京都大学霊長類研究所 > 2014年度 シンポジウム・研究会 > 第14回ニホンザル研究セミナー・要旨 最終更新日:2014年6月9日

第14回ニホンザル研究セミナー

稀な行動に関する英語本出版に向けてのお誘い

中道正之(大阪大学)・山田一憲(大阪大学)・中川尚史(京都大学)

第14回ニホンザル研究セミナーの冒頭で、「稀な行動に関する英語本出版に向けてのお誘い」と称して、その説明を行いたいと思います。

かねてより、主にニホンザルで目撃した「稀な行動」の情報交換をしておりました。この7月に開催される第30回日本霊長類学会大会(大阪)の自由集会でも、「ニホンザルの稀な行動に関する情報集約と公刊に向けて」というタイトルで、出版に向けての具体的な歩みに入ろうと考えています。この話題にご関心のある 方、あるいは、貴重な観察事例をお持ちの方々は、少しだけ早めに来ていただいて、この説明会にご参加いただければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。自由集会の抄録も合わせてご覧いただければ幸いです。

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発表予稿

川添達朗(京都大学大学院理学研究科)

群れの内外における野生オスニホンザルの社会関係

母系の霊長類におけるオスの分布や社会関係は主にメスとの関係に基づいて検討され,オス同士は繁殖をめぐる競合相手であるという観点から多くの研究が行われてきた.近年,オス間の親和的関係に関心が向けられ,オス同士の親和性が群れ構成や連合形成,繁殖成功と関連していることが報告されている.しかしこれまでの研究は群れオスを対象としており,メスとの交渉を持たない群れ外オスが多くの種で観察されているにもかかわらず,群れ外オス同士がどのような社会関係を持っているのかあるいは群れ加入以前に群れのメンバーとどのような社会関係を持っているのかはほとんど明らかにされていない.そこで本研究では,群れオスだけでなく群れ外オスを含めたオス間の親和的関係が,空間構造や競合が高まる交尾季の個体間関係に与える影響について検討した.宮城県金華山島の野生ニホンザルを対象に,2007年に実施した調査から非交尾季におけるにおけるオス間の親和的関係と空間構造の関連を検討し,2009年の調査から非交尾季の親和的関係が交尾季のオス間関係に与える影響を明らかにすることを試みた.すべての調査期間で,群れオスだけでなく群れ外オスの個体追跡を行い,オス間で観察されたグルーミング,敵対的交渉を記録した.オス?メスだけでなく,オス?オスの空間的,行動的特徴に基づいた主成分分析により,観察した12頭のオスを3つのクラスターに分類できた.3つのクラスターのうち1つはメスとの高い親和性を示し,メスとの交渉の有無に依って群れオスと群れ外オスを類型化できることが示された.残る2つの群れ外オスのクラスターのうち一方は他のオスとの交渉が全くないのに対し,他方はオスグループを形成し頻繁にグルーミングを行っており,オス同士の高い親和性によって特徴づけられることが分かった.これらの結果はメスと交渉を持たない群れ外オスの中にもオス同士の交渉の仕方に多様性があることを示された.また,群れオスとオスグループを形成する群れ外オスの間には不均衡なグルーミングが観察され,群れオスに対する群れ外オスの積極的な交渉が群れへ接近する要因になっていることが示唆された.非交尾季と交尾季におけるペア毎のグルーミング頻度は有意な正の相関を示し,また,非交尾季にグルーミングが多く観察されたペアでは交尾季の攻撃頻度が少ないことが明らかになった.これらの結果はオス間の親和的関係が長期間維持され,交尾季におけるオス間の寛容性をもたらしていることが示唆される.競合が高まる交尾季に他のオスの寛容性を引き出すことが,交尾成功につながる可能性が考えられる.一方で,多くのマカカ属で報告されているようなオス間の親和的関係と連合形成の関連は本研究からは認められず,マカカ属内でのオスの社会性の変異があることが示唆された.

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大谷洋介(京都大学霊長類研究所)

ヤクシマザル雄個体の一時離脱:集団内外での行動の差異

集団に所属する個体は採食競合や遊動に関する不利益と、資源防衛や被食回避といった利益を同時に享受している。集団と共に遊動するかどうかという選択に影響する要因を明らかにすることは集団に属する利益と不利益を解釈し、集団形成の意義を考察する上で重 要である。特に母系の複雄複雌群において、性成熟したオスは同集団の多くの個体と血縁関係がなく、集団への参与をより柔軟に変化させる可能性がある。屋久島・西部林道に遊動域を構えるヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)の一群を対象とし、二人の調査者による雌雄の同時追跡を実施した。メスの位置を集団の位置とみなし、オスと集団の空間配置を行動とともに記録した。

オスは平均68分間の一時的な集団からの離脱を繰り返していた。離脱時、オスの採食時間割合、採食樹滞在時間はともに大きくなっていた。また採食速度は離脱時に小さくなった。採食量は4種の主要食物のうちアコウ(Ficus superba)についてのみ大きくなっていた。以上からオスは離脱によって集団内採食競合を回避する可能性が示唆された。また被攻撃頻度が高く親和交渉においても不利な低順位のオスほど長時間、頻繁に離脱していた。低順位のオスが、集団内での採食上の不利を離脱によって補償している可能性がある。

集団を離脱する利益としては集団内採食競合、攻撃交渉の回避が挙げられ、不利益としては集団間競合に対して脆弱になること、親和交渉の喪失、遊動コストの増大が挙げられた。翻って集団に属する不利益は集団内採食競合と攻撃交渉であり、利益は同種他群からの資源防衛と集団内親和交渉であると考えられる。

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西川真理(京都大学大学院理学研究科)

屋久島に生息するニホンザルの群れの個体の凝集性と同調性

霊長類における群れの個体の時空間的な凝集性は、その種の社会システムの一側面を特徴づける。時空間的な凝集性は、群れ生活に付随するコストとベネフィットのバランスによって変動すると考えられる。ニホンザルの群れは複雄複雌で構成され、同じ群れの個体間には明確な順位序列がある。そのため、群れの個体はそれぞれが生理的・社会的に異なる動機を持つと考えられるので、1日の遊動の過程で活動のタイミングや目的地が一致せず、群れのメンバーが一時的に離散すると予想される。そこで本研究では,屋久島に生息する野生ニホンザルの一群のオトナメスを対象として,まず、群れの個体の時空間的な凝集性を定量化し、その変動にかかわる要因を明らかにした。次に、群れの個体の行動の同調に、空間的凝集性・社会的要因・生理的要因が及ぼす影響を検討した。調査はGPS受信機を携帯した二人の調査者がそれぞれの観察対象を追跡することで行動観察と位置情報の収集をおこない、得られた位置データを用いて時空間的な凝集性を定量化した。二個体間の距離(IID)は、個体の活動状態によって大きく変動し、グルーミングと休息の時に短く、採食と移動の時に長かった。また、順位関係や血縁関係もIIDに影響を及ぼしていた。すなわち、高順位個体同士は近くで、低順位個体同士は離れて活動し、血縁個体同士はほとんどの時間を聴覚距離圏内で過ごしていた。二個体が視覚距離以上に離れる継続時間は平均25.7分であり、順位関係によって説明された。個体間の活動の同調性は全体として低かったが、IIDが長い時に同調しなくなる傾向にあった。また、移動方位も個体が離散しているときに一致しなくなる傾向があった。以上の結果から、ニホンザルは、自身の活動と他個体との社会関係に応じてその時空間的な凝集性を調整していることが示された。また、空間的に離散した個体同士は、活動や移動方位の異なる遊動をおこなっていることが示唆された。

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上野将敬(大阪大学大学院人間科学研究科)

勝山ニホンザル集団における毛づくろいの互恵性の至近要因に関する研究

霊長類の社会では、毛づくろいを行った個体は、相手からお返しとして毛づくろいや攻撃交渉時の支援などの様々な協力的行動を受けられる。勝山ニホンザル集団 (岡山県真庭市) を対象に、毛づくろいの互恵性の至近要因に注目して3つの研究を行い、ニホンザルが、どのようにして、毛づくろいやそれ以外の協力的行動をお互いに行っているのかを検討した。

ニホンザルは、相手の前に座ったり、横たわったりして、毛づくろいを催促する。メス間の血縁関係や親密さを考慮して、4歳齢以上のメス14頭を対象に個体追跡観察を行い、毛づくろいの交換における催促行動の働きを探った。血縁ペアや親密な非血縁ペアでは、事前の毛づくろいの有無に関わらず、催促をした相手から毛づくろいを受けていた。一方、親密でない非血縁ペアでは、あらかじめ毛づくろいをすることなく催促した時は、毛づくろい後に催促した時に比べて、毛づくろいを受けることが少なかった。また、血縁ペアや親密な非血縁ペアでは、1年間の毛づくろい時間のバランスに関して、毛づくろい後に頻繁に催促をするかによる違いはなかった。しかし、親密でない非血縁ペアでは、毛づくろい後に頻繁に催促をしていると、毛づくろい時間はより均等に近くなっていた。以上より、催促行動には毛づくろいの交換を促進する効果があり、その効果は相手との親密さによって異なると示唆された。

ニホンザルは、気温が低くなると2個体以上の個体がお互いの胴体を接触させてハドルを形成して暖を取る。本研究では、17頭のメスを対象に、ニホンザルが、成体メスに毛づくろいを行うことによってハドル形成という利益を得ているかを検討した。0歳齢の子と1歳齢の子を持つメスを「子のいるメス」、それ以外のメスを「子のないメス」と定義した。冬期に、子のいるメスは、子のないメスよりも成体メスとハドルを形成することは少なかったが、自身の幼い子とよくハドルを形成していた。子のないメスは、子のいるメスよりも、成体メスとの毛づくろい交渉後にハドルを形成することが多く、特に毛づくろいが行われた後、お返しの毛づくろいがあった場合に比べて、お返しの毛づくろいがなかった場合に、ハドルをよく形成していた。また、子のないメスは、冬期以外の季節に比べて、冬期にはお返しの毛づくろいを催促することが少なかった。以上より、子のないメスは、成体メスに毛づくろいを行うことによって、お返しの毛づくろいではなく、ハドル形成という利益を得ていたことが示された。

相手との親密さを考慮して、相手に毛づくろいを行った後に、ストレスが減少するかどうかを、スクラッチ(自分の体を掻く行動)をストレスの指標として検討した。研究2で得られたデータから、毛づくろいを行った後の5分間のデータを使用し、毛づくろいが行われていない統制条件の5分間のデータと比較した。親密な相手に毛づくろいを行った後は、統制条件に比べて、スクラッチを行うことが少なくなっていた。しかし、親密でない相手の場合には、2つの場面で違いはなかった。そのため、親密な個体に毛づくろいを行うと、ストレスの減少という利益を得ているのだと考えられる。

本研究より、ニホンザルは毛づくろいを行った後で、催促行動によって、その時の環境に応じた利益を柔軟に得ているという側面と、親密な個体間では、毛づくろいを行うこと自体に利益が生じ、その場で相手から見返りとなる行動を受けなくても、相手に毛づくろいを行えるという側面の2側面が示された。

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栗原洋介(京都大学霊長類研究所)

屋久島海岸域に生息するニホンザルにおける採食行動の群間比較

群れをつくる動物は群内および群間採食競合の影響を受ける。多くの霊長類では、群れが大きくなるとより多くの食物が必要になるため、採食にかける労力(行動圏面積、採食・移動時間、移動距離など)を大きくしなくてはならない。その結果、大きい群れでは出産率が低下する。一方、屋久島海岸域に生息するニホンザルでは、小さい群れに比べて、大きい群れで出産率が高くなる。群間エンカウンターにおいて大きい群れが小さい群れより優位であると知られているが、群れサイズ増加に伴い出産率が上昇する条件下で、群れサイズがどのように採食行動に影響するのかということはよくわかっていない。本研究では群れサイズが採食行動にあたえる影響を明らかにするために、異なる大きさの群れに属するニホンザルの採食行動と採食樹利用を比較した。対象は屋久島海岸域に生息するニホンザル 2 群である(大きい群れ: 30-38 個体、小さい群れ: 12-15 個体)。2012 年 10 月から 2013 年 4 月の間、すべてのオトナメス(9-13 個体)を個体追跡し、直接観察を行った。毎分、追跡個体の活動を記録した。採食については、採食時間、採食品目、採食樹の体積、同一採食樹内個体数を記録した。また、GPS を用いて、追跡個体および採食樹の位置を記録した。大きい群れは小さい群れに比べて、行動圏面積が大きく、採食時間割合が大きかった。とくに、大きい群れは成熟葉採食時間割合が大きかった。大きい群れでは群内採食競合が強く働いており、それを避けるために競合の弱い成熟葉をより多く利用していたと考えられる。一方、小さい群れは移動時間割合が大きく、移動距離が長かった。利用採食樹数、採食樹間距離、採食樹利用(採食樹滞在時間、同一採食樹内個体数、採食樹サイズ)に群間で違いはなかった。採食樹利用は群間で似ているにもかかわらず、小さい群れの移動コストが大きかった。これは先行研究による予測と異なる結果であった。屋久島海岸域においては、移動コストの増大が群間採食競合におけるコストとなっていることが示唆された。

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QGISワークショップ

望月翔太(新潟大学自然科学系)

趣旨

地理情報システム(GIS)は物事を空間的に捉えるための専門技術であり、その用途は経済分野や防災分野、自然環境分野など様々です。いくつかの企業などで、GISの研修会が行われていますが、それらはGISの一般的な使い方の講習になります。今回のワークショップでは、ニホンザルの研究者が中心となりますので、野生動物の解析に特化した内容を取り扱います。
 これまで、GISといえばArcGISが主流でした。一方で、値段の高さや専門的な操作が使用者にとって大きな壁となっていました。また、GISを用いて野生動物の行動解析を実施する時、ArcGIS 3.xではAnimal Movementが、ArcGIS 9.xではHawths Toolがよく使用されてきました。しかしながら、ArcGIS 10.xへのバージョンアップ以降、動物の行動解析を手軽に行えるツールはなくなり、動物生態学者にとって使いづらいものになりました(Hawths ToolはGeospatial Modelling Environmentに置き換わりました。ただコマンドベースが主体で、かつ開発速度も減退しています)。
 こうした経済面とソフト側の問題点を解消し、より多くの研究者がGISに触れるきっかけとなる事を期待し、このワークショップではQGIS(Quantum GIS)を使用して、GISの使い方を学ぶ機会にしたいと思います。QGISはオープンソースのGISソフトウェアであり、誰でも自由に使用する事ができます。開発当初は非常に使いにくいソフトでしたが、ここ10年で、非常に使いやすいソフトになりました(現時点でQGIS 2.0が最新バージョンです)。
 このワークショップはGISの初学者を対象としております。GISの操作にはある程度慣れが必要であるため、今回は難しい解析などは行いません。皆さん気軽に参加して下さい。

達成目標

1. GISとRを組み合わせて動物の行動圏を推定し、適切に表示する事が出来る。
2. 行動圏内の植生の面積を計算する事が出来る。
3. 学術論文の図1 or Figure 1【調査地の図】を作成出来る。

各自準備するもの

・QGIS 2.0とR(>2.10.0)をインストールしたノートパソコン(OSは何でも構いません。Windows, Mac, Linuxなど。)
・USB
※1. QGIS2.0 stand alone32bit版と統計解析ソフトR(2.10.0以降)を使用。
※2. インストールについては各自でお願いします。
※3. インストールの手順は、こちらを参考してください。指示されているQGISのプラグインやRのパッケージをインストールしてください。
※4. 当日使用するデモデータを、各自のパソコンにダウンロードしてください。

参考文献

1. Quantum GIS入門. 今木洋大. 古今書店. ⇒今後QGISを使うなら必ず購入しましょう。
2. Open Source GIS A GRASS GIS Approach. Markus Neteler and Helena Mitasova.(日本語版:オープンソースGIS グラス アプローチ. 植村哲士(訳). 開発社)⇒今回のワークショップでは取り扱いませんがGRASS GISの教本になります。GRASSは、非常に高度なラスタ解析が可能なソフトです。上級者向けになります。
3. FOSS4G HAND BOOK. 森亮. 開発社. ⇒オープンソースのGISソフトが紹介されています。オープンソースが普及するようになったきっかけや、各種ソフトウェアの紹介など、気軽に読める1冊です。

参考サイト

1. QGIS(http://www.qgis.org/ja/site/)⇒QGISプロジェクトのサイトです。ここから、QGISをダウンロードします。
2. ジオパシフィック(http://www.geopacific.org/)⇒皆さんご存じの方も多いと思いますが今木洋大氏のサイトになります。基礎から応用まで、幅広くオープンソースのGISについて記載してあります。私が一番お世話になっているサイトです。
3. QGIS入門(https://sites.google.com/site/qgisnoiriguchi/)⇒基本的な操作から、具体的な解析まで細かい情報が網羅されています。こんな事をやりたいけどどうしたら…という方にオススメです。
4. 自然環境保全のための周辺技術(http://d.hatena.ne.jp/tmizu23/)⇒サイトの管理者がオープンソースでこんな事が出来たら仕事が効率化しそうというものを紹介しています。上級者向けです。

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ポスター発表

浅井隆之(鹿児島大学・農)、塩谷克典、稲留陽尉(鹿児島県環境技術協会)、藤田志歩(鹿児島大学・共同獣医)

ニホンザル農作物加害群の土地利用特性

本研究では、農作物被害を及ぼすニホンザルの群れの土地利用特性を明らかにすることを目的とし、鹿児島県薩摩郡さつま町に生息する群れを対象に、行動域面積、土地利用頻度、植生利用割合および各植生に対する選択性の季節変化を調べた。2013年4月から2014年3月まで、週に一回テレメトリー調査を行い、基本的に1時間に1回、位置ポイントデータを記録した。植生図は環境省発行の1/25,000植生図を用いた。解析はArcMap10.1(ESRI)を使用した。調査日数およびポイント数はそれぞれ50日および382個であった。最外郭法により求めた行動域面積は、年間で20.78 km2であり、夏に最大となり(16.90 km2)、冬に最小となった(5.28 km2)。次に、行動域内における土地利用頻度を求めるため、250mメッシュを用いて行動域をグリッドに分け、各グリッドの利用頻度を求めた。その結果、夏および秋は利用頻度の少ないグリッド(グリッドあたり1〜2回)が80%以上を占めたのに対し、冬は利用頻度の多いグリッド(グリッドあたり4回以上)が40%であった。さらに、夏および秋における利用グリッドのそれぞれ51%および20%は他の季節の利用がなく、そのほとんどが国道を超えたエリアであった。また、それぞれの季節において利用頻度が特に高いグリッドが存在した。年間の植生利用割合は針葉樹林と次いで常緑広葉樹林が最も大きかったが(それぞれ40%、24%)、イヴレフ選択指数では前者は負の値を示したのに対し(−0.045)、後者は正の値を示した(0.256)。また、春は竹林および水田、夏は畑および果樹園、秋は果樹園が、利用割合は小さいものの、いずれも正の値を示した。以上のことから、対象群の土地利用は、他地域と同様に、夏および秋に分散し、冬に集中することが分かった。さらに、年間の行動域面積は照葉樹林帯、落葉広葉樹林帯に関わらず、自然群より大きいことがわかった。また、それぞれの季節において収穫される農作物に依存した土地利用を示すことが明らかとなった。

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中村勇輝(新潟大学大学院 自然科学研究科 環境科学専攻 流域環境学コース)

集落柵の設置がニホンザル農作物加害群の生息地利用に与える影響

毎年、ニホンザル(*Macaca fuscata*)による農作物被害(以下、猿害)は全国 で15億円ほど発生しており、深刻な問題となっている。 猿害を効果的に管理していくためには、追い払いや圃場単位での防護柵の設置、 長期的なモニタリングなどを複合的に、 かつ継続して実施することが重要といわれている。さらに、ニホンザルの適切な 管理を行っていくためには、 被害防除策などの事業実施後の効果検証やモニタリングに基づいた科学的な管理 が必要であるともいわれている。特に被害防除策実施後の効果検証・モニタリン グは、 次の管理計画を決定するうえで、非常に重要な役割を担う。

本研究では、設置された集落柵(森林と人里との境界部に電気柵を設置し、物理 的にヒトと野生動物の境界線を創出したもの) が周辺に生息するニホンザル農作物加害群の生息地利用に与えた影響について検 討を行った。そのために、 集落柵設置前後における加害群の行動圏およびコアエリアの変化、生息地利用の 変化について明らかにした。

対象群の生息地利用の変化を明らかにした結果、集落柵には物理的障害となるこ とで加害群の移動コストを増大させ 、行動圏およびコアエリアを縮小させる効果があると推察される。このように、 集落柵に一定の効果がみられる一方、集落柵内部( 人里側)を集中的に利用する群れが複数存在するとともに、加害群による集落柵 を越えての里地利用も確認されている。そのため、今回設置された集落柵は、本 来の「 野生動物の里地側への侵入を防ぐ」という目的を果たせていないことが明確と なった。また、集落柵内部を主に利用する群れでは、 集落柵設置前よりも森林部の利用が減少する傾向にあり、集落柵が加害群の森林 部への移動を妨げ、加害群の農地への依存度を大きくしている可能性も示唆される。

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河野穂夏、山田一憲、中道正之(大阪大学大学院人間科学研究科)

社会行動に基づいた飼育アビシニアコロブスの妊娠推定

ウガンダの野生集団の観察から、アビシニアコロブス(Colobus guereza)のメスの妊娠期間は約160日であり、繁殖に季節性はないと言われている(Harris & Monfort, 2006)。加えて発情時に特有の音声を発したり、性皮が明らかに腫脹することもないため、外見の特徴によってメスの繁殖状態を推察することは難しいとされている。

本研究では、神戸市立王子動物園で飼育されているアビシニアコロブス集団を対象に2011年12月から2012年10月まで11カ月間の観察を行い、2頭の成体メスによる3回の出産を記録した。そして、それぞれの出産について、出産日から逆算し、妊娠期間を推定したうえで、各メスの妊娠状態とそのメスの社会行動の関連を検討した。

妊娠していないと推察される期間には高い値を取っていた成体メスと集団内の他個体との接触率は、出産の2カ月前には半分以下に減少した。集団内のどの他個体とも接触や近接をしていない割合は、妊娠していないと推察される期間には非常に低い値であったが、出産の2カ月前には大きく増加した。これらの傾向は、対象となった3回の出産いずれにおいても確認された。これらの結果から、アビシニアコロブスのメスは妊娠、出産といった繁殖状態によって、集団内の他個体との関係性を変化させている可能性が示唆された。さらに、成体メスの行動を観察することによって、外見からだけでは判断できないメスの妊娠を推定できる可能性が示された。

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谷口晴香(京都大学理学研究科)

野生ニホンザルにおける2-3ヶ月齢のアカンボウの食物選択:食物のかたさに着目して

ニホンザルのアカンボウは、生後6-7ヶ月齢ごろに固形物の採食量が大きく増加することが知られている。ニホンザルのアカンボウの乳歯列の完成はおおよそ7ヶ月齢であり、乳歯列完成前と後では採食量だけでなく、選択する食物の物理的性質も異なっている可能性がある。本研究では、「乳歯列完成前のアカンボウは、乳歯列完成後のアカンボウよりやわらかい食物に採食時間を費やしている」という仮説を立て野生ニホンザルのアカンボウを対象にその検証を行った。2011-2012年冬季と2013年夏季に屋久島西部低地林に遊動域を構えるUmi群のアカンボウとその母親4組を対象に、月ごとに各個体10時間ずつ個体追跡を行った。3分ごとに活動(採食・休息・移動・毛づくろい・その他)を記録し、その際に追跡個体が採食を行った場合はその食物品目(種+部位)を記録した。また、上記観察期間中に追跡個体が採食した食物品目の採取を行い、採取後6時間以内に硬度計(サン科学、COMPAC-100U)にて裁断し、かたさ(J/m2)の計測を行った。その結果、2-3ヶ月齢にあたる夏季のアカンボウの採食時間は全活動時間中の約4% と、採食時間割合が30?40% 前後に達する8-10ヶ月齢にあたる冬季のアカンボウと比較すると短かった。8?10ヶ月齢のアカンボウは、母親と同様に葉や種子など果実以外の食物品目にも採食時間を費やしていたが、2-3ヶ月齢のアカンボウは、採食時間の7割を果実に費やし、母親の採食時間の約5割を占める種子や葉の利用は採食時間の5% 程度だった。仮説のとおり、8-10ヶ月齢のアカンボウと比較すると2-3ヶ月齢のアカンボウは、500 J/m2 以下のやわらかい食物品目を利用する傾向にあった。乳歯列完成前の2-3ヶ月齢のアカンボウは、乳歯列完成後の 8-10ヶ月齢のアカンボウと比較すると食物を噛み切る、噛み砕くことが難しく、かたい食物の利用に制限があることが示唆された。

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勝 野吏子(大阪大学大学院 人間科学研究科)

敵対的交渉後場面におけるニホンザルのあいさつ音声の発声に及ぼす要因

霊長類の音声行動は、状況に応じてどれほど調整されるのか。本研究はニホンザルの音声行動が、相手の属性や状態の影響を受けるかどうかを明らかにすることを目的とした。個体の不安や攻撃を受けるリスクが大きく変化すると考えられる敵対的交渉後場面に着目し、親和的交渉に伴うgruntやgirneyと呼ばれるあいさつ音声の発声に及ぼす要因を検討した。敵対的交渉の直後に、攻撃者あるいは被攻撃者に対して5分間の個体追跡を行った。その翌観察日の同時間帯に、同じ対象個体について統制場面の観察を行った。

敵対的交渉後に当事者が周囲の個体と親和的交渉を行う際には、音声を用いる割合が統制場面よりも高かった。周囲の個体が優位個体や普段は交渉が少ない個体である場合や、被攻撃者では直前の敵対的交渉が威嚇ではなく攻撃であった場合に音声を多く用いていた。これらの結果は、あいさつ音声は個体間の緊張が高まりやすいと考えられる場面で、多く用いられることを示している。音声を伴う親和的交渉を行った後には、音声を伴わない交渉を行った後よりも、スクラッチ頻度がより減少する傾向があった。あいさつ音声は敵対的な意図がないことを相手に示す音声であることが確認され、敵対的交渉後場面において親和的交渉を円滑に行うために用いられていることが示唆された。

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横山慧(京都大学大学院理学研究科)

嵐山E群におけるニホンザルオトナオスの援助行動

第1位オスは、下位の個体の行動を制御できるような強い影響力を持っている。ニホンザル餌付け群において敵対的交渉時の援助行動を調べたWatanabe(1979)によれば、第2−3位オスは攻撃者援助の割合が高く、第4−5位オスはほとんど援助しないのに対し、第1位オスは被攻撃者援助の割合が高かった。本研究は、第1位と第2位のオスの順位逆転が確認された直後のニホンザル群におけるオスの援助行動の変化を調べることを目的で行われた。

嵐山E群ニホンザル上位オトナオス5頭を対象とした。調査期間は、順位逆転が起こった2013年10月直後の10月31日から開始し2014年1月6日まで(交尾期)、さらに2月24日から3月17日まで(非交尾期)の計27日間である。餌場において敵対的交渉の当事者以外の第三者(対象個体)が敵対的交渉に介入してきた場合、被攻撃者に味方するのか(被攻撃者援助)、攻撃者に味方するのか(攻撃者援助)をアドリブサンプリングで記録した。そして、2013年11月6日−11月29日(期間T)、12月2日−2014年1月6日(期間U)、2月24日−3月17日(期間V)の各期間での援助行動をみてみた。その結果、第1−3位オスが被攻撃者援助の割合が高く、第4位オスはどちらの援助回数も同じで、第5位オスは攻撃者援助の割合が高かった。第2位オスはどの期間も被攻撃者援助の割合が高いままであり、第3位オスは期間T・Uに比べて期間Vでは被攻撃者援助の割合が特に高くなるという結果が得られた。前者の結果は以前第1位オスであった時の名残りと考えられ、後者の結果は、今後再びオス間で順位変動が起こり、第3位オスが第1位オスに順位を上げることを示唆しているのかもしれない。

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豊田有(京都大・霊長類研究所)、清水慶子(岡山理科大・理学部)、古市剛史(京都大・霊長類研究所)

京都市嵐山群の高齢メスニホンザルにおける閉経後の性行動に関する内分泌学的研究

一般的に性行動の目的は繁殖であるため、多くの動物において、メスにおける性行動の発現は性周期と密接に関連している。排卵にむけて成熟した卵胞から分泌されるエストロゲンの作用によってメスは発情し、オスに対する性的受容性が高くなることが様々な種で知られている。ところが、ヒトを含む霊長類においては、繁殖と結びつかない性行動が広く認められる。その一つに、加齢に伴い卵巣機能が低下した閉経後の高齢メス個体に見られる性行動が挙げられる。

本研究では、ニホンザル(Macaca fuscata)における閉経後の交尾行動に着目し、野外における直接観察によって高齢メス個体の交尾行動の記録に加え、糞サンプルを用いたホルモン分析による性周期のモニタリングを行った。高齢メス個体で見られる性行動の内分泌的背景を明らかにすると同時に、交尾を行う個体と行わない個体の内分泌動態を比較した。

京都市の嵐山モンキーパークいわたやまで餌付けされているニホンザル嵐山群のうち、ニホンザルでの閉経年齢とされる25才以上の高齢メス個体10個体を対象に、交尾行動の観察および糞サンプルの採取を行った。観察期間は2012年10月30日から12月30日までの61日間で、この期間中に対象個体の交尾行動の記録と糞サンプルの採取を行った。採取した糞サンプルから、EIA法により糞中性ホルモン代謝物であるEstrone conjugates (E1C)とPregnanediol glucuronide (PdG)量を測定し、性周期の推定を行った。

結果、対象10頭のうち、4個体で交尾行動が観察されたが、他の6個体では交尾行動が観察されなかった。ホルモン測定の結果、いずれの高齢メスにおいても性ホルモンレベルは低く、またその変動は周期性を欠いていることから、排卵は起きておらず、明確な性周期が消失していることが推定された。本発表では、性行動が見られた個体と見られなかった個体の内分泌動態の比較に着目し、高齢個体に見られる性行動の発現に影響を与える要因について報告する。

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Lucie Rigaill(Primate Research Institute, Kyoto University), Cecile Garcia(Laboratoire de Dynamique de l’Evolution Humain), Takesi Furuichi(Primate Research Institute, Kyoto University)

Signals contain in wild female Japanese macaques’ face colour: Preliminary and promising results.

Sexual secondary ornaments, such as skin colour, are known to play a crucial role in the sexual communication in several primate species. However studies tend to focus on males while female visual signalisation of the reproductive state is still poorly understood. To evaluate the role of female face colour in the context of sexual communication, I investigated whether changes in the facial skin colour contain information about intra-cycle and inter-individual (age, rank) differences in wild Japanese macaques (Macaca fuscata). I collected photo data following a sequential method already described (mean=4.5 photo per month per female, total=201 photos) along with faecal samples (mean=4.0 samples per month per female, total=138) from 9 adult females living in a wild population (Koshima, Miyazaki). I then investigated if the levels of faecal progesterone and estrogens, female’s rank and age have an effect on the daily levels of female face reflectance (how dark/light the face is) performing linear mixed-effects models. These preliminary data will be presented as well as the photo data collection and analyses methods.

Key words: Sexual signal, face colour, reproductive state

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京都大学霊長類研究所  > 2014年度 シンポジウム・研究会  > 第14回ニホンザル研究セミナー・要旨

このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 半谷吾郎
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