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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2003年度 > X 共同利用研究 2. 研究成果-計画研究6「霊長類の発達加齢に関する多面的研究」

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.34 2003年度の活動

X 共同利用研究

2 研究成果 計画研究6 「霊長類の発達加齢に関する多面的研究」

6-1 サルの生後発達期におけるneurograninの脳内発現変化

肥後範行(産業技術総合研究所・脳神経情報)

neurograninはシナプス後膜に存在するプロテインキナーゼC基質であり,シナプスの構造的な変化に関わっている.本研究課題では,発達期のマカクザル大脳新皮質(前頭前野,側頭連合野,第一次体性感覚野,および第一次視覚野)と海馬において,neurograninの発現変化を調べた.大脳新皮質ではneurograninの発現は出生直後は弱く,次第に上昇し,生後約2ヶ月で発現のピークが見られた.その後は生後2-3年にかけて発現の減少が見られた.調べた4つの領野間で発現の時間経過に差は見られなかった.以上の結果はマカクザルの大脳新皮質ではシナプス後膜の構造発達が生後2ヶ月に盛んであることを意味する.我々はこれまでの研究で,シナプス前膜の構造的発達にかかわる分子であるGAP-43の発現は生後2ヶ月では減少していることを示した (Oishi et al., 1998).したがって,シナプス後膜の構造発達は,シナプス前膜の構造発達が終了した後も続いていると考えられる.一方海馬ではneurograninの発現は出生直後に高く,その後漸減した.このことから,大脳新皮質と海馬ではシナプス後膜の構造発達の時間経過が異なっている可能性が考えられる.

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6-3 霊長類における脳の領域形成及び神経回路形成に関する研究

高橋浩士(三菱化学生命科学研究所),大石高生(京都大・霊長研)

脳の領域化および神経回路形成について,げっ歯類では分子レベルで多くの知見が得られているが,霊長類ではほとんどわかっていない.特に霊長類では前脳から派生する終脳の複雑化が生じているが,領野形成と遺伝子発現の相関すらわかっていない.そこでげっ歯類で領域特異的に発現する分子のサル相同遺伝子が,幼若サル脳(生後1ヵ月以内)において,どのように発現しているかin situハイブリダイゼーションを用いて検討した.20種類の遺伝子プローブを用いて検討した結果,げっ歯類において領域特異的発現を示す遺伝子の相同遺伝子の多くは,サル脳においても機能的に相同とされる脳領域に発現していることが判明した.たとえば,ヒトの遺伝性の言語障害の原因遺伝子であるFOXP2は,サル,ラットとも大脳皮質,基底核,視床の一部のニューロンに発現しており,驚くほど似た発現パターンを呈していた.また大脳皮質の層特異的に発現する遺伝子のうち解析に用いたいくつか(Er81など)は,サル,ラットとも同じ層のニューロンに発現していた.一方大脳皮質の領野或いは基底核の亜核に特異的に発現する遺伝子に関しては,サル,ラット脳での発現に不一致も散見された.今後さらに多くの遺伝子について詳細な検討を加えるつもりである.

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6-4 サルにおける成長ホルモンとその関連因子の機能解析

片上秀喜(宮崎大・医),清水慶子(京都大・霊長研)

グレリンは摂食とGH分泌促進作用を有する消化管ホルモンで,広く種属を超えて存在するが,その標的臓器はいまだ明らかではない. 今回,私共はヒトにおけるグレリンの分泌調節と生理作用をさらに明らかにするため,ヒトと近縁のマカクザルを用いて,血中および髄液中グレリン分泌動態とその分泌源について検討した.対象は成熟オスマカクザルで,食物負荷,胃全摘,グレリン末梢血内投与による血中および髄液中グレリン動態,GH分泌の変化と各臓器のグレリン含量について,既報のintactグレリン1-28の超高感度の免疫複合体転移測定法を用いて検討した.

血中グレリン値は,バナナ摂取後(5kcal/kg BW),ただちに低下し,摂取後60分で前値の36.0% に減少した.一方,低カロリー食物摂取群(0.05kcal/kg BW)では変化は見られなかった.ヒトグレリン末梢血内投与後,血中グレリン値は,速やかに上昇したのち,投与後60分にはほぼ投与前の値に戻った.一方,髄液中グレリン値は測定限界であった.さらに,胃全摘術後60分後の血中グレリン値は前値の1/20に低下した.また,グレリン含量は胃,とくに胃体部に多く,視床下部や大脳皮質では測定限界以下であった.グレリン陽性細胞は胃粘膜層に多く見られ,大脳皮質,視床下部と下垂体には見られなかった.

以上の成績から,グレリンはマカクザルにおいても強いGH分泌作用を持つことが明らかとなった.さらに,マカクザルにおける末梢中グレリンの主な分泌源は胃体部と考えられること,摂食により血中グレリンは変化するが,胃への機械的刺激によるものではないこと,血中intactグレリンは血液脳関門を通過し難いことが示唆された.

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6-5 霊長類の各種の組織の加齢変化

東野義之・東野勢津子(奈良県立医科大・第一解剖)

加齢に伴いヒトの組織に生じるCa,P,Mgなどの蓄積が種や歩行法と関係するか否かを明らかにするため,ヒトと歩行法が異なる四足歩行のサルの組織の元素含量の加齢変化を調べた.日本ザルと赤毛ザルの雄5頭と雌2頭の計7頭を用い,年齢は1ヶ月から28歳である.日本ザルと赤毛ザルより踵骨,椎間円板,後縦靱帯,膝十字靱帯,アキレス腱,視神経,三叉神経,橈骨神経,脊髄,胸・腹大動脈を採取し,灰化の後,元素含量をプラズマ発光分析装置(ICPS-1000Ⅲ,島津製)で定量し,次のような結果が得られた.

1. 日本ザルの椎間円板のca含量は頚椎の椎間円板が最も高く,胸椎,腰椎の順に低い.この結果はヒトの場合と同一である.

2. 若い日本ザルの椎間円板のca含量は,ヒトと比較すると,頚椎,胸椎,腰椎の椎間円板のいずれも2倍以上である.

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6-6 老齢ザルにおける認知機能の変化

久保南海子(愛知みずほ大)

本研究は,加齢にともなう学習能力の変化を検討するために,位置再認の学習セットの形成と長期記憶について,老齢ニホンザル(4個体,24-25歳齢)と若齢ニホンザル(3個体, 4-8歳齢)を対象に調べた.課題にはDelayed Non Matching to Position課題を用い,原学習および6種類の連続転移学習をおこなった.老齢ザルと若齢ザルはともに,課題数の増加にともなって獲得に要する試行数は減少した.老齢ザルも位置再認の学習セットを形成できることが明らかになった.しかし,その形成に要した課題数は若齢ザルよりも老齢ザルの方が多かった.ルールは等しいが文脈要因が新奇な事態での老齢ザルは,若齢ザルよりも多くの試行数を要して新たな学習が必要であることがわかった.次に,原課題と同一の位置再認課題を4ヶ月後にふたたびおこなったところ,その成績には低下はみられず年齢群間での差もなかった.これらの結果は,加齢にともなう学習能力の変化が,課題の構造についての個別的な刺激を超えたレベルでの理解ではなく,個々の課題での実験文脈への依存として顕在化してくることを示唆する.そして,文脈さえ変化しなければ,老齢ザルは一度学習した課題のルールを,長期にわたって保持していることがわかった.

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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会