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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2003年度 > X 共同利用研究 2. 研究成果-施設利用11-20 京都大学霊長類研究所 年報Vol.34 2003年度の活動X 共同利用研究2 研究成果 施設利用11-2111 ニホンザルにおけるオスの交尾成功と実効性比の関連高橋弘之(鎌倉女子大・児童) 交尾成功をめぐる個体間の競合の度合いは,性的に受容可能なメスと性的に活動可能なオスの分布によって変動すると考えられる.性的に受容可能なメスの頭数および性的に活動可能なオスの頭数の比は実効性比(operational sex ratio, Emlen & Oring, 1977)とよばれている.実効性比の観点から交尾成功を分析した研究は霊長類以外では多く行われているが(Kvarnemo & Ahnesjo, 2002),霊長類では非常に少ないのが現状である. 本研究では,宮城県金華山のニホンザル金華山A群での,1992~95年の交尾期における実効性比の変動と群れオスの交尾成功の関連について分析を行っている.群れオスの頭数と発情メスの頭数が同じ頭数の場合,実効性比は1になる.実効性比が1以上の場合には,すべての群れオスで交尾成功が観察された.一方,実効性比が1未満の場合には,低順位オスの交尾が観察されなかった年があった.この結果から,実効性比が1未満すなわちオスバイアスのときには高順位オスは低順位オスよりも交尾成功で有利になるが,実効性比が1以上すなわちメスバイアスのときは順位による交尾成功の差が小さくなると考えられる.この仮説からは,順位と交尾成功の関連は実効性比によって変動すると予測される.多くの霊長類種の交尾成功について文献調査を進め,この予測を検証している. 12 ヒト17q12 ampliconに見出された新規遺伝子の霊長類における相同遺伝子の検索,及びそのゲノム解析城石俊彦(国立遺伝学研究所・哺乳動物遺伝研究室) 平成15年度,我々がマウス並びにヒトにおいて新たに見出した上皮形態形成及び癌抑制関連遺伝子群を,インフラ整備が進みつつある霊長類Genome Data Baseを用いて in silico screeningを行った.その結果,霊長類において幾つかの新規上皮形態形成及び癌抑制関連遺伝子群の仮想cDNAの単離に成功した.これら単離された仮想cDNAの中には,同じ哺乳類でありながらマウスには存在せず,ヒトにのみ存在していた仮想cDNAも含まれていた.類人猿とヒトのグループは,ヒト-マウス間よりも遺伝的に保存されており,今回見出された仮想cDNA存在ゲノム領域を詳細に解析することにより,類人猿とヒトの癌感受性の違いを解明する一つの手がかりが得られることが期待される.更に我々は,アフリカミドリザル腎臓由来細胞株であるCOS-7 genomic DNAを用いてゲノム解析の予備実験を行い,ある程度の基礎データ収集を完了した.当然の事ながら細胞株と霊長類成体におけるゲノム構成は異なることが予想される.しかし,今回行ったゲノム解析の予備実験は,次年度に計画した霊長類成体genomic DNAを用いたゲノム解析を行う上で有用な情報を多く含む物であると考えられる.今年度までの研究成果から,新規遺伝子群の本格的な霊長類間ゲノム比較研究を行う基盤が揃ったと言える. 13 ニホンザルゲノムBACライブラリーの構築斎藤成也(国立遺伝学研究所) 現在,日本にはヒト以外の霊長類のゲノムライブラリーとして,チンパンジーのBACライブラリーPTB(国立情報学研究所の藤山秋佐夫教授らが作成)とゴリラのフォスミドライブラリー(国立遺伝学研究所の金衝坤・斎藤成也および藤山教授が構築;論文1)が存在するが,日本に分布する旧世界ザルであるニホンザルのゲノムライブラリーは存在しない.そこで,藤山教授と共同で,ニホンザルのBACライブラリーを作成している.景山節教授の協力により,霊長類研究所で飼育維持しているオスのニホンザル1頭から2002年度に血液を採取した.これをもとに,BACライブラリーの作成を進めている.作業が少し遅れており,2003年度中は2万余のBACクローンをピックした.これはニホンザルのほぼ1ゲノムに相当する.しかし,通常のライブラリーは4ゲノム以上のものが期待されるので,まだ完成には至っておらず,2004年度も引き続きライブラリー作成を続ける.この作成作業は,文部科学省の科学研究費補助金特定研究「統合ゲノム」の援助を得て進めている.このニホンザルゲノムBACライブラリーが完成すれば,霊長類の比較ゲノム研究にとって重要なリソースになることが期待される. 文献1: Kim C.-G, Fujiyama A., and Saitou N. (2003) Construction of a gorilla fosmid library and its PCR screening system. Genomics, vol. 82, pp. 571-574. 14 種の保存を目的としたニホンザル精子の凍結保存技術の確立楠比呂志(神戸大・食資センター) 希少動物の種の保存において,生殖子の凍結保存技術は有力な補助手段であるが,ウシなどの一部の家畜を除けば再現性のある方法が確立しているとは言い難いのが現状である.そこで代表研究者は,昨年度から,再現性の高いニホンザル精子の凍結保存技術の確立に関する研究を行っている. 昨年度の共同利用研究(自由31)で,ニホンザル精子における至適凍結条件は,代表研究者が,以前,チンパンジーで得た至適条件とは,かなり異なることが判明した.そこで今年度は,2頭の成熟雄ニホンザルから経直腸電気射精法で採取した精液を材料に用いて,各種凍結条件に関するより詳細な検討を行った. 希釈液と保存容器には,昨年度の研究で好適であることが判明したそれぞれ修正TTEとプラスチック製ストローを用い,凍害防止剤の種類(グリセリンとDMSO)と添加濃度(1.25,2.5および5%)および冷媒の種類(ドライアイスパウダーと液体窒素ガス)について比較検討を行った.その結果,ニホンザル精子を最終濃度が2.5%のグリセリンを添加した修正TTEに浮遊させてストローに充填し,液体窒素ガスに晒して凍結した場合に,最も高い融解後の生存精子率と運動精子率が得られた. 15 野生チンパンジーメスの育児中の社会関係の研究浜井美弥 野生チンパンジーは食物資源量が減少すると,いっしょに遊動するパーティのサイズを小さくして採食競合を回避すると考えられているが,その中でも育児中の母親はとくにオトナオスや発情メスに比べて離散する傾向が強いとされる.マハレ山塊国立公園に生息するMグループでは,主要食物の結実季にとくに大きなパーティを形成するところが観察されるが,そのような時期の個体追跡中に記録された音声や遊動ルート,短い交渉(挨拶行動など)を持った相手などから,大きなパーティの中心部からごく近距離にいたことが明らかである日でも,育児中のメスは限られた相手としか交渉を持たない傾向を失わず,採食中はとくに,他個体をさけ独りきりで過ごしていることが多かった.子供との関係も離乳前であれば,母子が同じ採食樹に上り,母から子が食物分配を受けたりするところがよく観察されたが,離乳後の子供の場合は,採食する母親から目の届く範囲にいるときでも,母親と採食品目が異なっていたり,採食するタイミングがずれる傾向が見られた.これは子供が母親から自立して遊動を始め,遊び仲間など母親以外の個体と接近していることを表していると考えられるが,母親が採食中の子供をサプラントするところも観察されており,母子間に食物をめぐる緊張関係が存在することも示唆されている. 16 霊長類におけるナチュラルキラー(NK)細胞受容体群の研究八幡真人(スタンフォード大・医・構造生物) ナチュラルキラー(NK)細胞は,自然免疫系のリンパ球の一群で,感染初期の生体防御や腫瘍の拒絶に重要な役割を担っている.この細胞の表面には,主要組織適合抗原(MHC)を認識する受容体群が存在しており,NK細胞自体の活性を制御している.ヒトにおいてこの受容体を規定する遺伝子群は,ライガンドであるMHCクラスI遺伝子群に匹敵するほどの多様性を包含することが判明してきている. 私達は,主として霊長類におけるこの受容体群の系統進化的な解析を行う目的で,主に分子遺伝学的手法により種々の霊長類の中で本遺伝子群を検索してきた.この研究の一環として,ガラゴ (Galago senegalensis)およびキツネ猿(Lemur coronatus)のゲノムライブラリーのスクリーニングを行い,KIR遺伝子族のゲノム領域の配列決定,解析を行っている過程である.現時点で判明している特徴として以下の点が注目される: (1) この遺伝子群はNK細胞の機能を制御している受容体をコードしていることによる強い機能的選択圧の下で変化してきた形跡が見られる. (2) KIR2DL4様遺伝子が霊長類KIR遺伝子族の中で長く保存されてきた. (3) 霊長類のKIR遺伝子族ゲノム領域はKIR2DL4様遺伝子座のセントロメリア側が比較的に保存されている可能性が高い. 本遺伝子群をMHCクラスI遺伝子群の進化と共に解析することは,霊長類の免疫系の系統進化を知る上で重要である.今後,ゲノム配列の決定が進むにつれ,より詳細な解析が可能になると考えられる. 17 霊長類のコレステロール調節竹中晃子(名古屋文理大・健康生活),竹中修(京都大・霊長研) LDLレセプター(LDLR)のエクソン4はシステインを含む繰り返し配列を有しLDLのB-100アポタンパク質と結合する.さらにこのエクソン4はヒトで高コレステロール血症を引き起こす変異が最も多く観察されている.霊長類のエクソン4を増幅できるようにした結果,マカカ属サルとヒトでは荷電変化を伴うアミノ酸変異が狭い領域に集中していることを見出した.そこでこの変異を類人猿で調べ,ヒトの変異箇所とも比較検討した. エクソン4ではマカカ属サルからテナガザルへの過程で負荷電が3つ増え,テナガザルからボノボへ至る過程で負荷電1つと正荷電3つが増加していた.マカカ属サルからテナガザルへの進化過程で増加した負電荷をボノボに至る過程でその荷電変化を相殺していると考えられた. さらにヒトとマカカ属サルでは78から87番目の10アミノ酸の中に6アミノ酸の変異が集中しているが,この領域は相同な繰り返し配列からははずれていた.この領域は立体構造を維持するのにあまり重要ではないが,LDLと結合するためには荷電がある役割をしているのではないかと推測された. 18 霊長類四肢骨の形態比較と真猿類の起源をめぐる系統仮説の検証江木直子(京都大・理) 中期始新世東南アジアのアンフィピテクス科は系統的な位置が未解決な化石霊長類である.真猿類の起源と関連して議論されてきた一方,初期曲鼻猿類のアダピス類と近縁であるという意見もある.始新世化石霊長類は主に歯顎の形態特徴から研究されているが,本研究では,アンフィピテクス科の系統的な位置の決定に四肢骨形態が有効であるかどうかを検討した. アンフィピテクス科の四肢骨については,上腕骨と踵骨の標本が見つかっている.上腕骨26形質と踵骨8形質についての形態を,古第三紀化石種・現生種の間で比較した.サンプルにはキツネザル上科,アダピス上科,オモミス上科,メガネザル,初期真猿類,エジプトピテクス,広鼻猿類が含まれる.アンフィピテクス科の形質状態の系統的な意義を既存の系統仮説(初期真猿類,アダピス上科ノタルクトゥス亜科,アダピス上科の基幹)に対して,系統解析プログラムMacCladeを用いて評価した. 各形質では収斂が頻繁に起こり,またアンフィピテクス科の形態の多くは現代型霊長類の中で原始的である.真猿類あるいは直鼻猿類との共有派生形質と考えられるものの方が,アダピス上科とのものより,多い.アンフィピテクス科とアダピス上科の四肢骨形態の類似は,両者の近縁性を支持するとされていたが,この研究からは,アダピス上科との類似はむしろ原始的と解釈されるべきで,直鼻猿類との系統的近縁性の方が支持された. 19 チンパンジーの事物認識と社会的認識の発達小椋たみ子(神戸大・文) Piagetがヒト乳児で明らかにした感覚運動知能の手段―目的関係の理解と対象関係把握シェマ(事物操作)について成体3個体(パン,クロエ,アイ)と子ども3個体(パル,クレオ,アユム)について3か月間隔で検査した. 1. 目的達成のために既に環境に準備されている手段の使用は子どもは観察開始の2歳前後にすでに獲得していた. 2. 目的達成のための手段の使用は,成体は常にではないが予見により成功した.子どもは,パルは3歳少し前に予見で成功したが,クレオ(3歳8ヶ月),アユム(3歳9ヶ月)は筒の中の対象物を棒で出す課題で予見での成功に至っていない. アイは手での解決を行い,他個体は口での解決が多かった. 3. 予見課題の「穴のつまった積木を棒へさす前に気がついて,いれない課題」はクロエだけが成功した. 4. 事物操作についてはブラシや電話の慣用操作をクロエが行なった.物のみたて行動はチンパンジーでは困難であった. クロエが予見課題や事物操作でヒトが意図した課題の意味をよみとり成功したことは,彼の社会的認識能力の高さと関係していると考えられる.社会的認識能力とシンボル機能,予見能力の関係の分析は今後の課題である. 研究の一部は第66回日本心理学会で「チンパンジーの予見による手段―目的課題解決」で報告予定である. 20 チンパンジー乳児における自己の名前概念の獲得と自己認知魚住みどり(慶応義塾大・社会) チンパンジー乳児が音声刺激としての自己の名前をどのように獲得していくかを縦断的に検討した.対象は京都大学霊長類研究所において2000年に生まれたチンパンジー乳児3個体.屋外放飼場での他個体と同居する状況での呼びかけ実験を行なった.また,自己の名前の理解を自己認知との関わりから考察するため,自己鏡映像認知実験を平行して行なった.その結果,自己鏡映像の理解の指標とされる自己指向性反応は,3歳を過ぎて徐々に見られるようになってきたが,各個体でいまだ安定した反応は得られていない.また個体間での差が見られている.ヒト乳児において,複数人での保育場面で名前を呼ばれたときの反応の観察も継続して行なっている. 21吉原新一(広島国際大・薬・環境毒物代謝) ニホンザルの肝試料提供がなく,本研究計画は未実施 このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会 |