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■ 研究論文の紹介
The source-filter theory of whistle-like calls in marmosets: Acoustic analysis and simulation of helium-modulated voices
Koda H, Tokuda IT, Wakita M, Ito T, and Nishimura T.*
Journal of Acoustical Society of America 137: 3068-3076 (2015)
マカクザルの鼻腔における吸気の調整機能に対する副鼻腔の寄与は低い
香田啓貴*, 徳田功†, 脇田真清*, 伊藤毅*, 西村剛 *
*京都大学霊長類研究所
†立命館大学理工学部
本研究では、コモンマーモセットでヘリウム音声実験を行い、そのホイッスル様の音声が、ヒトの音声と同様の仕組みで作られていることを明らかにしました。マーモセットやタマリンといった南米に生息する小型新世界ザルは、フィーコールというピッチが7-8000Hzという高いホイッスル様の信号音のような音声を出します。主に、個体同士の所在確認の鳴き交わしで使われています。この研究では、マーモセットにヘリウム・酸素ガス(ヘリウム80%、酸素20%の混合ガス。酸素がないと窒息します。)を吸ってもらって、その音声を分析しました。ヘリウム・酸素ガスは、よくパーティーグッズで売られているもので、ヒトでは吸うと声が変わります。その声は、ドナルドダック・ボイスとよばれることもあります。マーモセットのフィーコールも、ヒトと同様に変な声になりました。これは、喉の声帯で作られた音源で、そこから唇までの声道とよばれる空間が共鳴していることを示します。さらに、その変化を詳しく分析すると、声帯の音源と声道の共鳴が独立して作用していることがわかりました。ある種の木管楽器等では、ヘリウム空間では音源と共鳴が連動して変化します。つまり、マーモセットの音声が、そのような楽器とは異なり、ヒトの音声と同様の仕組みで作られていることを示しています。ただし、音響シミュレーションでさらに詳しく分析したところ、マーモセットでは、ヒトのように高度な音声操作ができない形態学的制約があるようです。ヒトの音声生成の仕組みは真猿類共通のようですが、その高度な操作には音声器官の形態学的進化も必要なようです。今後は、サル類での、音声の随意的操作の可能性や声帯振動をより詳しく解析して、ヒトの音声の高度な操作の霊長類的基盤を探る研究を推進します。
本研究は、日本学術振興会科研費(基盤B、西村)、頭脳循環プログラム「人間の多能性の霊長類的起源を探る戦略的国際共同先端研究事業」の支援を受けて実施されました。