■ 研究論文の紹介

The maxillary sinus of Paradolichopithecus sushkini (late Pliocene, southern Tajikistan) and its phyletic implications

Takeshi D. Nishimura, Masanaru Takai & Evgeny N. Maschenko

Journal of Human Evolution 52(6), 637-646 (2007)


パラドリコピテクス・サスキーニ(後期鮮新世、タジキスタン南部)の上顎洞とその系統発生的示唆

西村剛*・高井正成・ エフゲニー N. マシェンコ

*京都大学大学院理学研究科動物学教室自然人類学研究室
京都大学霊長類研究所
ロシア科学アカデミー・古生物学研究所

上顎洞は、頬のあたりにある頭蓋骨内の空洞で、日常の生活ではその存在を感じることはありませんが、風邪などがひどくなったときには、洞内を覆う粘膜が炎症(急性副鼻腔炎)を起こし頬や額のあたりに鈍痛を生じさせることがあります。また、一般に蓄膿症と呼ばれる慢性副鼻腔炎が生じる箇所としても知られています。旧世界ザル系統では、上顎洞はその共通祖先で一度なくなり、マカク系統でのみ再び獲得されたと考えられています。本研究は、その系統発生仮説に基づいて、マカクかヒヒ系統のどちらに属するのか議論が続いていた化石旧世界ザル・パラドリコピテクスParadolichopithecus属の所属系統を推定しました。後期鮮新世・タジキスタン南部産のパラドリコピテクス・サスキーニ(P. sushkini)の模式標本を含む頭蓋骨化石をコンピューター断層画像法(CT)で撮像し、同種がヒヒ的な顔面・歯形態をもつにもかかわらず上顎洞をもつことを明らかにしました。この結果は、同属がマカク系統により近いことを強く示唆します。この系統推定の結果により、これまでもっぱら南アジア経由と考えられてきたマカク系統のアジアへの拡散ルートとして、北の中央アジア・シベリア経由の可能性も示唆され、マカク類の進化史研究に一石を投じました。