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■ 研究論文の紹介
Reappraisal of Macaca speciosa subfossilis from the Late Pleistocene of Northern Vietnam Based on the Analysis of Cranial Anatomy
Tsuyoshi Ito, Takeshi D Nishimura, Brigitte Senut, Thomas Koppe, Jacque Treil & Masanaru Takai
International Journal of Primatology, 30(5): 643-662 (2009)
頭骨内部形態に基づくマカク化石(Macaca speciosa subfossilis)の系統学的検討
伊藤毅*・西村剛*・ブリジット スニュー†・トーマス コッペ‡・ジャック トレイユ§・高井正成*
*京都大学霊長類研究所
†フランス・パリ国立自然史博物館地球史部門
‡ドイツ・グライフスヴァルト エルンスト-モーリッツ-アーント大学
§フランス・トゥールーズ・パストゥール病院放射線科ベトナム北部トゥンランの後期更新世の堆積物から出土したマカク頭骨化石(以下トゥンラン頭骨化石)は、Jouffroy(1959)によってMacaca speciosa subfossilisとして記載された。トゥンラン頭骨化石は、その外表形態の特徴から現生種のベニガオザルやチベットザルとの近縁性が指摘されていたが、これら2種に比べてややサイズが小さい(Jouffroy 1959, Fooden 1990)。本研究は、CT撮像画像を用いてトゥンラン頭骨化石の外表形態と内部形態を現生種と比較し、M. speciosa subfossilisの系統的位置の再検討を行った。トゥンラン頭骨化石の眼窩前方の凹みは、ベニガオザル、アッサムザル、チベットザルに比べて顕著ではないが、前方に傾いた頬骨は前2者と共有することが分かった。トゥンラン頭骨化石の大臼歯のサイズは、現生5種(ベニガオザル、アッサムザル、チベットザル、アカゲザル、ブタオザル)の変異の中に収まった。このように、本研究による外表形態の比較は、トゥンラン頭骨化石の系統的位置に関して有益な情報をもたらさなかった。一方、内部構造の比較によると、トゥンラン頭骨化石は洋ナシ型で左右に大きく張り出した鼻腔を、ベニガオザルとのみ共有することが分かった。これらの特徴は、マカク系統の中では派生的であると考えられ、M. speciosa subfossilisとベニガオザルとの近縁性を強く支持するものである。これは、ベニガオザル系統の集団が後期更新世以前に他のマカク系統の集団から分岐しベトナム北部に分布していたとする古生物地理学的進化シナリオを支持する。 (文責: 伊藤)