京都大学霊長類研究所 >ニホンザル野外観察施設・研究業績 >2005年度年報
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目次
本施設では、ニホンザル個体群や生息環境の変化を把握することが保全や管理を考える上で不可欠であるとの認識に立ち、基本的な生態学的資料を各地で継続的に収集する体制を整えることを長期的な目標として研究活動をおこなっている.また、野生ニホンザルの保全や管理にかかわる研究にも積極的に取り組んでいる。
例年どおり、各研究林でおこなわれている長期的な調査にスタッフができるだけ参加し、各地での研究活動の現況の把握に努めた。具体的には、屋久島西部林道地域や下北半島でのニホンザル生息調査にスタッフが参加し、情報収集を行なった。また、保全や管理に直接かかわる活動としては、被害管理のための基礎的調査および飼育個体を対象とした実験などを昨年度に引き続き行なっている。
現在の施設運営は、下北・屋久島・幸島の3研究林・観察ステーションに重点をおいておこなっている。上信越・木曽研究林での研究活動については、保全生態学・野生動物管理学分野への取り組みとも相まって、将来の新たな形での再編成を模索しているところである。
2004年度の各地ステーションの状況は、次の通りである。
↓幸島観察所 ↓下北研究林 ↓上信越研究林 ↓木曽研究林 ↓屋久島研究林
幸島では1952年に餌づけが成功して以来、全頭個体識別に基づいた群れの長期継続観察が行われている。平成16年度の出産は16頭であるが、内1頭はオスとメス、双子の出産であった。幸島の観察が始まって以来、501例中3度目の双子出産であるが、5月31日時点では1頭しか確認されていないことから、おそらくは日時を違えて出産されたものであると思われる。計17頭の内5頭が年度内に死亡している。今年は昨年の台風の影響もあってか、森林内の果実生産が非常に悪かった。冬になって体調を悪くしたサルが多くいて、消失するサルの増加が心配されたが、なんとか持ち直して現在に至っている。3月末日での個体数はマキグループ約10頭を含め、95頭である。
家系毎の盛衰はいよいよはっきりしてきており、マキグループの中でもマキ(初代はハラジロ)の子孫は老メス1頭を除きほぼ途絶えてしまった。そして主群から移籍した2頭のメスが、マキグループの中心になっている。
今年度は森明雄(京大霊長研)によって採食パッチの利用に関する調査が行われた。串間市による幸島管理方針についての議論が継続されており、現在まで保全されてきた自然とサルの生態を守ることを基本にしながらも、天然記念物としてその成果をどのように社会に還元していくのかということが焦点となっている。
下北半島に生息するニホンザルはこれまで通り複数の調査グループによって、調査が継続されている。北西部に関しては、今年度は、佐井村教育委員会・佐井のサル調査会が中心となって、佐井村・大間町近辺の調査が冬に実施され、田中が参加した。冬の一斉調査で、M2C群およびZ2B群が、サブグルーピングしていることが観察された。しかしながら、分裂の可能性については今のところ不明である。これまでZ2B群は牛滝川下流を主な行動域にしていたが、上流にまで分布域を拡大していることが本年度の調査から判明した。南西部に関しては、松岡を中心とした下北サル調査会が、脇野沢村近辺の夏と冬に調査を行なった。夏に行われた調査には、田中が参加した。本年度の調査により、脇野沢管内の群れ、A2-84群105頭、A2-85群66+α頭、A87群30頭、O1群32頭、O2群33頭、U群32+α頭が確認された。U群は、佐井村と脇野沢村の境界付近に生息する群れで、その存在は確認されていたもののこれまでは詳細については不明であったが、今回の調査により頭数が確認された。今年度も、A2-84群およびA2-85群が遊動域を東へと拡大していることが確認された。全体的には、これまでにも半島のサルの分布拡大および個体数増加が指摘されてきたが、今年度の調査でもその傾向は依然として認められた。保護管理の点からも、今後も半島全域の状況を把握していく必要があるといえる。また、今年度に青森県は、脇野沢村および佐井村が申請していた人的被害を与えるサルの捕獲を認め、脇野沢村でオス13頭(A2-84群9頭、A2-85群3頭、A87群1頭)、佐井村でオス1頭(Y群)がこれまでに捕獲されている。サルの捕獲による影響をモニタリングする上でも、分布および個体数の調査を継続することが重要である。
今年度も上信越研究林における野外調査は行われなかった。上信越研究林はアクセスの難しい遠隔地にあることもあって、まだ調査再開の目処はたっていない。現在、研究林見直しを前提として、検討が進められている。
今年度の野外調査は行われなかった。この地域では農耕地に対する猿害が発生して以来、自然群の観察が困難な状況にあり、上信越同様、見直しを前提とした検討が進められている。
屋久島研究林における研究活動は今年度も活発であった。ヤクシマザルによるヤマモモの種子散布(寺川・松井:奈良教育大・教育学;湯本:総合地球環境研究所)、上部域における生態調査(半谷:霊長研・生態機構;好廣・龍谷大)、発声行動(香田:霊長研・認知学習)、昆虫食(清野:鹿児島大・地球環境科学)、集落周辺の食物利用可能性(David Hill:Univ. Sussex)、果実数と鳥類・サルの関係(野間ほか:滋賀県立大・環境科学)、交尾行動(早川:京大・霊長研)、採食行動(大谷・金谷:森林総合研究所)、社会行動(鈴木:霊長研・社会構造)などをテーマとした研究がおこなわれた。また夏期には、杉浦秀樹(霊長研・社会構造)などによる西部林道地域の個体群調査も継続されている。短期的に屋久島を訪れる研究者の数は多く、研究対象もサルやシカ、コウモリなどの哺乳類だけでなく、爬虫両棲類や植物など多岐にわたっており、今後も屋久島研究林とその周辺での研究活動は活発なことが予想される。
また、研究成果を社会に還元する事を目的とした教育普及活動も、引き続き活発に行われている。全国から大学生を募集し、屋久島でフィールド・ワークの基礎を体験する「第5回屋久島フィールドワーク講座」が昨年度に引き続き開催され、多くの研究者が講師を勤めた(主催:上屋久町、京都大学21世紀COEプログラム「生物多様性研究の統合のための拠点形成」)。若手研究者が中心となった屋久島研究自然教育グループによって、地元住民を対象とした「スライド講演会」が今年度も開催された。
ニホンザルの群れが広域にわたって連続的に分布している下北半島において長期的な変動を把握するための調査を行った。また北限のサルの生態と生存のための条件を明らかにするため、下北半島西部海岸地域を中心に継続的な調査を行っている。
従来からの継続として、ポピュレーション動態に関する資料を収集し、各月毎にほぼ全個体の体重を測定している。また集団内でおこった出来事や通年の変化について分析を進めている。
ニホンザル保護管理のために、全国の野生ニホンザルに関するデータベースの作成、古分布の復元、ニホンザルに関する文献目録の作成などを行っている。
インドネシア・中部スラウェシにおいて、トンケアンマカクとヘックモンキー間の種間雑種の繁殖についての継続観察をおこなっている。
インドネシア西スマトラ州において、各種霊長類や大中型ほ乳類の分布変遷の様子を明らかにすることを目的として、現地住民への聞き取り調査をおこなった。
インドネシア西ジャワ州パンガンダラン保護区において、シルバールトンとカニクイザルの個体数変動に関する調査を行った。
農作物被害を引き起こしているニホンザルの複数集団を対象として、ラジオテレメトリー法を用いた生態調査を三重県中部・奈良県北部で行なった。
特定の農作物に対する回避行動を形成する方法である嫌悪条件付けの実用化と、既存の防除法である電気柵や物理柵の効果測定および新しい防除技術の開発を目的として、研究所内で飼育されているニホンザルを対象に研究を行なった。
被害発生に関係する要因を組み込んだモデルを作成し、被害管理システムの構築を試みた。
人間行動生態学的な視点から、日本における児童虐待のパターンを分析した。
ニホンザルが社会生活を送る上で重要な攻撃行動に際しての調整や転嫁、援助を求める行動などの発達について研究を行なった。
小豆島の群れは昔から非常に凝集性の高い群れで、個体間距離が非常に近い独特の特徴をもっていることで知られている。小豆島銚子渓の群れについて順位関係を中心に、高崎山、淡路島、嵐山、南紀白浜の群れと比較研究を行った。
野生ニホンザルによる造林木剥皮被害の発生要因を探るため、長野県に生息する複数群を対象にテレメトリー法や糞分析法を用いて土地利用や食性を調べた。
脚注:1)教務補佐員 2)文部科学技官 3)外国人研究生 4)大学院生 5)研修員
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