English

事業報告

事業番号:22-004

野生チンパンジーにおける化学感覚関連行動の遺伝的背景の解明

報告者:早川 卓志

期間:2010/09/27 - 2010/12/16

報告者は飼育下及び野生下のチンパンジーを対象に、機能遺伝子、特に味覚や嗅覚に関わる化学受容体遺伝子を対象とした遺伝学をテーマに研究を遂行している。派遣者自身の研究結果を含め、過去の研究から、チンパンジーの化学受容体遺伝子には集団内の多様性が非常に高いことが明らかになっている。しかしながらその生態学的意義についてはほとんど知られていない。今回、実際に野生下のチンパンジーが個体レベルでどのように遺伝的背景に影響された化学関連行動を取っているかを調べ、先の疑問の解明を目指すべく、派遣先であるマハレ山塊国立公園での研究を必要とした。

 霊長類において、採食やコミュニケーションの場面などで、化学感覚(味覚・嗅覚)に関連する行動に個体差があることが、多くの事例で確認されている。近年、その種種の個体差の一部には、感覚器で発現している化学受容体の遺伝子多型の影響があることが明らかにされている。しかしながら、その生態学的な理由は定かではない。 報告者は集団遺伝学的な解析によって、チンパンジー(Pan troglodytes schweinfurthii)の味覚受容体に非常に高い遺伝的多様性、即ち遺伝子レベルでの大きな個体差があることを確認している。その遺伝子多型が野生下でどのように行動に影響しているか、またどのような進化的な背景を有しているのかを解明することを目的とし、本事業において、人付けされた野生ヒガシチンパンジーの長期調査地であるタンザニア連合共和国マハレ山塊国立公園に滞在し、野生ヒガシチンパンジー(P. t. schweinfurthii)の採食行動観察、個体識別の上での遺伝子試料の採集、及び自生植物の採集及びを行った。

 調査対象としたヒガシチンパンジーの群れは、滞在時においておよそ60頭の複雄複雌から構成され、報告者は現地の調査助手と同伴の上、個体追跡法による行動観察を行い、採食の場面に遭遇すればその状況を記録した。チンパンジーの行動の妨げにならず、また藪や茂みなどで視界が遮られていない場合には、可能な限り採食場面のビデオ記録を収集した。今後、その採食品目の味覚特性などを手掛かりに詳細な分析をする予定である。観察と同時に、個体が排泄した糞尿と、特異な味を呈すると思われる植物を、適切な保存条件下で採集した。今後、糞尿試料は含有DNAを抽出して遺伝子分析に用い、また植物については微量成分を抽出する予定である。個体の遺伝子型と対応させながら植物成分の味特性を明らかにすることで、野生ヒガシチンパンジーの化学感覚の分子基盤の解明を展望としている。


Pennisetum purpureumの髄を食べるチンパンジー


Pycnanthus angolensisの種子を含んだチンパンジーの糞


チンパンジーの食痕が残るVernonia amygdalinaの木

HOPE Project<>