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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2003年度 > XI 退官にあたって 目片文夫 京都大学霊長類研究所 年報Vol.34 2003年度の活動XI 退官にあたって目片文夫(器官調節分野)3月31日をもって定年退官になります. 山口大学医学部での助手生活8年,本研究所での助手,助教授生活32年,合計40年の教官,研究者生活を通して基本的には独りで,則ち,他の人との共同研究を行うことなく,やってきました.基礎研究者は常に孤独あるいは少数派であるべきとの信念を持っています.退官の御挨拶に代えて,基礎研究のあるべき形態の一端を述べたいと思います. 自然科学の分野における研究形態は複数人による共同研究,あるいは各々,個人で行う個別研究,いずれが効果的かに関して,研究の成果としての発見,発明は社会の組織形態さえ変えることが可能なため,これまでも思想家の議論の重要な一部となってきました.彼等の論旨の多くに欠けているのは研究というものをひと括りにして扱う点にあります.研究は応用研究と基礎研究で容態は根本的に,また基礎研究でも一流の研究と二流以下の研究では相当程度に異なります.応用あるいは応用的研究については間違いなく共同作業の方が効果が挙がると思われます.裁判における弁護士団の編成や手術での医師団などにみられます.企業の研究所では研究者各人の活動を許さないのも当然でしょう.応用や応用的研究は基礎研究によって確立した成果のうちで実用に益するものを見つけ,それに経験により積み上げられてきた慣習や技術を組み合わせて最終効果にするのです.一方,一流の基礎研究は既知の成果に新たなる何かを付け加える,あるいは既存の概念を打ち砕くかのいずれかです.新たなる概念が多数の人の頭脳の中で共同作業によって作り上げられると考えるのは無理があります.基礎研究の分野での重要な発見は殆ど全て1人で行われたのも当然といえます.一般には,成功は生来の能力,努力,運が必要と言われています.自然科学の場合の成功要件は上記のような特殊作業をこなす必要性のため,生来の能力がその大部分を占め,それに少しばかりの運が絡みます.努力はなんの役にも立ちません.しかし,発見のために研究者は1人部屋に閉じこもり瞑想に耽るべきであると言っているのではありません.他の研究者との接触による刺激や文献からの既知の研究結果をしることも必要なのは当然です.但し,行き過ぎると,ルーチン(定石)はなんでも知っているが研究業績はさっぱりということになってしまいます.我々基礎研究者仲間ではルーチンをいかに良く知っていても敬意を払ってもらえません.ルーチンは誰でも努力により得られるからです.一流大学の教官が他の職業の従事者よりも特段に世間から敬意を払ってもらえるのは入学者選抜権や学位授与権を保有しているということも否定はできませんが,より本質的な理由は生来の特殊な能力を持っていることにあります. 上述の論旨に対して,不遜,時代錯誤との批難が返ってくることは承知しています.批難は相当程度,理があります.実は,このような議論は19世紀から20世紀前半にかけて行われました.昨今,誰もこの種の議論をしなくなったのは大学数,教官数の増加,ならびに,特に近年における,社会の固定化に伴う階層の流動化の停止による教官の質の低下にあります.しかし,一流大学の中での一握りの一流研究者は上述の議論の対象になる能力を発揮しています.大学での助手の採用は30歳前後です.其のとき,ではどのように生来の能力を測定できるのかということになります.極めて少数の優秀な者はこの年令ですでに結果をだしていますが,多くはそうではありません.生来の能力は事前には当人にさえ判りません.ましてや他人にとってはなおのことです.学歴や知能指数は少しはめあすになります.しかし,勿論万全からは程遠いものです.理科系のノーベル賞受賞者の学歴をみれば一目瞭然です.知能指数についてはそのテスト問題の作成を担当し,かつテストの成績表を保持し利用することができるのは常に既得権益保有者でるところに問題があります.生来の能力は結果をみるまで判らないことを前提に対処するしかありません.最も深刻な病根は結果を見た後でも適切に対応しないところにあります.最近は東京都立大学,横浜市立大学に見られるように,大学改革の嵐が吹いてきました.日本の大学は相当に組織疲労,制度疲労に陥っています.学部はまだ少しはましなのですが,研究所は相当ひどくなっています.霊長研も例外ではありません.独立法人化はよい機会です.適切な対応を望みます. 私の研究業績を述べて終りとします.Journal of Physiology(1st ranking journal in physiology) 11編(single author 9,first author 2),Journal of General Physiology (2nd ranking journal ) 2編(single author 1,first author 1),Nature 1編(first author 1)です.Journal of Physiologyでの単著者論文数9は歴代第6位(コンピュータ検索可能な1965年以降しらべ,検索に一部手作業があり少数の見落としの可能性があることをお断りします),これは私にとって生涯の誇りです. このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |