■ 研究論文の紹介

Nasal architecture of Paradolichopithecus arvernensis (late Pliocene, Sen?ze, France) and its phyletic implications

Takeshi D. Nishimura, Brigitte Senut, Abel Prieur, Jacque Treil & Masanaru Takai

Journal of Human Evolution 56(2), 213-217 (2009)


パラドリコピテクス・アルベルネンシス(後期鮮新世、フランス)の鼻腔構造その系統発生的示唆

西村剛*・ブリジット スニュー・アベル プリエール・ジャック トレイユ§・高井正成*

*京都大学霊長類研究所
フランス・パリ国立自然史博物館地球史部門
フランス・リヨン第一大学地質学コレクション
§フランス・トゥールーズ・パストゥール病院放射線科

パラドリコピテクスParadolichopithecusは、鮮新世後半にユーラシア大陸に生息していた大型で地上性のオナガザル亜科です。その系統的位置に関しては、マカク系統とヒヒ系統のどちらに近いか論争が続いています。私たちの研究クループは、以前、後期鮮新世・タジキスタン南部産のパラドリコピテクス・サスキーニ(P. sushkini)の頭蓋骨化石をCT撮像し、それに上顎洞という頬のあたりにある頭蓋骨内の空洞があることを明らかにしました(JHE 2007)。上顎洞は、旧世界ザルではニホンザルを含むマカク系統のみでみられる特徴です。この結果は、顔面・歯形態からヒヒ系統に近いともいわれてきたパラドリコピテクス属は、マカク系統に近いと示唆します。本研究は、同属のタイプ種である後期鮮新世・フランス産のパラドリコピテクス・アルベルネンシス(P. arvernensis)のタイプ標本のCT撮像に成功し、その顔面内部の構造を分析しました。その結果、この種には上顎洞がないことがわかりました。このことは、少なくとも同属および同種が現生マカク系統につながる種ではないことを意味します。また、現生霊長類では、この上顎洞の有無が同じ属内で種によって異なることは知られていないので、タジキスタンのサスキーニ種はパラドリコピテクス属ではないのかもしれません。しかし、化石種も含めて旧世界ザル類の上顎洞などの頭蓋内部形態の種間・属間変異に関する研究は十分に進んでいるとはいえません。CTでそのような研究をすすめると、パラドリコピテクス属の系統的位置や両種の関係がはっきりしてくるでしょう。