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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2004年度 > X 共同利用研究・研究成果-施設利用 1~10

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.35 2004年度の活動

X 共同利用研究

2 研究成果 施設利用 1~10

1 シセンキンシコウの社会構造の仮説

和田一雄

2001年から2004年まで秦嶺山系で,キンシコウ西梁群を餌付けして,個体識別に基づき社会行動を観察し,社会構造の推定を行った.観察時期は主に10-12月と3-4月であった.前者には交尾期が含まれ,後者は出産期であった.毎日餌場に出てきた群れ内の社会単位,One Male Unit(OMU)はそれぞれの観察期間中は安定して同じ個体からなるものであった.それぞれのOMUは1頭の♂,複数♀,アカンボ・1~4才の♂・♀を含む.交尾とgroomingの大部分はOMU内で行われていた.時期によって5~9個のOMU,個体数として60-90頭が餌場に出現した.これらのOMUは相対的に独立しているが,移動・採食・休息は同時に行うので1つの単位であり,bandと呼ぶ.♂は4才になるとOMUから消える.♂だけの集まりを見ているので,これをall male groupとした.西梁群と初めによんだ集団はこの様にone male unit, band, all male groupからなり,これらを含む全体をherdと呼ぶことにした.

4年間でOMUの♂の交代が2回行われたが,♀はそのままであった.bandから♀は成獣5頭,亜成獣2頭消え,新しい成獣♀が5頭入ってきた.また9つのOMUが消え,7つのOMUが新しく入ってきた.同じOMUの出入りは3回観察された.この様なOMUの移動はもう一つのbandの存在を暗示するのであるが,まだ直接的な証拠を持っていない.♂・♀の出入りからbandは双系である可能性が高い.

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2 サル肝ミクロソームのアルコール酸化酵素遺伝子cDNAクローニング及び機能解析

渡辺和人,舟橋達也,山折大(北陸大・薬・衛生化学)

我々はニホンザル肝臓より大麻成分Δ8-tetrahydrocannabinol(Δ8-THC)の主代謝物の1つである7-hydroxy-Δ8-THCから活性代謝物である7-oxo-Δ8-THCへの酸化を触媒するミクロソーム酵素(Microsomal Alcohol Oxygenase, MALCO)を精製し,そのMALCO本体がCYP3A分子種であることを明らかにしてきた.さらに,精製酵素のN末端アミノ酸配列はカニクイザルCYP3A8と同一であった.本年度の研究ではニホンザル(雄・3才)肝臓よりmRNAを抽出し,CYP3A8 cDNA等の非翻訳領域を基に設定したプライマーを用いてRT-PCR法によりcDNAをクローニングした.その塩基配列を決定したところ,カニクイザルCYP3A8と4塩基,1アミノ酸(S420N)残基の相違が認められた.クローニングしたcDNAはリポフェクション法によりチャイニーズハムスター肺細胞由来V79に導入し,ニホンザルCYP3A8安定発現系の構築を試みた.得られた発現系の培養液中にCYP3Aの代表的な基質であるテストステロンを100μMとなるように添加し,24-72時間後の培養液中の代謝物をGC-MSにより測定した.ベクターのみの系ではアンドロステンジオン生成だけが検出されたのに対し,発現系ではテストステロンの6β水酸化体生成も検出された.現在,7-oxo-Δ8-THC生成活性について検討している.

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4 チンパンジーの繁殖特性に地域個体群変異をもたらす要因の検討

藤田志歩,坪田敏男(岐阜大・農)

野生チンパンジーでは,性成熟年齢や出産間隔などの繁殖パラメータが地域個体群によって異なることが報告されている.本研究は,チンパンジーの繁殖特性に影響を及ぼす環境要因とそのメカニズムを明らかにすることを目的とした.生息地の異なる野生チンパンジーの活動および卵巣機能を比較するため,ギニア・ボッソウ村周辺およびタンザニア・マハレ山塊国立公園において,それぞれ約80日間のフィールド調査を行った.それぞれのチンパンジー地域個体群から月経周期の回っているメス各4個体を対象とし,終日個体追跡により活動時間配分および採食品目を記録した.同時に,GPSを用いて対象個体の土地利用および移動距離を記録した.また,生殖関連ホルモンの動態から卵巣機能をモニタリングするため,資料となる糞および尿を採集した.今後,これらのデータを分析し,地域個体群間で比較することにより,生息環境とチンパンジーの活動あるいは栄養状態との関連について検討する.さらに,チンパンジーの活動あるいは栄養状態と卵巣機能との関連について検討する.また,今回得た雨季のデータとこれまでに得た乾季のデータとを併せることにより,季節変動を考慮した地域個体群間の違いについても検討する.

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5 ニホンザルゲノムBACライブラリーの構築

斎藤成也(国立遺伝学研究所・集団遺伝)

藤山秋佐夫国立情報学研究所教授と共同で,ニホンザルのBACライブラリーを作成した.景山節教授の協力により,霊長類研究所で飼育維持しているオスのニホンザル1頭から2002年度に血液を採取した.これをもとに,BACライブラリーの作成を行った.2004年度までに,19万余個のBACクローンを384穴プレート500余枚に整列した.これは1クローンの平均長を100kbとすると,二ホンザルゲノムの6培以上をカバーしたことになる.この作成作業は,文部科学省の科学研究費補助金特定研究「統合ゲノム」の援助を得た.このニホンザルゲノムBACライブラリーは,霊長類の比較ゲノム研究にとって重要なリソースになることが期待される.

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6 野生のニホンザルの植物性食餌中の脂質,殊に脂肪酸の組成について

小山吉人(名古屋文理短期大)

野生のニホンザルが採食する植物系試料を若芽,緑葉,花弁,果実,果肉,種子別に,また若干の季節別採集物も含めて,60試料を愛知県下で採集し,脂質の脂肪酸組成を検討した.各乾燥試料は有機溶剤による二段階 の抽出を行ってから,定法により混合脂肪酸メチルを調製し,キャピラリーカラム(J&W:DB-23)により昇温ガスクロマトグラフイーを実施した.

葉の脂質は他の部位に比べてリノレン酸量が多かったが,概ね5 ~6月にこの酸量の最大値が見られた.低級飽和脂肪酸が血中コレステロールを上昇させるとの報告があるが,試料中のラウリン酸・ミリスチン酸などの含有量は1%以下であった.一般に種子の飽和酸,多価不飽和酸(PUF)量が共に低いのに対して,若芽,緑葉,花弁のPUFが高含量であり,PUFの中では緑葉のリノレン酸量がそれぞれの種子と比べて10倍も高かった.

季節により葉や種実への依存度は異なるけれども,野生のサルは生合成できないPUFを,このような食餌から摂取しているようである.

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7 クモザルゲノムライブラリーからのマイクロサテライトの探索

平松千尋(東京大・院・新領域)

チュウベイクモザル(Ateles geoffroyi)1個体由来のゲノムDNAを本共同利用研究により竹中修教授から分与いただいた.ゲノムライブラリー作成に先立ち,他の新世界ザルのマイクロサテライト解析に有効であることが報告されている座位のクモザルにおける有効性を検討することとした.これまでにウーリーモンキーで同定されたいくつかのマイクロサテライト座位(Di Fiore et al. 2004, Mol. Ecol. Notes 4:246-249)についてクモザルでのPCR増幅と多型性を検討したが,まだ最適な増幅条件が得られておらず,今後さらに他の座位も含めて条件検討していく必要がある.

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8 サル類における癌関連新規遺伝子ファミリーの単離,およびそのゲノム解析

城石俊彦,田村勝(国立遺伝学研究所・哺乳動物)

ヒトと比較してサル類や実験動物であるマウスは,ある種の癌(皮膚癌等)において抵抗性があることが知られている.これまでに我々は,上皮形態形成異常突然変異マウスの原因遺伝子探索過程において,新規癌化関連新規遺伝子ファミリーを単離した.今回我々は,この新規癌化関連遺伝子ファミリーのサル類相同遺伝子を単離し,そのゲノム構造の比較をヒト,サル,マウス間において行った.その結果,ヒト,サル類,マウスにおいて,癌化関連新規遺伝子ファミリーが存在するシンテニック領域は非常に良く保存されているが,マウスには3遺伝子存在するサブファミリー遺伝子が,ヒト,サル類においては1遺伝子であることが明らかとなった.また,3動物種間における遺伝子ファミリーのアミノ酸変化を調べた結果,新規機能ドメインと予想される領域にアミノ酸変化が存在することが確かめられた.現在,このアミノ酸変化と癌化との関連性について解析を行っている.

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9 マハレ山塊のチンパンジーの音声行動に関する映像音声資料の分析

保坂和彦(鎌倉女子大・児童)

昨年度に引き続き,過去のフィールドワークにおいて蓄積したマハレ山塊国立公園(タンザニア)のチンパンジーの音声行動の映像音声資料の整理・分析を行った.とくに,多様な研究用途に対応してサンプル抽出することが可能となる,汎用性の高いデータベースを構築することをめざしている.また,他地域に棲息するチンパンジー野生集団あるいは動物園等の飼育コロニーとの比較を考慮して,「マハレのチンパンジーの音声エソグラムの作成」を続けている.また,大人雄のチンパンジーにおける個体間相互作用,あるいは集団狩猟における個体間の意思統一,ヒョウや死体との遭遇において音声行動が果たす役割についても,分析を進めている.近年,デジタル機器の高性能化やハードディスク等のメディアの低価格化が促進されたことから,本テーマに近い研究が増加することが予想される.異なるフィールドにて野生チンパンジーを調査する研究者との共同研究を念頭に入れ,次年度以降も,霊長類研究所を拠点に研究者と交流し,所内の充実した文献資料を閲覧して国際的な研究の動向や最新の話題に触れながら,本研究の成果をまとめあげ発信していきたい.

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10 ニホンザルおよびチンパンジーのカテゴリ化の諸様相に関する実験的研究

村井千寿子(京都大・院・文)

5歳のニホンザル2個体(ロミオ・ティム)を対象に自発的な対象弁別に関する実験をおこなった.実験では,タッチパネルモニタに写真刺激を呈示し,刺激呈示中の被験体の注視時間を計測した.このような手続きにより,被験体の刺激対象に対する選好反応について調べた.始めに練習課題として「食物」・「非食物」の写真を呈示し,それらを区別するかを調べた.その結果,両個体が非食物よりも食物を有意に選好した.続いて,被験体が生後2年目までに経験した既知な対象と,初めて見る新奇な対象を呈示し,両者を区別するかを調べた.既知刺激・新奇刺激には「ヒト」・「場所」・「同種他個体」の3種類の対象の写真が用いられた.また既知刺激は,人工保育によって育てられた被験体の,生後2年目までの日常を記録したビデオテープから作成された.実験は現在も進行中である.しかし,ティムでは,全体として,既知対象に対する選好が見られた.また,ロミオでは,新奇なヒトに比べて既知なヒトに対する選好が見られた.本実験から,ニホンザルの対象弁別に過去の経験の記憶が影響することを示唆する実験的証左が得られると期待される.

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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会