■ 研究論文の紹介

Variation in maxillary sinus anatomy among platyrrhine monkeys

Takeshi D. Nishimura, Masanaru Takai, Takehisa Tsubamoto, Naoko Egi & Nobuo Shigehara

Journal of Human Evolution 49(3), 370-389 (2005)


新世界ザルにおける上顎洞形状の変異

西村剛*・高井正成・鍔本武久・江木直子*・茂原信生

*京都大学大学院理学研究科動物学教室自然人類学研究室
京都大学霊長類研究所

私たちの顔面頭蓋の内部には、上顎や額のあたりに副鼻腔とよばれる空洞があります。そのうち、頬のあたりにあるものが上顎洞です。X線CTの普及により、類人猿や旧世界ザルでこの上顎洞の形態変異が詳しく調べられてきました。上顎洞形態から化石種の系統分析ができる可能性があるので、霊長類におけるその形態変異が注目されています。しかし、新世界ザルや原猿類におけるその形態変異はよく分かっていませんでした。本論文では、pQCTという高解像度CTと三次元画像再構築ソフトを用いて、新世界ザル全16属の上顎洞の三次元形態の変異を調べました。その結果、新世界ザルの上顎洞形態は、類人猿や旧世界ザルのものよりも多様性に富んでいることが分かりました。上顎洞周辺の眼窩や鼻腔の形態なども考慮に入れて、上顎洞形態の系統発生について考察し、新世界ザルや真猿類の共通祖先における上顎洞形態を議論しました。この研究成果は、新世界ザル化石の分類群同定のみならず、真猿類の祖先化石の同定にも役立つと期待されます。