■ 研究論文の紹介

Meaning of the canine sexual dimorphism in fossil Owl monkeys, Aotus dindensis from the Middle Miocene of La Venta, Colombia

Masanaru Takai, Takeshi Nishimura, Nobuo Shigehara & Takeshi Setoguchi

Comparative Dental Morphology (Koppe T, Meyer G, Alt KW eds.). Frontier of Oral Biology 13: 55-59 (2009)


化石ヨザルの犬歯の性的二型性の意味

高井正成*西村剛*・茂原信生*・瀬戸口烈司

*京都大学霊長類研究所
京都大学大学院理学研究科地質鉱物学教室

南米コロンビアの中期中新世の地層から現生のヨザルの祖先種Aotus dindensisの新たな標本が見つかった。この標本の上顎犬歯は非常に大きく、現生種・化石種との比較から性的二型であること確認された。現生のヨザルでは、雌雄共に犬歯は小型で性的二型性はみられないため、化石種におけるこの特徴は現生種との行動的な違いを示しているものと思われる。A. dindensisにおける犬歯の存在について現生種に関する研究と比較してみたところ、A. dindensisがオス間の闘争をするような社会構造を持っていた可能性が強いことが判明した。さらにこういった犬歯の性的二型と大きな眼窩といった形態的特徴を詳しく検討した結果、A. dindensisが現生のヨザルのようなペア型の夜行性種ではなく、複数のメスを含む群れを持った昼行性の種であることが推測された。ヨザルの系統においては、夜行性への進化の過程で眼窩の大型化のような適応は急激に進んだが、昼行性の名残である犬歯の性的二型はゆっくりと退化したらしい。これは形態的な進化のモザイク性を示していると思われる。(文責: 高井)