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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2003年度 > X 共同利用研究 2. 研究成果-計画研究4 「サル類疾患の生態学」

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.34 2003年度の活動

X 共同利用研究

2 研究成果 計画研究4 「サル類疾患の生態学」

4-1 サルのストレス関与酵素系に関する基礎的研究

手塚修文(名古屋大・理),東濃篤徳(名古屋大・人間情報)

本研究はサル類ストレスの基礎的研究としてニホンザルを用いてBiP(immunoglobulin heavy-chain binding protein),Crt(calreticulin),PDI (protein disulfide isomerase)のcDNAクローニングと構造解析,組織での遺伝子発現解析をおこなった.

成果1:サル類で始めて小胞体ストレスタンパク質の主要な3成分のcDNAクローニングに成功した.翻訳したアミノ酸配列ではいずれの成分もN端部シグナルペプチド,C端部KEDL配列を持ち典型的な小胞体タンパク質であった.またストレスタンパク質のヒトあるいは他動物との共通している部分,異なる部分も明らかにした.マウスなど幾つかの他の哺乳類とは90%前後の相同率であったがヒトとの相同性は極めて高く98~100%であった.

成果2:ストレス遺伝子の哺乳類での分子系統樹を作成し,霊長類を含めた分子進化を明らかにした.いずれの系統樹でもニホンザルーヒト間の強い近縁性が示された.また哺乳類の分岐については様々な仮説があるが,今回得た3成分遺伝子を用いる進化解析の有用性について検討した.

成果3:組織での遺伝子発現をノーザン分析法で明らかにした.BiPは腎臓,副腎,肝臓で比較的よく発現し,PDIは肝臓,副腎,腎臓と腸で発現していた.両者の発現が組織で偏りが見られるのに比べ,Crtは組織全般に均等に発現する傾向にあった.BiPやPDIの発現が小胞体の発達した胃や膵臓で比較的弱かったことは,これらの組織ではBipやCrtとは異なるストレスタンパク質の存在を予想させ,小胞体ストレス系の組織多様性が示唆された.

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4-2 サル類における腫瘍性病変の特性ニホンザルの胃癌の1例-サルでは胃癌は噴門部に好発するのか?-

柳井徳磨・加藤朗野(岐阜大・獣医病理),後藤俊二(京都大・人類進化モデル研究センター)

胃癌はヒトにおいて比較的発生の多い癌の一つであり,胃体部での発生が最も多く,噴門部での発生は少ないとされている.ヒトと多くの共通点を有するサルにおいては,胃癌に関連した報告は極めて少ない.今回,ニホンザルの噴門部に発生した胃癌に遭遇した.その組織学的特徴を明らかにし,サル類における胃癌の好発部位について考察した.

症例はニホンザル,18.6歳,雄.死亡する約1年前から不定期に嘔吐を繰り返し,次第に削痩した.死亡する約2週間前からは頻回に嘔吐し,著しい食欲低下を示した.肉眼的には,食道-胃接合部に直径約2cm大の腫瘤が認められ,噴門部は著しく狭窄していた.腫瘍表面は,高度な潰瘍を示した.腫瘤部は周囲粘膜から不規則に隆起するが,正常部との境界は不明瞭であった.

組織学的には,噴門部で胃粘膜は広範囲な糜爛および潰瘍を示し,潰瘍底を中心に大型の核を有する未分化な癌細胞が小型癌胞巣を形成しつつ粘膜筋板を越えて筋層へ,さらに漿膜付近にまで高度な浸潤を示していた.癌細胞の核は大小不同を示し,核仁は明瞭,分裂像もしばしば認められた.癌細胞は稀に腺管様構造を形成しており,その構成細胞ではアリューシャンブルー・PAS染色にて陽性を示す粘液が認められた.また一部の腫瘍細胞は扁平上皮様分化を示していた.

本症例は発生部位および形態学的特徴から噴門部原発の胃腺癌と診断された.報告者らは,過去にBrazza's guenonの胃噴門部に原発した胃癌を報告している1).その症例では腫瘍細胞の腺管様形成が顕著であった.また,サル類では過去に3例の胃癌(腺癌1例,扁平上皮癌2例)が報告されているが,いずれも噴門部で発生している.サル類では,胃癌は噴門部に発生する傾向がみられるが,その原因は明らかでない.

1)Yanai T, Noda A, Sakai H, Murata K, Hama N, Isowa K, Masegi T;

Advanced gastric carcinoma in a de Brazza's guenon(Cercopithecus neglectus

J. Med. Primatol 1997; 26: 257-259

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4-3 T細胞分化過程におけるレトロウイルス感染と分化異常の解析>

速水正憲,伊吹謙太郎,大倉定之,鈴木元(京都大・ウイルス研・霊長類モデル研究領域)

今年度は昨年度に引き続き,供与された正常アカゲザル胸腺を用いて,immature thymocyte (CD3-/4-/8-)からmature thymocyte (CD3+/4+/8+)に分化・増殖させるxenogenic monkey-mouse fetal thymus organ culture (FTOC) systemの系の評価を行うと共に,その場にウイルス外皮糖タンパクであるgp160が存在した場合に分化・増殖に影響を及ぼすのかどうか検討を行った.供与された胸腺は1ヶ月令から1歳令の若齢アカゲザル3頭分であり,何れもxenogenic monkey-mouse FTOC systemで培養11日目で約35%がmature thymocyteに分化し,14日目には約70%でmature thymocyteに分化・増殖する事が確認できた.これは昨年度の結果と同様であり,この系で再現良く分化・増殖過程を観察出来ることが示された.また,gp160をこの培養系に加えたところ,培養11日目でmature thymocyteが25%,14日目でも64%と低い値を示し,分化が抑制されていた.このことは,ウイルスが未分化なT細胞の分化を障害する可能性を示唆するものである.今後はこの系を用いてウイルス感染による胸腺細胞の分化・増殖過程への影響を検討していきたい.

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4-4 ニホンザルのBウイルス感染の血清学的レトロスペクティブ検査

佐藤浩,大沢一貴(長崎大・先導生命科学研究支援センター),景山節(京都大・霊長研・人類進化モデルセンター)

Bウイルス(BV; Cercopithecine herpesvirus 1)に近縁のヒヒヘルペスウイルス(HVP2)抗原が抗BV抗体検出に有効であることを報告し(1999),このELISAキットを開発してきた.1999~2002年の3年間に,霊長研より送付されたマカク血清432検体(1999年:15検体,2000年:157検体,2001年:149検体,2002年:111検体)についての検査を纏めて報告する.

【材料と方法】

検査材料: -80℃で凍結保存されたマカク血清432検体.抗原: HVP2をvero細胞に感染させ,回収,可溶化後の遠心上清をウイルス抗原液とした.反応と発色: 96穴プレートに抗原をコートし非乾燥抗原プレートとした.発色にはビオチン化抗ヒトIgG,アビジン・ビオチン化ペルオキシダーゼによる増幅を介し,OPDを基質として発色,硫酸で停止,吸光度(492nm)を測定した.

【結果】

陽性:88,陰性:340,不定:4となり,陽性率は20%(88/432)だった.霊長研での検査結果と比較すると,1999年には14検体で判定は一致し([+]: 3, [-]: 11),[+]1検体が長崎大では[-]と判定した.2000年は157検体のうち156検体で一致([+]: 38, [-]: 118),1検体が[±]>[-]だった.2001年は149検体のうち145検体で一致([+]: 24, [-]: 121),4検体([-]>[+]: 1, [-]>[±]: 3)でギャップが見られた.2002年の結果は,結果不安定のため比較できなかった.

【考察】

検査結果にギャップの認められた血清は 1.8% (6/321)であった.ラボ,検査者,抗原プレート(キットと非乾燥)が異なることを考慮すると,安定した試験結果であったと考えられる.スクリーニングには,「感染の疑わしき個体を見逃さない」ことが最低の必須条件と捉え,今後のキット開発に活かしていきたい.

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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会