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VI. COE形成基礎研究費


2. COE国際シンポジウム及び その他の学術集会

第2回COE国際シンポジウム「類人猿の進化と人類の成立
  
  このシンポジウムは,1999年11月に開催された第1回COE国際シンポジウム「類人猿の進化と人類の成立」(第2回サガ・シンポジウムと共催)のフォロウ・アップのシンポジウムとして企画実行されたものである.また,同名の研究課題のもとに,平成10-14年度に文部省(現,文部科学省)の支援を受けて実施された5年間にわたる研究プロジェクト(代表者:竹中修)が,この2つのシンポジウム開催の基盤となっている.
この「類人猿の進化と人類の成立」研究プロジェクトは,最初の4年間はCOE(Center of Excellence)拠点形成基礎研究として位置づけられ,最終年度だけ特別推進研究と位置づけられた.京都大学霊長類研究所ならびに京都大学理学研究科に所属する,類人猿およびヒトの進化を主たる研究テーマとするスタッフを中心として,その研究組織が構成された.4つの大きな研究領域からなっている.1)社会・生態,2)形態・古生物,3)認知・脳科学,4)分子・遺伝の4領域である.こうした学問分野は多岐にわたるが,「霊長類の進化を明らかにし,人類の起源を考察する」という霊長類学の根本的な課題と関連している.類人猿研究を前面に押し出したものだが,他の霊長類との比較研究もまた人類進化の解明には必須であるため,それらを対象とした研究も広く推進された.またこうした学術的研究の推進だけでなく,動物福祉や野生保全の試みと提携し,それらを強力に支援する研究プログラムだったといえる.本シンポジウムは,基盤となる研究プロジェクトがもつ上述の性格を反映し,上記の4つの研究領域からの研究発表がなされた.その招待講演者による口頭発表のセッションについて,日を追って内容を概説する.


○11月15日(金)
<第1セッション>文化,座長:古市剛史

  エリザベス・ランズドルフがゴンベの野生チンパンジーのシロアリつり行動の発達について,中村美知夫がマハレの野生チンパンジーの文化的伝統としての毛づくろい行動とそこにおける「積極的教示」の可能性について,リチャード・ランガムが「ホールバック・フード」という概念の提唱と人類における料理の起源について話題提供をおこなった.野生チンパンジーの長期調査基地であるゴンベ,マハレ,キバレからの報告で,野生チンパンジーの文化についての最近の研究成果を聞くことができた.

<第2セッション>DNA,座長:斎藤成也
  スバンテ・ペーボが「比較霊長類ゲノム学」について,榊佳之が「われわれ自身を知るためのチンパンジー・ゲノム・プロジェクト」について話題提供した.マックスプランク進化人類学研究所のゲノム科学のリーダーであるペーボは,その同僚と共に,2002年のサイエンス誌の論文で,ヒトとチンパンジーの遺伝子発現を臓器別に比較したとき,脳でその差が大きいことを見出した.榊は,ヒトゲノム解読計画の日本のリーダーであり,ポスト・ヒトゲノム研究としてのチンパンジー・ゲノム研究の重要性を指摘した.洋の東西を代表するゲノム研究者による講演で,大型類人猿を対象としたゲノム研究の魅力と将来展望が示された.

  
上記のセッションとサンドイッチにされるかたちで3つのポスターセッションがおこなわれた.各演題に5分間の口頭発表の時間が割り当てられた.田中正之が司会した12演題,ジョエル・ファゴーが司会した12演題,大石高生が司会した18演題があった.この第1日目の最後に,前日開催されたサテライト・シンポジウムである第5回サガ・シンポジウムとの共催で,ジェーン・グドールによる「野生チンパンジーの親子のきずな」にかんする特別講演がおこなわれた.この一般講演には,犬山市など地元の方々,高校生や中学生も参加しており,類人猿研究への感心を高める役割を果たしたと思われる.

○11月16日(土)
<第3セッション>認知,座長:藤田和生

 
 ジョゼップ・コールが「類人猿における自然的因果の理解」,友永雅己が「チンパンジー幼児における視線の認知の発達的変化」について話題提供した.それに続いて,ブライアン・ヘアが,ヒトとチンパンジーが競合する「物を隠す場面」でチンパンジーが見せる欺きのテクニックを紹介した.ヨハン・バースは,大型類人猿4種(チンパンジー,ボノボ,ゴリラ,オランウータン)を対象にした認知実験で種差ならびに個体差を測る研究の展望を述べた.最後に,平田聡が,チンパンジーの母親が習得した道具使用(ハチミツなめ)の技術が,子どものチンパンジーに,いつ,だれからだれへ,どのようにして伝播するのかを実証した研究例を紹介した.マックスプランク進化人類学研究所での研究3題と,京大霊長類研究所での研究2題が,互いに切磋琢磨し響きあうような発表だった.

<第4セッション>脳科学,座長:林基治

  
ジョゼフ・アーウィンが,チンパンジーを対象とした加齢研究あるいは加齢とともにあらわれる機能障害の研究について紹介し,そうした研究が類人猿の飼育や福祉や研究倫理という視点でも重要だという指摘をした.カテリーナ・セメンデフェリは大型類人猿の脳の形態学的・比較解剖学的な研究の現状を紹介した.三上章允は,色盲について(マカクのプロタノピアとチンパンジーのプロタノマリア)の研究を紹介した.

<第5セッション>ゴリラ,座長:山極寿一

  
リンダ・ビジラントは,「野生類人猿個体群の進化的ダイナミクスを非侵襲的ゲノム科学的解析によって考察する」という題で話題提供した.マーサ・ロビンスは,「ゴリラの行動と生態の多様性」と題した講演で,とくにマウンテン・ゴリラの長期継続研究の研究成果を総括した.エンマ・ストークスは,「コンゴのムベリ・バイにおけるニシローランドゴリラの社会生態学:種間の多様性とそれがもつ野生保全への適用課題」と題して話題提供した.座長の山極のゴリラ研究とあわせると,マウンテンゴリラ,ヒガシローランドゴリラ,ニシローランドゴリラのそれぞれの研究の最前線が語られるとともに,野外調査にもとづくゲノム研究の重要性と展望が如実に示された.
  上記のセッションとサンドイッチにされるかたちで2つのポスターセッションがおこなわれた.各演題に5分間の口頭発表の時間が割り当てられた.中道正之が司会した12演題,平井啓久が司会した12演題があった.この第2日目の最後には自由討論の場が設けられた.

○11月17日(日)
<第6セッション>化石,座長:石田英実

  
ブリジット・スニューが,「最も初期の人類:どこで,いつ,どのように」と題して話題提供した.スニューは化石人類オロリン・ツーゲネンシスの発見で知られる調査チームのリーダーである.ついで,諏訪元が「過去10年間における初期人類化石の発見:その形態学的証拠」と題して話題提供した.諏訪は,アダプシピテクス・ラミダス(アルディピテクス・ラミダス)の発見者の1人である.この2つの発表に対して,ディスカッサントとしてマーティン・ピックフォードが討論に加わった.座長の石田をあわせて,初期人類の化石研究の第一人者が一堂に会したセッションとなった.

<第7セッション>オランウータン,座長:マイケル・ハフマン

  
シェリル・ノットが,「ボルネオの野生オランウータンのオスにおけるテストステロンの相違と行動の相違,そして行動発達について」と題して話題提供した.ノットらのハーバード大学チームの長期継続研究の成果の一端が,貴重で鮮明な写真とともに迫力をもって語られた.ついで,スリ・スチ・ウタミ・アトモコがやはり野生オランウータンの性成熟の二重性について報告し,アンドリュー・マーシャルが「野生オランウータンの個体群密度における生態学的制約」と題して話題提供した.

<第8セッション>形態学,座長:木村賛

  
スティーブン・リーが「霊長類の生活史の進化」と題して話題提供した.ローラ・ニューエル・モリスは,ヒトの生活史と進化における初期の適応的移行を解明するうえで,身体成長や発達の研究がいかに寄与しうるかを紹介した.わかりやすい解説と興味深い諸データの提示があって,人類進化の解明において形態学的研究がもたらす知見の重要性を聴衆に強く印象付けた.最後に,濱田穣が,「ヒトの成長と発達のパターンの進化:チンパンジー研究の視点から」と題した話題提供をおこない,ニューエル・モリスの総説と相互に照応する興味深い資料を提出した.

<第9セッション>生態,座長:大沢秀行
  
マイク・ウィルソンが「キバレとゴンベにおける野生チンパンジーの集団間の攻撃行動」と題して話題提供した.ゴンベにおける隣接群の若者を完膚なきまでに攻撃するチンパンジーの行動がビデオで紹介され,会場に大きな衝撃を与えた.山越言は,ボッソウでの野生チンパンジー調査を素材に,「チンパンジーの道具使用の生態学:ホミニドならびにホミノイドの進化と関連して」と題して話題提供した.続いて,ジョン・ミタニが,ウガンダのキバレのンゴゴ群の野生チンパンジーにおける狩猟と肉の分配行動について報告した.狩猟と分配行動に関して圧倒的な量を誇るデータの蓄積をもとに説得力のある話題提供がされた.最後に,デイビッド・モルガンが,コンゴ共和国のグアロウゴ・トライアングルにおける最新の生態学的調査を紹介した.ここにはチンパンジーとゴリラの双方がすんでいる.直接観察とネストの調査から,個体数密度や生息地利用の実態が報告された.
  上記のセッションのあいまに,1つのポスターセッションがおこなわれた.司会は国松豊.これも各演題に5分間の口頭発表の時間が割り当てられた.この第3日目の最後にはサヨナラ・パーティーが催された.
  まる3日間の,質量共にたいへん充実した国際シンポジウムだった.サテライトのサガ・シンポジウムを含めるとまる4日間にわたって,国内外の大型類人猿研究の多様な広がりと深さを垣間見ることのできる稀有な機会となった.外国人参加者46名,日本人参加者約120名だった.「類人猿の進化と人類の成立」と題した2つのシンポジウムを比べてみると,第1回(1999年)では,それぞれの野外研究や飼育研究のサイトを主宰するすでにエスタブリッシュした研究者から,大所高所からの総説的な講演がおこなわれた.それに対してこの第2回(2002年)では,現在,研究の最前線で活躍する30歳台のポスドクを含む若手研究者からの話題提供が中心だった.きわめて躍動感のある興味深い講演が多かった.それらに混じる形で組み入れられたエスタブリッシュした研究者の講演も,永年の蓄積から初めて見えてくる視点を提供していた.
  前回のシンポジウムにない本シンポジウムのもうひとつの特徴は,発展途上国からの若手研究者を多数招聘したことである.6つのポスターセッションにおいて,総計78演題の発表があった.各5分間という時間の限られた短い講演だったが,いずれも興味深いテーマが熱く論じられた.合計6時間半に及ぶ口頭での説明と,大会期間中展示されたポスターとによって,ポスターセッションが重要な発表の場として機能していた.以下に,招聘された外国人参加者の氏名と国名・所属を掲げる.
  外国人参加者リスト:S. Paabo ドイツ・マックスプランク研究所,J. Callドイツ・マックスプランク研究所,M. Robbinsドイツ・マックスプランク研究所,L. Vigilantドイツ・マックスプランク研究所,R. Wrangham アメリカ合衆国・ハーバード大学,B. Senut フランス・フランス自然史博物館,K. Semendeferi アメリカ合衆国・カリフォルニア大学,J. Mitaniアメリカ合衆国・ミシガン大学,C. Knottアメリカ合衆国・ハーバード大学,J. Erwinアメリカ合衆国・メリーランド大学,C. Andreコンゴ共和国・AAC,S. R. Leighアメリカ合衆国・イリノイ大学,D. Shepherdsonアメリカ合衆国・オレゴン動物園, L. N. Morrisアメリカ合衆国・ワシントン大学,B. Hareアメリカ合衆国・ハーバード大学,E. Stokesコンゴ共和国・野生生物保護協会,E. V. Lonsdorfアメリカ合衆国・ミネソタ大学,D. Morganコンゴ共和国・ヌアバレ・ンドキ国立公園,J. Barthドイツ・マックスプランク研究所,A. Marshallアメリカ合衆国・ハーバード大学,S. S. U. Atomoko インドネシア共和国・ナショナル大学,M. Wilsonアメリカ合衆国・ミネソタ大学,H. M. Kim大韓民国・プサン大学,D. S. Kim大韓民国・プサン大学,J. W. Huh大韓民国・プサン大学,K. W. Hong大韓民国・プサン大学,J. M. Yi大韓民国・プサン大学,A. M. Odaアメリカ合衆国・ラトガーズ大学,J. C. Choe大韓民国・ソウル国際大学,T. C. Raeドイツ・ダーハム大学,J. J. Elyアメリカ合衆国・ゲノム研究所,S. McFarlinアメリカ合衆国・コロンビア大学,C. Sherwoodアメリカ合衆国・コロンビア大学,D. Bovetフランス・パリ大学,M. Beranアメリカ合衆国・ジョージア州立大学,C. Sudaドイツ・マックスプランク研究所,Y. Su中華人民共和国・北京大学,W. Wongjutatipタイ王国・クラボック・クー野生生物繁殖センター,I. K. Junithaインドネシア共和国・ウダナヤ大学,W. Candramilaインドネシア共和国・ボゴール農科大学,D. P. Farajallah インドネシア共和国・ボゴール農科大学,H. Hyun大韓民国・韓国生命科学研究所,S. Agarwal カナダ・トロント大学,J. Taglialatelaアメリカ合衆国・ジョージア州立大学,S. Malaivijitnondタイ王国・チュラロンコン大学,M. Pickfordフランス・国立自然史博物館.
  本シンポジウムは,京都大学霊長類研究所と理学研究科・動物学教室の研究者が協力しておこなったCOE拠点形成研究「類人猿の進化と人類の成立」の棹尾を飾るにふさわしい質量をもった国際シンポジウムとなった.関係各位のこれまでのご尽力・ご支援に深く感謝したい.とくに,今回のシンポジウムについては,かくも多数の外国人研究者の招聘にあたって,COE関連事務室ならびに研究所事務室の職員の方々には並々ならぬご協力をいただいた.記して感謝するとともに,深く御礼申し上げたい.
(文責:竹中修)


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第5回サガ・シンポジウム
「Zoo as Liaisons」

日時:2002年11月14日(木)~15日(金)
場所:犬山国際観光センター「フロイデ」


  第2回COE国際シンポジウム「類人猿の進化と人類の成立」のサテライト・シンポジウムとして,第5回サガ・シンポジウムがその前日(11月14日)と第1日目の一部に重複するかたちでおこなわれた.今回は,「Zoo as Liaisons(リエゾンとしての動物園)」に焦点を当てたものである.動物園は,市民と野生を結びつけるメディアとして重要な役割を担っている,と位置づけた.つまり一般市民にとってみれば,類人猿をはじめとする野生動物とのリアルな関係を体験できる場は動物園であり,またそれは環境問題や動物福祉に対する関心を引き出せる場でもある.サガ(SAGA:大型類人猿を支援する集い,の英文略称)は,3つの原則を掲げてシンポジウム活動をおこなってきた.「野生の大型類人猿とその生息域を保全する」「飼育下の大型類人猿の生活の質(QOL)を向上させる」「大型類人猿を侵襲的な研究の対象とせず,非侵襲的な方法によって人間理解を深める研究を推進する」の3つである.こうした目標を達成するうえで,動物園は重要な存在であり,それをより良いものにするくふうが必要だと考えられる.動物園は,市民と動物をつなぎ,動物と自然をつなぎ,そうして市民と自然をつなぐリエゾンだといえる.そこで「リエゾンとしての動物園」に着目して,その教育的役割の可能性と,展示手法としての環境エンリッチメントについて検討することを目的とした.なお,こうした動物園を焦点としたセッションを補完するものとして,野生保全の試みについてのセッションも設けた.第5回サガ・シンポジウムの招聘外国人研究者は,クローディーン・アンドレ,デイビッド・シェパードソン,リチャード・ランガム,ティム・ラモンの4氏だった.
  第1セッションは「教育の場としての動物園」で,五百部裕(椙山女学園大学)を座長に4名の話題提供があった.とくに,コンゴでボノボを中心としたサンクチュアリを主宰しているクローディーン・アンドレ(les Amis des Animaux au Congo, AAC)から,大型類人猿のサンクチュアリを運営することの具体例の報告があった.他の話題提供者は,小田泰史(蒲郡市立形原北小学校),金森正臣(愛知教育大学),山本茂行(富山市ファミリーパーク)だった.
  第2セッションは「展示手法としての環境エンリッチメント」で,上野吉一(京大霊長類研究所)を座長に4名の話題提供があった.とくに,アメリカのオレゴン動物園で環境エンリッチメントを実践しているデイビッド・シェパードソンから,動物園における展示技術として不可欠の視点となった環境エンリッチメントの具体例について紹介があった.なおシェパードソンは「The Shape of Enrichment」と題された環境エンリッチメントを推進する団体(1991年に創立され,1996年から非営利企業NPCとなった)の創始者の1人として著名であり,この団体が同名の季刊雑誌を発行して環境エンリッチメントの推進役を果たしてきた.他の話題提供者は,黒鳥英俊(東京都多摩動物園),古市剛史(明治学院大学),若生謙二(大阪芸術大学)だった.
  第3セッションは,中村美知夫(日本モンキーセンター)と友永雅己(京大霊長類研究所)を座長に総合討論をおこなった.第4セッションは「野生保全」に焦点をあてた.座長は松沢がつとめた.まずリチャード・ランガム(ハーバード大学)が,大型類人猿の保全を進める「大型類人猿世界自然遺産種プロジェクト」について報告をおこなった.世界自然遺産種(World Heritage Species)とは,世界自然遺産や世界文化遺産にならって,貴重な動植物をユネスコの主宰する「世界遺産」として登録しようというアイデアである.日本の西田利貞やアメリカのランガムらが,国際霊長類学会の支援も受けて活動を展開している.その現状と展望の報告があった.この件については,さらに翌日にも討議が継続され,SAGAとしての支援の声明が出された.ランガムについで,ティム・ラマン(職業写真家)が,インドネシアの野生オランウータンをはじめとする豊かな動物相について,すばらしいスライド写真の数々をもとに報告をおこない,会場の聴衆を魅了した.
  第1セッションと第2セッションのあいだに,日本語によるポスター・セッション(1時間半)があった.全部で23件の発表があった.すべてのセッションの終了後に,COE国際シンポジウムと合同の懇親会が開かれた.翌15日の夕方に,毎回恒例となっているジェーン・グドールの講演会が,第2回COE国際シンポジウムと共同で開催された.
(文責:松沢哲郎)

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国際シンポジウム
「東アジアにおける霊長類の進化:アジア大陸における第三紀霊長類の進化」

「Asian Paleoprimatology: Evolution of the Tertiary Primates in Asia 」

日 時:2003年1月20日(月)~22日(水)
場 所:犬山国際観光センター「フロイデ」
参加者:約100名


<プログラム>
1月20日(月)13:45 ~17:00 「Paleogene Primates」
Chair: R.F. Kay (Duke Univ.) & N. Shigehara (Kyoto Univ.)

Opening Remark: N. Shigehara

○Ni Xijun (Institute of Vertebrate Paleontology & Paleoanthropology, China)
"A Skull of Teilhardina from the earliest Eocene of China"

○Maung Maung (Mandaley Univ., Myanmar)
"Stratigraphy and geologic age of the primate-bearing Pondaung Formation at Paukkaung area, Myanmar"

○M. Takai (Kyoto Univ.), T. Tsubamoto (Kyoto Univ.), N. Egi (Kyoto Univ.) & N. Shigehara (Kyoto Univ.)
"The Pondaung primates in relationship to the faunal transition during the middle/late Eocene in East Asia"

○J.-J. Jaeger (Univ. of Monpellier, France)
"The Importance of South Asia in the Evolution of Anthropoid Primates: Facts and Guesses"

○R. Tabuce (Univ. of Monpellier, France)
"New Middle Eocene primates and afrotheres from northwestern Africa and their contribution to the understanding of African-Asian faunal exchanges"

1月21日(火)9:30 ~12:00 「Primitive Catarrhines」
Chair: J.-J. Jaeger (Univ. of Monpellier) & M. Takai (Kyoto Univ.)

○R. F. Kay (Duke Univ., USA)
"The adaptations of Pondaungia and Amphipithecus, South Asian late Eocene Primate"

○K. C. Beard (Carnegie Mus., U.S.A.)
"Discovery of a new Clade of Asian Primates from the late Eocene of the Baise Basin (Guangxi Zhuang Autonomous Region, People's Republic of China): The Impact of Global Climate Change on Primate Phylogeny and Biogeography"

○T. Harrison (New York Univ., U.S.A.)
"The zoogeographic and phylogenetic relationships of early catarrhine primates in Asia"

○Pan Yuerong (Institute of Vertebrate Paleontology & Paleoanthropology, China)
"New material of small-sized primates from the Late Miocene of the Yuanmou, Yunnan"

1月21日(火)13:30 ~17:30「Asian Hominoids 1」
Chair: M. Pickford & Y. Kunimatsu (Kyoto Univ.)

○D. R. Begun (Univ. of Toronto)
"East is east and west is west: Relations among European and Asian Miocene hominids"

○B. G. Richmond (Gerorge Washington Univ., USA), J. Kappelman, & M. Maga
"Postcranial fossils of Ankarapithecus meteai and the evolution of hominoid locomotion"

○R. Patnaik (Panjab Univ., India) & D. Cameron
"Evolution and Extinction of Siwalik Fossil Apes: A review based on new palaeoecological and palaeoclimatological data"

○J. Kelley (Univ. of Illinois, USA)
"Late Miocene Asian hominoids and orangutan ancestry"

○S. Nelson (Univ. of Michigan, USA)
"The preferred habitats of Sivapithecus and paleoenvironmental changes leading to its extinction in the Siwaliks of Pakistan"

○Zhao Lingxia (Institute of Vertebrate Paleontology & Paleoanthropology, China)
"Study on enamel microstructure of Late Miocene hominoids from Yunnan of China"

1月22日(水)9:30 ~12:00 「Asian Hominoids 2 」
Chair: A. Uchida (Chiba Univ.) & Y. Kunimatsu (Kyoto Univ.)

○Y. Kunimatsu (Kyoto Univ.), B. Ratanasthien, H. Nakaya, H. Saegusa, & S. Nagaoka
"Hominoid fossils discovered from Chiang Muan, northern Thailand: The first step towards the understanding of the hominoid evolution in the Neogene Southeast Asia"

○M. Pickford & B. Senut
"Ape lower molars with chimpanzee- and gorilla-like features from the late Middle Miocene and late Miocene of Kenya: Implications for the chronology of the ape-human divergence and biogeography of Miocene hominoids"

○Vu The Long (Inst. of Archaeology, Vietnam)
"The Orangutan fossils in Vietnam"


1月22日(水)13:30 ~15:00 「Old World Monkeys」
Chair: M. Takai (Kyoto Univ.) & N. Shigehara (Kyoto Univ.)

○E. N. Maschenko (Russian Academy of Science, Russia)
"Evolutionary history of colobine monkeys in the Transbaikalian Province"


○N. G. Jablonski (California Academy of Science, USA)
"Forest Refugia and the Evolution of PrimatesDuring the Tertiary and Quaternary in East Asia"

○M. Iwamoto (Japan Monkey Center), Y. Hasegawa & A. Koizumi
"A Pliocene Colobine Skull from the Nakatsu Group, Kanagawa, Japan"

1月20日(月)~1月22日(水) ポスター発表
○Chit Sein & Thaung Htike
"The Late Cenozoic Irrawaddy Formation
(Myanmar) and its mammalian fauna"

○N. Egi, T. Tsubamoto, P. A. Holroyd, N. Shigehara& M. Takai
"Biogeography of hyaenodontid creodonts in
Paleogene Asia"

○E. Maschenko
"Review of the fossil primates of Eastern
Eurasia (Russia and adjacent territories)"

○H. Nakaya, H. Saegusa, B. Ratanasthien, Y. Kunimatsu, S. Nagaoka, P. Chintaskul, Y. Suganuma & A. Fukuchi
"Neogene mammalian biostratigraphy and age of fossil ape from Thailand"

○N. Shigehara, M. Takai, T. Tsubamoto, T. Nishimura & N. Egi
"Structure of the two maxillae of
Pondaungia cotteri from central Myanmar"
○T. Tsubamoto, M. Takai, N. Egi & N. Shigehara
"Reevaluation of the Eocene anthracotheres (Mammalia; Artiodactyla) from the Pondaung Formation, Myanmar"

○A. Koizumi
"Faunal change from the late Pliocene Colobine Monkey bearing marine strata (Kanzawa formation) to the Canid bearing strata near the Plio-Pleistocene boundary (upper part of the Kasumi formation, Kazusa Group), Western Tokyo, Japan"

  アジア大陸を舞台にした第三紀の霊長類の進化は複雑なプロセスを示している.始新世後半に始まる地球規模での大規模な気温変動は大陸内部の植生の変化をもたらし,熱帯・亜熱帯地域を主な生息域とする霊長類の分布域を大きく変動させた.また地球表面のプレートの移動に伴い,アジア大陸が北米・ヨーロッパ・アフリカなどの他大陸と連絡・隔離を繰り返し,霊長類を含む陸上性動物はこういった大陸同士の配置に応じて大陸間の移動を繰り返してきた.こういった地球上の大規模な環境変動が,アジアの霊長類の進化を左右してきた.
地質時代における霊長類の進化についての知見は,ここ10年ほどで格段に発展しつつある.アジア各地では古生物学的な発掘調査がすすみ,霊長類の化石が次々と見つかっている他,地質学・古植物学・古気候学などの研究により,古環境の復元が進められつつある.こういった化石記録に基づく形態学的解析と,古生物学的な立場からの古気温・古動物相・大陸配置といった古環境の解析が組み合わさることにより,アジア大陸の古霊長類学が進展しつつある.
本シンポジウムでは,こういった第三紀(約6500?180万年前)のアジア大陸における霊長類の進化に関して,国内外から多くの専門家を招待して総合的な討論を行った.今回のシンポジウムはあまり大規模ではなく,また講演者もアジア各地の第三紀の化石霊長類の研究者に絞ったので,参加者間の興隆も非常に親密であり,議論も活発に行われた.特に発展途上国からの参加者と先進国の研究者との交流がすすみ,現在の各分野での研究の進展具合の紹介や今後の共同研究プロジェクトの提案が行われていた.アジア地域の研究者の交流の場として,非常に有意義なシンポジウムであった.
今回のシンポジウムでは,それぞれ独自に行われていたアジア大陸各地の化石霊長類に関する研究成果が発表され,大陸全体における霊長類の進化プロセスに関する理解が飛躍的に高まった.参加者の間ではこういったアジア大陸の古霊長類学のシンポジウムを今後も定期的に開くべきだという意見も聞かれた.また他大陸との関連性を追求するために,もっと大規模な古霊長類学への発展をめざすべきだという意見も聞かれた.
講演者は外国人研究者が19名(内,海外からの招へい者17名),日本人研究者が3名であった.会議に参加した人数は国内研究者が49名,外国人研究者が20名,合計69名であった.全部で5つのセッションに分け,計22題の話題が提供された.この他に3日間を通じたポスター発表があり外国人2名,日本人2名が発表していた.参加者は合計約60名であった.
本シンポジウムの企画・運営は茂原信生,高井正成,Michael A. Huffman,本郷一美,國松豊の5名が中心となって行った.また実行に当たっては系統発生分野及び形態進化分野の大学院生や研究生,事務担当者の多大な協力を得た.ここに深く感謝したい.なお,本シンポジウムの内容は,Anthropological Science誌でProceeding集として印刷される予定である.
(文責:高井正成)


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第32回ホミニゼーション研究会
-太陽系・地球の進化から人類の進化まで-


第一部 犬山市市民公開講演会

日時:平成15年3月13日(木)
場所:犬山国際観光センター「フロイデ」


概要
第一日は一般公開の講演会を行った.竹中代表がこのプロジェクトの概要を紹介した後,宇宙や太陽系の起源の時間スケールの中で,地球の歴史,生命の誕生,生命の多様性の実現,人類の誕生に至る壮大なスケールの話題を取り上げた.太陽系と地球の起源の話題では,隕石の衝突によって生命誕生のきっかけが作られたとする仮設が紹介され,生命の多様性の問題では,遺伝子の多様性が生物の多様性に先行して既に実現していたことが紹介された.人間性の由来の話では,チンパンジーの生活に人間性につながる行動様式が数多く観察されることがビデオ上映によって紹介された.また,大脳皮質の進化の話では,高等な霊長類は大脳新皮質が拡大することによって高次の脳機能を獲得したことが紹介され,大脳新皮質が学習などの環境条件で変化することのデモが行われた.多数の市民の参加があり,講演の後,質疑応答も行われた.
(世話人:竹中修,三上章允,大澤秀行,相見満)

<プログラム>
竹中修(京都大・霊長研)
「今回のCOE研究の目指したもの」
三上章允(京都大霊長研)
「脳の世界」
松井孝典(東京大・新領域)
「太陽系と地球の起源と進化」
宮田隆(京都大・理)
「分子でたどる生物の歴史-動物の爆発的多様性の獲得-」
西田利貞(京都大・理)
「人間性の由来」

第二部 特別推進研究(COE)5ヵ年成果報告会

日時:平成15年3月14日(木),15日(金)
場所:京都大学霊長類研究所1階大会議室


○3月14日(木)
社会生態
下岡ゆき子:京都大学霊長類研究所
「クモザルの遊動行動-チンパンジーとの比較」
座馬耕一郎:京都大学理学研究科
「チンパンジーの毛づくろい相手による除去的行動の差異」
古市剛史:明治学院大学
「ボノボの生態は何を語るか:研究の現状と展望」
橋本千絵:京都大学霊長類研究所
「カリンズ森林のエコツーリズム計画の進行状況について」
山極寿一:京都大学大学院理学研究科
「類人猿の比較から人間性について何がわかるか」

形態古生物
相見滿:京都大学霊長類研究所
「ニホンザルの出産季の変異」
茂原信生,高井正成,江木直子,鍔本武久:京都大学霊長類研究所「系統発生分野の5カ年の研究(その2)」
菊池泰弘:佐賀医科大学 解剖学講座
「チンパンジー,ヒト,マカクにおける骨内部特性値の比較」
中務真人:京都大学大学院理学研究科 動物学教室
「人類の誕生:化石研究の展望」
茶谷薫:京都大学霊長類研究所
「草原生活は二足歩行を促進したのか-パタスモンキーの二足立位行動の定量的研究」
濱田穣:京都大学霊長類研究所
「ホミノイドを中心とする形態学・古霊長類学的研究のトピックス」

○3月15日(金)
脳認知科学

林基冶:京都大学霊長類研究所
「大型類人猿の前部帯状回におけるスピンドル細胞について」
田中正之:京都大学霊長類研究所
「チンパンジー発達研究への新たな試み-3組のチンパンジー母子の発達研究プロジェクト-」
打越万喜子:京都大学霊長類研究所
「アジルテナガザルの行動発達-最初の4年間-」
加藤啓一郎:京都大学霊長類研究所
「報酬及び嫌悪刺激の予期に関わるサル前部帯状回の神経細胞活動」
三上章允:京都大学霊長類研究所
「MRIによる類人猿の脳研究」 

分子遺伝学
田代靖子:京都大学霊長類研究所
「フィールドサンプルの遺伝子解析の問題点-解決法はあるか-」
景山節:京都大学霊長類研究所
「霊長類におけるペプシノゲン遺伝子の分子進化」
井上-村山美穂:岐阜大学農学部 
「霊長類の神経伝達関連遺伝子の多様性」
清水慶子:京都大学霊長類研究所
「尿中ホルモン動態から見た類人猿の繁殖特性」
岡輝樹:森林総合研究所 東北支所
生物多様性研究グループ
「大規模火災後に見られたテナガザル家族群なわばりの崩壊と再成立の過程」
Heui-Soo Kim 1 and Osamu Takenaka 2
「Molecular Phylogeny and Evolution of
Retroviral Elements in Primates」
1 Division of Biological Sciences, College
of Natural Sciences, Pusan National
University, Pusan 609-735, Korea,
2 Department of Cellular and Molecular
Biology, Primate Research Institute
(文責:三上章允)

第2回COE国際シンポジウム「類人猿の進化と人類の成立」第5回サガ・シンポジウム「Zoo as Liaisons」
国際シンポジウム「東アジアにおける霊長類の進化:アジア大陸における第三紀霊長類の進化」
第32回ホミニゼーション研究会―太陽系・地球の進化から人類の進化まで―


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