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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2003年度 > X 共同利用研究 2. 研究成果-所外貸与(継続)1-16 京都大学霊長類研究所 年報Vol.34 2003年度の活動X 共同利用研究2 研究成果 所外貸与(継続)2-16所外継続2 大脳皮質と基底核の機能連関稲瀬正彦(近畿大・医) 霊長類の神経系において,大脳皮質と大脳基底核とはループ回路を形成し,連関して機能している.本研究では,この大脳皮質ー基底核ループの,時間情報処理における働きについて,特に前頭連合野と線条体との機能連関について,検討する. 実験では,まず次のような課題を遂行できるように2頭のサルを訓練した.サルの眼前に配置したモニターに,色の異なる二つの四角形を,呈示時間を0.2~1.6秒の間で変えて,順番に呈示した.二つの図形の呈示後にはそれぞれ1秒間の遅延期を入れた.その後,二つの四角形を同時に示し,長く呈示された方の図形を選択させた.訓練により,サルは,55~95%の正答率を示すようになった.正答率は,主に二つの呈示時間の比に依存して変化した. 課題遂行中に,大脳皮質前頭連合野の外側部から,単一神経細胞活動を記録した.視覚刺激呈示後の遅延期の活動を,呈示された刺激が長かった試行と短かった試行とで比較した.その結果,前頭連合野の一群の神経細胞では,その遅延期活動が,直前に呈示された刺激が長かったか短かったかを反映することが明らかとなった. 現在,前頭連合野の神経細胞活動の解析をさらに進めると共に,大脳基底核の線条体から,課題遂行中の神経細胞活動記録を行っている. 所外継続3 大脳皮質における自己運動認識機構村田哲(近畿大・医・生理) サルのPMvや頭頂葉のPF野では,他の個体の動作の観察中に反応し,またそれと同じ動作の実行中にも活動するミラーニューロンが記録される.また,頭頂葉は運動による感覚フィードバックや遠心性コピーをもとに運動をモニターする機能があると考えられるが,このシステムがミラーニューロンと回路を共有すると予測される.本年度は,PF野のミラーニューロンが,自分の手の視覚フィードバックに反応するかどうか調べた.TVカメラで,サルの視線で手の運動の映像を撮影し,サルの目の前にあるモニターに映した.サルは,モニターの画像を見ながら,物体をつかむ課題を訓練された.この課題で,手と物体が見える条件,LEDのみ見える条件,手の画像に遅延を起こす条件を設定した.さらに,自分の手の運動や実験者の手の運動の動画を注視させる課題も設定した.以上の課題中,PF野では物体をつかむ自分の手の運動の画像に反応していると思われるニューロンが認められ,一部は他者の手の動作に視覚的にも反応していた.また,こうしたニューロンは,視覚フィードバックの映像が遅延する場合には,反応が抑制されることが明らかになった.以上のことから,頭頂葉のミラーニューロンが,自己の運動のモニターする働きをもち,また,自己と他者の動作をマッチさせる働きがあると考えられる. 所外継続4 新世界ザルの認知機能に関する比較認知科学的研究藤田和生(京都大・文) 認知機能は,種の系統発生と生活様式への適応という2つの制約の中で進化する.この進化過程を調べる上で,ヒトからは系統的に遠いが,おそらく独自の進化を遂げている新世界ザルの認知機能の分析は,生活様式と認知機能の関連性を探る上で重要である.本課題の目的は,道具使用等で優れた知性を発揮するフサオマキザルの認知機能を多角的に分析し,知性を進化させる原動力を考察することである.平成15年度は,以下の成果を得た.部分隠蔽図形の認識過程(知覚的補間)を引き続き分析し,彼らの図形認識に見られる制約がヒトと概ね類似していることを示した.他者の失敗行動から正しい行動を学ぶことができるかどうか分析し,弱いながらも肯定的な結果を得た.2頭間での役割の異なる共同作業課題において,サルは自身が毎試行報酬を手に入れられなくても協力行動を維持し,彼らが協力場面において相互的利他行動を示すことを明らかにした.道具使用課題において,道具と報酬と環境の3要因から構成される因果関係を,サルは学習できることを示した.ヒトにものを要求する場面で,サルはヒトの注意の焦点を認識し,それを操作しようとするらしいことを示す予備的結果を得た. 所外継続5 大脳皮質神経回路による運動学習機構の研究蔵田潔(弘前大・医・生理) ヒトやサルが行う上肢による到達運動は,シフトプリズム装着により視覚空間座標と運動座標との間に解離が生じても,10-20回の試行で正確に目標に到達することができ,しかもプリズムの着脱毎に極めて高い再現性のあることが確認されている.このプリズム適応には運動前野腹側部が重要な役割を果たすと考えられているが,本研究では運動前野腹側部および一次運動野において複数の単一ニューロン活動を同時記録し,これら領域の情報処理様式を比較検討した. その結果,運動前野腹側部と一次運動野のいずれにも運動関連活動が存在していた.運動前野には運動関連活動として視覚座標系を反映するものと運動座標系を反映するものがあったが,一次運動野には前者のような活動は記録されなかった.さらに,視覚座標系を反映する活動は左右いずれの手の運動を開始したときにも同様の活動を示したのに対し,運動座標系を反映する活動は記録した大脳半球と反対側の手を動かしたときに選択的に活動した. 本研究の結果は,運動前野腹側部において視覚座標系から運動指令への変換が行われていることを示唆する.これまで明らかとなったプリズム適応中に特異的な運動前野ニューロン群間のシナプス伝達の変化と,運動前野へのムシモル注入後のプリズム適応障害の結果とあわせて,運動前野における視覚座標から運動座標への動的変換系が運動学習に重要な役割を果たしていると考えられる. 所外継続6 神経活動記録および可逆的傷害による脚橋被蓋核の眼球運動への関与の可能性の検討相澤寛(弘前大・医) 従来脚橋被蓋核ニューロン神経活動記録に用いてきた衝動性眼球運動反応時間課題において,新しい行動解析の手法を試みた.課題遂行で計測される反応時間は,行動課題に用いられる刺激の視覚属性や位置,状況や文脈に応じて劇的に変化することが知られている.しかしながらそのヒストグラム分布は左右非対称な上に複数のピークを持つ分布のために解析,比較をシステマティックに行うための方法やその意義は重視されていなかった.そこで,これまでニューロン活動記録中に同時記録されてきた反応時間データに対して最近注目される数学的モデル(CarpenterらのLATERモデル)の適用を試み,変数変換を介して正規分布のパラメータで近似できることを示した.このパラメータは理論上,サッカード実行神経回路の興奮性入力,抑制性入力のバランスや神経活動度閾値を反映するものと考えられ,この行動解析結果と神経活動様式との間に何らかの関連が認められるはずである.定性的にわかりやすい結果を得るためにまずヒト被験者で,1)ギャップ期間挿入,2)目標位置事前予告による予期的活動惹起,3)少数NoGo課題の混入,という課題文脈の修飾によって「閾値の変化」を示す分布差をもたらすサッカード課題を確立した.引き続いて,同じ課題をニホンザルに訓練し,反応時間分布および上丘,脚橋被蓋核のニューロン活動を記録した. 所外継続7 ワーキングメモリに関わる皮質―視床間相互作用の研究船橋新太郎・渡辺由美子(京都大・院・人間環境) 前頭連合野は視床背内側核と双方向の密な連絡をもち,両者が機能的に強く結びついていると考えられている.しかしながら,両者間に想定される機能的類似性に関する研究はほとんど実施されていない.本研究では,サルに注視と記憶誘導性眼球運動を組み合わせた2種類の遅延反応課題(ODR課題とR-ODR課題)を学習させ,視床背内側核からニューロン活動を記録し,前頭連合野のニューロン活動との比較を行った.ODR課題では,視覚手がかりが呈示された方向へ遅延後に眼球運動をすれば報酬を与えた.R-ODR課題では,視覚手がかりが呈示された方向から90度時計回り方向に眼球運動をすれば報酬を与えた.視床から記録した全てのデータについて,課題関連活動の有無,空間情報に関する選択性の有無,最大応答方向を決定した後,これらの活動をもとにポピュレーション・ベクトル (PV) を求めた.視覚手がかりの呈示から眼球運動終了までの期間を250msごとに区切り,この間の活動をもとにPVを求めた.ODR課題では得られたPVはどれも視覚手がかりの呈示方向を示していたが,R-ODR課題では視覚手がかりの呈示方向から眼球運動方向へPVの方向が変化することが明らかになった.前頭連合野のニューロン活動を用いた研究でも同様の結果が得られていることから,今回の結果は,前頭連合野と視床背内側核との機能的類似性を示していると考えられる. 所外継続8 行動と運動の中枢神経制御の機序丹治順・虫明元・嶋啓節(東北大・医・生体システム生理) 前頭葉の内側面,補足運動野(SMA),前補足運動野(pre-SMA),補足眼野(SEF)に関しては,眼球運動と上肢運動がどのように表現されているかを明らかにしてきた.特に,補足眼野に関して,眼球運動の連続運動への関与を調べるべく,サルを訓練して眼球運動関連活動を示す細胞を調べた.課題は,まず中心固視をさせ,ターゲットを呈示し,そこへ視覚誘導性にサッカードを行なわせた.その後再び中心固視点を固視し遅延期間の後,同様の視覚誘導性のサッカードを連続3回させて,成功すると報酬を与えた.これを繰り返した後,ターゲットの指示信号なしでゴー信号のみを与えて同じ順番で3回サッカードを行なわせた.補足眼野には,サッカードの方向によらずに何番目に行なわれるかという順番に関連する細胞活動が見出された.またサッカードの順番と方向に選択的な細胞活動も見出された.さらに,3つのサッカードの順序に選択的に活動を示す細胞活動も存在した.これらのことは,補足眼野が,サッカード運動の時間的な順序制御に関与することを示唆している. 所外継続9 位置の予測を伴う運動の線状体による制御機構杉野一行・大野忠雄(筑波大・基礎医・生理) 我々はニホンザルを用いて,手掛かり刺激とそれに対応した予測的な視線移動との連合学習に線状体が少なからず関与していることを明らかにして来た.また,視線移動の学習は最終的な運動パターン毎に完成するのではなく,手掛かりの種類毎に独立に行われることが分かった.本年度の研究では,手掛かりに基づいて視線移動を行う際の眼球運動パターンの形成過程について調べた. 学習の初期においては,視線移動の標的となる位置は視野内の指標に関連付けて記憶される.これは,指標を無くなると正しい視線移動が出来なくなること,及び,出来ない状態を長く続けた後に再び指標を提示すると直ちに正しい視線を移動が回復することから,報酬を合図として直前の視線移動を繰り返しているのではなく,宣言的記憶に基づいて眼球運動指令が作られたことを示す. しかし,指標に頼った視線移動を繰り返しているうちに,指標が無くても正しい視線移動が出来るようになってくる.その際,例外的に視線移動の開始点を移動させても正しい標的位置に向かって視線を移動させることが出来た.これは標的位置を頭部を中心とした座標系に基づいて記憶していることを意味する.体性感覚的な位置記憶と言えるかも知れない. ところが,更に訓練を続けると,開始点を移動させると視線移動の終点も同様にずれるようになった.これは,最終的には,位置の記憶が眼球運動のベクトルの形を取るようになることを意味する. 所外継続10 膵島移植に関する研究安波洋一,波部重久(福岡大・医) サル膵島自家移植モデルの確立 臨床膵島移植に於ける現在の最も重要な課題は一人のレシピエントへの移植を成功させるために2~3人のドナーを必要とする事,すなわち一人のドナーより得られる膵島の移植のみでは成功しないことが挙げられる.この問題の解決策として移植後グラフトに発現する機能障害機構を解析,その制御法を見出すことにより少数のドナー膵島で移植の成功を目指す試みがある.膵島は肝内に移植されるが移植後に肝臓特有の非特異的反応,主に自然免疫によりグラフトが破壊され生着に影響を及ぼすと考えられ,その制御による生着率の向上が期待される.既に我々はマウスモデルでグラフト膵島生着を改善するあらたな手法を見出している.本研究では新たな知見が臨床応用可能かどうかを検索するための臨床前試験として,サル自家膵島移植モデルの確立を目的にし,以下の実験を行った. #1.全身麻酔下に膵体尾部切除術を施行した. #2.直ちに切除膵より膵島を単離し,培養保存した. #3.膵切除後4日目にストレプトゾトシンを静注し,糖尿病を作成した. #4.ストレプトゾトシン静注後3日目(膵切除7日目)に培養保存した自家膵島(2300/kg)を経門脈的肝内に移植した. #5.移植前後に経静脈的糖負荷試験を行った.移植前には著しい耐糖能障害があったが,膵島移植後の5週目には改善した. #6.供給された2匹中1匹は膵体尾部切除後5日目にストレプトゾトシンを静注後に死亡した.剖検で血清腹水があり,膵液漏と薬剤毒性が死因で,相乗的に作用したと判定された. 今回の研究でサル膵島自家移植の実験系が確立できた.今後臨床膵島移植の前臨床試験としてこのモデルは極めて有用と考えられる. 所外継続11 霊長類の認知機構に関する神経生理学的研究西条寿夫・堀悦郎・田積徹(富山医科薬科大・医・生理) 本研究は,霊長類の認知機構,とくに空間認知機構および非言語的コミュニケーションに関する脳内機構を調べる事を目的としている.本年度は,所外貸与されたサルに対し,以下の課題の訓練およびニューロン活動の記録を行った. 1)空間認知機構:仮想現実空間技術を用いて広域空間移動課題の訓練を行った.本課題では,サルはモンキーチェアに座り,ジョイスティックを用いて仮想現実空間内を移動する.サルが小さな円形のポインタをジョイスティックにより操作し,ポインタが特定の領域(報酬領域)に侵入した時点で,報酬としてジュースを与えた.仮想現実空間内には,ビル,岩,木,家,旗およびポスター等のオブジェクトが配置されており,サルはそれらオブジェクトの配置から自己と報酬領域の位置を認知して,ゴールである報酬領域に達するとジュースが獲得できる.平成16年3月末日現在,サルは複数の仮想空間内において報酬を獲得することが出来るようになっており,側頭葉内側部のニューロン活動を記録中である. 2)非言語的コミュニケーションに関する脳内機構:ヒトの顔表情および視線方向に関する遅延非見本合わせ課題の訓練を行った.本課題では,まず見本顔刺激がコンピュータディスプレイ上に呈示される.一定の遅延期間をおいた後,試験顔刺激が次々と呈示される.サルは見本顔刺激を記銘し,表情あるいは視線方向が見本顔刺激と異なる試験顔刺激が呈示された時にボタンを押せば,報酬としてジュースが与えられる.本課題遂行中のサル扁桃体およびその周辺領域からニューロン活動の記録を行った.その結果,サル扁桃体にはヒトの顔表情に識別的な応答を示すニューロンが存在した.特に,実験者の顔においては,様々な顔表情および視線方向に対してより識別的に応答するニューロンがあった.この結果は,サル扁桃体が身近なヒトの顔表情および視線方向を符号化していることを示しており,扁桃体が社会的認知の学習に関与する可能性を強く示唆している.平成16年3月末日現在,ニューロン活動の記録を続行中である. 所外継続12 前頭極の行動抑制機構の研究久保田競(日本福祉大・情報社会科学) 約10年行ってきたアカゲザルの前頭葉の発達の研究の最後の報告となった.前頭極(ブロードマンの10野)が,複雑な行動(遅延反応またはゴーノーゴー課題のいずれかを主課題として,他のいずれかを副課題とした,いわゆるブランチング課題)の制御に関係することを,平成13-15年度の共同研究で報告した.前頭極の働きを可逆的一過性に止めるのにギャバ阻害剤(ビククリンとファクロフェン)などが用いられた.本年度は,大脳皮質の可逆的一過性破壊によく用いられているギャバ作動剤(ムシモル)も用いて,ブランチング課題(15秒の遅延反応を主課題として,対象性強化で遅延が5秒のゴーノーゴー課題を2回,主課題の遅延期に行う,正解が3-5回連続すると,手がかりと反応の関係を逆転させた)を学習している経過で薬物の効果を調べた.学習を開始した時の正答率は40-50%(69-85%,57-91%)で,4ヶ月の学習で,75%にあがった.抑制細胞の働きを作動剤で促通しても,阻害剤で抑制しても,ブランチング課題の成績は一過性にわるくなった(20-37%).しかし,3-5日連続注射で,作動剤では,成績が良くなる促通効果があるのに,疎外剤ではならなかった. 所外継続13 霊長類高次視覚中枢の構造と機能田村弘(大阪大・院・生命機能) 本研究では,高度に発達した視覚機能を有する霊長類において,物の形の視覚的認識を支える大脳皮質神経回路の構造と機能の解明を目指した.特に物の形の視覚的認識の中枢である下側頭葉皮質に着目し,抑制性神経細胞の物体の形に対する反応様式と神経結合様式について検討した.本研究から,物の形の視覚的認識における抑制性神経細胞の役割を明らかにすることができると期待できる. 所外供給を受けたニホンザル2頭を用いて,研究を行った.麻酔非動化したニホンザルから様々な視覚パターン対する複数神経細胞の活動を同時に記録した.記録には独自に開発した複数神経細胞活動同時計測システムを用いた.抑制性細胞は,同時に記録した細胞ペアー間での相互相関解析から同定した.その結果,抑制性細胞は,視覚刺激に選択的に反応すること,異なる刺激選択性の細胞に結合する傾向をもつこと,が明らかになった.このような抑制性細胞の性質は,下側頭葉皮質細胞の複雑な形に対する視覚反応の形成に役立つと考えられる.本研究成果は,J Neurophysiology誌に印刷予定である. 所外継続14 慢性サルにおける咀嚼の中枢メカニズムに関する研究小林真之(大阪大・歯・高次脳口腔機能学) 一連の咀嚼は口腔内に食品を取り込むことから始まり,安定した位置に食品を移送し,臼歯部で臼磨・粉砕を行い,食塊を形成し,嚥下できるようにするまで,進行する.このように目的の異なる運動が複合して行われている.しかし,摂食から嚥下までの運動中,食品の特性を判断して,上記の種々運動の変換をスムーズに行わせるための中枢神経機構は明らかにされていない.そこで本研究では,サルを用いて咀嚼のスムーズな進行を解析し,その中枢神経機構を明らかにすることを目的としている.サルの口腔前方のトレイに提示した食物を,手を使わずに舌あるいは口唇で摂取し,咀嚼・嚥下を行わせたときの咀嚼筋(咬筋・顎二腹筋)筋電図および下顎の運動を記録した.サルにおいても筋活動や顎運動から一連の咀嚼は,最初の開口が起こってから飼料を舌で取り込もうとする期間,開口とともに食物を口腔内に入れ臼歯部へと移送する期間,臼歯部で飼料を粉砕・臼磨する期間,臼磨運動後咀嚼が終了するまでの期間の4つのstageに分類できた.本年度は4つのstageの移行に関与する中枢神経機構を調べる予定であったが,実験に至らず結果は得られていない.また,ボタン押し課題のインターバルが変わると,咀嚼時間に変化が認められ,随意的に咀嚼時間を調節している可能性が示唆された.今後,このような咀嚼時間の随意的な変化にどのような中枢神経系が関与しているかを調べる予定である. 所外継続16 報酬によるサッカードの強化学習機構伊佐正(岡崎国立共同研究機構・生理学研究所),渡辺雅之(総合研究大学院大・院),小林康(大阪大・院・生命機能研究科) 我々の研究グループでは近年脳幹のコリン作動性細胞の集団である脚橋被蓋核のニューロンが眼球のサッケード運動課題遂行中に動機付けに関与する活動を占めることを報告した(Kobayashi et al. J. Neurophysiol., 2002).現在アセチルコリンがサッケード系に与える作用を検討するため,サッケードを制御する中枢である中脳上丘にアセチルコリンのアゴニストのひとつであるニコチンを注入し,サッケードに対する作用を解析した. すると注入部位が表現する空間マップ上の点に対するサッケードの反応時間が顕著に短縮すること,さらにそれ以外の点に対するサッケードでも比較的近傍の点に提示されたターゲットに向かうサッケードについては反応時間の短縮が見られると共に,終点がターゲットと注入部位の表現する点の間に向かう”averaging(平均化)”の効果が見られること,またサッケードの軌道についても注入部位の表現する点に向かって湾曲することが明らかになった.このような現象はターゲット以外の点に注意を向けさせたときにサッケードに起きる現象によく類似しており,動機付けが注意のシステムに対して作用するメカニズムの一端を示しているものと考えられた. 本研究の内容は現在論文にまとめられ,近日中に国際誌に投稿予定である. このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |