伝子の機能と霊長類進化との関連を明らかにすることを目指している.本年度は,チンパンジーにおいて,これら遺伝子に多様性があるか,またヒトと同様の精密な性格判定が可能かを調べた.54個体で,ドーパミンD4受容体のイントロン領域,セロトニントランスポーターのイントロン領域,アンドロゲン受容体のエキソン領域,エストロゲン受容体のイントロン領域の,4遺伝子を解析したところ,3,3,12,7種類のアレルが見いだされ,ヘテロ接合率は0.426,0.230,0.828,0.780であった.霊長類研究所の11個体では,上記遺伝子に3,4,7,6種類のアレルが見いだされた.ヒト用のYG性格検査の質問項目に,1個体あたり3人の研究者が回答する方法で,行動特性を評価した.12の評価項目のうち,評価値の個体差は「支配性」が最も大きく,「抑うつ性」が最も小さかった.今後,サンプル数や遺伝子数を増やして,評価値と遺伝子型の関連性を解析する予定である. このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |