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事業報告

事業番号:23-013

オリンピック半島沿岸域に生息する鰭脚類の音響調査及びベーリング海で録音された長期音声データの解析

報告者: 水口 大輔

期間: 2011/9/29 - 2012/12/4

水中においては光情報と比べ音情報の伝達効率が良く、海棲哺乳類の多くは情報伝達手段として音声を用いる。鰭脚類においても様々な音声行動が報告されており、そのレパートリーは繁殖システムを始めとするさまざまな生態学的な特徴を反映するとされる。鰭脚類においては、野外で水中の行動観察が困難なことから、その生態に関しては未だ不明な点が多い。したがって、野外において水中音声を調査する事は、それらの生態を推測する上でも有用である。
 派遣先の米国海棲哺乳類研究室においては、ベーリング海から北極圏に至るまでの広い海域で、鯨類や鰭脚類などの高次捕食者に関する多様な研究がなされており、最新の手法を用いた音声解析も行われている。今回の滞在では、派遣先の乗船調査に同行し、鰭脚類の生息環境を実際に観察しながら音声の録音を行うとともに、同派遣先において音声解析手法を習得する事を目的とした。

 オリンピック半島沿岸域において、水中マイクを用いて鰭脚類(トド・カリフォルニアアシカ・ゼニガタアザラシ)の水中音声の録音および行動観察を行った。今後、詳細な解析を行い、申請者が現在取り組んでいる飼育下鰭脚類の音声行動のデータとの比較も行う予定である。
 また、鯨類の音響モニタリングのためにベーリング海で長期係留された水中マイクに、クラカケアザラシの音声が多数記録されていた。アザラシ類の音声行動に従事する研究者は少なく、この音声データについても、解析は鯨類の音声についてのみ行われていた。そこで、滞在先の米国海棲哺乳類研究室において最新の音響解析手法を学び、この音声データを用いて、未だ不明な点の多いクラカケアザラシの音声レパートリーおよび年間・日周変動などの基本情報を明らかにした他、オホーツク海域で録音された同種の音声との間に、明確な地理的変異が示唆された。
 滞在最終週には、フロリダのタンパで行われた国際海棲哺乳類学会に参加し、海棲動物における音響および生態に関する最新の研究について理解を深めた。


オリンピック半島沿岸域で見られたハーバーシール。


同海域で見られたトドの群れ。中央に個体識別のため焼印を押された個体。

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