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■ 研究論文の紹介
Nasal anatomy of Paradolichopithecus gansuensis (Early Pleistocene, Longdan, China) with comments on phyletic relationships among the species of this genus
Takeshi D. Nishimura, Yingqi Zhang & Masanaru Takai
Folia Primatologica 81(1), 53-62 (2010)
パラドリコピテクス・ガンスエンシス(前期更新世、龍担、中国)の鼻腔形態、および同属内の種間関係について
西村剛*・張穎奇†・ 高井正成*
*京都大学霊長類研究所
†中国科学院・古脊椎動物古人類学研究所
パラドリコピテクスParadolichopithecusは、鮮新世後半にユーラシア大陸に生息していた大型で地上性のオナガザル亜科です。その系統的位置に関しては、マカク系統とヒヒ系統のどちらに近いか論争が続いています。私たちの研究クループは、以前、後期鮮新世・フランス産のパラドリコピテクス・アルベルネンシス(P. arvernensis)や後期鮮新世・タジキスタン南部産のパラドリコピテクス・サスキーニ(P. sushkini)の頭蓋骨化石をCT撮像し、それらの鼻腔の形態学的特徴を明らかにしてきました。特に注目しているのは上顎洞という頬のあたりにある頭蓋骨内の空洞で、現生旧世界ザルではマカク系統のみでみられる特徴です。アルベルネンシス種にはなかったのですが、サスキーニ種ではありました。本研究は、中国の甘粛省龍担から見つかった前期更新世のパラドリコピテクス・ガンスエンシス(P. gansuensis)のタイプ標本をCT撮像し、その鼻腔構造を分析しました。その結果、この種には上顎洞がないことがわかりました。地理的には近いサスキーニ種ではなく、ヨーロッパのアルベルネンシス種と同様です。現生霊長類では、同じ属内であれば種間で上顎洞の有無が異なることは知られていません。ガンスエンシス種とアルベルネンシス種がパラドリコピテクス属で、サスキーニ種は別属なのでしょうか?ところが、話はそう簡単ではありません。そもそも、この中国のガンスエンシス種をパラドリコピテクス属に含めるか否かについては議論があります。中国やインドからは、似たような大型オナガザル類であるプロサイノセファルスProcynocephalus が産出するからです。すっきりするどころか、混沌としてきました。今後、それらの鼻腔構造の研究もすすめて、ユーラシア産の大型オナガザル類全体の分類の枠組みを再検討する必要があるでしょう。