日時 平成26年5月17日 〜 平成26年5月18日(2日間)
会場 京都大学霊長類研究所 大会議室
世話人 兵庫県立大学 森光由樹 京都大学霊長類研究所 川本芳
共催 日本哺乳類学会保護管理専門委員会 ニホンザル部会・日本霊長類学会
参加費 無料
参加申込み 不要 (17日 受付 12時00分〜13時00分)
(18日 受付8時30分 〜9時00分)
席に限りがあります(定員100名)。当日、受付先着とさせていただきます。
1999年に鳥獣保護法が改正され、科学的・計画的な保護管理の枠組みとして特定鳥獣保護管理計画制度が創設されてから15
年が経過した。特定鳥獣保護管理計画制度は日本の鳥獣行政の中に定着し、計画的・科学的な保護管理を目指す様々な試みが各地で進められている。ニホンザルは、データの蓄積や管理体制の整備が進み、管理目標をある程度達成する状況が一部の地域で生まれている。しかし、その反面、管理目標を達成できない自治体、計画の策定を行わない自治体もある。ここ数年、ニホンザルを取り巻く環境は著しく変化しており、その対策として、本年度より鳥獣保護法、動物愛護法、外来生物法の一部が改正施行される。また、市町村では、特措法による予算が獲得され被害防除が進められている。鳥獣行政は変革の時期に来ている。この研究会の目的は、ニホンザル保護管理における各地の都府県や市町村の成果や課題を抽出し、ニホンザル管理の方法論を整理する。また、法律の改正内容を精査しながら、課題解消のための研究を促進することである。各地域の成果や課題を報告し合い情報の共有を図りたい。都府県・市町村が計画を策定する際に参照可能な資料の作成についても、議論を進める予定でいる。
ニホンザル個体群管理〜方法論の整理〜
平成 26年 5月 17日 13時00分〜17時30分
趣旨説明
兵庫県立大学 森光由樹
13時00分〜13時10分
話題提供1
ニホンザル個体群管理の方法論
〜これまでの議論の整理と検討課題について〜
兵庫県立大学 鈴木克哉
13時10分〜13時50分
話題提供2
分布拡大地域における現状と個体群管理について
合同会社 東北野生動物保護管理センター
宇野壮春
13時50分〜14時30分
話題提供3
個体群管理におけるモニタリングの現状と課題〜効率的なモニタリングに向けて〜
株式会社 野生動物保護管理事務所
清野紘典
14時30分〜15時10分
休憩
15時10分〜15時25分
話題提供4
地域個体群保全のための研究展望〜個体群管理を進めるための遺伝情報〜
兵庫県立大学 森光由樹
15時25分〜15時45分
コメント
京都大学霊長類研究所 川本芳
15時45分〜16時00分
コメント
独立行政法人 森林総合研究
大井徹
16時00分〜16時15分
討論 16時15分〜17時15分
*懇親会 18時00分より 共同利用研究宿泊棟 食堂にて
ニホンザルの保全と管理〜現場課題の整理〜
平成26年 5月18日(午前)9時00分〜12時00分
趣旨説明
兵庫県立大学 森光由樹
9時00分〜9時10分
話題提供5
ニホンザルの管理に関する法律の改正と今後の課題
日本獣医生命科学大学
羽山伸一
9時10分〜9時50分
話題提供6
鳥獣保護法の改正及びニホンザルの保護管理に関する最近の動きについて
環境省 野生生物課 鳥獣保護業務室 堀内洋
9時50分〜10時15分
話題提供7
特定計画(都府県)における課題と今後
一般財団法人 自然環境研究センター
滝口正明
10時15分〜10時45分
話題提供8
市町村におけるサル管理の課題と今後
山形大学 江成広斗
10時45分〜11時15分
討論 11時15分〜12時00分
(昼食)12時00分〜13時00分
平成26年 5月18日(午後)
13時00分〜15時30分
話題提供9
都府県のサル管理を推進するために何が必要か〜三重県を事例に〜
三重県農業研究所
山端直人
13時00分〜13時40分
話題提供10
市町村のサル管理を推進するために何が必要か〜 愛知県豊川市を事例に〜
豊川市産業部農務課
渡邉義久
13時40分〜14時20分
コメント
一般財団法人 自然環境研究センター
常田邦彦
14時20分〜14時30分
総合討論 14時30分〜15時30分
連絡先)
氏名 森光 由樹
所属 兵庫県立大学
連絡先(住所、電話番号、メールアドレス)
〒669-3842 兵庫県丹波市青垣町沢野940 TEL 0795-80-5500
morimitsu@wmi-hyogo.jp
発表要旨
「法改正に伴う今後のニホンザルの保全と管理の在り方」
発表要旨
ニホンザル個体群管理〜方法論の整理〜
日時 平成26年 5月 17日(13時00分〜17時30分)
会場 京都大学霊長類研究所 大会議室
話題提供1 ニホンザル個体群管理の方法論
〜これまでの議論の整理と検討課題について〜
鈴木克哉(兵庫県立大学)
13時10分〜13時50分
ニホンザルの効率的な被害軽減と保全を両立させるために,それぞれの地域で明確な目標設定のもと実効性のある計画の策定を推進する必要があり,そのためにはニホンザルの生態・行動特性をふまえた独自の個体群管理の方法論を確立することが急務である.ニホンザルは群れを形成し,一定の行動圏内で行動するため,効率的な被害軽減のためには,対象となる群れを特定したうえで,群れの状況(個体数・加害レベル)に応じた個体数管理手法を被害管理との組み合わせで選択する必要がある.個体数管理の手法としては、「群れ捕獲」「部分捕獲」「選択捕獲」といった手法があり、昨年の霊長類学会・哺乳類学会合同大会のミニシンポにおいて、それぞれ目的や課題について整理した。
本発表では、このような単群を管理するための方法論を組み合わせて、地域個体群を全体として管理していくための方法論を紹介するとともに、今後検討が必要な課題として、①分布拡大地域における個体群管理の在り方、②モニタリングの方法論、③地域個体群保全の基準策定、の3点について提示する。
話題提供2 分布拡大地域における現状と個体群管理について
宇野壮春(合同会社 東北野生動物保護管理センター)
13時50分〜14時30分
東北地方のニホンザル個体群は金華山個体群や五葉山個体群を除くと,分布域が拡大し,個体数も増加傾向にある.これらの個体群(以下は安定個体群と呼ぶ)は主に水系沿う形で連続分布している.そして今後も群れのいない空白地帯,いわゆる下流側へと分布域を広げ,そこでサルと人との軋轢を引き起こすことが容易に予測される.これには無計画な有害駆除が分布域の拡大に拍車をかけている事も否めない.ただ,安定個体群の管理区分,管理者,管理方法などは不透明な部分が多く,実際は確然たる予測を持っていても,その対応が後手に回っているという現状がある.一方で東北地方では明治期から戦中戦後にかけて高い狩猟圧や積雪地域という厳しい生活条件によって,分布が分断,孤立している地域であったので(三戸,1991),安定個体群としての定義は歴史的背景と現状との摺り合わせが必要となる.本発表では主に仙台市に生息する群れを一つの安定個体群と仮定した場合,管理区分は宮城県の第三期特定鳥獣保護管理計画で定める仙台・川崎ポピュレーションという単位,管理者は仙台市及び宮城県,管理方法は猟友会による有害駆除,県による追い上げ,市が計画する専門員の配属やモニタリング,全頭捕獲などが当てはまる.この個体群コントロールの一例が他地域でも通用するのかという点を評価する.
話題提供3 個体群管理におけるモニタリングの現状と課題
〜効率的なモニタリングに向けて〜
清野紘典(株式会社 野生動物保護管理事務所)
14時30分〜15時10分
近年のニホンザルの農林業被害金額は、横ばいかやや増加傾向で10億円を超え、有害鳥獣捕獲による捕獲数は約20,000頭に達する。分布拡大に伴う被害増加が指摘されているものの、捕獲による効果的な被害軽減は得られていないのが現状である。一方、1950年代までのニホンザルの分布の急激な縮小や個体群の分断化は、捕獲による個体数の減少が要因と考えられていることから、個体群の安定した持続性を考慮した個体数管理を実践することが求められている。
個体群の存続を担保し、かつ被害問題を解消していくためには、管理目標の設定及び具体的な管理施策を検討できる適正なモニタリングが不可欠である。しかし、各地域ではサルの生息状況や問題意識などに応じてモニタリングにかける予算や方法はさまざまであり、管理プランが不明確なままに捕獲をはじめとする被害対策が実施されている場合がある。保全すべき個体群の姿は今後の大きな検討課題であるが、管理すべき最小のユニットである「群れ」の生息状況のモニタリング方法を検討しておくことは個体群管理を進めるうえで重要である。そこで、現在各地域で実施されている個体群のモニタリング状況を整理し、メリット・デメリットあるいは費用対効果等について評価することで、地域の状況に応じた効率的なモニタリング方法を検討するとともに、管理計画の運用及び被害対策を実践するにあたって必要なモニタリング項目等について検討する。
話題提供4 地域個体群保全のための研究展望
〜個体群管理を進めるための遺伝情報〜
森光由樹(兵庫県立大学)
15時25分〜15時45分
特定鳥獣保護管理計画による対象種の管理は、個体群または、地域個体群を単位に行われていることが多い。個体数が少なく、連続分布から孤立した地域個体群は、絶滅する可能が高いと考えられ、管理上、捕獲を制限する必要が求められる。反対に個体数が多く、広い地域に連続して分布している地域個体群は、絶滅する可能性は低いと考えられ捕獲による個体群管理も実施される。現在、地域個体群を決定する要因は、主に分布情報が用いられている。生態学では、個体群は、同じ地域に生息する同種の集合であり、各個体は遺伝子プールを共有する集団であると定義されている。現在、ニホンザルの地域個体群の遺伝構造を示す研究は少ないが、各々の地域個体群は、遺伝子プールを共有している可能性が高いと考えられ管理の単位として用いられている。しかし、もし仮に、連続分布した大きな地域個体群であっても、大きな河川や山脈が障害となって地域個体群間でオスの移出入がなければ、繁殖の交流はなくなり、遺伝子プールを共有することはなく、別の地域個体群として考える必要がある。反対に分布から著しく孤立している地域個体群であっても、オスの移出入が地域個体群間で頻繁に起こり、繁殖の交流があれば、遺伝的プールは共有されていることになり、分布情報から決められた各々の孤立した地域個体群を、一つの地域個体群として考えることもできる。そこで、遺伝的な交流を視点に、地域個体群の考え方を整理し、ニホンザルを管理する単位について検討する。
ニホンザルの保全と管理〜現場課題の整理〜
平成26年 5月18日9時00分〜15時30分
会場 京都大学霊長類研究所 大会議室
話題提供5 ニホンザルの管理に関する法律の改正と今後の課題
羽山伸一(日本獣医生命科学大学獣医学部)
9時10分〜9時50分
本講演では、近年改正されたニホンザルの管理に関連する法制度の内容と改正に伴う課題を述べる。
2013年9月に施行された改正動物愛護管理法では、ニホンザル等の特定動物を飼養保管する許可申請の事項に、「特定動物の飼養が困難になった場合の対処方法」が加わり、むやみに飼育する者に制限を課すことで遺棄を防止できる可能性が高まった。また、同年6月に公布された改正外来生物法では、外来生物の定義を改正し、これまで法の対象となっていなかった外来生物が交雑することにより生じた生物を、外来生物に含めることとなった。この結果、和歌山県や千葉県で問題となっているニホンザルとの交雑個体は、特定外来生物として扱うことが可能となり、新たな遺棄も防止できることとなった。一方で、外見上識別が困難な交雑個体は対象とならず、鳥獣保護法の捕獲許可なしには対処できず、放置されることとなった。
2014年3月には、鳥獣保護法の改正案が通常国会に上程された。これは、捕獲規制が基調の現行法を、野生動物管理を前面に打ち出し、鳥獣保護・管理法へと転換させるものだ。近年の狩猟者の減少とシカやイノシシの急増を背景に、改正案では、シカなどの集中的かつ広域的に管理を図る必要がある野生動物を環境大臣が定め、その管理能力があると知事が認定した専門事業者に捕獲等の事業委託をした場合、夜間銃猟を規制緩和するなどの仕組みが盛り込まれた。ニホンザルが対象となる可能性もあり、個体群管理技術が標準化されていない現状を考えると、法改正によって地域的な乱獲や群れの分裂による被害拡大などが懸念される。
話題提供6 鳥獣保護法の改正及びニホンザルの保護管理に関する最近の動きについて
堀内洋(環境省野生生物課鳥獣保護業務室)
9時50分〜10時15分
ニホンジカやイノシシ等の一部の鳥獣の増加が著しく、これらの鳥獣による生態系や農林水産業、生活環境の被害が深刻化していること、捕獲の主たる 担い手で ある狩猟者の減少・高齢化が著しい状況にあること等を受け、今国会に鳥獣保護法改正案が提出され審議が行われているところである。また、環境省では平成24年度よりニホンザル保護管理検討会を設置し、生息状況や被害の現状の確認と対策の評価を行い、保護管理に関する基本的な 考え方や 課題等について整理等を行うと共に保護管理に関する最新情報を保護管理に関するレポートを24、25年度に取りまとめ都道府県等に配布している。 さらに、 今年4月には農林水産省とともに「ニホンザル被害対策強化の考え方」を取りまとめたところである。鳥獣保護法案の概要とニホンザルの保護管理に関する最近の動きについて紹介する。
話題提供7 特定計画(都府県)における課題と今後
滝口正明(一般財団法人 自然環境研究センター)
10時15分〜10時45分
特定鳥獣保護管理計画制度は1999年に創設されたが、ニホンザルの特定計画の策定状況を見ると、サルの群れが分布する43都府県のうち、特定計画を策定しているのは21府県(2014年4月現在)と半数以下にとどまっている。未策定の自治体は22都府県で、西日本(主に中国、四国、九州)に多い状況である。特定計画が策定されていない地域では、科学的、計画的な管理が実施されていない可能性が高く、問題であり、計画策定の推進が課題となっている。一方で特定計画を策定している府県においても、多くの地域で分布域や生息数などは増加傾向にあり、また被害が減少しておらず、一部を除き計画が実効性のあるものになっていないことも課題となっている。この2つの大きな課題について、その発生要因を整理した上で、解決していくためにはどういったことが必要かを検討する。また特定計画を策定し、実行していく上で、特定計画策定のためのガイドラインが重要となるが、今回の鳥獣保護法改正を受けて、今後ガイドラインが改訂されることが想定されるため、新しいガイドラインに盛り込むべき内容についても議論したい。
話題提供8 市町村におけるサル管理の課題と今後
江成広斗(山形大学農学部)
10時45分〜11時15分
サルによる農作物被害の深刻化を受け、2008年に「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(鳥獣被害防止特措法)」が施行された。それを受けて、被害現場である市町村を対象としたサル対策予算は年々増額し続けており、「鳥獣被害防止総合対策事業」は過去5年間で10倍となり、現在約100億円に達している。また、2012年に同法が一部改正されて以降、特に「捕獲」に関する補助や規制緩和が進んでいる。一方で、現場に目を向けると、住民らの許容水準以下にまで被害を軽減できている市町村は少ない*。そこで、本発表では、市町村が主体となって実施するサル管理の課題を整理するために、2009年に全国のサル被害発生市町村を対象に実施したアンケート(一部は以下に掲載済み:渡邊・江成・常田2010.哺乳類科学50:99-101)を地方ブロックごとに再解析した結果を報告する。当アンケートは、サルの個体数調整に関する項目が中心である。そこで、ここでは「捕獲」に関するトピックを中心に、同法を受けて市町村が策定する「被害防止計画」に関する今後の課題を検討したい。
*ちなみに、上記アンケートで、「5年前と比較して被害が現在減少している」と回答した市町村は全国平均で7.3% (n=301)、最高22.0%(東北n=27)、最低0.0%(近畿n=39、及び中国n=27)であった
話題提供9 都府県のサル管理を推進するために何が必要か
〜三重県を事例に〜
山端 直人(三重県農業研究所)
13時00分〜13時40分
三重県には約100〜120の群れが存在すると推測される。そして、被害は約800の集落で発生しており、被害を甚大と感じている集落数はシカ、イノシシよりも多い状況にある。
このような状況下で、県では集落住民が連携した組織的な追い払いや、効果的な多重種防護柵を普及させることで、地域住民主体の被害対策を進めている。取り組みの結果、群れの出没や接近が大幅に減少し被害軽減に成功した集落や、複数の集落が連携して被害対策を進めたことで、群れの集落依存度を低下させ、山林での活動時間が長くなるなどの効果が表れた事例も出てきている。これら被害対策の結果を踏まえ、H25年度には新たに、被害対策の効果が発揮できるよう、群れサイズをコントロールすることを念頭に置いた特定鳥獣保護管理計画を策定した。今回はその策定に当たり、県として不足を感じた資料やデータ、その原因となる組織的な問題点、そして被害防止計画などとの整合性や市町、NPOとの連携など、今後必要と考えられる課題について紹介する。
話題提供10 市町村のサル管理を推進するために何が必要か
〜 愛知県豊川市を事例に〜
渡邉義久(豊川市産業部農務課)
13時40分〜14時20分
豊川市では近年ニホンザルの群れの出没が増加しており、被害は、農地だけでなく自家用野菜、果樹にも拡大している。また、住宅地・学校等の人の生活圏付近への出没もみられ、人への危害も懸念されている。市は、豊川市特定鳥獣保護管理計画(ニホンザル)実施計画に加えて、豊川市鳥獣被害防止計画を策定し、両計画に基づく被害防除対策により農作物被害等の低減を図ることを目標として、猟友会駆除従事者・サル駆除隊・地元駆除組織による捕獲、進入防止柵の設置等を行っている。また、被害農家に普及啓発を行い地域の被害対策支援を実施している。しかし、捕獲対策では、猟友会員の高齢化や担い手不足、普及啓発では、農作物残渣処理や放任果樹管理が進まない等、住民意識の改善がなかなか進まず、諸種の課題を抱えている。こうした中、サルの個体数などの適正な管理といった問題があり、解決するための人や予算など大きな負担を抱えている。また、対策に関するガイドラインが整理されてなく、国また県からの適切な予算措置及びサル管理に向けた実効性のあるガイドラインの提供が望まれる。