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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2003年度 > X 共同利用研究 4. 共同利用研究会 京都大学霊長類研究所 年報Vol.34 2003年度の活動X 共同利用研究4 共同利用研究会
第4回ニホンザル研究セミナー
(世話人:杉浦秀樹・室山泰之) 若手ニホンザル研究者を中心に研究発表を行い,一つ一つの研究発表に対して,中堅の研究者がコメントをした.それぞれの発表について,じっくりと討論を行うことができた.ニホンザル研究は今日でも尚,重要であり,その研究者も非常に多い.ニホンザルを対象とした多様な研究を紹介する場として,また研究者間の交流の場として,有意義な研究会であった. 特に被害管理・保全のセッションでは,関連のある話題が揃ったこともあり,非常に活発な議論がなされた. (文責:杉浦秀樹) ボノボ研究の展望と課題~野外研究の再開にあたって
(世話人:上原重男,森明雄) ボノボの唯一の生息地であるコンゴ民主共和国(旧ザイール共和国)は,1996年以来内戦状態に陥っていたが,2001年ようやく内戦が終結し,それまで調査を中断していた各調査地へそれぞれ研究者が戻り,ボノボ研究を再開し始めている.ボノボ研究再開にあたって,各調査地のボノボの研究者が集まり,研究方法やボノボの保護について話し合うために,7月22日から24日の3日間にわたるワークショップを行った.本研究会では,このワークショップの成果を報告するとともに,類人猿における比較研究というテーマで発表を行った. まず,各調査地の代表者が,それぞれの調査地の現況について発表を行った.次に,「行動の種内比較と種間比較」というセッションでは,Hohmannがボノボの行動の種内での多様性と文化について予備的な報告,橋本がボノボとチンパンジーの性行動についての種間比較,Vervaeckeが飼育下で生まれているチンパンジーとボノボの雑種個体の行動についての報告,Stevenが飼育下のボノボの行動の比較研究について発表した.次の「生態学的比較研究の方法論」というセッションでは,ワークショップで生態学的手法について話し合われた成果について古市が報告を行い,山極がチンパンジーとゴリラの生態に関する比較研究について発表した.最後に,「ボノボの保護活動の最前線」というセッションでは,これからのボノボの保護についてワークショップで話し合ったことについてThompsonが報告を行い,伊谷がキンシャサにあるボノボの孤児園での活動について,ReinartzがSalonga国立公園でのボノボの保護の現状,Erikssonが野生ボノボの非侵襲的DNA試料を用いて行ったY染色体の地域変異に関する研究の発表を行った. しばらく中断をよぎなくされていたボノボの野外研究の再開に向けて,熱意あふれる議論が行われた.また,内戦によって絶滅の危機に立たされているボノボの保護についても活発な議論が行われた. (文責:橋本千絵) 霊長類モデルでのバイオメディカル研究の新展開
世話人:(中村伸・竹中修・三上章允・清水慶子(京大霊長研)・藤本浩二(予防衛生協会)) 今回の研究会は,霊長類を活用したバイオメディカル研究の促進を図る目的で企画された.当日はサル・バイオメディカル研究の主要課題について,基礎および応用の双方のトップ研究者から最近の成果を紹介していただいた.年末の多忙な時期にも拘わらず,参加者数は56名で会場がほぼ満席になるほど盛況であった.発表内容は上記プログラムの様に,サルモデルでのアレルギー・免疫疾患(アレルギー,子宮内膜症),老化・生活習慣病(骨粗鬆症,糖尿病),感染症(AIDS,肝炎),および脳・神経系疾病(パーキンソン病,色盲)に関する興味深い話題であった.同時に,紹介いただいた研究成果を軸に,サルのモデル探し,pre-モデル,モデル作成およびモデルの応用・利用などについて積極的な討論や意見交換がなされた. バイオメディカル研究を前面に出した研究会は今回が初めての試みであったが,参加者数は当初の予想を遙かに超え,関連分野の研究者・技術者が一堂に集う研究会の必要性を再認識した.また,今回の研究会の当初目的である,サルモデルでのバイオメディカル研究に関する情報・知見の交換のための"アゴラ"としての役割は充分に果たせた.加えて,大学および民間関係者間での研究協力や共同研究など産学連携の機会としても役立った.なお,参加者からの感想メールにもある様に,今後こうした研究会を継続的に開催しながらサル・バイオメディカル研究の発展が望まれている. (文責:中村伸) 霊長類のストレス反応の理解と動物福祉に向けての展開
(世話人:友永雅己・上野吉一・鈴木樹理) 本研究会は,平成12?14年度に実施された計画課題「霊長類におけるストレス反応のメカニズムとその応用」のまとめとして開催された.3年間の目標として,霊長類におけるストレス反応について,そのメカニズムを明らかにする基礎研究のみならず,動物福祉を標榜する応用研究も行われ,それらの研究の成果が発表された. セッション1では主に行動を指標とした研究が発表された.川上は今までの研究を総括し,ヒトと同様にニホンザルの新生児ではストレス緩和に匂いと音が有効であること,しかしおとなでは同じ匂い(ラベンダー臭)でも効果が明らかではないことを示した.その際に行動指標と生理指標との反応に差が見られることを示し,これは情報の入力系による反応差ではないかと西原から指摘があった.中道は飼育下のゴリラ集団と餌付けニホンザル集団で見られた心理的ストレス負荷時の行動変容を報告し,これらの霊長類を対象とした実験的研究は困難ではあるが,事例研究によって詳細な行動記述を蓄積すればストレス反応の行動特性が明らかになることを示した. セッション2では動物福祉に向けた実践研究とヒトの脱水と身体機能の研究が発表された.山根はマカクのケージ内遊具(ケージの天井からつり下げた木片)とグルーミングボードの効果を主に行動を指標として調べた.遊具導入により,自己指向性行動が選択的に抑制される可能性と生理面でのデメリットは比較的小さいことが示された.グルーミングボード+餌の設置は,自己毛づくろいを減少させることが明らかになった.芳田は,ヒトの運動時における脱水と運動能・体温調整能には深い相互関係があることを示した.この研究はサルへの演繹が可能であり,現在行われている給水制限実験の改善に有用であろうと考えられた. セッション3では神経・内分泌・免疫系におけるストレス反応の基礎研究が発表された.錫村は,ストレスに起因する鬱状態などの精神障害,気分の変調などの発生機序を,アカゲサルにインターフェロンαを投与し探索した結果,これによって惹起される鬱状態には,ある種のサイトカインを介するドパミン系,ノルアドレナリン系の神経抑制が関与していることを示した.木下は,低栄養ストレスによる性腺機能の抑制に脳内のグルコースセンサーの存在が不可欠であり,それはラットの場合グルコキナーゼ含有第四脳室上衣細胞がその役目を担っていること,更にこの細胞はケトン体のセンサーとしても働き,総合的なエネルギーセンサーであることを示した.大蔵は,低栄養に関する情報を生殖機能制御中枢に伝達するシグナルについて、代謝エネルギーの利用形態が異なるニホンザル(単胃動物)およびシバヤギ(反芻動物)をモデルと実験結果を紹介し,どちらの動物でも血糖利用性の低下がGnRH pulse generatorに低栄養状態を伝達するシグナルとして作用することを示した.磯和は,ヒトの急性ストレスの実験結果を紹介し,被験者による負荷ストレスのコントロールが可能かどうかによって神経・内分泌・免疫系の反応が異なることを示した.更に,同様の実験によってヒトにおける反応がヒト以外の霊長類でも普遍性を持つものかどうか検証するマカクでの実験計画を提案した. 総合討論では先ず寺尾が,ヒトを含めた霊長類におけるストレス研究を総括し,その後活発な討論が展開された. 研究会には所内・外から約40名の参加者があり,様々な分野の研究者が集まった成果として各セッションで興味深い発表と,その分野にとどまらずいろいろな分野からの活発な討論が行われた.共同利用の計画研究としての霊長類におけるストレス研究は平成8年度から始まり,今回が通算2回目となる.この後半の3年間に,霊長類を対象としたストレス研究が,応用研究を含めてかなり進展したことが示された.尚,各発表の詳細についてはこの研究会の要旨集を参考にされたい.今後,基礎的研究を一層進めていくことは勿論だが,動物福祉を目指した応用研究に重点を移して研究を発展させることが最重要であろう. (文責:鈴木樹理) チンパンジー認知研究の25年と今後の展望
(世話人:松沢哲郎・浜田穣・友永雅己・田中正之・泉明宏) 本共同利用研究会は,昨年度に引き続き共同利用研究の計画研究「チンパンジー乳幼児期の認知行動発達の比較研究(平成13~15年度)」の中間成果報告を中心として企画された.また,本年は霊長類研究所においてチンパンジーの認知研究が本格的にスタートしてから25年にあたるため,今後のチンパンジーの比較認知研究を展望する上で,さまざまな大学院生を含む研究者の方にもお話をいただいた.1日目は主として計画研究のうち認知研究の中間成果報告とそれに関連する所内外の研究の報告があった.2日目の午前は計画研究のうち形態・生理研究の報告とそれに関連する発表があり,それに続いて,若手研究者による各種動物を対象とした比較認知研究の発表が続き,国内での比較認知研究の一端をうかがうことができた.最後のセッションでは,ゲノム,情動,障害など幅広い領域の発表があった.また,1日目の最後には,松沢による霊長類研究所でのチンパンジー認知研究の簡単な歴史と今後の展望に関する発表があった. 本研究会は,共同利用研究の中間成果報告を目的に開催されたが,この目的に加えて,チンパンジーの比較研究のさらなる展開をはかるべく,第一線で活躍する研究者を招き発表と討論を行うことをめざした.さらに,大学院生,ポスドクなどの若手研究者も数多くお招きして,研究所員と彼らとの交流も目指していた.これらの目的が十分に果たせたか否かについては今後の研究の展開を見ていく必要があるが,幸いなことに,発表者のうちの何名かとは新たに共同利用研究をスタートすることができた.その点で,今回の研究会は,平成16年度から始まる新たな計画研究「チンパンジーの認知や行動とその発達の比較研究(平成16~18年度)」を進めていく上での重要な第一歩となったといえるだろう. (文責:友永雅己) 第33回ホミニゼーション研究会「かかわる」
(世話人:大石高生・室山泰之・泉明宏・杉浦秀樹) 本年度のホミニゼーション研究会は,狭義のホミニゼーションにはこだわらず,ヒトを含む霊長類がいかに環境を認知し,そこに自己を位置付けるか,また同種他個体といかにかかわっていくか,さらに自分の属する「社会」にいかにコミットし,逆に制約を受けるかを考察し,可能な範囲で種間比較を行うことでソフト面のホミニゼーションがどのように達成されたかの議論を試みた. 第一セッションの《自己と社会とのかかわり-社会的・文化的制約》では,3人のスピーカーによる講演があった.五百部は,異種の個体によって形成される混群を題材として,社会を研究する際のアプローチとして時系列分析や文脈を考慮した社会交渉の分析の重要性を指摘した.山極は,ニホンザル・ヒヒ・ゴリラというまったく違う社会構造をもつ3種を対象として,環境変化とそれに対する社会構造の変異との関係について種内比較を行い,それぞれの種が環境認知を社会関係に組み入れる方法の違いについて論じた.一方,菅原は,グイ・ブッシュマンの社会を間身体性と身体配列をキーワードに読み解き,自己と他者とのかかわりにおける表情や動作の働きを論じた. 第二セッションの《自己と他者とのかかわり》では,4人のスピーカーによる講演があった.まず中村が,脳機能画像のデータなどから,言語を含めたコミュニケーション機能における動作の重要性について概観した.続いて,倉岡は,顔の表情を中心とした非言語コミュニケーションの脳内機構について発表をおこなった.神代は,ニホンザルが実験者と視線を合わせることや指差しを訓練することにより,実験者の動作の模倣をおこなうようになることを報告した.これらの結果から,視線と指さしの使用が,他者理解を深めることが示唆された.坊農は,ヒトの会話における参与構造の分析について報告した.話し手,聞き手,傍参与者によって構築される参与構造が,参与者の発話や視線の協調関係により動的に遷移することが示された 第三セッションの《自己と環境とのかかわり - 身体の境界・自己像》では,3人のスピーカーによる講演があった.山本は,時間差のある体性感覚刺激の順序推定を指標に,道具使用時にはあたかも道具の先端まで知覚が延長されるかのような主観的体験の客観的な証拠を示した.皮膚感覚,深部感覚,視覚の相互作用による自己像の変容の典型例である.積山は,逆転眼鏡を実際に装着したまま発表を行った.逆転眼鏡は視覚と体性感覚の連合を覆すが,訓練によって新たな連合が形成され,日常生活が営めるようになる.ただし,手足の操作については左右別々に学習しなければならないことなどが示された.杉田は,生後間もないニホンザルを次々と入れ替わる単波長照明下で飼育し,色見本あわせ課題を行わせた.ヒトや正常なサルが持っている「色の恒常性」がなくなっていることが明らかになったことから,正常な色覚の獲得過程を調べる重要なモデルを開発したといえる. これら三つのセッションの間も,またセッション終了後の総合討論の時間にも,コメンテーター,スピーカー,フロア入り乱れて活発な意見交換が行われた.隠れたテーマであった異分野間のかかわりも高いレベルで実現された研究会であった. (文責:大石高生) このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |