京都大学霊長類研究所 > 2015年度 シンポジウム・研究会 > ニホンザル研究のこれまでと、今後の展開を考える・要旨

多雪地生態系におけるニホンザルの役割を考える:白神山地を事例に

 

江成広斗(山形大学農学部)

 

世界有数の豪雪という気象条件、更には過去の乱獲により、東北日本海側における大型哺乳類各種の分布や個体数密度は限定的である。そうした多雪地域において、ニホンザルは比較的広く分布し、白神山地に北東北最大規模の残存個体群がみられる。本発表では、多雪地生態系の生物多様性維持につながる生態系プロセス(生物間相互作用)に着眼し、その中でニホンザルが果たす機能の定量評価を目指したこれまでの成果と今後の展望を紹介する。

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奥多摩の野生ニホンザルの長期研究の試み

 

島田将喜(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)

 

私は帝京科学大学の有志学生とともに、2013年度から東京都奥多摩の野生ニホンザルの群れ「山ふる群」の人付けを試み、基礎的情報の収集を継続している。日本本土における純野生ニホンザルの群れの人付けおよびその生態学的・社会学的研究の進展は、日本霊長類学の悲願である一方、本土であるがゆえに将来にわたり対象群のおよぼす猿害の可能性に対しては持続的に適切に対処する必要がある。本研究会では、調査地の特性や調査対象群についてこれまでに明らかになってきた結果、そして猿害と周辺住民や自治体の対応について紹介し、その問題点、可能性等について議論したい。
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高知県におけるニホンザルの研究と課題

 

葦田恵美子(四国自然史科学研究センター)

 

2011年より高知県に生息するニホンザルの群れを対象とした調査・研究を行っている。常緑広葉樹林が広がる高知県において、サルの分布状況や密度、および食性等の基本的情報を蓄積することは、全国的にみても常緑広葉樹林に生息するサルを把握するうえで基盤となると考えられる。本発表では、これまでに取集した情報を紹介するとともに、今後の課題についてお話ししたい。
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長期調査から見えてくるもの〜常駐職員の視点から〜


鈴村崇文(京都大学野生動物研究センター)

 

幸島では1948年から現在まで継続して野生ニホンザルの調査が行われており日本国内でも最長の部類の調査期間を持つ調査地である。1968年からは常駐の職員を配置しており生死年月日をはじめ体重や群の構成などより詳細なデータが記録されている。研究開始当初の1952年から2014年までの記録から個体数変動や出産率、初産年齢など出産に関わるパラメーターの変化を分析し考察を行う。
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中部山岳地域のニホンザルの分布と遺伝子モニタリング


赤座久明(富山県自然博物園ねいの里)

 

1978年から、北アルプス黒部川流域に生息するニホンザルの調査を行い、山岳地帯を流れる河川に沿った、群れの連続分布の状況が明らかになった。これらの群れの由来を探るため、mt-DNAの変異に注目して中部山岳地域に生息する群れの遺伝子分析を行ったところ、系統的に近縁な集団が、各地域の河川に沿って特異的に分布することが分かった。近畿から中部地方にかけて広域的に分布する集団に注目して、予想される分布拡大の経過を検討したい。
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高崎山ニホンザルの生物経済


杉山幸丸(元京都大学霊長類研究所)


ニホンザルがどれだけのエネルギーを摂っているかを調べた研究は少ない。餌付けした高崎山では極力投与餌を減らしているがこれで十分なのか不足なのか不明だった。そこでSoumah & Yokotaの実測値を基にエネルギー収支を調べた。消費量は推測値しかないが、ほぼ必要エネルギーを満たしている。それでも個体数は増加し、森の破壊を続けている。なにが自然と違うか。投与餌にも”冬”を作ることが必須だとの結論に達した。

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屋久島西部海岸域におけるヤクシマザルの個体数変動


杉浦秀樹(京都大学野生動物研究センター)


屋久島西部海岸域では、1975年から野生ニホンザルの調査がされている。群れサ イズの増加や、群れの分裂など、個体数の増加を示す現象が観察される一方で、群れサイズの減少や、群れの消滅など、個体数の減少を示す現象も観察されている。2000年頃からこれまでの、群れサイズの変化や、群れの分裂・消滅などをまとめ、この地域でのニホンザルの個体数変動について考察する。また、群れの消 滅が起こるような個体群で、今後、どのようにして調査を継続していくかについても議論したい。
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ニホンザルの食性の地域変異の決定要因

 

辻大和(京都大学霊長類研究所)


ニホンザルの食性をかたちづくる生態学的な要因を明らかにするため、全国29か所の調査地のサルの食性と、地理的変数、環境変数を関連付けるとともに、モデル選択を行って各変数の相対的な重要性を評価した。サルの主要な採食部位は果実・種子、葉、樹皮・冬芽の三つで、樹皮・冬芽の割合は冷温帯地域で高かった。森林の生産性の高い場所、降雪の少ない場所に住むサルは果実・種子食性が強く、また食物の多様性が高かった。いっぽう雪深い地域では、標高の低い調査地では葉の、標高の高い調査地では樹皮・冬芽の割合が高かった。サルの食性の地域差を理解しようとする時は、地理的要因と環境要因の双方を合わせて考慮することが必要である。
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ニホンザル地域個体群の成立時期の推定


川本芳(京都大学霊長類研究所)


生活史の性差により、ニホンザルでは母性遺伝するmtDNA変異の地理的分布や多様性に個体群の成立経過が反映されている。四国の遺伝学調査が進み、mtDNAの系統地理研究では生息地を網羅する全国規模の解析が可能になった。ニホンザル地域個体群の成立時期を検討するため、各地の変異を比較し、ベイズ法により共通祖先タイプまでの時間を推定した。この結果を紹介し、ニホンザルの進化と保全管理への応用について考察する。
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ニホンザルの行動の地域変異研究―新展開に向けて―


中川尚史(京都大学大学院理学研究科)


ニホンザルに限らずこれまで日本の野外霊長類学では、長期継続調査が重要視される一方その必然として、地域間比較は既発表論文をもとにした比較研究が大半である。他方内容的には、石遊びといういわばひとり遊びを文化として解釈する研究を除けば、生態、人口学的パラメーター、社会行動を対象に、その地域変異を環境適応として解釈するものに概ね限られていた。本発表では、演者が中心となって取り組んでいる、初めから地域間比較を意図した、これらの枠に収まらない新しい対象と解釈の組み合わせの研究を紹介する。

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