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事業報告

事業番号:22-006

タンザニアの乾燥帯に生息するチンパンジー(Pan troglodytes)の生態研究

報告者:吉川 翠

期間:2010/12/19 - 2011/03/20

 本研究の目的は、チンパンジー(Pan troglodytes)が乾燥疎開林地帯にどのように適応しているかを探り、チンパンジーの生息を決定づけている要因を解明することである。調査地はチンパンジーの分布域の最東端であるタンザニアのウガラ地域である。この地域はチンパンジーの生息域の中で最も乾燥している地域の1つである。気候や植生は初期人類が生活していた環境に似ていると言われ、ここでのチンパンジーの生態を探ることは人類進化を探る上でも重要である。調査は、彼らの生息に欠かかすことができない、食物と泊り場に焦点をあてておこなった。この地域は雨季と乾季で環境が大きく異なる。この違いは、チンパンジーの適応戦略に影響を及ぼしているだろう。そこで、まだ十分なデータを収集していない雨季を対象に調査をおこなった。

 タンザニアのウガラ地域で2010年12月から2011年3月にチンパンジーの生態調査をおこなった。(1)疎開林地帯におけるチンパンジーの採食品目を調べるために、直接観察と糞分析を併用した。この時期、チンパンジーは、成熟した果実ばかりではなく、未成熟の果実も採食していた。また乾季にはあまり見られないツル性植物の果実の採食が頻繁にあった。この季節に成熟する他の果実と比べると、この果実は大きな食物パッチを形成していた。そのため、果実食の他の霊長類もこの場所を訪れる様子が確認された。(2)チンパンジーがベッドを作る樹木の特徴を調べるために、ベッドのあった樹木の高さ、胸高直径、樹種名、及びベッドの高さを記録した。さらに、雨季における泊まり場の特徴を探るために、泊まり場を含む調査区と泊まり場の存在しない調査区で、その中に生育する樹木の種名、樹高、胸高直径、樹冠被度、岩の有無、下層植生等を調べ比較した。今回の調査期間である雨季には、これまであまり記録のなかった川辺林の高木樹種の数種で、ベッドが複数見られた。(3)その他、チンパンジーの生息への影響を調べるために、伐採などの人間活動に関して頻度を記録した。今後さらに詳細な分析を進めるとともに、乾季の情報と比較することで、疎開林のチンパンジーの生態把握をおこなう。


雨季の調査地の景観


チンパンジーの糞中から見つかった種子

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