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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2004年度 > X 共同利用研究・研究成果-計画研究1「サル類疾患の生態学」 京都大学霊長類研究所 年報Vol.35 2004年度の活動X 共同利用研究2 研究成果 計画研究1「サル類疾患の生態学」1-1 サル類におけるミクロスポリジア感染の疫学古屋宏二(国立感染研究所・寄生動物),松林伸子,松林清明(京都大・霊長研) サル類特に日本ザルにおけるミクロスポリジアEncephalitozoon cuniculi感染の血清疫学的研究を行った.1989-1999年に採取した46血清検体と2004年に採取した45血清検体を使用した.Soluble antigen enzyme-linked immunosorbent assay (SA-ELISA),Whole cell ELISA (C-ELISA)及びWestern blot (WB)による間接酵素抗体法でIgM,IgG,IgA抗体の分別測定を行った.1989-1999年採取検体のSA-ELISAによる平均ELISA値+SD値は,IgM抗体が 0.182+0.097,IgG抗体が0.043+0.04,2004年採取検体ではIgM抗体が 0.23+0.14,IgG抗体が0.012+0.028と何れもかなり低い値を示した.因みに,Encephalitozoon流行リスザル群19血清検体のIgG抗体の平均ELISA値+ SD値は1.7+0.591であった.C-ELISA測定では,91検体のうち6例(6.6%)が200倍以上の抗体価を示した.IgM抗体が2例,IgG抗体が1例,IgA抗体が1例,IgM及びIgG抗体が2例に認められた.このうち4例は1989-1999年採取検体,2例は2004年採取検体であった.WB分析により,C-ELISAで200倍以上の血清検体は,IgM抗体400倍,IgG抗体800倍の反応性を示す多バンド形成の検体であることが判明した.以上の成績は,今回研究対象にしたニホンザルが血清疫学的にEncephalitozoon非流行のコロニーからの群であったことを示す一方,Encephalitozoon感染初期あるいは自然免疫の個体が本群に存在していたことを示唆するものと思われた. 1-2 霊長類における心理的幸福の評価と長期モニタリング法の開発森村成樹(林原生物化学研究所・類人猿研究センター) 飼育下霊長類では心身両面の健康に配慮する必要がある.物理的・社会的環境は個体の行動に大きく影響し,劣悪な環境では心理的幸福が損なわれて常同行動や自傷行為などの行動異常が生じる.心理的幸福の評価法の確立を目的とし,本研究ではニホンザルのケージ単独飼育3個体と屋外集団飼育19個体を対象に,環境に強く影響される行動を調べた.屋外個体では環境エンリッチメントとしてタワー設置前後で行動を比較し,3次元空間拡充の影響も検討した.行動を採食,休息,探索,自己指向的動作,移動,社会交渉,その他に区分し,ケージ個体は1日9時間の観察を9日間,屋外個体は1日30分の観察をエンリッチメント前後に各30日間おこなった.その結果,ケージ個体は休息と自己指向的動作が全体の80.6%,屋外個体は休息と移動が68.1%を占めた.ケージ個体は68.1%を1ヶ所で過ごし,屋外個体は高所で73.9%を過ごし,様々な高さを利用した.エンリッチメント前後で自己指向的動作は5.8%から0%に消失した.以上から,ケージ単独飼育では活動性が低いこと,自己指向的動作は環境間で大きく変化し,心理的幸福の行動指標となりうることが示唆された. 1-3 霊長類の潜伏感染ウイルスの比較と動態石田貴文,セーチャン・ヴァンナラ(東京大・理) 潜伏感染するウイルスは直接症状を呈さなくとも,その感染が間接的に疾病の発症と関わることが多く,それらウイルスのモニタリングは人獣問わず公衆衛生学的に重要である.本研究では,常在ウイルスのうちrヘルペスウイルス(Lymphocryptovirus)を対象とし,1)霊長類各種におけるウイルス検出・ゲノム比較と2)宿主の健康指標として細胞外ウイルスゲノムの検出をおこなうための基礎研究を行った.rヘルペスウイルス(primate lymphocryptovirus)の系統比較とコアシーケンス(ウイルスの存続・病原性等に関わる普遍的配列)の同定のため,大型類人猿から新世界ザルまでを対象とし採血した. 霊長類Lymphocryptovirusのコアシーケンス検出用PCRプライマーの設計をおこない,ヒト・類人猿・旧世界ザルのウイルスについて検出可能であることを確認した.このプライマーを用い既存の霊長類細胞株中のrヘルペスウイルス感染の有無と塩基配列を調べたところ,意外にもヒトウイルスの感染が多く見られた.健康指標としての細胞外ウイルスゲノムについては,チンパンジー血漿・唾液を用いリアルタイムPCR法によってゲノムの有無とコピー数を算定する系を確立した. 1-4 様々な疾病におけるマカク類サルの調節性CD4細胞集団の変化と機能中垣和英,中村伸一朗(日本獣医畜産大・獣医),後藤俊二(京都大・霊長研) CD25+CD4+細胞サブセットは免疫応答の調節機能を有する細胞亜集団としてしられている.この集団のもっとも大きな調節機能は自己反応性の細胞と拮抗して,末梢性の自己免疫性応答を抑制することにある.さらに,この亜集団は種々の感染症やアレルギー疾患においても,重要な調節性の役割を演じている.私共は,免疫生物学的目的から,主にニホンザルを中心とするマカク類における,この亜集団の役割に注目した.今回は,末梢血中のCD25+CD4+細胞の割合を,健常なサルの末梢血と免疫系にゆらぎの生じるような状態のサル末梢血の亜集団を調べた. 方法:抗体はベクトン・デッキンソン社(B-D社)のCD4-PE,CD25-FITCラベル抗体を用いた.サンプルは末梢血より採血し,ヘパリン処理血液として,高速遠心後,buffy coatを採取,L-12培地に懸濁し,宅配便にて,本学に輸送した.リンパ球分離のために,この懸濁液をHistopaque 1.077に重層し,2,000 rpmで30分遠心し,中間層を採取した.この層は82%から95%がリンパ球であった.この細胞を1mlに百万個になるように浮遊細胞液を作製した.百万個の細胞を用いて,dual染色を行い,FACS Calibur (B-D社)を用いて,プロピジュム染色でFL3上の陽性細胞として除外して,データ採取と解析を行った. 健常なニホンザルのこの亜集団の割合は,リンパ球中0.2から1.5%で,人やマウスで報告されている値に近いと思われる.主に外傷などの疾患の場合,この亜集団の割合が高くなる個体もあったが,正常値内に収まる物もあった.この亜集団の割合を上昇させる要因との関連を見つけることは出来なかった.さらに,この集団のサイトカインプロファイルを調べるために,この集団の精製を試みた.そこで,CD25+CD4+亜集団を分離するキットを検討したが,マカク類サルでは純度,回収共に不十分であった.組織内での分布については,現在検討中である. 1-5 T細胞分化過程におけるレトロウイルス感染と分化異常の解析速水正憲,伊吹謙太郎,三宅在子,竹村太地郎,秋山尚志,斎藤尚紀(京都大・ウイルス研・霊長類モデル研究領域) 昨年度に引き続き,レトロウイルス感染の胸腺細胞分化・増殖過程に及ぼす影響を,供与された正常アカゲザル胸腺(8ヶ月令,1頭)とxenogenic monkey-mouse fetal thymus organ culture (FTOC) systemを用いて解析した. FTOC systemはimmature thymocyte (CD3-/4-/8-)からmature thymocyte (CD3+/4+/8+)に分化・増殖させる事の出来る臓器培養系であり,ウイルスを加えない場合には,培養14日目で約75%がmature thymocyteに分化・増殖した.一方,強毒・弱毒サル/ヒト免疫不全キメラウイルス(SHIV)をこの培養系に加えると,それぞれ38.1%,44.2%となり,分化が抑制されることがわかった.このことは,ウイルスがその病原性の程度に相関して未分化なT細胞の分化を障害する可能性を示唆するものである.今後さらに例数を増やし再現性を確認すると共に,ウイルス感染によりどの様なメカニズムで分化が抑制されるのか,この系を用いて詳細に検討していきたい. 1-6 HVP2抗原等を用いたマカク血清BV抗体調査と陰性コロニーの作出佐藤浩,大沢一貴(長崎大・先導生命科学研究支援センター) Bウイルス(Cercopithecine herpesvirus 1 )は自然宿主のサルでの致死的感染は例外的であるが,ヒトに感染すると致死的な疾患を引き起こすことが知られている.このことから,簡便な抗体検出用のキット開発が求められているが,国内ではBウイルスの大量培養による抗原作製は不可能である.最近Bウイルスと近縁のヒヒヘルペスウイルス(HVP2)抗原が抗体検出に非常に有効であることが報告された(LAS,1999).そこで本実験施設では,HVP2抗原を用いたBウイルス抗体検出用ELISAキットを作製し,希望する研究機関に頒布すると共に,キットの安定性の調査および操作性の向上を図るため,頒布先の機関よりキットを用いた検査結果と検査血清の送付を依頼している.今回,1976年から2003年にかけて京都大学霊長類研究所で採血されたニホンザル血清793検体についての検査を行ったので報告する. 【材料と方法】検査材料-80℃で凍結保存.抗原Bウイルスの代替抗原としてヒヒヘルペスウイルス(HVP2)抗原をVero細胞に感染させ,36-48時間後に感染細胞を回収し,可溶化後,遠心上清をウイルス抗原液とした.対照として非感染Vero細胞抗原を用いた.反応と発色96穴プレートに200-800倍希釈ウイルス抗原をコートし,抗原プレートとした.発色にはビオチン化抗ヒトIgG,アビジン・ビオチン化ペルオキシダーゼによる増幅を介し,OPDを基質として発色させ,硫酸にて停止後,波長492nmにおける吸光度を測定した. 【結果】検査の結果,陽性:229,陰性:557,不定:7となり,陽性率は約29%(229/793)であった.2001年以降,陽性率が10%前後を推移し,それまでの約40%に比べて大きく低下していた.SPFコロニー作出が本格化していることがうかがえた.99年・00年ロットに比べて,01年・03年キットは発色がやや不良でOD値が低めとなったが,診断キットの根幹である「陽性・陰性の判定」の点では,長崎で行った診断結果(追試)と差異はなかった.04年ロットは,抗原濃度を99年レベルにまで戻し(上昇し)たので,良好な検査結果が得られるものと期待している. このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |