■ 研究論文の紹介

A Chinese alligator in heliox: formant frequencies in a crocodilian

Stephan A. Reber, Takeshi Nishimura, Judith Janisch, Mark Robertson and W. Tecumseh Fitch

Journal of Experimental Biology 218: 2442-2447 (2015)


ヨウスコウワニのヘリウム音声実験: ワニのフォルマント

Stephan A. Reber*, 西村剛†, Judith Janisch*, Mark Robertson‡ and W. Tecumseh Fitch*

*オーストリア・ウィーン大学認知生物学部
京都大学霊長類研究所
アメリカ・セント=オーガスティン アリゲーターファーム
 

本研究では、ワニのヘリウム音声実験を行い、その音声の作り方が哺乳類や鳥類と同じであることを明らかにしました。ワニは、鳥や恐竜のグループにもっとも近い爬虫類です。ヒトを含む哺乳類は、喉にある声帯を震わせて音源を作り、その音源で声道とよばれる喉から唇までの空間を共鳴させて、音声を作ります。鳥は、哺乳類とは解剖学的特徴は異なりますが、同じ原理で音声を作っていることが明らかになっています。一方、両生類のカエルはこのような共鳴を使っていないことがわかっています。この研究では、ヨウスコウワニにヘリウム・酸素ガスを吸ってもらって、そのうなり声のような音声を分析しました。ヘリウム・酸素ガスは、よくパーティーグッズで売られているもので、ヒトでは吸うと声が変わります。ワニの音声に雑音が多いので、いろいろ苦労がありましたが、分析を重ねた結果、ワニもヒトと同様に変な声になっており、喉の声帯様の器官で作られた音源で共鳴を作っていることがわかりました。これは、爬虫類で、共鳴の存在を明らかにした初めての研究です。その共鳴により、哺乳類と同様に、音声でその音声を発した個体の体サイズを伝えることも可能でしょう。これは、遊動・繁殖戦略などに深く関わる特徴です。鳥とワニに挟まれたグループである恐竜も、同様に共鳴による音声を作っていたと示唆されます。恐竜の音声コミュニケーション機能の一端を明らかにすると期待されます。

本研究は、日本学術振興会最先端研究開発戦略的強化費補助金(頭脳循環を活性化する若手研究者海外派遣プログラム)「人間の多能性の霊長類的起源を探る戦略的国際共同先端研究事業」の一環して実施されました。

◆本論文の内容は、日本経済新聞、東京新聞、中日新聞等で報道されました。また、欧米メディアでは大きく報道されました。