サル類の飼育管理
1) 飼育サル類一覧
人類進化モデル研究センターでは、研究所内のサル類の一元管理を担っており、現在、7種 約1100頭 のサル類を飼育している。
2020.3.31現在
2) 当センターにおけるサル類飼育管理の概要
当センターにおけるサル類の飼育にあたっては、現在9名の技術職員(うち2名獣医師)が中心となり、健康管理・繁殖・育成・個体群管理・施設管理・情報管理などを務めている。また、所内および所外共同利用者へのサルの供給やサンプルの提供などといった研究支援も重要な業務の一つである。
3) 施設とその特色
当センターでは、第一キャンパスに5つの放飼場(計11区画)、グループケージ棟、育成舎、施設棟、実験棟、検疫舎を運営管理し、さらに第二キャンパス(RRS)にある3つの大規模放飼場、3棟のグループケージ棟でもサル類の飼育をすすめている。数十頭単位の個体群から個別飼育までと、サル類の種特異性や研究利用に応じ、様々な飼育体制を整えている。これらサル類を飼育する施設には、サル類の脱走を防ぐために頑丈であること、サル類が安全かつ安心して生活できるような環境配慮がなされていること、さらに飼育する側のヒトの安全性が保障されていることなどが必要とされる。サル類の運動能力や社会性などを考慮したうえで、新たな施設の設計や設備の改良を重ねることで、より良い飼育環境の構築に取り組んでいる。加えて、リスクアセスメントによる作業者の安全性対策も当センターの重要な任務である。
4) 自家繁殖による地域個体群の管理
とりわけニホンザルおよびアカゲザルにおいては、地域個体群の遺伝的素因を維持させるため、放飼場やグループケージにおいて各地域個体群を分けて飼育している。1980年代に自家繁殖体制を確立し、現在に至るまで、遺伝的多様性を保持した地域個体群の繁殖を続けている。さらに、各メス個体の月経周期のデータを蓄積し、適期にオスと会わせることにより、個別ケージなどの制限された空間における繁殖のリスク(ケガなど)を最小限に抑えたメイティングに成功している。
5) サル類の健康管理・獣医学的管理
サル類を健康に飼育管理するうえで、飼料と水は欠かせない。飼料は、サル用の固形飼料のほかにサツマイモ、リンゴ、バナナなど、種に応じてレパートリーに富んだ餌を与えている。福祉的観点から、一日の給餌回数を複数回にするといった試みにも取り組んでいる。また、各施設には複数の給水器が設けられており、常時新鮮な水を提供できる。サル類はそのほとんどが社会的な種であり、群れ内で闘争が起こるとサルが怪我を負うことも.なくはない。またヒトと同様に様々な疾病にかかるおそれもある。当センターでは健康なサル類を研究利用するため、獣医師により外傷の処置や疾患の治療を行なっている。さらに、日常的な観察や診療に加え、定期的に体重測定や健康診断も実施している。
6) 研究支援
サル類の獣医学的処置や血液・便などのサンプル採取、個体情報の提供など、所内外の研究者への研究支援も積極的におこなっている。飼育個体の情報や死亡個体の剖検結果の開示などを目的として、データベース化をすすめている。
7) バイオセーフティー
サル類はヒトと同じ霊長類に属し、他の実験動物のマウス・ラットなどに比べ、ウィルスや細菌を介した人獣共通の感染症が多いことが知られている。例えば、マカク属のサル類が自然宿主となるBウィルスは、血液などを介してヒトに感染すると致命的な疾患を引き起こすことが知られている。他にも、アダルトの旧世界ザルで伝染力が強いとされるSimian Varicella Virusによるサル水痘症、赤痢やサルモネラといった細菌性の感染症がある。このような感染症のリスクは、安心して研究・飼育を遂行するにあたり大きな妨げとなる。そこで当センターでは、上記以外にもサル-サル間、サル-ヒト間で伝播する恐れのある病原体に対してモニタリングをおこない、SPF(Specific Pathogen Free)化をすすめている。また外部からサル類を導入する場合は、感染性の病原体が所内のサル類へ伝染することを防ぐため、検疫施設において一定の期間検疫を行なうことを義務付けている。特に、前述の病原体への新たな感染の有無をモニタリングし、感染への潜在可能性がある個体群からは、未感染個体を早期に間引いてコロニー化することにより、SPF個体群の維持に努めている。
8) ナショナルバイオリソースプロジェクトへの参画
さらに、本研究所では文部科学省がすすめるニホンザルバイオリソースプロジェクト(以下、NBR)の受託機関として、国内の各大学や研究機関へのニホンザルの繁殖・供給をおこなっている。身体的・心理的に健康で、出自群などの個体情報が明確なサル類を供給することにより、研究精度の向上が期待されている。2008年度には16頭をNBR供給した。2009年現在も、供給に向けての準備を進めている。
(文責:須田直子)