■ 研究論文の紹介

A case report of a novel type of stick use by wild chimpanzees

Takeshi Nishimura, Naobi Okayasu, Yuzuru Hamada & Juichi Yamagiwa

Primates 44(2), 199-201 (2003)


野生チンパンジーによる棒使用の新たなタイプの報告

西村剛*・岡安直比・濱田穣*・山極寿一

*京都大学霊長類研究所
Projet de Protection des Gorilles
京都大学大学院理学研究科動物学教室人類進化論研究室

2000年12月から2001年1月と2002年1月から2月の2回、アフリカのガボン共和国ムカラバ動物保護区(現在は国立公園)で行われている熱帯雨林におけるゴリラ・チンパンジーの社会生態学的調査隊(代表・山極寿一教授)の一員としてフィールド調査に参加しました。2回目の調査の折、チンパンジーが「棒で倒木の幹を掘る」という今まで報告されていない道具使用例を発見し、報告しました。斧で木を打っているような音(棒で倒木を穿っている音)を耳にし、その音のするほうへ近づいたところ、残念ながら気づかれてしまい惜しくも直接の観察はできませんでした。しかし、その場には、棒と倒木、そして倒木の幹には直前に掘られた痕跡が見てとれました。何を見つけようとしていたのかは不明ですが、現地のトラッカーによればおそらく昆虫の幼虫でも探していたのではないかとのことです。チンパンジーの道具使用は、各生息地域で同じ目的を達成するにもその方法がかなり異なります。それらの違いは各地域での環境の差の影響もあるでしょうが、文化的プロセスによっても生じているようです。本報告は、今後、それら道具使用の変異を生むプロセスに関する議論に寄与するでしょう。