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事業報告

事業番号:22-005

東南アジアに生息する果実食性ジャコウネコ4種の3次元的空間利用の把握と空間的住み分けの解明

報告者:中林 雅

期間:2010/07/02 - 2010/12/01

熱帯雨林には、温帯林と比べて、圧倒的に多様な動植物が同所的に共存している。しかし、近年、人間の開発活動によって森林が縮小/断片化し、そこに生息する多くの野生動物も急速にその個体数を減らしている。特に東南アジアの熱帯雨林の破壊速度は他地域を上回り、この地域に固有の種が数多く絶滅に瀕している。
こうした事態に対する危機感からか、近年、政府機関をはじめ、先進的な企業、NGOが、直接・間接的に熱帯雨林の保全事業を支援するようになっている。しかし、熱帯雨林の動植物に対する実証的な研究は、短期的な成果が必ずしも明確ではないこともあり、その恩恵にあずかれているとは言いがたい。実効的な保全施策を立てるためにも、また、熱帯雨林が持つ魅力を人々に伝え熱帯雨林の保全意識を熟成させるためにも、地道な実証研究は、長期的にみれば大きな価値をもつと考えられる。
報告者は、熱帯雨林の東南アジア熱帯に生息する果実食ジャコウネコ4種が、どのように熱帯雨林の複雑な垂直構造を利用しているのか、最新のデータロガーと気圧高度計を用いて明らかにすることを目指している。派遣先の熱帯生物保全研究所は熱帯地域の生物の保全の重要さにいち早く気が付き、設立された数少ない研究施設である。本研究を必要とした理由は、その研究所と協力し、果実食ジャコウネコのそれぞれの種が必要とする資源、その種間での違いを解明することは、森林構造の人為的改変が与える影響を予想するうえでも極めて重要な意味を持つと考えられたからである。

 高い生物多様性を誇るアジアの熱帯雨林には、最大4種もの果実食性を持つ食肉目ジャコウネコ科の動物が同所的に生存している。こうした食性ニッチの重複する複数の近縁種の共存は、種多様性の高い熱帯雨林ではしばしばみられる現象である。しかし、彼らがどのように共存を図っているのかについては、これまでほとんど研究がなされていない。 本研究では、果実食性ジャコウネコの各種の生活史を明らかにし、その共存が可能になっている背景について明らかにすることを目的としている。特に、報告者は各種が利用する垂直方向での利用空間(=樹高)が異なるのではないかと考えている。今回の滞在では、この仮説を検証するために、マレーシア・サバ州タビン野生動物保護区に7月から12月まで滞在し、データロガー付き気圧式高度計を内蔵したVHF型発信機の装着、各種の3次元的利用空間の解明を目指した。まず、高度計の精度について予備的に実験を行い、十分な精度で、各種ジャコウネコが利用する樹高を明らかにできることを明らかにした。その上で、調査地タビン野生動物保護区で、ジャコウネコの捕獲を行った。この結果、パームシベット(Paradoxurus hermaphroditus)計8頭の捕獲し、6頭にVHFテレメトリーと気圧式高度計を装着した。現在もジャコウネコに装着した状態であり、着実にデータが蓄積されていると期待される。次回の滞在で、速やかに装着した個体を再捕獲、高度計を回収し、ジャコウネコの利用高度を詳細に明らかにする予定である。


捕獲したジャコウネコ


発信機と高度計を装着したジャコウネコ

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