■ 研究論文の紹介

Phylogenetic relationships and biogeographic history of Paradolichopithecus sushkini Trofimov 1977, a large-bodied cercopithecine monkey from the Pliocene of Eurasia

Masanaru Takai, Evgeny N. Maschenko, Takeshi D. Nishimura, Tomoko Anezaki & Tomoki Suzuki

Quaternary International 179(1), 108-119 (2008)


ユーラシア更新世産大型オナガザル亜科Paradolichopithecus sushkini Trofimov 1977の系統発生学的位置と地理的変遷

高井正成*、エフジェニー N. マシェンコ、西村剛、姉崎智子§、鈴木智起*

*京都大学霊長類研究所
ロシア科学アカデミー古生物学研究所

京都大学大学院理学研究科動物学教室自然人類学研究室
§群馬県立自然史博物館

パラドリコピテクスParadolichopithecusは、鮮新世後半にユーラシア大陸に生息していた大型で地上性のオナガザル亜科である。その系統的位置に関しては、頭骨の外部形態の解析からマカクに近いとする研究者とヒヒ類とする研究者で論争が続いている。タジキスタン南部から発見されていたパラドリコピテクスの頭骨化石の内部構造をCTで観察したところ、現生の旧世界ザル類ではマカクにしか存在しないとされる上顎洞が存在することが判明した。この特徴は彼らがマカク類である可能性を強く指示している。しかし大臼歯と小臼歯の大きさの比を詳しく検討したところ、パラドリコピテクスはヒヒ型の大きな大臼歯を持つことがわかった。このように頭骨内部構造と歯の形態の系統的な解釈は違った結果を示しており、彼らの系統的位置に関してはまだ謎が多い。  またパラドリコピテクスとその近縁種であるプロシノセファルスProcynocephalusの分布域の変遷を化石記録を基に辿ってみると、ユーラシア大陸の比較的高緯度地域から見つかっていることが判明した。従来、マカク類は南アジア経由で東〜東南アジア地域に到達したと考えられてきたが、パラドリコピテクス類では中央ユーラシア経由の「北方経路」を辿って東アジアにまで到達した可能性が高いことが示唆された。(文責: 高井)