JAPANESE TOP Message from the Director Information Faculty list Research Cooperative Research Projects Entrance Exam Publication Job Vacancy INTERNSHIP PROGRAM Links Access HANDBOOK FOR INTERNATIONAL RESEARCHERS Map of Inuyama
TOPICS
BONOBO Chimpanzee "Ai" Crania photos Itani Jun'ichiro archives Open datasets for behavioral analysis Guidelines for Care and Use of Nonhuman Primates(pdf) Study material catalogue/database Guideline for field research of non-human primates 2019(pdf) Primate Genome DB

Primate Research Institute, Kyoto University
Inuyama, Aichi 484-8506, JAPAN
TEL. +81-568-63-0567
(Administrative Office)
FAX. +81-568-63-0085

Copyright (c)
Primate Research Institute,
Kyoto University All rights reserved.


Contact

 

「道を渡る野生チンパンジー:危険への対処法」

掲載誌:「カレント・バイオロジー」、2006年9月5日号

著者3人:

キム・ホッキングス(英国・スターリング大学、研究生)
ジェイムズ・アンダーソン(英国・スターリング大学、教授)
松沢哲郎(京都大学霊長類研究所、教授・所長)

研究の背景

西アフリカ・ギニアのボッソウ村の近隣の森に、1群の野生チンパンジーが暮らしている。1976年から30年間にわたって、京大霊長類研究所の調査隊が、彼らの暮らしについて長期継続調査をしている。

ボッソウのチンパンジーは石器を使うチンパンジーとして有名だ。一組の石をハンマーと台にして硬いアブラヤシの種を叩き割って、中の核を取り出して食べる(光村図書・中学2年国語教科書、「文化を伝えるチンパンジー」参照)。
人間の住む村に隣接した森をすみかにしているので、人間の暮らしと交差しながら共存している。


クリックで拡大します
写真、道路を渡るボッソウの野生チンパンジー
撮影:松沢哲郎

ビデオクリップ、撮影:キム・ホッキングス、1分15秒

 

今回の論文の概要

 ボッソウのチンパンジーの暮らす範囲は、村の周辺の約15平方キロの森だ。純粋の森(一次林)の面積はわずかで、人手の入った二次林や、焼畑の跡地、さらには人間の耕作地にも出没する。住処の森が、南北を貫通する大きな道路(道幅約12メートル)で東西に分断されている。この道は、通行人だけでなく、自動車やオートバイも通る。もう1本細い道(道幅約3メートル)があって、ここは通行人しかほぼ通らない。この2本の道を横断して、チンパンジーは東西の森を行き来して暮らしている。人間と共存しているとはいえ、チンパンジーにとって道路を横断するのは危険が伴う。2005年にこの2本の道路を渡るチンパンジーのようすを丹念に記録し、ビデオに収録し、道を渡る行列の構成について詳細な分析をおこなった。今回の調査の時点で、群れの構成は、おとなの男性3個体、おとなの女性5個体、子ども3個体、あかんぼう1個体、の合計12個体である。なお、チンパンジーは、いつもはだいたい数個体ずつのバラバラな小集団に分かれており、出会っては別れ、別れてはまた出会う。道を渡るときは、全員で渡るときもあるし、数個体で渡るときもある。道を渡るときは危険が伴うので、たくさんの個体が同時に渡ることが多い。

 今回の研究で、道を渡るときには、明確な役割分担のあることが明確にわかった。まず、道の端にでてきてようすをうかがう偵察者がいる。そのあと、実際に先陣をきって渡るものがいる。道の途中で立ち止まって他のものたちの通過を見守るものがいる。そして、しんがりをつとめるものがいる。偵察、先陣、見張り、しんがり、である。今回の調査の時点で、おとなの男性3人を含めて男女多数が一緒に渡った28例について分析してみた。おとなの男性たち(順位によって第1位、第2位、第3位と呼ぶ)が役割を分担して、女性や子どもたちを守るようすが行列の構成から見えてきた。主な4点を指摘する。

(1) 偵察し先陣をつとめるのは、群れの第2位の男性が多かった。しんがりは、群れの第1位の男性がつとめることが多かった。女性や子どもたち、とくにあかんぼうを抱える女性は、行列のなかほどに位置する。

(2) 広い道をわたるときには危険度が高いので、道の端にでてきてようすをうかがいはじめてから渡るまでの待ち時間が長かった(広い道だと約3分かかるが、狭い道だと24秒で渡る。つまり偵察して、すぐには渡らない)。

(3) 狭い道だと、最初に現れた偵察チンパンジー(第2位のチンパンジー)が、左右をうかがい、そのまま先陣として渡る(100%そうだった)。しかし広い道だと、その割合が70%にまでおちて、別の者が先陣をつとめることがある。つまり、偵察と先陣の役割分担が起こる。ではだれが先陣をきるかというと、後ろから来た年齢が40歳を過ぎた老練な男女(「第3位のおとなの男性」と「現在第1位の男性の母親」)が先陣をきることが多かった。

(4)狭い道では、必ずしも第1位の男性だけがしんがりをつとめるわけではない。しかし広い道では、第1位の男性がしんがりをつとめる割合がぐんと増える。

 以上のことから、道を渡るという危険の程度に応じて、チンパンジーが互いに助け合いながら暮らしているようすがあきらかになり、チンパンジーがもっている柔軟な知性の新たな側面がみつかった。

 

論文をめぐる周辺の課題

 野生チンパンジーの数は激減している。アフリカ全体で約20万個体と推定されている・森林伐採、密猟、伝染病が3つの脅威で、いずれも人間の責任だ。2年前に、ボッソウの群れでは呼吸器系の伝染病でチンパンジー5個体が同時に死ぬという大量死があった。また、今日現在、ワナに使う針金が足に巻きついた子どもが1個体いる。そうした中で、野生チンパンジーを守り、その森を広げる試みも、村人たちの協力をえて実施されている。「緑の回廊」とよぶ植林プロジェクトである。今年も、5000本の苗木にヘキサチューブという筒をかぶせて守る方式で植林が進行中である。詳細は、以下のサイトを参照されたい。http://www.greenpassage.org/