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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2003年度 > IX MBRの活動

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.34 2003年度の活動

IX MBRの活動

マカクザルバイオリソースプロジェクト(MBR)について

霊長類研究所では,人類進化モデル研究センターを核とし,豊かな環境でサル類の繁殖・保全を含む総合的な研究を進める拠点として,リサーチリソースステーション(RRS)の建設構想を推進している.その前段階として,全国的な研究用ニホンザル繁殖センターを作る文部科学省のナショナルバイオリソースプロジェクト(RR2002)に参加し,野生ザルを保全しつつ透明な研究用サル類供給システムを確立する事業に協力している.

アメリカは1960年代から研究用サル類の繁殖体制の整備を進め,現在全国で8箇所のナショナルセンターを中心に年間数千頭の繁殖(主としてアカゲザル,カニクイザル)を行って研究者に供給している.それに対してわが国は,国内に野生のニホンザルが生息するため,研究用サルを野生捕獲個体に依存することが続き,サルの国内繁殖・供給体制が未整備であった.使われるニホンザルは殆んどが有害鳥獣駆除個体であるため,“研究利用”が捕獲の名目に使われる恐れがあり,また関係法令を守らない仲介業者の介在を招く懸念も指摘されてきた.そのため,文部科学省は2002年にスタートさせたナショナルバイオリソースプロジェクトの中で「マカクザルバイオリソース計画(MBR)」を採択し,岡崎の生理学研究所が中核機関となって,研究用サル(特にニホンザル)の国内繁殖・供給体制の整備を進めている.

本研究所は早くから研究用サル類の自家繁殖体制を整備し,1980年代以降は外部からのサル導入に依存しないシステムをとっているが,これを日本全体に拡充する必要がある.本研究所は,霊長類学の適切な発展をめざすものとして,野生ニホンザルの保全や生命倫理の啓発を推進するため,この事業に積極的に協力している.

このMBR事業では,日本各地の研究者グループと面談して研究に最低限必要なニホンザルの必要頭数を割り出し,繁殖目標を設定するとともに,供給の際に適用するガイドラインを策定した.また,母群を導入して実際の繁殖を開始している.これらMBR事業の目的や概要を広く社会に説明するため,2003年11月と2004年3月にシンポジウムを開催した.

霊長類研究所におけるMBR事業は,大規模放飼場の設計や管理の問題点を検討するモデルプランとして,本研究所が構想している,豊かな環境でサル類の繁殖・保全を含む総合的な研究を進めるリサーチリソースステーション(RRS)建設に向けた実証事業の性格も持っている.2003年には各々4~5千㎡の面積を持ち,樹木や小川などのある豊かな環境の新放飼場三区画が完成し,繁殖目的でのサル飼育も始めた.ここでは東大演習林と共同でサル飼育と植生保存に関する基礎研究も行っている.

新放飼場は樹木や草本および表土などを保存し,池や小川を配置するなど,サルの飼育環境をできるだけ豊かにする工夫をこらしている.そのために,場内に自生する樹木に加えて丸太を組み合わせたジャングルジムを多数設置し,サルの休み場の提供と樹木への加害軽減を試みている.また,大掛かりな土木工事を避けて通風をよくするため,鉄筋コンクリート製ではないパネル方式の新フェンスの開発も行った.研究機関としては異例の,サル飼育の概念を全く変える新たな施設として,関係者の注目を集めている.

(文責:松林清明)

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