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事業報告事業番号:25-009 野生マレーバクの塩場利用・塩場での行動の調査 報告者: 田和 優子 期間: 2013/8/19 - 2013/10/19 「生きた化石」と言われるバク科動物がいかにして生き残ってきたのか、その理由を考察するために必要な行動学的研究や個体間関係に関する研究が非常に少ない。派遣者はこれまで、バク科動物の個体間の情報交換に関わる行動の研究を、詳細な直接観察が可能な飼育下個体を対象として行ってきた。加えて、飼育下という特殊な環境下の個体のみならず、野生下の個体も研究対象とするべく、マレーバクが生息する半島マレーシア、ベラム・テメンゴール森林地区においてカメラトラップを用いた予備調査を行ってきた。野生のバクの直接観察は困難であるため、野生個体を対象とした行動学的研究はこれまでほとんど行われてこなかった。しかし、カメラトラップを森林の中の「塩場」に設置することで、塩場を利用しに来る野生マレーバクの行動を動画データとして記録することが可能である。マレーバクが野生環境において、個体間での情報交換をいかに行っているか、他個体の情報を受容した後どのように行動するか、野生個体の行動を動画データとして記録するために今回の渡航を必要とした。 マレーバクの足跡がよく見られる塩場4か所でカメラトラップ計24台を、塩場を囲む外周、塩場へのアプローチルートそれぞれに数台ずつ、最長で49日間設置した。その結果、マレーバクのほかにインドゾウ、マレートラなど絶滅が危惧される大型哺乳類を含む14種の哺乳類が塩場付近で確認された。その中で、マレーバクが撮影された動画は計83本収集された。収集した動画・画像データを用いて、マレーバクの個体識別と行動観察を行った。動画データから、塩場の土や水を摂取する行動だけでなく、尿のスプレー、発声など個体間の情報交換に関わる行動も観察された。今回、雌雄ペアが2組観察されたが、一方の組では、共に同方向に歩きながらクリック音(「クカッ」と鼻を鳴らす音)やスクイール音(「ピー」と鳴く音)を発し、もう一方の組では、共に塩場の泥を食べながら、鼻先で互いに接触しあう様子が観察された。また、単独で塩場を利用しに来たオス個体が、塩場から離れる際に周辺のトレイルにおいて尿をスプレーする様子が観察された。今後、各個体が発声した時、尿スプレーを行った時などの周辺の状況について詳細な解析を行い、これらの行動の機能について考察する手掛かりとする。
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