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■ 研究論文の紹介
Minor contributions of the maxillary sinus to the air-conditioning performance in macaque monkeys.
Futoshi Mori, Sho Hanida, Kiyoshi Kumahata, Takako Miyabe-Nishiwaki, Juri Suzuki, Teruo Matsuzawa and Takeshi D. Nishimura*
Journal of Experimental Biology 218: 2394-2401 (2015)
マカクザルの鼻腔における吸気の調整機能に対する副鼻腔の寄与は低い
森太志*, 埴田翔*, 熊畑清志†, 宮部-西脇貴子‡, 鈴木樹理‡, 松澤照男*, 西村剛 ‡
*北陸先端科学技術大学院大学
†理化学研究所
‡京都大学霊長類研究所
本研究では、数値流体工学シミュレーションを用いて、マカクザルの上顎洞が鼻腔における吸気の温度・湿度調整機能にほとんど寄与していないことを明らかにしました。上顎洞とは、頬のあたりにある頭蓋骨内にある空洞で、鼻腔と細い管で連絡しています。ヒトやほとんどの哺乳類にある特徴ですが、旧世界ザルではマカクザルを除いて消失しています。上顎洞の機能、およびマカクザルでのみ存在する機能的意義はよくわかっていません。この研究では、数ある仮説のうち、鼻腔における吸気の温度・湿度調節機能への寄与について検討しました。吸った外気は、鼻腔・咽頭を経て、体温・湿度100%に調節されて肺に達します。それが不十分ですと、呼吸器官および機能の劣化を招きます。CTで撮像した画像データをもとに、マカクザルの鼻腔形状のデジタルデータを作り、様々な外気条件のもと、鼻腔内での空気の温度と湿度の変化をシミュレーションしました。結果、上顎洞があろうとなかろうと、それらの調整能力に差はありませんでした。上顎洞が温度・湿度調節に寄与しているという仮説は棄却されました。さらに、どんな厳しい外気条件でも、温度・湿度ともに、鼻腔の前半分で調節が完了することも明らかになりました。鼻腔形状は、その動物の生息地の大気環境に適応的に変化すると考えられてきましたが、あまり関係なく形態進化するのかもしれません。
本研究は、旭硝子財団(研究奨励, 西村)、日本学術振興会科研費(若手A, 西村、基盤B、高井正成)、頭脳循環プログラム「人間の多能性の霊長類的起源を探る戦略的国際共同先端研究事業」の支援を受けて実施されました。